第15話 騎士姫
天空の魔法陣から一人の少女のシルエット。
稲光と共に、文字が脳裏に刻まれる。
聖ミカエルが加護を与えし聖人、
オルレアンの麗しの乙女、
聖なる殉教者にして、神の僕。
ド派手な演出は、今、この他にいる者全てが体験したようで、
「聖人??」
「神の僕?」
などの声が聞こえる。
地上に降ろされた光の中から、騎士姿の少女が現れた。
凛とした空気を漂わせ、透き通る声で、
「我が名はジャンヌ、大天使ミカエル様の声を聞きし者」
堂々と言い切った。
「さあ、我を呼び覚まし者よ、何なりと命じよ」
「あの女を殺せ、我が僕!」
帝国の間者は、威勢良く、俺を指差す。
あのジャンヌ、ステカン、現凸、フルスキル!
「あれは、エルフか……、銀髪に、イフリートの加護だとぉ!」
ジャンヌは、騎士のくせに、名乗り合わず、突然、俺に剣を振りかざす。
彼女を見た瞬間、準備していたヘルメスの杖が悲鳴をあげる。
「折れたら弁償して貰うわよ」
彼女を力一杯、弾き返し、【フライ】で上空に退避する。
彼女も当然、地上を離れた。
「貴様だけは、許さんっっ!」
彼女は何故か激おこモード。
「そいつの四肢を切り裂け、ジャンヌ!」
地上からは、間者が吠える。
「天界の神々に、聖ミカエルの祝福を受けし、我ジャンヌが願い奉る、我に無限の剣と、その全てに、聖なる祝福を!」
詠唱物理! 最大火力の必殺技!
くそ、いきなりかよ!
現出した無数の刃が彼女を取り囲むように宙に浮く。
彼女が向ける切っ先に、それらは全て標的を定めた。
聖なる祝福を帯び、神々しく輝く数多の剣に、思わず畏れを抱く。
「滅せよ、無限聖剣」
彼女が命に、全てが従い向かってくる。
衝撃が天を覆い、閃光が視界を奪う。
連撃数はゲーム中最大を誇り、効果範囲も広い、優秀な固有物理攻撃技【無限聖剣】が発動した。
余波が地上を襲い、皆を守る為、シルフィードが結界を張った。
「くっ、何よ、この威力」
彼女の声が震えるも、地上を余波からしっかりと守る。
「見よ、これが帝国の力だ! 次は、お前らに味あわせてやる!」
間者が益々勢いづいた。
閃光で痺れた視界が晴れ、俺の姿が夜空に浮かぶ。
彼女の全てを受けきり、高らかに宣言する。
「ジャンヌ、貴方じゃ、私に勝てない、降参するなら、今よ!」
デュエル一位、舐めんなっ!
サシの勝負で、俺に勝てる奴なんていない!
彼女を見たとき、魔防転換で、物防の基礎値を上げていた。
彼女は、伝説級なのに、全く魔法が使えない稀なキャラ、使いどころを間違えば、命取りになる戦術も、彼女には、有効だ。
それでも、補正値を無視する【無限聖剣】は驚異だが、今の彼女には、仲間がいない。
彼女の物攻は高くない。
無傷で彼女の最大を受け切った。
「き、貴様だけは絶対に許さない!」
彼女の足が僅かに震えた。
その隙に背後に回る。
殺気を帯びたジャンヌの剣が反応し俺に迫る。
流石に勘は良いようだ。
それでも、難なくかわし、飛び蹴りを彼女に決める。
「くっ」
彼女の悲鳴。
また、別の固有スキルを発動されたら流石に厄介なので、
続けざまにかかと落としで、ジャンヌを地上に叩きつけ、馬乗りでボコボコに……、
「や、やめろ、ま、参った、うげっ」
「今さら、遅いのよ」
ジャンヌは強い、彼女を好んで使うプレイヤーも多く人気キャラだ。
しかしデュエルでは、百位止まりで五十位の壁は越えることは出来ない、それでも、伝説級では優秀な性能とも言えるが……。
「う、うえーん」
あっ、泣いちゃった、ちょっと可哀想なので手を止める。
そんな彼女の真骨頂はパーティ戦だ。
優秀な固有スキルを数多く所持するジャンヌだが、現凸してもステは低い。だから、仲間のバフを必要とする。
しっかりバフで強化すれば、神話級とも充分張り合える優秀さ、ちょっと扱いが面倒で難しいが、多くの人が彼女を支持し愛用した。
一人では、実力を発揮できない。
仲間を得れば、その強さは、目を見張る。
彼女の敗因は、単騎で召喚されたこと。
相変わらず、帝国は下手くそだ。
ジャンヌが可哀想になり自由にしてやる。
ヒック、ヒックと泣きながら、
「悔しくなんかないんだからね」
と彼女は強がった。
「ま、待て、や、やめろ」
間者の方は、ワンパンで片が付いた。
南部の兵士が駆け寄ってくる、後は彼らに任せよう。




