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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

めげない男の同性愛

作者: めーぷる

「…メルティ、僕がどんなに君を愛しているのかは、これで伝わったと思う。どうか、この指輪を受け取って欲しい。どうか僕を、この胸の苦しみから解放してはくれないか」

「やだ」

「なっ、なぜだ!?」

「言わないと分かんない?」

「分からん!…いや、待て。そうか、あまり芝居臭いのは好みじゃないのだな?悪かった、仕切り直そう。メルティ・アリアーナ!お前を愛している!指輪を受け取って俺の妻になれ!」

「そういう問題じゃないから」


直球でも駄目か。まあ、直球はまずいだろうとは思っていた。分かりやすい愛情表現は普段からしているからな。だからこそ、台詞を何日も掛けて考え、何度も何度も練習して、やっと先程のプロポーズを完成させたのだが、「やだ」の一言で済まされてしまった。一体何が不満なのか、女心という物は難しい。


「私、会う度に言ってるよね?男だって。貴方がアプローチをしてくる度に、そういう趣味は無いって拒絶の意を示してるよね?何でプロポーズしようと思ったの?馬鹿なの?」


またこれだ。こいつはどんなに俺が愛を示しても、「男だから」の一点張りでまともに対応しようとしない。毎回そうだったが、まさか一世一代のプロポーズの時ですらその態度で来るとは思わなかった。


「メルティ、俺は真剣なんだ。こんな時くらい、真面目に向き合ってくれても良いのではないか?」

「だから、真面目に男だって言ってるの!この前診断書見せたじゃん!性別の欄に男って書いてあるのちゃんと見たよね!?」

「ああ、あの偽装書類な。お前の努力を無下にするのも何だから黙っていてやったが、正直酷い出来だったぞ」

「いや作ったの私じゃないから!その道のプロだから!結構有名なお医者さんだから!!」


余程恥ずかしいのだろう、無理のある嘘を必死の形相で叫んでいる。小さな体で一生懸命声を上げようとするその姿は非常に愛らしいが、次から次へ口から出任せを言うその姿勢は看過できない。


「…あのなメルティ。嘘も程々にしないと、周りの信用を失うぞ?聞く所によるとお前、会う人間皆に自分が男だと主張しているそうじゃないか」

「そりゃあ男だからね!ちゃんと言っておかないと勘違いする人が多いから主張するようにしてるの!貴方みたいなのが寄ってこないように!」


なるほど、虫除けのためだったか。確かにこの容姿だ、言い寄ってくる男が多くて何かと面倒だろう。だが、俺にまで嘘を吐く必要は無いのではないか。俺達は結ばれる運命にあるというのに。


「メルティ、指輪を受け取れ。俺と共にいればうざったい男共に煩わされる事もない、例え世界が敵に回ったとしても俺はお前を守ってみせる」

「人の話聞いてる!?私を煩わせてるのは貴方なんだけど?!」

「さあ、素直になれ!秘めている想いを打ち明けるんだ!」

「じゃあ遠慮なく打ち明けさせてもらうよ!私、貴方の事大っ嫌いなの!だからもう近寄って来ないで!」

「む…」


少し強引すぎただろうか、今まで冷たい言動は数え切れない程されてきたが「嫌い」と言われたのはこれが初めてだ。そっけない態度は単なる照れ隠しだと思っていたが、ひょっとすると今回は本当に怒っているのかもしれない。


「少々気が早かったようだな、すまなかった。まだ結婚したくないというのならそれで構わない、俺のこの気持ちが覆る事はないからな。プロポーズは後日また改めて…」

「ちょっと待って。まさか、両想いだと思ってるの?」

「…俺の気持ちを疑っているのか?」

「…嘘でしょ」

「なっ、嘘じゃないぞ!俺はお前を本気で愛している!望むのなら俺の眼球を捧げたって構わな…」

「そうじゃないよ!どうやったら私が貴方を好いてると思えるの!?何で!?好きな訳ないじゃん!百歩譲って嫌いじゃないとしても絶対好きじゃないじゃん!」

「なっ、なにっ?」


(好きじゃない?メルティが、俺を?馬鹿な…)


確かに、好きだと言われた事は一度もない。だが、どう考えても好かれてるとしか思えない言動や行動をされた事が過去に何度もある。好きじゃないと言うのなら、あれは一体何だったというのか。


「おい、なら散々「かっこいい」だの「憧れてる」だの言いながら俺に接触してきたあれは何だったんだ!?好かれてないと思う方がおかしいだろう!」

「何年も前の話じゃんそれ!今も続いてると思わないでよ!」

「だが、俺に憧れていたのは事実なんだろう!?今はその気持ちが無くなってしまったと言うのか!?何故だ!?」

「よく何故とか聞けるね?外出先で毎回待ち伏せしておいて… 気持ち悪いし怖いよ!男だって言ってるのにさ!しかも憧れてるってそういう意味じゃないからね?私は貴方の強さに憧れてたの!男として!」

「またそれか!男、男って、お前そればっかりじゃないか!誰よりも女らしい容姿をしているくせに… 自分の容姿を客観的に見る事が出来ないのか!?ええ?!」

「ああもううざい!めんどくさい!うざい!!そんなに信じられないんだったら見せてあげるよ!私のあれを!!」


(あれ…?)


何の事か分からずに首を傾げていると、突然メルティがズボンを脱ぎ始めた。脱ぎ終えたズボンを丁寧に畳み、地面に置いたかと思えば、そのままパンツへと手を伸ばしていく。見た目に反し、随分と渋いパンツを穿いている。


「…って、おい!ちょっと待て!何をやってるんだ、やめろ!」


俺の制止も聞かず、メルティは勢いよくパンツを降ろした。その瞬間、俺は慌ててメルティから顔を背ける。


(…大丈夫、見ていない。見たかった気もするが、まだその時ではない)


「何顔背けてんの?見ないと脱いだ意味がないじゃん」

「落ち着けメルティ!まだ早いだろう!そういうのはちゃんと正式な関係になってから…」

「うるさい!さっさと見てよ!寒いんだから!」

「しかし…」

「いいから見なよ、ほら!」

「…お前が構わないと言うのなら」


見ろ、見ろとうるさいのでやむを得ず見る事にする。結婚もしていないのに裸体を見るなどどうかとは思うが、見て欲しいと言うのなら仕方ない。俺は背けた顔をゆっくりと元に戻し、メルティの下半身に視線を向ける。


「…ん…お…?……んん?」


(おかしいな、目の錯覚か?あの場所から何かが生えているように見えるのだが……いや…あれは……どう見ても……)


生えている。かなり小さいが、メルティの其処には確かにあれが生えていた。


「これで分かったでしょ?私、男なの。貴方と結婚なんて絶対に有り得ないの」

「…」


男の象徴であるそれが存在している以上、認めるべきなのかもしれない。だが、男と呼ぶにはこいつは余りにも可愛すぎる、それに背が低い。女でもこいつ程背が低い奴は滅多にいない。何よりも、こいつには女にしかない筈のものが上半身についている。本当に男なら、それは一体何だと言うのか。


「だったら、お前の上半身の……それは何なんだ?随分と、その……あるではないか」

「胸のこと?」

「…ああ」

「簡単な話だよ。私、女性らしい体を造る成分みたいな物が異常に多いんだって。顔が女性っぽいのも、背が低いのも、この胸も、全部それが原因みたい」

「女の成分が多い…?」

「うん」


女らしい体にする成分が多いというのなら、それはつまり


「つまり、女だということではないのか?」

「だから違うって、女性の成分が多いってだけで生まれはちゃんと男だから。生えてるの見たでしょ?」

「そもそもそこが信じられん。お前が勘違いしているだけで、逆なんじゃないのか?」

「どういう事?」

「女の身体をした男ではなく、男のあれが生えてしまった女なんじゃないかって事だ」

「そんなわけないじゃん」

「いや、お前が男だという事の方が有り得ん。メルティ、女の身でそんなものが生えているのは辛いだろうとは思うが… 安心しろ、俺は気にしない」

「いやいや、冷静に考えてみてよ。生物において、子供を産むのが女で、産ませるのが男でしょ?私が女性だったとして、どうやって子供を産むっていうのさ」

「…」

「分かるよね?あれが生えてる時点で、女性じゃないの。女性として生まれたとしても、あれが生えてしまったならそれはもう女性とは呼べないの」

「…本当に男なのか?」

「そうだよ、やっと分かってくれた?」


信じられないが、信じるしかない。こいつの言う通り、どんなに女みたいだろうとあれが生えてればそれは男だ。とてつもなく小さいとはいえちゃんとあれがある以上、こいつは紛うことなく男なのだろう。だが


「構わん」

「は?」

「男でも、構わん」


女じゃないからといって、今更俺のこの気持ちは止まらない。好きすぎて毎日こいつの夢を視ているくらいなのだ、最早俺の想いは性別がどうとかで揺らぐような領域にない。


「改めて言うぞ。メルティ、俺はお前が好きだ。お前との子が成せないのは残念だが、愛するお前と共にいれるのなら俺はそれで…」

「えっ、男だって分かったのに口説いてくるの!?何で!?私男なんだよ!?」

「男でも構わんと言ってるだろう?改めて言うが、俺はお前が…」

「構わん訳ないじゃん!構うよ、私が!改めて言うけど私そういう趣味無いから!恋愛対象は女の子だから!」


こいつ、こんな見た目をしているくせに恋の対象は女だと主張している。端から見たら、それこそそういう趣味の人間に見えるのではないだろうか。男にモテても女受けは決して良くないだろう、大人しく俺と結ばれてしまった方が苦労せずに済む筈だ。


「言っちゃ何だがメルティ、お前が女と結ばれるのは不可能だと思うぞ?女というのは本能で強い男を求めるものだからな。心身共に弱く、外見から軟弱さが滲みでているお前に惹かれる女など、絶対にいない」

「ひ、ひどい!絶対って事ないでしょ!これでも結構ちやほやされるんだから!」

「女にか?」

「そうだよ!」

「そのちやほやというのはどうせ、可愛い可愛いって女が子供や動物によくやるあれだろう?違うか?」

「…」

「それはモテている訳ではない。寧ろ、馬鹿にされていると言った方がしっくりくるな」

「…」

「自分がモテると思っているのだとしたら、勘違いも甚だしい。一体どこに、お前を男として見る女がいるというのだ?お前に恋する女がいるとしたら、それは女が好きな女だ」

「…うるさい」

「お前は男である事を忘れるべきだ、忘れて俺と結婚しろ。女にしか見えんお前が女と結ばれよう等と、叶わぬ夢を見るのは…」

「うるさいうるさいうるさああああああい!!!」


辺りにメルティの高い声が響き渡る。人の話を大声で遮ってくるとは、常識という物が少し欠けているのではないか。結婚して同棲を始めた暁にはマナーの教育をする事も考えて置いた方がいいかもしれない。


「癇癪を起こすとは、無様だなメルティ。ますます女々しいぞ」

「うるさい!もうほんとにうるさいよ!なんなのささっきから!」

「俺との結婚を視野に入れてもらうにはまず、女を諦めさせるべきだと思ってな」

「諦めないよ?!仮に諦めたとしても貴方と結婚はしない!ていうか出来ないよ!」

「出来ない?」

「いや知ってるよね?出来ないよ、国が認めないから」

「認めてもらう必要など無いだろう?結婚に必要なのは互いの気持ちだけだ、自分達が夫婦だと認識しあってればそれでいい」

「ならやっぱり出来ないね、私の気持ちが貴方に向く事は絶対にないもの」


どうしても俺と結婚するのは嫌ならしい、これは困った。今更諦めるなんていう選択肢があるわけもないし、どうしたものか。


「それに私、今好きな子いるし」

「…む?」


好きな子がいる、それは重要な情報だ。どうすればこいつの気が引けるか分からないというのなら、こいつの好きな子とやらを参考にしてみればいい。


「その好きな子というのは、どんな女だ?」

「…知ってどうするの?」

「少し参考にしようと思ってな」

「いやもう諦めてよ、貴方が男である限り好きにはならないから」

「男じゃなければいいのか?」

「…まあ絶対無理って事はなくなるかな」


とにかく男という性別が致命的なようだ、どうしても男とだけはくっつきたくないらしい。こいつが男を拒む以上、俺が女でない限り望みは無いという事になる。俺が女でない限り。


(…こいつが男である事を捨てれないと言うのなら、俺が捨てれば良いのではないか?)


俺は自分が男である事に強い誇りを持っているが、その誇りもメルティに対する想いには負ける。メルティを手にする事が出来るのなら、誇りを捨てる事など容易い。


「ふむ。ならば取り敢えず、去勢をしてみるとしよう」

「え?」


腰に下げた鞘から剣を抜き、切っ先を股間に向けて構える。俺の剣の腕は世界一、服の上からあれのみを切るくらい造作もない事だ。


「いやいやいや!やめなよ!何しようとしてんの!?」


去勢を始めようとした瞬間、剣を持った右手にメルティが飛び付いてきた。


「危ないぞ、メルティ!怪我をしたらどうするんだ!」

「自分の体を切ろうとしてる人に言われたくないよ!一体何考えてるのさ!」

「お前を手にするには女になる必要があると判断した!手を離せ、離れてよく見ていろ!俺が男を捨てる瞬間を!」

「やだよ見たくないよ!そんな事したって私は貴方を好きになんか絶対ならない!」

「男じゃなければ可能性はあると言ったのはお前だろう!」

「貴方が初めから女性だったらって話ね!今から女の子の体に近付いた所で余計気持ち悪いだけだから!」


(ぬう…)


こいつめ、次から次へ望みを絶ってくれる。初めから女だったなら何てそんなもの、どうする事も出来ない。やはり今俺に出来るのは、こいつの好きな子とやらを調べ、そいつを参考にする事くらいなのか。


「…それに、貴方に男をやめられたら悲しいし。これでもちょっとはまだ、尊敬してるんだから」

「…なに?」


(今、何て言った?尊敬してる?俺を?メルティが?)


憧れの気持ちが無くなったととれる発言をしていたが、どうやら尊敬はしてくれているようだ。ならば全く脈が無いという訳でもないんじゃないだろうか、突き放した態度こそとられてはいるが少しは好意を抱いてくれているのかもしれない。


「ふふ、そうかそうか。そうかぁ!はっはっはっは!そうか!尊敬してるのか!俺を!メルティ!そうなのか!尊敬!しているんだな!この俺を!そうかそうか!」

「…喜びすぎ」


メルティが引いた目で俺を見ている。さっきまで俺の右手に掴まっていた筈なのに、気付けば俺から離れた位置にいるではないか。好きな相手に尊敬してると言われて喜ばないわけがなかろうに、酷い奴だ。


「メルティ!俺は諦めないぞ!必ず俺を好きにさせてみせる!その尊敬の気持ちを恋心に変えてやる!」

「尊敬してるからこそ諦めて欲しいんだけど…」

「今日の所は退いてやるが、俺は再びお前の前に現れるだろう!今より更に魅力的になってな!」

「聞いてないし…」

「さらばだ!」


今、これ以上攻めても効果は無さそうなので一旦退く事にする。何より、この嬉しい気持ちをじっくり堪能したい。家で布団にくるまりながらあの時のメルティをリプレイするのだ、俺を尊敬してると言ったあの時の映像を頭の中で。


(好かれてるのかと思いきや好かれていなかった、と思ったら尊敬されていた!上げて落として上げるとは!メルティめやってくれる!)


本当は今日、メルティとの結婚を決めるつもりでいたので結果だけ見ると酷い有り様だ。当初の目的から大分遠ざかっている。だが、俺の心は晴れやかだ。好きじゃない、憧れが無くなった等の言葉でかなりショックを受けたが、尊敬しているの一言で俺の感情は喜びに振り切った。一度消えかかった希望が再び見え始めるというのはこんなにも嬉しいものなのか。


(尊敬してる、貴方の事、尊敬してるんだから… ふふ、ふふふ、ふふふふふふふ)


その夜は、いつもよりも楽しい夜になった。








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