第22話 迷路の中で
「ご主人、さっきから同じところを、ぐるぐると回ってない?」
「なによ、じゃ、あなたが先に行きなさいよ」
「やっぱり、迷ってるのっ! なら、僕に任せてっっ」
ふんふんと立派な胸を張り、チビが先頭を歩いていく。
城を散歩して迷いこんだ、この通路は、とても厄介だった。
それは、冷んやりとして、とても静かだが、出口には、たどり着く事が出来ない。どうしても、同じ場所に戻ってしまうのだ。
かなり長い時間、俺たちは石で作られた通路にコツーン、コツーンと足音だけを響かせていた。
「ご主人、疲れた……」
チビが音を上げ、床にぐてっと座り込んだ。
「迷っちゃったわね」
やれやれと、隣に座り髪を撫でてやる。
しばらく、ここで休むのも悪くない。
これは、あれだな、罠か、それしても、迂闊だったと少し反省し、後で、壊そうと心に決めた。真っ直ぐ、壊せば、多分、抜けられる筈だ。
コツーン、コツーン、
遠くから、足音がする。
俺たち以外にも、ここに、誰か来たのか?
コツーン、コツーン、
音は、迷いなく迫ってくる。
ヘルメスの杖を取り出し、一応、警戒をする。
「そんなとこで、何をしている?」
耳障りな声、エドワードだ、ちっ……。
「フラッシュ!」
杖の羽が大きく開き、そこから強い閃光が溢れ、走りだす。目くらましの呪文だ。
「き、貴様!」
エドワードは、苦悶の声をあげ、目を抑えている。
ざまぁ〜みろっ、
「いくわよ」
「いいの?」
「いいのよ」
チビの手を引き、その場を急いで離れた。
永遠に、ここで、彷徨うが良い、エドワード、さらばだ!
その時、俺は鼻歌と共に、スキップしていたかも知れない、それぐらい、スッキリした。
「あぁ、楽しかった」
「ご主人、ひどーい、友達にあんな事して良いの?」
友達? 相変わらず、甘い奴だ。
「あれは、いいのよっ」
そういえば、あいつ、エムだったけ……、悶える姿を思い出し、背筋がブルッと震えた。
コツーン、コツーン、
再び、音が動き出した。
コツーン、コツーン、
一定のリズムを刻み、追いかけてくる。
後ろを振り返るが、姿は見えない。
コツーン、コツーン、
音は前から……、
「貴様、さっきのは、何の、真似だ! 二度とするな!」
「きゃっ!」
エドワードは、前から現れた。振り返っていた俺は、完全に不意をつかれたが、
二度とするな、だと、これは、振りか?
彼を拒む形で杖を掲げた。
「だから、やめろと言っている!」
「きゃっ!」
決まりだ、奴も、望んでいる。この、エムめ!
「ハイフラッシュ!」
強烈な閃光が杖から飛び出し、荒れ狂う、見るもの全ての五感を奪う狂った光は、しばらく辺りを彷徨った。
「だから、それは、やめろと言っている、この馬鹿!」
くそ、こいつ、エムの癖に、目を瞑りやがった。
「なによ、馬鹿っ、いくわよ、チビ」
チビを連れ、反対方向に進む。
「出口が分かるのか?」
エドワードの声がする。
ふん、こちとら、RPGで鍛えてるんだ。今度は、心の中でマッピングをするから大丈夫なんだよ、多分……。
「おい、分かるのか?」
しつこい、男は嫌われるぞ!
「出口? ご主人は、迷ってるんだよ、察してよ!」
チビは彼の方にプルンと胸を揺らしクルッとスカートを広げ振り返る。
おいっ、チビ、てめぇ〜〜。
「ここに入るのが、見えたから、もしやと思ったが、この、田舎者め」
はぁ、見えただと、じゃぁ、すぐ来いよ。こっちは、結構な時間、迷ってるんだぜ!
「じゃぁ、直ぐに来なさいよ、馬鹿!」
「貴様、態度を改めろ!馬鹿!」
「い、や、よ、馬鹿!」
いーっとしながらべーと舌をだす。俺は、方向音痴じゃないんだからねっっ!
「二人とも、仲良しっっ!」
「勘違いするな! 馬鹿!」
声を揃え、二人でチビの頭にゲンコツを落とす。彼女は、頭を抱え座り込んだ。
「みんな、ひどい……」
おい、チビ、お前、前衛特化だろ? そんなザマで大丈夫か?
「こっちだ、馬鹿!」
エドワードは、腕を掴み、俺を引っ張る。
「私に触らないで……、馬鹿!」
いやっと腕を引き離す。
「す、すまん……」
エドワードは、謝罪した。そう、謝罪したのだ!
やった〜っ、勝った、俺は、この戦いに勝利したのだ。
「もう、早く、出口に案内してっ!」
「わかった、私に付いて来てくれ、ば……ソ、ソフィア……」
「いいわ、付いて行ってあげる」
さっきまでの勢いを無くしたエドワードは、先頭を黙々と歩いている。
コツーン、コツーン、
足音をお供に、俺たちは出口を目指した。




