13、上位種と家畜と畑
シュンッ
俺達はホームセンターの駐車場に瞬間移動した。
「おっと……」
俺は着いた瞬間少し目眩がしてしまいふらついてしまった。
明良「どうした?大丈夫か?」
「ちょっと目眩がしただけだ。もう大丈夫。それで状況は……」
俺は駐車している車の陰に隠れながら聞いた。
夏子「ホームセンター入口付近にグール3体、ゾンビが7体いるわ」
多いな……
明良「俺がグール相手するから夏子はゾンビを頼む。涼夜は俺が危なくなったら助けてくれ」
明良が俺と夏子に指示した。
さすが遠征のリーダーを任されていただけあって的確だ。
「おう!」
夏子「オッケー!」
そう返事すると明良は両手に刀を持ち車の陰から飛び出した。
明良はグールの攻撃をかわしたりしながら上手いこと2本の刀でグールの胴や首を切りつけていく。
【剣術】スキルが働いているのだろう、刀さばきが見事な物だ。
夏子はというと俺の横でゾンビめがけて矢を射っている。
夏子も【弓術】スキルが上手く効果しているのだろうう。
20m離れた動き回るゾンビの頭を的確に射止めている。
そしてあっという間に二人は魔物を片付けてしまった。
明良「俺、今のでレベル上がった!」
夏子「私もLv4に上がったわ」
「凄いな二人とも。見張っとくから、SP振っとけ」
夏子「ありがとう」
明良「じゃあ、頼む」
…………
明良「よしスキルレベルも上がったことだしいくか」
「えぇ!」
「あぁ!」
そして俺はホームセンターの外に置かれてある肥料、苗、種、農機具、小さい倉庫等々を次々と収納し、ホームセンターの入口へと向かった。
ホームセンターの入口には崩れたバリケードらしき物があったことから魔物に乗り越えられて立て籠りに失敗したようだ。
中は電気がついてなく入口と窓から差し込む光のみの薄暗い空間だった。
夏子(二人とも中に魔物がいるかもしれないから大きい声はださないでね)
((わかった))
俺達は荒らされまくり人の死体が所々に転がるホームセンター内をゆっくりと塊って歩いた。
俺はもちろん収納範囲半径3mに入った必要な商品は残らず回収していく。
シャンプー、トイレットペーパー、服、靴、各種工具、部品、食品、飲料、──等々
本当にあの時【収納】スキルを選んでいてよかった。
そんなことを思いながら薄暗い店内を進んでいると─
(二人とも待て!)
俺はいち早く気配を察知し、二人を止めて棚の陰に身を隠した。
明良(なんだ!?)
夏子(魔物?)
(あぁ、あそこにゴブリンがいる)
薄暗くて見えにくいが店の端っこの通路に一体のゴブリンが座っているのが見えた。
夏子(本当だ!)
明良(ゴブリン一体程度なら楽勝!俺が行ってくる)
と言って明良が棚陰から出ようとしたが
(待て!!あのゴブリンの奥にもまだいる!)
俺は明良を引き留めながら言った。
薄暗くて奥の全貌は見えないが確かに蠢く影が見える。
夏子(本当、いるわね。……どうする?)
…………
(二人ともここで少し待っててくれ。俺の【潜伏】で棚の陰に隠れながら確認してくる)
(気をつけてね)
そして俺は奥の蠢いてる存在を確認すべく潜伏しながら近づいた。
───────────────
奥に蠢く正体を確認して二人の元へと戻ってきた。
明良(どうだった?)
(奥の少し広くなってる所にゴブリン7体と鉈を持った上位種ゴブリンらしき2mのゴブリンが2体いた。)
夏子(上位種?!私達でも勝てそうな相手だった?)
(どうだろう、俺も初めて見たし……でも、多分二人なら行けそうな気がするが…)
明良(ならやろう!)
夏子(えぇ!私と明良君で上位種を一体づつ相手するから涼夜君は周りのゴブリンをお願い)
(OK!でもその前に少し待ってくれ)
俺は突撃するのを少し待ってもらい数分である物を3つ作った。
【松明】だ。
こう暗いと戦いにくい。
俺は建築科棟の材木置き場から少し拝借してた角材を収納から取り出しそれに【危険物生成】で引火性個体であるゲル状のゴムのりを生成して塗りたくり三本の松明を作った。
後は直前で火魔法で引火させて商品に燃え移らないよう投げこめば明るくなって戦いやすくなるだろう。
ライトでもあればよかったんだがライト売り場はちょうどゴブリン達のいる場所にあるのだから仕方ない。
(よし準備OK!行こう!)
その掛け声と同時に夏子は手前に座りこんでいるゴブリンの頭を射抜き、俺達は突撃した。
俺はすぐさま松明に火をつけ光源を確保する。そしてすぐに奥側にいる2体のゴブリンめがけて包丁を投げつけ絶命させると共に範囲内に入ったゴブリン3体にホームセンター内で手に入れた鉄アレイを落とし頭を割る。
そして残った2体のゴブリンは普通に短剣で流れるように首を切りさいた。
【レベルが上がりました】
よし!ノーマルゴブリンは難なく終わった。
二人はどうだ?
俺は上位種ゴブリンを一体づつ相手にしている二人の状況を確認した。
明良はというと大ゴブリンの鉈の大振りに少し距離感を掴めず翻弄された場面もあったが、右手に持った刀で鉈を弾きすぐさま左手の刀で鉈を持っている腕を切り落として怯んだ隙を一突き──
見事だ。
夏子はというと。屋内で弓は不利だと思っていたが、夏子も決着がつきそうだった。
大ゴブリンとしっかり距離を取りつつ商品棚の障害物の間を上手く動き周り矢を放っていた。
矢が頭に命中するが大ゴブリンの頭蓋骨が硬いのか、頭に矢が刺さらない。そうとわかるとすぐに次矢を目に命中させ次の一矢が心臓を貫いた──
見事だ。
各部活動の中で【剣道部員】【弓道部員】は飛び抜けて戦闘向きだろうな
倒したゴブリンは次々と魔石を残し鉈もろとも地面に吸収されていった。
「お疲れ。二人とも凄い腕だな」
夏子「ありがと。でもこれもスキルのおかげよ。普通は動き回りながら弓なんて引けないわ」
明良「俺もスキルなしじゃあ、あの時鉈を弾くような力も技術もだせなかったしな」
「そうか」
夏子「そんなことよりこれ見てくれる」
夏子が青色の指輪を手にして言った。
「なんだ?」
明良「拾ったのか?」
夏子「これ、今さっき私が相手にしてた大ゴブリンを倒した時に魔石と一緒に落ちたの……」
明良「吸収されてないてことは元から落ちてたやつじゃね?」
「いや、ドロップアイテムかもしれないな……」
俺は異世界ギルドでそんなことを聞いたような気がする……
夏子「えぇ、私もそう思ったの!」
明良「だとしたら凄いじゃん。今まで見たことねぇ!使ってみようぜ!」
夏子「いや、まだ何かわからない以上むやみに使えないわ。避難住民の中に骨董品屋を営んでいたおじいさんが【鑑定】ってスキル持ってたはずだから帰ったら確認してみる」
「呪いのアイテムかもしれないしそれがいい」
ということでその後も物資回収を続け、ホームセンター内にある必要物資はすべて収納した。
大きいホームセンターじゃないにしろ凄い量があったのにも関わらずすべて収納に入ったことには驚いた。
その後一旦学校へ瞬間移動で戻り誰もいない時間帯を見計らって校庭の隅に物資を一部を残して収納から出した後、今度はスーパーに行って物資を回収して今日の午前の遠征は終わった。
─────────
12時─
俺と明良は昼食を済ませ学校の中庭にあるベンチでしゃべっていた。
明良「疲れたー!」
「あぁ、疲れた。でもこれで当分は食料とかには困らないだろうな」
そんな事を話していると夏子が色々な用件を済ませて合流した。
「お疲れ~。それでどうだった?」
夏子「物資の事は私から校長に『善意ある人が分け与えてくれたけど詮索はしないで』と伝えてきたわ」
「おー、ありがとう」
夏子「そして今日、高層マンション内に立て籠ってた住民が避難してきたから学校の人数が増えたそうよ。書記の子によると現在、生徒214人、教員5人、住民45人、鶏6匹、計264人+6匹で、遠征による死者はないそうよ」
明良「そうか!よかった」
しっかり生徒会はこんな時でも活動してんだな~感心だ。
鶏の数まで把握し…………あっ!
「明良!夏子!ちょっと今から付き合ってくれ!」
俺は明良と夏子の手を引いて人目のつかない校舎裏に連れて行った。
明良「どうしたんだよ!急に!」
夏子「何を焦ってるの?!」
俺は収納からフード付きコートをだして羽織、ホームセンターで手に入れた日焼け防止マスクを着けて顔を隠しながら答えた。
「説明する暇がない。早く肩に手を置いて!瞬間移動する!」
俺は二人に指示して俺達は瞬間移動した。
────
シュンッ
そして俺達の目の前に映った光景。
それは果てしなく広い草原の姿だ。
ここは一度、明良と明良のお父さんに連れて来てもらったことがある牧場だ。
夏子「なるほどね!」
明良「家畜か!」
着いた瞬間、二人はすぐに理解してくれたようだ。
二人は常に携帯していた刀と弓を構えた。
「魔物を引き付けておいてくれ!俺は家畜を学校へ連れていく!」
俺はそう言って牧場へと入っていった。
この牧場は普段、豚、牛、羊といった家畜が広い草原内に放し飼いにされている。
だが牧場内を走りながら見渡すが、あるのは食い散らかされた家畜の死体ばかり……
それもそうか……もうすでに魔物発生から4日たっている。
魔物に襲われたのだろう。
でも見る限り町と比べると魔物密度が少ないな……人口の多い所に魔物は発生しやすいのか?それとも町へ向かったのだろうか?
…………あっ!いた!
そんな事を考えながら牧場の小高い丘をかけあがると丘の先に広がる牧場内にまだ無事な家畜達の姿を見つけた。
俺はまず、近くにいた牛に駆け寄り、牛に触れ、俺は学校のグラウンドへ瞬間移動した。
成功だ!
動物でも一緒に瞬間移動できる!
俺はすぐさま牧場へ戻り、同じ要領で次々と家畜を学校へ連れていった。
今の俺の身体能力なら羊だろうがなんだろうが余裕で追いつける!
ズキンズキン、ガンガン……
家畜を捕まえては瞬間移動してを繰り返しているせいで頭が割れそうに痛い。だが、俺は一心不乱に広い牧場内を走り回った。
本当に辛い。
だがここで止まってはいられない。
こんな世界になってしまった今、家畜は重要な食料源だ!
一匹でも多く確保しておきたい。
───────……
「はぁはぁ……これくらいか……?」
俺はもう一度牧場内を見渡すが、もうそこには家畜の死体と数匹の雑魚魔物がいるだけだった。
「帰るか……おーい!終わったぞ!こっちこい!」
俺はグールやゴブリンなどを相手にしていてくれた二人を呼びつけ瞬間移動で生徒会室へ帰った。
─────
夏子「お疲れ様!」
明良「これで肉が食えるな!」
二人は喜びながら言った。
「……あぁ……そう……だな」
俺はすぐにコートとマスクを収納にしまった。
明良「おい!大丈夫か!真っ青だぞ!」
俺の顔色を見て明良は驚いた。
正直、大丈夫じゃない。
瞬間移動を使い過ぎた。
夏子「午後の遠征は中止にするから、ひとまず休んで!」
夏子も心配してくれてるようだ。
「あぁ…悪いな…助かる」
俺はその言葉に甘え、明良の付き添いのもと寝室の教室で寝た。
──────数時間後
「ふぁ~ぁ、よく寝た!」
目が覚め、時計を見ると午後6時を過ぎていた。
かなり寝てたんだな……
まあ、そのおかげで体調はよくなった。
やっぱり瞬間移動は連続して使うもんじゃないな。
次から気をつけよう。
まぁ、そんな事より明良か夏子に合流しよう。
そんな事を思い、俺は布団から起き上がろうとすると、教室のドアがガラガラっと開いた。
明良「おう、起きたか涼夜!飯持ってきてやったぞ~。食えそうか?」
晩ご飯の乗ったトレーを持った明良が入ってきた。
「ありがとう。それと、心配かけて悪かったな。おかげで良くなった」
明良「それは良かった。はいっ」
明良が渡してくれたトレーにはご飯、味噌汁、サバの味噌煮缶詰め1/2が乗っていた。
いつも通りの配膳内容だ。
「それで、俺が寝てる間に何かあったか?家畜の件で騒ぎになっただろ」
俺は飯を食いながら聞いた。
明良「あー、なったなった。『フードとマスクを被った男が家畜を次々連れてきて消えた』って噂になってるぜ。それと────」
─────
明良は俺に寝ていた時に起きた事を色々と教えてくれた。
長いので簡単にまとめると─
・家畜の件は夏子が校長に『物資の時と同様に協力者が連れてきてくれたから詮索をしないで』と伝えたらしいこと。
・家畜を【鑑定】スキルを持っている骨董品屋のおじさんを含む大人達で未知の病原菌があるか、食べれるか相談したところ『多分大丈夫だろう』というと結論となったらしいこと。
・当分は数を増やすため、肉にしないが搾乳はするらしいこと。
・急遽、グラウンドの一部を牧場にするため、建築科の生徒を中心とした生徒達による家畜小屋及び柵作りが行われたこと。
・ホームセンターで集めた肥料や農機具等を使って住民達がグラウンドの一部を畑にしたこと。
・職業【農家】の住民の持っている【植物成長促進】スキルによってもう撒いた種から芽が発芽したらしいこと。
・多くの遠征チームが他の学校を確認しに行ったがどこの学校もダメだったらしい。立て籠ってた数人の生徒は保護できたがその学校の校長はすでに死んでいたそうだ。
・一部の生徒が上位職業に転職できるほどのレベルまで達したこと。
・今日の遠征で手に入れた物資のおかげで当分の間は食料品や日用品で困ることはないらしいこと。
・大ゴブリンからドロップした青い指輪を【鑑定】してもらったところ、【MP+10】の効果が付与されていたこと。
────等々だそうだ。
この学校も先を見据えた生活への軌道に乗り初めたって所か……
「それで、夏子は今どこにいるんだ?」
明良「生徒会室だと思う。夏子も涼夜の様子を見に行きたそうだったけど、男子生徒の寝室の教室には来づらみたい」
へぇ、女子率の少ないカキ工に通ってる割にそういうところは気にするんだな。意外と女子だな。
「そうか、じゃあ生徒会室へ行こうか」
俺はすでに飯を食べ終わっていた。
明良「ああ」
生徒会室──
コンコンガチャ
俺と明良はノックしてドアを開けた。
開けてすぐ夏子がテーブルで何か作業していた事に気づいた。
夏子「あっ、涼夜君!体調大丈夫?」
「あぁ、おかげ様で全回。ところでなにしてんだ?」
夏子「あー、これね。家畜の管理表とか掲示物の作成や物資管理の確認とか……色々」
「へぇ、生徒会長は大変だな。そこらの何もしてないようなやつにやらせればいいのに。手伝おう」
明良「あっ、俺も手伝う」
夏子「ありがとう。じゃあこれとこれ、お願い」
そう言って渡された書類の仕事をしながら会話が続く。
夏子「それと、この学校に何もしてない人はほとんどいないわよ。生き残った生徒はほとんどが遠征に参加してくれてるし、魔物がダメな子は雑務や武器作りをしてくれてるしね!」
明良「あぁ、学校巡り遠征にも家畜小屋作りにもほとんどの生徒が参加したし、住民も朝昼晩のご飯を作ってくれてたりするし、畑の管理や家畜の管理もやってくれるらしいしな!」
「へぇ、皆何かしらで働いてるんだ。素晴らしいな。……ところでこんな時に自衛隊とかって活動してるのか?」
明良「さぁ、どうなんだろ?」
夏子「……一応避難してきた住民から聞いた話しだと、まだテレビが流れていた時に『各大都市に現れた超大型生物に自衛隊が対応にあたっている』ってテレビで言ってたらしいよ……」
「マジかよ……」
明良「超大型生物ってまさかゴジラとかだったりして……」
「「……」」
夏子「まぁ、自衛隊の救助が望み薄だとして、まずは学校の事を考えましょう!何か改善して欲しいことある?」
明良「そうだなー。肉が食いてー」
夏子「家畜は繁殖させるから当分は食べられないわ」
明良「だよな~…」
夏子「ほかにない?」
「俺は風呂に入りたいな。毎日プールのシャワー数分じゃあ物足りない」
明良「確かになー」
夏子「それも重要よね。皆疲れが溜まってきてるし。救助が見込めず何年も学校を拠点とするかもしれないから、浴場を作ってもいいかもしれないわね」
「あっ、じゃあ明日作る?ホームセンターであらかたレンガやセメント、タイルから水回りの部品も揃ってるし!」
「いえ、明日は私達と遠征よ!浴場の件は建築科生徒と住民に任せるわ。避難住民の中に確かそれ関係の仕事してた人がいたはずだから」
もしかして避難住民全員のこと把握してんのか?
「そうか、わかった」
明良「それで?明日の遠征はどうすんだ?今日できなかった俺達の通った学校巡り?」
夏子「えぇ、午前は学校巡り。そして午後から家電量販店にいくわよ!」
「家電量販店か」
夏子「食料はもう十分あるけど家庭科室の冷蔵庫だけじゃあ収まりきらなくてまだ保存の効かない食料品を涼夜君に収納してもらってるでしょ」
明良「なるほど。そこなら冷蔵庫がいっぱいあるってわけか」
夏子「それに家電量販店なら冷蔵庫だけじゃなくてゲームやビデオなどの娯楽品からカメラや電池なども大量にあるからね!涼夜君行ったことあるでしょ?ここらだとエデーオンとか?」
「もちろん行ったことあるから瞬間移動は使えるが………それより、そんなに電気使って大丈夫なのか?」
この学校は一応校長の【学校管理】スキルによって電気、上下水道は使える。
だが、その分魔石が必要なのだろ?
夏子「大丈夫よ。以外と【学校管理】は燃費がいいの!それに皆が遠征で魔石を持って帰ってきてくれてるおかげでストックが溜まり続けてるからね!」
「へー、そうなのか」
明良「じゃあ、遠征はそゆことで!」
そう決まり俺達は夏子の仕事が終わったところで解散した。




