第24話 決戦
騎士達は、訓練場での鍛錬に余念がなく、剣のぶつかり合うリズミカルな音を辺りに響かせていた。
しかし、こいつらが、まともに戦ってる所は見たことがない。なんか、あれだな、ガンバレ!
高い壁に囲まれた訓練場は、今、眼下に広がっており、俺達は、壁の上から訓練の様子を眺めている。
「おい、入り口は、あっちの階段だぞ」
うむ、エドワード、案内御苦労。でも、ここまで来て、階段はめんど臭いぞ。
よし、飛び降りるか、ひらりと塀の上に立つ。
銀髪が風に流され少し乱れた。
足元を遮る物が無くなり、スカートの中が換気される。身体が解放感に包まれ、なんか、気持ち良く、笑みがこぼれる。髪を指でいじり、耳にかける、冷んやりとし、ピョコとそこが動いたのを感じた。
「私に、階段はいらないわ」
「分かったからよせ!」
なんだよ、俺は、空を飛べるんだぜ、心配し過ぎなんだよエドワードは。
おっと、
「きゃっ!」
突風が吹き上がり、バランスを少し崩す。スカートがめくれた。
俺も、まだ未熟者だ、こんなだから、アンジェラ達に遅れをとってしまう。
「別に、大丈夫よ、私は空を飛べるのよ」
って、あれ? エドワード、目をそらし顔を赤くしてないか……。まさか、こいつっ!
ヒュー、
又、風が吹くが、今度は、はためくスカートをしっかり抑え、ガードする。
しかし、この風、なんか、悪意に満ちてないか?
「いいから、早くおりろ!」
エドワードは、相変わらず、こっちを見ない。
こいつう……、口を尖らせジロッと睨む、
「見たでしょ?」
ぱんつ!
「そんなもの、見てない、早く降りろ!」
くっそ〜、こいつ、ギルティだ!
有罪だ、死ね!
「私のパンツ見たんでしょ、エドワードのバーカ、死んじゃえ!」
相変わらず、言語補正はポンコツだ。
あ〜っ、もお、めんどくせぇ……。
えいっと訓練場に飛び降り、その瞬間を狙ったかのように、三度、悪意に満ちた風が強く吹き上がってくる。
負けるものかと、しっかりと両手でスカートを抑え無事に着地した。
そして、キッと上空を見上げる。
「お前のなんか、見るか!」
壁の上からエドワードの声が聞こえる。だが、しかし、あいつは、有罪だから、後で、たっぷり苛めてやる。覚悟しとけっ!
それにしても、訓練場は、意外に静か、もうちょい、活気があると思ったんだけと……。
「団長! バーナード団長!」
多分、一番偉い、バーナードの爺さんを見つけ、そばへとテケテケ駆けていく。
「ご主人、置いていかないでっ!」
あっ、チビが壁の上から飛び降りてくる。
あぁ、パンツ丸見えだぁ、と思ったら片手でしっかりとガードしている。意外な女子力の片鱗を見て感心した。
駄犬のパンツなんて、興味ないから、残念なんて思ってない。本当だからね!
我に返り、気がつくと、男どものため息が聞こえてきた……、やっぱり……、
お前ら、そんなだから、帝国に遅れを取るんだよ。
この、ロリコン供!
「団長、訓練、もっと厳しくした方が良いですよ」
「こら! お前ら、もっと集中せんか!」
俺のジト目に、慌てて、バーナード爺さんは一喝を入れた。
「ソフィア殿、こんな所に、何の御用ですか?」
「セシリアに会いに来たのよ」
彼女から、あいつら、ユニコーンのユニ子達の様子を聞きたい。
「セシリアなら、あちらで訓練しておりますよ」
バーナード団長の指差す方向に、剣を打ち合い、訓練しているセシリアがいた。
団長に礼を述べ、セシリアの方へ……、
「ソフィ、遅いぞ!」
なんか、ジークフリードに似ている知らない男が偉そうだ。おまえ、あれか、女なら誰でも良いのか?
無礼者は無視して、
「セシリア、久し振りね」
「ソフィア様、何か、御用ですか?」
出会った時に背中から斬りつけてきた、セシリアは、相変わらず自己主張の強いけしからん胸を持っていた。ちなみに、その戦闘力はこうだ。
セシリア>チビ>レティーシア>俺>アンジェラ、ランキング外にクララ、クララは無いからな、おっぱい……。
「おい! 無視するな!」
誰だ、お前! やっぱり、胸は、大きい方が正義とか思ってるんだろ、ユニコーンと一緒で変態だな!
「ねぇ、セシリア、あの子達は、良い子にしてる?」
「ユニコーンの事ですか? そうですね……、ちゃんとしてますよ」
そうか、まぁ、あいつら、フェチだから、心配する事もないか……。
「おい!」
さっきから、やかましい男が肩を掴んできた。
「ジークフリード様、落ち着いて下さい!」
セシリアが失礼な男を制した。
ジークフリード、そういえば、そういう奴もいたな……、最後に見た背中は、城内だったか……。
「何処に行っていた、遅いぞ! ソフィ!」
「あなたが置いていったのよ」
てめぇ、案内するとか言って、置いていきやがって、エドワードを見習え!
あと、俺を呼び捨てにして、ハーレムメンバーに入れるな! 汚らわしい!
「え?」
ジークフリードの奴、しらを切るつもりか?
「ハイエルフの君が、この城で迷う筈は……」
「私が悪いっていうの!」
こいつ、往生際が悪いぞ!
「そうだぞ、ご主人は、迷子になって、あと少しで、泣くところだったんだぞ!」
頬を膨らませ抗議するチビの頭をゴンと叩く、余計なんだよ、それに、泣きそうになんかなってないぞ!
ウンウンと、頭を抑え、チビはぺたりと座りこんだ。ホントに前衛か、コイツ……。
「それは、申し訳ない、では、今日は……」
しゅんとしだしたジークフリードに、
「相手してあげるわ」
と言ってやる。
そう、コテンパンにしてやる! 容赦しねぇからな、覚悟しろ!
「セシリア、ちょっと離れて……、いえ、訓練場から出てなさいっ」
いきなりのことに、セシリアはキョトンとしている。
「だんちょ〜、今から、ジークフリードを殺るから、皆を外にだ〜、し〜、て〜!」
「ジークフリード様とやる? 手合わせか? おい、全員、壁の上に行け! そこから観戦しろ!」
バーナード爺さん、すまん、手合わせじゃない、一方的に殺らせてもらう。虐殺だ!
「セシリア、あなたも早く行って!」
「この娘は、大丈夫ですか?」
そういえば、セシリアは、チビとは、初対面か……。
「この娘は、私の従者だから大丈夫よ」
「従者! この娘が?!」
「ええ、だから早く行って」
セシリアは、壁の方へと駆けて行った。
「お手柔らかに頼むよ」
「ええ、本気でいくから、覚悟して下さいね」
ジークフリードの笑顔に、俺は満面の笑みで答えた。
「この訓練場、丈夫なのよね」
「ああ、この訓練場は、失われた技術で作られている。その上、精霊の加護もあるから、どんな力でも、ビクともしない」
「なら、いいわ」
訓練場から出た人まで、怪我させたくないからな。
「これを、使え!」
ジークフリードが剣を投げてきた、どうやら、彼と同じ訓練用の剣らしい。
殊勝なことだ……。
「剣はいらない……杖を使うわ」
ヘルメスの杖を取り出す。本気に剣はいらないのだ。
「君が良いなら、文句はない、準備は良いか」
お人好しな奴だ。いや、騙されるな、こいつは、女たらしだ。
「ちょっと、待って……」
アンジェラの件もある、あいつもチート持ちかもしれない……、対邪神と思って準備するベきだ。
まずは、身体強化、【ストレングス・ボディ】、【ハイ・ストレングス・ボディ】、【スーパー・ストレングス・ボディ】、思った通りだ、この世界のバフは、同種の重ね掛けが、加算方式でできる。
アンジェラのバフも、デバフも重ね掛けされて苦戦した。
これなら、俺は、素手で、邪神を倒せる戦闘力を得ることができるかもしれない。
「準備は良いか?」
引きつった笑顔で、邪神ジークフリードが問いかけてきた。
まだ、身体強化は、半分しか終わっていないが、俺の周りの地面には、ヒビが入り悲鳴を上げはじめている。
「まだよ、これじゃ、素手で、邪神は倒せないわ」
「邪神?!」
ふん、なんか、邪神が戸惑っているが関係ない、加算方式だ、ジャンジャンいくぜ!
【ウルトラ・ストレングス・ボディ】、【アルティメット……、
「きゃ!!」
空から降ってきた雷に撃たれ、身体が痺れ、強化を邪魔された。
邪魔するな!
「アルティ……、きゃ!」
また、雷に撃たれた。くっそ〜っ!
「アル……、きゃ!」
「いい加減にしなさい!」
邪神、いや、ジークフリードの上から女性の声が聞こえた。
「誰よ、邪魔しないで!」
「私は風の大精霊、シルフィードよ」
へぇ〜、あれが、結界に加護を与えている精霊というわけか……。
杖を掲げ魔力を込める、
「天地全てを束ねる……、きゃ!」
「い、今、何を、きゃっ!」
くそっ、詠唱のいる神話級は無理だったので、ヘルファイアを無詠唱でシルフィードに投げてやった。
死ね、ばかっ!
ズドーン、
お返しとばかりに、極大の雷撃が襲ってきた。かなり痺れたが、まだ、動ける。
髪の毛から、プスプスとやな音と焦げる匂いがするが、気にしてはいけない。
「ソフィア、大丈夫か?」
「あんたは、黙ってて!」
俺は、杖をシルフィードに向けた、ヘルメスの杖の羽が焦げている、何度も言うが、気にしてはいけない。
「エルフのくせに、私に逆らうなんて、信じられない」
シルフィードは腕組みをし、豊かな胸を見せびらかした。セシリアのトップの座が……。しかし、今は、それどころでは無い。おっぱいと戦闘力は関係無いと証明しなければならない。
そう大きさではなく、形と弾力のバランスが重要なのだ。
俺は間違いなく、誰にも負けない!
胸を張る、みずみずしい弾力をもった、形の良いおっぱいが服越しに自己主張する。
どうよっ!
「私は、火属性特化のエルフなのよ、だから、あなたには、負けないわ!」
ふん、確かに、ゲームでも、エルフは風特化した方が育てやすいが、俺は、火属性魔法が好きだから、火にしてるんだよ。
「エルフの扱う、火では私は倒せないわ」
巨乳だからって余裕の態度だ。
「私には、イフリートの加護があるのよ」
課金で得た銀髪には、エンチャント枠が一つある。
その枠に、エンチャントしているのがイフリートの加護だ。
これは、いろんな奴に批判された、銀髪なら水系だろうとか……、
そんなものは、関係ない、俺は、火属性魔法が好きなんだ……、
確かに、氷結系もカッコイイが、メテオとかの方が、派手だし……、しかも、イフリートなんて滅多に出ないんだぜ。
だから、良いじゃん……。
銀髪が赤い燐光を帯び、淡く輝く。
周囲の気温が上昇している。
それにつれ、身体が熱く活気づく。
「そう、あの、ろくでなしの加護を持っているのね……」
シルフィードは、余裕の表情を崩し、俺を睨んだ。
「あの〜、二人とも……」
「引っ込んでろ!!」
二人の女性から、怒鳴られ、ジークフリードは沈黙した。
「もう、後悔しても遅いわよ、エルフの小娘」
「私の邪魔は、許さないわ、風のおば様」
エルフの少女と、風の大精霊、シルフィードの決戦が幕を開けた。
一話でまとめるつもりが……




