11、学校と火葬
賀喜九軒工業高校、通称カキ工───
カキ工の校門にはトゲ付きワイヤーがまきつけられた勉強机のバリケードができてた。
立派なものだ。
そして俺達は校門横の鉄格子の門から入り後輩4人はそこで明良の指示のもと解散となった。
明良から「生徒会長に遠征の報告するから先に図書室で待っててくれ」と言われ別れることとなった。
俺は言われた通り図書室へ向かった。
その道すがら2つ気づいたことがある。
一つは一部の教室に電気がついてることだ。
俺のマンションでは電気付かなかったから発電所が魔物に襲われたかと思っていたが、今のところまだ大丈夫なのだろう。
2つ目は生徒をあまり見かけないことだ。
通り過ぎる各教室にちょこちょこっと4、5名生徒がいる程度……
カキ工の生徒は総勢約600人いる。
学校がある日の昼に魔物が現れたとしたらもっと多くいてもいいんだが……明良達みたいに町民の避難誘導に行ってるのか?それか体育館に集まってるとか?
そんな事を考えてはみるが廊下や教室に所々残っている血痕が俺に真実を伝えんばかりに物語っている……
魔物に襲われたのだろう……
図書室────
図書室には誰もいなかった。
そういえば一年の頃たまに漫画を読みにきたりしてたな~
そんな事を思い出し、漫画コーナーにある漫画を手に取って読んでいると10分程遅れて明良が来た。
俺と明良は長テーブルの席に向かい合わせに座って本題に入った。
「それで、俺が死んでいた間に何が起こったか教えてくれ」
「………まず最初に事が起こったのは涼夜が死んで2日後……今から2日前の昼休憩のときだ─」
「えっ、2日前?」
「あぁ、2日前だ。どうかしたか?」
俺は地球に帰ってきて2日も気を失ってたのか!?
……ははっ、通りで腹が異様に減ってたわけだ!
「いや、なんでもない。続けて」
「町からサイレンの音がなり響いた。そして校舎の中に大蜘蛛7匹とゴブリン15匹が侵入し生徒達を襲った………そして事に対処しようと生徒の前に立って行動していた先生方はほとんど殺されてしまったんだ……」
大蜘蛛ってあのデカ蜘蛛の事だよな…………あいつが7匹も
「それって結構ヤバかったんじゃないのか?それからどうなったんだ?」
「あぁ、それからあっという間に生徒が殺されていったよ………だが!生徒会長が学校に残っている生徒に魔物を倒すように呼びかけ、死傷者をだしながらも学校内の魔物を駆除し、バリケード作りにも迅速に対応したおかげでなんとか安全を確保することができた!」
「へぇ………ん?そういや、バリケードは立派だったけど校門に見張りらしき人がいなかったが大丈夫なのか?」
「大丈夫だ!その事件が起きた晩に一人の生徒がステータス画面の事に気づいてくれたおかげで、すぐに学校中にスキルや職業の事が伝わったんだ!そして校長先生の選択した職業【校長】で得られたスキルに【学校管理】ってのがあって、そのスキルは学校内に不審者を入れないっていう効果があったんだ!」
「つまり不審者である魔物が学校の敷地に入れない結界が張られたみたいなことか?」
そうだとしたらかなり凄くないか?
完全なる安全地帯だろ
「あぁ、そうだ!そしてそれだけじゃない!魔物発生から2日目……つまり昨日【学校管理】のSLvが上がったことによって停まっていた学校内の電気、上下水道が使えるようになったんだ!まぁ、その分魔石が必要らしいけど」
まじでか……
【学校管理】スキル便利すぎだろ……
「つまり学校内は魔物も入れず魔石さえあれば電気も水も使えるってわけか……」
その後も明良は俺に今まであったことを事細かく教えてくれた。
まとめると────
・校内に転がっていた生徒達の遺体は校庭の隅にまとめている。
・現在学校には生徒213人、校長と保健室の先生含む教員5人、避難してきた近隣住民31人の計250人がいる。
生き残った生徒はまだまだいたが勝手に自分家に向かったりしたらしい
・避難民は体育館と武道場で、生徒は男子が本館5階、女子が新館4階の教室で、先生方は校長室や保健室や職員室準備室で寝泊まりしている。
布団は廃墟となった住宅から昨日集めたらしい。
・生徒会長が今この学校を実質まとめあげている。
生き残った先生方より的確な指示を出してくれてるらしい。
・2日目の昼過ぎから生徒会長の提案で任意で5人一組の遠征をしている。
遠征の目的は住民の保護、生徒のレベル上げ及び魔石収集、店や居住者が死んだ家からの物資集め等々だそうだ。
・遠征で怪我をしても保健室の先生の【治癒】スキルで軽い傷なら治せる。
・正面玄関口にある事務室前に、発見された魔物の情報と確認されている職業やスキルの情報が壁に貼り出されている
───等々だった。
素晴らしい。
たった3日でここまで行動を起こしているなんて!
しかも、頼りの先生達がほとんど死んだ混乱状況下……
それを主に同じ生徒である生徒会長が引っ張ってきているなんて本当に驚きだ。
「なるほど。だいたい状況は把握できた。ちょっと俺、事務室前にあるっていうその情報板を見てくるとするか」
少しでもスキルや職業を把握したいと思い事務室へ向かおうと席を立つと
「なら俺も一緒に行こう」
と明良が言ったので俺達は二人で事務室前の情報板へと向かった。
事務室前─────
そこには色んな紙が貼り出されてあった。
魔物情報─────
大蜘蛛、ゴブリン、スライム、角兎、コボルド、ゾンビ、グール等
─────────
今のところ、大蜘蛛はともかく生徒でも何とか対処できそうな魔物しか発見されてないみたいだ……
異世界のギルドで見た魔物情報のヤバそうな魔物はまだこの付近にはいないようでよかった。
職業、スキル情報───
職業 獲得スキル
【校長】……【学校管理】
【教員】……【意思伝達】
【保健医】……【治癒】
【学生】……【学習】
【職人見習い】……【溶接】or【加工】or【染色】or【木工】or【回路理解】のどれか。
【危険物取扱者】……【危険物生成】
各部活動……その部活に関係したスキル。運動部の場合はそれ+【身体強化】
───等々だった。
職業【職人見習い】で得られるスキルがバラバラなのは恐らくその生徒が所属する科が関係しているのだろう。
カキ工は機械科、電気科、電子機械科、建築科、染色科がある。
俺は機械科だから【職人見習い】を選択してた場合、【加工】か【溶接】のどっちかだっただろうが、俺はすでにそのスキルを持っている……【職人見習い】を選ばなくてよかったー……
「それで?明良は職業何選んだんだ?」
俺は明良に尋ねた。
「俺は職業【剣道部員】を選択して、【剣術】と【身体強化】スキルを手に入れた。そのスキルのおかげで体が軽いし武器にしてる角材も扱いやすくて助かってる!」
「へぇ。いいじゃん」
明良は剣道部だったしいい選択だと思う
「それで、涼夜は?」
明良が俺に尋ねた。
情報板には第二職業の情報や上位職への転職に関する情報はない……
「その前に、確認していいか?明良は今レベルいくつ?」
「ん、俺はレベル4だ。多分この学校の中では高い方だと思うぞ」
なるほど。
そのレベルか……でも仕方ないか
昨日の昼から遠征システムで学校外に行けるようになったとは言え、遠征では安全のため必ず五人一組という制限があるらしいからな。
外で魔物に遭遇しても経験値を分け合うことになるだろうから……
まぁ、転職するにはJP45……つまり最低でも自身がLv6に達しないとできない。
ここは嘘をついて──
「そうか。それと俺は【危険物取扱者】を選んだ」
と答えた。
本当は上位職の【放火魔】と二つ目の職業【狩人】だがな…
「涼夜って危険物の資格持ってたしな」
「そこでなんだが、1つ考えがある」
「考え?なんだ?」
「俺の【危険物生成】スキルで出した灯油を使って校庭の遺体を火葬できないかな?」
そう、俺は明良から、校庭に生徒の遺体を置いていると聞いた時から懸念していた。
校庭の隅に置いているとは言え、残暑の残る9月の季節では遺体は腐り死臭を放つ上、病気の原因となるかもしれない
「ナイスアイデア。さっそく生徒会長に相談しに行こう!」
と、いうこととなり、俺と明良は生徒会長のいるという生徒会室へと向かった。
生徒会室────
コンコンッガチャ
「失礼します」
明良に続き俺も生徒会室へ入った。
「失礼します」
そこには生徒会長であろう女子が一人いた。
「あれ?緑川君どうしたの……もしかして例の赤井君をつれてきてくれたの?」
どうやら明良は生徒会長と面識があるらしい。
というか、「遠征の報告」とか言って今日、生徒会室へ行ってたな……
俺の名前も出たってことは俺のことも報告したらしい。
「いや、そうゆうつもりじゃないけど……涼夜説明よろしく!」
明良のやついきなりふりやがった。
「あぁ、俺がその例の赤井涼夜だ。実は──────」
俺は【危険物生成】で可燃性液体を出せるから生徒の遺体を燃やしていいですか?という胸を伝えた
が───
「ダメよ!」
生徒会長は強く言い放った。
予想外の回答に俺は少し驚いた。
「なんでだ?!このまま放置したら病気の二次災害が起こるかもしれないんだぞ」
俺も思わず強く言ってしまった。
「私も、今さっきまでどうにかして遺体を弔ってあげたいと思ってたわ……」
「ならどうして」
「緑川君の遠征報告であなたの事を聞いたからよ。あなたは死んだのに病院で医者に【蘇生】スキルを使ってもらって生き帰ったんでしょ?……つまりその医者に学校まで来てもらえばまだ生徒達は生き返れるかもしれないじゃない!」
「………」
確かに……筋は通ってる……
だが、それは俺が作ったただの作り話だ……墓穴を掘った……
………………
俺はかんねんした。いやっ、いい機会だ、一部本当の事を話そう。
俺の生存に涙を流してくれた明良に大嘘をついてたことも心苦しかったし
「……悪い、それは嘘だ」
「「えっ!!?」」
二人とも驚いてる。当然か……
「実は─────」
俺は、《生き返る条件が揃っているため神様からレアなスキルと新しい肉体をもらい、地球に魔物が出現して大騒ぎしている時くらいに生き返った》、ということを伝えた。
半分真実半分嘘。
さすがに異世界のことや俺がこんな世界にしてしまったことは言わない。
明良と生徒会長はキョトンとしている。どうやら話しに頭がついてこれないのだろう。
二人は「はっ?神様?レアスキル?」状態である
すると─
「一応聞くけどその《生き返れる条件》ってなんだったの?」
生徒会長が質問してきた。
信じてくれたのか?
「それは俺にもわからない。育った環境なのか俺の価値観とかなのか偶然なのかすらわからない」
「そう……わかったわ」
………………
「それで、今の俺のステータスはこれだ」
続けざまに俺はテーブルの上にあったコピー用紙に俺のステータスを書き記していった。
─────────
名前/赤井涼夜
Lv13
職業/放火魔JLv6
職業/狩人JLv6
HP620/620
MP340/370
力/180
防/175
速/190
SP11
JP45
固有スキル/
言語理解、神様の応援
スキル/
経験値倍SLv5
バリアSLv5
収納SLv6
瞬間移動
身体強化SLv5
加工SLv3
溶接SLv3
危険物取扱者SLv4
火魔法SLv5
潜伏SLv5
精神耐性SLv3
───────
これにはさすがに二人もかなり反応した
「なにこれ!レベル高っ!スキルの数も多っ」
「……職業枠が2つ……それに固有スキル……」
生徒会長はそれにすぐ目を付けた。
「レアスキルはポイントの中から自分で選んだけど固有スキルは多分神様がサービスで付けてくれたんだと思う。そして職業はJLv10にすると上位職に転職できて第二職業も解放されるらしい」
と、補足して俺は言った。
「…………」
「ちょちょっと、待て!涼夜、本気か?こんな状況のの時にこんな冗談をいうやつじゃないこと知ってるがこれはさすがに……」
明良が戸惑いながら言った。
それはそうだろう。
こんな事、すぐに信じるやつなんていない。
「冗談じゃない、本当のことだ。俺は【蘇生】スキルなんてものじゃなく神様に生き返らせてもらった」
二人は絶句し、静かな沈黙が数秒続く……
そんな空気の中、口を開いたのは生徒会長だった。
「それなら、本当かどうか証明してもらいましょう!」
「証明?どうやって」
「神様からもらったというレアスキルを今使ってもらうのよ!」
「なるほど!」
確かにいい考えだ。
【瞬間移動】なんて普通の職業選択では得られそうにないしな。
「わかった。じゃあ、二人とも俺の肩に手を置いてくれ」
俺は二人に指示し、手を肩に置いてもらった。
「じゃあ、【瞬間移動】!」
シュンッ
その瞬間、生徒会室から俺達の姿はなくなった。
シュンッ
俺達3人は俺の家のダイニングにいた。
「これが、【瞬間移動】だ。俺の家に移動した。一度行ったことがある場所限定だがな」
会長「嘘でしょ……」
明良「家具が少ないけど確かに涼夜の家だ……」
二人はかなり驚いてる。
「そしてついでにこれが【収納】スキル」
ゴトン
収納からタンスを出現させた。
明良「まじで本当なのかよ……神様の話」
会長「信じ難い……けど本当のようね……」
どうやら信じてもらえたようだ。
「見せた以上、物資集めとかの協力はするつもりだが、この事は他言無用で頼む。ただでさえ「死んで生き返った人間」って事で変に目立つかもしれないんだから」
変に目立って恨まれたり絡まれたりしたら面倒だし。
ま、実際恨まれて当然のことをしたけど。
明良「俺はもちろん、誰にも言わないぜ!」
会長「私も了解したわ」
二人とも理解してくれたようで安心した。
「……だから、あの話は作り話で、病院に行っても【蘇生】スキルを持った医者がいるとは思えない」
残念だが……
会長「そうね……残念だけど赤井君の提案通り火葬しましょう……」
わかってくれてよかった。
「ありがとう。じゃあ、学校に戻るから二人とも肩に手を置いてくれ」
ということで俺達は生徒会室に戻ってきた。
明良「本当に便利だな瞬間移動って」
明良が羨ましそうに言った。
「ああ。これを使って沢山魔物倒すことができたからな」
俺は、少し自慢気に言っていると生徒会長が俺に聞いてきた。
会長「ねぇ……赤井君……一つ疑問があるのだけど……」
「なんだ?」
会長「何でこんな秘密を私に教えてくれたの?緑川君のように幼なじみでもないほぼ初対面の私に……」
「…それは俺が生徒会長になら教えてもいいと思ったからだな。明良から魔物が現れてからの生徒会長の日々の頑張りは聞いていたし、何よりこんな状況になっても死んだ生徒のことを思いやれる優しい心に惹かれたからな。それに会長はなぜか初対面とは思えない親しみを感じたのも理由かも」
会長「そ、そうだったのね……ありがとう!本当に嬉しいわ!」
生徒会長は少し照れたように言った。
誰もが自分のことで手一杯なこの状況で、自身の頑張りを見ていてくれていた人がいた事がとても嬉しかったのだろう。
そして、生徒会長がある事を提案した。
「ねぇ、私達3人で遠征チームを組まない?」
俺と明良はいきなりの提案に驚いた。
「遠征チーム?生徒会長って戦えるのか?」
明良「生徒会長が遠征で学校離れて大丈夫か?」
会長「バカにしないでよ。私だって戦えるわ!職業【弓道部員】で【身体強化】と【弓術】スキルだってもってるし、レベルも3あるのよ。あと私だってレベル上げたいの。そして学校のことは私が全て仕切ってるわけでもないし、他の先生や生徒会役員がしっかりしてくれるはずだから大丈夫よ!」
生徒会長はそう言って棚から弓矢を取り出して見せた。
なるほど弓道か……
確かに戦闘向きだな。
明良「いいね!俺は賛成だ」
「ああ、俺もその提案乗った!」
3人の意見が合意し、俺達は秘密のチームとなった。
「じゃあ、これからよろしくな。生徒会長!」
会長「ねぇ、二人とも私のこと「生徒会長」じゃなくて、下の名前で呼んでいいわ。チームメイトだしね!」
「そうか、わかった……えっと……」
そこで俺はつまってしまった。
生徒会長の名前がわからないのだ……
明良「おい、涼夜まじか!一年生の頃から有名だっただろ!よく配布されるプリントにも名前あるし!」
明良が俺に言ってくるが、正直そんなこと気にしたことがないのでわからない……
会長「オホン!私の名前は青景夏子よ」
あ~確かに聞いたことがあるような名前だ
「あぁ、よろしくな夏子。俺らも下の名前でよんでくれ」
明良「夏子よろしく!」
会長「えぇ、よろしくね。涼夜君、明良君」
…………
明良「まぁ、今日はもう4時過ぎだ。遠征は明日からということにして、遠征内容はどうする?」
会長「そうね……まずは涼夜君の【瞬間移動】と【収納】を使ってお店に物資集めに行くのと平行してレベル上げね。悪いんだけど、レベル上げの時は涼夜君は私達のサポートに回ってくれる?」
「あぁ、もちろんいいぞ」
俺がこの中で一番レベル高いし【経験値倍】で余裕あるからサポート役でもかまわない。
会長「まぁ、詳しい事は明日の朝に話ましょう」
───と、夏子に言われ、当初の目的である遺体の火葬の話しになり
その後────
俺は大量の灯油を生成するために校庭の遺体置き場へ
明良は灯油を入れる空のポリタンクやバケツ等の容器集めに学校内へ
夏子は遺体火葬の許可を取るため校長先生や各先生方の元へとそれぞれ別れた。
───────────
その晩、生き残った生徒と先生方は校庭に集まって校長先生の挨拶の元、灯油の染み込んだ生徒の遺体に火をつけ火葬という名の遺体焼却が行われた。
燃え上がる炎の中にいるクラスメイト達の亡き姿を前に俺は、ただただ何とも言えぬ感情が入り乱れていた。




