第17話 旅立ちの物語
エドワードは、旅の途中で倒れ、クララは、悲しみのあまり号泣する、様々な困難を乗り越え、俺たちは、古代樹の森を攻略する事に成功した。
それは、今まで、誰もなし得なかった偉業だ。
町に戻れば、盛大な歓迎が待っていると思っていたが、やはり、世の中は、そんなに甘くなく、
「相変わらず静かな町ね……」
と思わず愚痴をこぼしてしまう。
別にチヤホヤされたい訳ではなかったが……。
さらにだ、
ギルドに顔を出すと、
「報酬の準備に時間が掛かるから、日が沈んでから来てくださいっ!」
と厳しい受付のリサが、ビシッととても冷たかった。
グスン……
きっと、まだ扉の修理が終わっていないから、イライラしていたのだろう。
さらに、あちこちに桶が置いてあり、雨漏りも酷そうだったので、
ざまぁ〜みろだ。
「じゃぁ、夜、また来るから、報酬は、弾んで頂戴ね」
あっかんべ〜をしながら、彼女と別れた。
その後、
町の中心部の公園で、噴水に腰掛け、時間を潰している。
木立に囲まれた緑豊かな公園だが、
人影が少なく、ここも、少し寂しく感じられた。
レナード達と出番の全く無かった戦士と剣士は、森を抜け、町へと通ずる平原に出た所で別れ、アンアン姉弟は、何故か、こちらに付いて来てしまっている。
おかげで、ここの景色が騒がしい。
目の前では、腰に杖を差した黒ローブ姿の少年少女が、エドワードを相手に、奇声を発しながら組手をしているからだ。
彼の腕は、やはり確かで、アンアン姉弟のトリッキーな軽い身のこなしを、軽々といなし、その身に触れさせない。
ついに、姉のアンナが、痺れを切らし、エドワードから離れ距離をとった。
「師匠!私の蹴りを見てください!」
と何故かこちらを向き、口を尖らせ叫ぶと、助走を付け見事な飛び蹴りと共に可愛いパンツを披露した。
うっわ〜、あの娘、完全に道を誤ったな……。
当然、エドワードは、それを簡単に躱している。
あんな大技、当たる訳ないよな……、いったい、あの娘は何を目指しているのだ?
それにしても、エドワードの顔が、一瞬、にやけたような気がした。
……、まさか、お前……、いや、駄目だ、いけない……それは、犯罪だぞ!
彼が道を誤らないように、弟君、アンソニーが拳を突き出すタイミングに合わせ、こっそり、エドワードの足元に魔力を飛ばしてやった。
一瞬、彼は、それに躓き、バランスを崩すも、弟君の拳は届かない。
ちっ、しくじったか……
エドワードは、チラリとこちらを睨み、その隙を見逃さない姉のアンナが、すかさず蹴りを繰り出した。
そして、再び、惜しげも無くパンツを見せびらかしている。
また空振りだ……。
はぁ〜、と大きくため息を漏らし、顔を両手で覆う。
誰だ! この娘の道を誤らせたのは!
「あらあら、暇そうね、もう少し上手にしないと、嫌われちゃうわよ」
買物から戻って来たシルフィードが、ふわりと横に飛んで来た。
ギルドを訪問した後、彼女は、ジークフリード達と一緒に、俺たちとは、別行動をしていたのだ。
「あら、レティーシアとチビは?」
「彼女達とは、途中で別れたわ」
「そうなの……」
まあ、チビが一緒なら心配ないか……何かあれば、メッセージでチビが、直接、俺に知らせてくるだろう。
「それにしても、まだ、してたのね」
「ええ、飽きないわね……」
たくっ、組手の何処がそんなに面白いのか……。
「暇そうね! ソフィア!」
いつになくうるさいクララは、どうだと言わんばかりに胸を張り強調している。
「どうしたの、それ……」
そんな馬鹿な! あのクララの胸が、存在を主張するだとぉ!
ありえん!
責任者、出てこい!
馬鹿兄のジークフリードを、ジロリと睨むと、彼は目を逸らし、何処か遠くを見つめている。
ついに、邪教の軍門に下ったか! クララ!
「立派になったのね、クララちゃん」
彼女の胸に手を伸ばした。
悪しき偶像は、破壊しなければならない!
「きゃっ、な、何するのよっ!」
彼女は、両手を交差させ胸を覆い隠し、膨らみを守るのに必死だ。
「良いじゃない、別に、痛いことはしないわっ!」
「い、嫌ですぅ!」
「ちょっと、だけよっ!」
「駄目ですぅ!」
「触るだけだからっ! 揉まないからっ!」
「いっ、嫌ですぅ! 絶対に、嫌ですぅ!!」
不自然な胸の膨らみを隠す、彼女の両腕を押し退け、その頭上で片手を使い固定した。
さぁ、その、偽物のおっぱいを、クララの為に砕いてやる!
邪教の力を借りてはいけない!
「やめてっ……」
クララは口をギュッと結び、瞳を潤ませ、赤く染まった顔をそむけた。
「心配しないで、痛くしないわ……」
胸の膨らみへと手をもみもみしながら……
「ソフィア、何をしているの!」
レティーシアの声だ。
ゴン、
「痛い!」
突然の事に、頭を手で隠した。
まさか、レティーシアが?
「お前は、何をしている!」
振り返ると、エドワードがいた。
その間に、クララは、テテテッとジークフリードの方へ逃げる途中、よほど、慌てていたのだろう、つまずいて、ドテッとこけている。
「ちょっと、何、するのよ!馬鹿っ!」
後少しで、クララを邪教の手から救えたのにっ!
「馬鹿は、お前だ!」
「そうよ、ソフィア、クララが可哀相だわ!」
エドワードとレティーシアが、同時に非難してくる。
レティーシアは、腰に手を当て、激おこモードだ。
「でも……」
「でもじゃないわ! ちゃんと、クララに謝りなさい!」
彼女は、ジークフリードの影に隠れたクララを指差した。
それでも、
「だって、クララったら、パットで作った胸を自慢してきたから……」
それでも、俺の方が大きかった筈だ! ホントだぞ!
「仕様がないでしょ、クララちゃんは無いんだからっ!」
レティーシアが、怒りで身体を揺らす度、本物のおっぱいが自己主張する。
そんな彼女に、持たざる者の気持ちが分かる筈がない!
「で、でも……」
「もうっ! クララのおっぱいは無いのよ! よく聞きなさいっ、クララのおっぱいは無いの! な、い、のよ! だから、早く、謝りなさい!」
彼女は、プンプンとおっぱいを揺らし、凄い剣幕だ……。
「なんか、ごめんね……」
その後、すぐ、クララに謝罪した。
「ええ、もういいわ……」
真っ白な灰となったクララは、呆然とした表情で、倒れた拍子で潰れたパットを元の形に整えようとしていた。
「クララ、ソフィアを許してあげてね」
クララは、彼女の背丈に合わせる為、前屈みになったレティーシアを見つめた後、目に涙をいっぱい溜めて、俺を見た。
レティーシアの深い谷間を見てしまったか……。
「本当に、ごめんなさい」
俺は、レティーシアの頭を軽く叩いた。
勘違いした彼女は、
「クララ、今回の事は無かった事にして、仲直りねっ」
と笑顔で、止めを刺し満足げだ。
「私だって、あるのよっ!」
クララは、最後の力を振り絞り、今生の別れを告げた後、固まって石になった。
彼女は、再び戻って来れるのだろうか?
まぁ、ここは、馬鹿兄貴ジークフリードに任せておけば大丈夫か……
噴水の方に戻ると、シルフィードと話をしていたエドワードが何やら、物言いだけな様子で、こちらを見てくる。
「放っておいて、済まなかったな」
「えっ、何のこと?」
いきなり謝罪してきたエドワードに、その理由を尋ねた。
「その、なんだ、ずっと子供達の相手をしていたからな」
ああ、アンアン姉弟と組手をしていた事か……。
「別に良いわよ、でも、あなたが子供好きとは思わなかったわ」
ちょっと引いたぞ! 程々にしとけよ!
「まぁ、どっちかと言えば好きな方だが、彼女達は上達が早く見込みがある」
げっ、エドワードは、子供が好きだと堂々と宣言し、その上、アンナの事をえらく気に入ったと言っている。
それは、勝手だが、
ここは、やはり叱っておかねばなるまい。
「ちょっとは、気を使いなさいっ!」
やばいぞ、お前! 「俺はロリで、十二のアンナが気に入った!」とか、もうちょっと周りを気にしないと、捕まるぞ!
興奮した為、体温が上昇し、顔が火照って熱く感じる。
「わかった、これからは、ちゃんと気を使おう」
彼も理解してくれたようで、顔を赤くしながら、俺の頭をなで、褒めてくれた。
言われる前に、自分で気付けよ!
それでも、素直に忠告を聞いてくれた、彼に、笑顔で返事した。
マジで、気をつけろよ!
「し、師匠、ごめんなさい」
被害者のアンナが、もじもじとお下げを揺らし、上目遣いで俺を見つめている。
「あなたは、悪くないのよ」
悪いのは、子供好きのエドワードなんだよ。
アンナをしっかりと胸にギュッと抱きしめた。
「そろそろ、良いかしら?」
面白い事でもあったのか、シルフィードは、ニヤニヤと楽しそうだ。
「ソフィア、頑張るのよ」
彼女は、両腕を曲げ、励ましてくるが、何を頑張れというのだろうか?
クララのおっぱいの事だろうか?
それとも、エドワードの性癖の事だろうか?
デリケートな問題なので、返事に困り、口をパクパクとさせていると、
「そろそろ、ギルドに行こうと思うのだけど、どうかしら?」
彼女は、それを無視して、次の行動を皆に促した。
たしかに、空は赤く染まり始め、一日の終わりもそろそろだ。
でも、クララは固まり、それをほぐす為、ジークフリードは、必死だし、
エドワードはニヤニヤしながら、俺の頭を、まだ、ポンポンと撫でている。
「コレ、蹴飛ばして良いわよ」
エドワードを指差し、アンナに指示を出した。
「師匠、良いのですか?」
アンナは、本当に? と首を傾げたが、しっかりと構え、やる気充分だ。
「良いわよ」
俺の号令と共に、エイッと彼女は、エドワードの尻を蹴飛ばした。
その蹴りで、我に返ったエドワードは、
「済まない」
と言い、何故か嬉しそうに、俺の頭を撫でるのをやめた。
こいつ、そう言えば、エム属性だったけ。
エム属性のロリにとって、アンナの一撃は……
エドワードをジト目で、ジッと見つめた。
「本当に、済まない」
彼は、ますます嬉しそうだ。
この、変態め!
クララの回復を待ち、その後、アンアン姉弟と別れ、廃墟の冒険者ギルドにやって来た。
なんと、ギルドに行くと、廃墟に行けという貼り紙があったからだ。
もしかして、報酬が払えず、夜逃げしたのかもしれない。
それなら、昼間の受付嬢、リサの態度も頷ける。
よほど切羽詰まっていたのだろう。
ただ、目の前の看板は一つになり、「移転しました」の方は無くなっている。
その上、庭の手入れは、行き届いていないが、入り口までの道は、しつがりと刈り込まれ、石畳が姿を現した。
建物は以前と変わらぬ、年季を感じさせる洋館だが、明かりが灯り、人の気配を感じさせる。
どうやら、ここに居るらしい……、
両脇に手すりの付いた、広い階段を数段上り、入り口に手を掛ける。
見覚えのある丁寧な装飾が施された重厚な扉、
俺が、仮登録の時に、壊した、あの扉だ!
移転先の建物では、浮いていた扉も、この建物には、しっくりきている。
扉を引いて……
引いて……開かない……
「そこは、押して開けろ」
エドワードは、呆れ顔で扉に手を掛けた。
えっ、でも、玄関って、引いて開けるものだろ?
キョトンとしていると、
「たくっ、常識を知らん奴だ……」
と言いながら、彼が力を込めると、扉は、簡単に内側に開いた。
「さぁ、行くぞ!」
エドワードは、半身で腕を中に差し出し、促した。
先を譲るとは、殊勝な心掛けだ。
入り口の正面には、立派なカウンターがあり、その奥で、リサは立ち上がり、深くお辞儀をしている。
一歩入ると、両脇に大勢の人の気配を感じた。
受付カウンターへ、一歩、一歩、近づくにつれ、周りの様子がはっきりと理解できた。
どうやら、この建物のギルドには、ちゃんとした酒場があり、その席は、今は、全て客で埋まっているらしい。
ただ気になるのは、絡んでくる酔っ払いがいないという事だ……。
絡んで来いよ! 酔っ払い!
てか、飲んでる奴、居無くねぇ?
カウンターの前で、エドワードとジークフリードに促され、そこで、立ち止まる。
「お待ちしておりました、皆様の事は、レナード様より、伺っております」
リサは、ここまで言うと、息を大きく吸い込んだ。
「古代樹の森の攻略成功、おめでとうございます!」
彼女は、ゆっくりと大きな声で、俺達にでは無く、周りにいる者達に聞こえるように話したようだった。
その証拠に、リサの言葉を合図に、一斉に乱れる事なく、両脇のテーブルから音が響く。
ドン!(一回目)
空のジョッキをテーブルに叩きつける音だ!
ドン!(二回目)
テーブルの天板は、厚い丈夫な木で出来ており、ジョッキに載せられた、屈強な男達の、その力任せな勢いをしっかりと受け止めている!
ドン!(三回目)
一糸乱れず、ジョッキは、同時にテーブルに叩きつけられる!
ドン!(四回目)
四回、連続して叩かれ、音は止んだ。
「エドワード、ジークフリード、シルフィード、クララ、レティーシア、ソフィア、チビ、ギルドの依頼を受け、成し遂げた、この七名に、ニーベルン西部辺境伯より報酬が与えられる!」
ドン!ドン!ドン!ドン!
リサの呼び掛けに、酒場が再び応えている。
「エドワード、偉業を成し遂げし者達を率いるものよ!」
ドン!ドン!ドン!ドン!
「報酬は、いかがする!」
ドン!
ジョッキを叩く音が一回だけ鳴り、静寂が場を支配する。
えっ!報酬って自由に使えないの?
エドワードを横目で見る。
「報酬は、全て、去りし者、集いし者、今日の為に、全て使う!」
え〜!
そんな勝手に、何を言い出すんだよ、エドワード!
この見栄っ張りの変態野郎!
当然、酒場からは、
ドン!ドン!ドン!ドン!
と言う音が響いた後、大歓声だ!
「さぁ、みんな、今日は、エドワード達の奢りよ!倒れるまで、飲んで頂戴!」
リサも、飲め飲めと音頭をとっている。
くそっ!
こいつら、タダ酒、目当てか!
「あと、此方の、ソフィアさんは、個人報酬、全て、このギルドの為に、使うそうよ!」
さらに、彼女が余計な事を言うので、
「凄えぞ、姉ちゃん!」
「こっちで、一緒に、飲もうぜ!」
「胸は小さいが、心はでかいな!」
と人気急上昇だ!
あと、最後の奴は、見つけ次第、丸焼きにして、つまみにしてやる!
「さぁ、こちらへどうぞ」
リサに誘われ、受付に近いテーブルに揃って腰掛けた。
「ねぇ、報酬、貰えないの?」
「そんな事ないわ、まぁ、あれね、大きな依頼を成功した時の、お祭りみたいなものよ、
どうせ使えきれないわ」
リサの返答に、良かったと頷いていると、
「ソフィアさんは無いわよ、攻略報酬も、個人報酬も、全て、このギルドでつかうわ」
意地悪な笑みを浮かべ、リサは挑発してきた。
「別に良いわよ、今までも、おかねは持ってないし……」
欲しいなら、欲しいだけくれてやる!
カネなんて、いつでも稼げる。
しばらくすると、エドワードは、席を立ち移動した。
そして、どうやら、初日に失礼な事を言った男達と話をしているようだ。
配られたジョッキに、口をつけ、酒を飲む。
酒が、身体の中で、熱く広がるのを感じた。
「あら?やっぱり気になるの?」
シルフィードの声が聞こえる。
「別に……」
上の空で返事しながら見るエドワード達は、何を話したのか、肩を叩き合い、仲が良さそうだ。
「素直じゃないと」
シルフィードが言うと、
「嫌われるわよ」
もう一人、シルフィードの隣のシルフィードが話した。
「きゃっ、シルフィードがふたり」
分身の術とはやってくれる……交互に、二人の指差しながら、
「きゃっ、さんにんめ!」
更に、彼女達は増えていく……
「この娘、もう、酔っ払ってる……」
心配そうな彼女の胸が大きいので、
「ちょっと揉ませなさいっ!」
彼女の胸に、手を伸ばす。
「ダメ!」
伸ばした手は、何者かに叩かれ勢い失った。
「ちょっと、邪魔しないでっ!」
誰だ叩いた奴は!
更に、腕は引っ張られ、手は、暖かく柔らかい場所にたどり着いた。
「ソフィア、私ので、我慢しなさいっ!」
どうやら、隣のレティーシアが犯人らしい。
「あら、レティーシアも酔っ払ってるの!」
素っ頓狂な、シルフィードの声が響く。
レティーシアの胸は、シルフィード程、大きくないが、弾力が若々しくて、癖になりそうだ。
「レティーシア、大好きっ」
彼女に抱きつき、甘い香りを嗅ぎながら、深い眠りについた。
◇◆◇◆◇◆◇
「おい! いい加減、起きろ!」
エドワードに、肩を揺さぶられ目を覚ます。
「いつまで、寝ている気だ!」
彼の声が、頭に刺さる……これが、二日酔い?そんなに、酒を飲んだっけ?
「出発するわよ」
シルフィードも声を掛けてくれた。
「レティーシア、おはよう!」
なぜか、レティーシアは、顔を赤くしながら、距離をとる。
「クララ……」
クララに至っては、凄い勢いだ!
確かに、レティーシアの胸は、揉んだ記憶があるが、クララには、何もしていない筈だ。
「何も、覚えてないのね」
シルフィードは、ジト目で、俺を見ている。
俺は、無実だ!
「さて、その話は、道中するとしよう」
ジークフリードが、糾弾すると宣言した。
くそっ!
ついに、決着をつける時がきたのか?
起き上がり、席を立ち、ギルドの出口の方へと歩きだす。
いつみても、重厚な扉だ。
その扉を引くと、外の景色が現れた。
今日も、快晴で、朝日が眩しい。
一歩、踏み出すと、その陽射しの中に入り、俺達の旅は、はじまった。
ご愛読、ありがとうございます。
第2章、終了です。
次話からは、第3章です。
応援よろしくお願いします。
もっと面白くなるように、頑張ります!




