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主人公物語  作者: でくすぎ こぼく
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やらせの始まり

 国王から(めい)を受け旅立ったのはほんの数日前。

 そのわずかな日々の間に起きた数々の苦難を乗り越えて、今俺は城へと戻ってきた。


 見覚えのある筈の城がいつもと違って見えるのは、墨汁が降り注ぎそうなほど黒く淀んだ空のせいではない。

 戦災孤児だった俺を引き取り、一端の戦士として育ててくれた国王。そんな恩人を殺しに、俺は今から城へと乗り込むのだ。

 旅立つ前と真逆となった立場が、勇壮な城を悪の巣窟へと変えてしまった。


「パトリック!」


 突如自分の名前を呼ばれ身構える。


「何故戻ってきた裏切り者!」


 声の主は門番の男だ。

 威厳のある声に傷だらけの顔、その中年男性を見て、俺は少したじろぐ。


「ブレントさん、黙って通してもらえませんか。」


 この人は、その武勇と忠誠心をかわれて、城の入り口を長年守ってきた武人であり、俺の剣の師匠でもある。


「わしは、この門の先に味方以外の者を通りした事は一度もない。お前が敵である以上、決して通す訳にはいかん。」


 こう言われる事は分かっていた。

 でも出来れば戦いたくない。

 この人が武の達人であるという理由以上に、俺はこの人を殺したくない。


「どうしても、通してくれませんか。」

「わしの性格は知っておるだろう。情などではわしは動かん。通りたければわしを殺していくことだ。それが出来ぬというのなら、去れ!」


『去れ』という言葉の裏に、俺と戦いたくないというブレントさんの想いが感じとられた。

 だが、俺もここで引き下がる訳にはいかない。


「そうか、去らぬというか。ならば、こい!」


 ブレントさんは持っていた槍を放り投げ、代わりに腰に下げていた剣を手に取り構えた。

 教えた剣で俺を越えてみろ、そう言っているようだ。


 覚悟を決め、俺も剣を構える。


 間合いをはかっているからか、それとも躊躇いがあるからなのか、お互い構えたまま動かない。

 不思議な緊張感が漂う中、目に飛び込んできたのは、風に飛ばされた台本を追っかけて目の前を走り去っていく武藤さんの姿だった。


副社長「ストーップ!何やってる武藤!」

武藤さん「わりぃ、急に風が吹いたもんだから。」

副社長「お前の出番はまだ先だ。今のうちにしっかり台本を読み込んでおけ。」

武藤さん「そんな事言われてもなぁ。」

オイラ「こんな事して何か意味あるの?」

副社長「当たり前だ。今部下に、歴史改竄レコーダーを持って来させている。」

武藤さん「なんつーレコーダーだよ。」

副社長「このレコーダーに、撮った動画を送って上書き保存すれば、それがこの世界の正史となるのだ。」

オイラ「なんつーレコーダーだよ。」

副社長「これを使って、このしょうもないクソギャグファンタジーを、勇気と絆と感動の物語へと変えてみせる!」

オイラ「無理だと思うなぁ。」

武藤さん「壮大なやらせだぜ。」

副社長「お前達は今私の部下だからな。指示には従ってもらうぞ。」

門番その1「我々門番は部外者なのですが…。」

副社長「門番の二人にはちゃんとギャラを払う。だから付き合ってくれ。」

門番その2「まーお金貰えるんなら良いっすよ。」


副社長「さあ、レコーダーが到着するまで稽古だ。」

オイラ「面倒くさいなー。」

副社長「主人公、お前は汚名を着せられた悲壮な戦士パトリックなんだぞ。その呆けた顔を引き締めて、もっと表情険しく演技をしろ。」

オイラ「むー、この円らな瞳がオイラの魅力なのにー。」

副社長「門番その1、お前はパトリックの師匠的な存在であるブレントを演じているんだ。もっと威厳をかもしだせ。」

門番その1「威厳ですか…。なんとか善処します。」

副社長「門番その2、お前のナレーションは雰囲気が出ていてなかなか良かったぞ。」

門番その2「あざっす。」

オイラ「あ、台詞以外の部分て、門番その2のナレーションだったのか。」

副社長「台本にそう書いてるだろ。」

オイラ「てっきりオイラの声だと思ってた。」

副社長「だからお前の心の声をナレーションしているんだ。」

オイラ「ややこしいー。」

副社長「よし、じゃあ最初からいくぞ。よーい、スタート!」



 国王から(めい)を受け旅立ったのはほんの数日前。

 そのわずかな日々の間に起きた数々の苦難を乗り越えて、今俺は城へと戻ってきた。


 見覚えのある筈の城がいつもと違って見えるのは、墨汁を塗りたくられた眼鏡を掛けているからではない。

 城がすっかりリフォームされているからだ。

 所々にあった段差はすっかりバリアフリーになっており、無機質だった城門には、可愛らしい猫を型どった表札が


副社長「ストーップ!突然どうしたナレーション!」

門番その2「いやー、褒められたもんでついついアドリブかましちゃいました。」

副社長「かますな!お前がちゃんとしないと物語が進まんだろーが、真面目にやれ!」

門番その2「すんませんっす。」

副社長「もう一度初めからだ!」



 国王である(めい)ちゃんは9歳の女の子。

 大好きな千切り沢庵をたらふく食べて、今日も元気に市民運動に勤しむよ。


副社長「おい。」

門番その2「てへっ。」

副社長「何が『てへっ』だ!ちょっと悪ふざけがすぎるな。次ちゃんとしなかったら大変な事になるぞ。」

門番その2「すんませんすんません、次はマジ真面目にやるっすから。」



 国王の球を受けていたキャッチャーの(めい)ちゃんは、大好きな千切り沢庵をたらふく食べていた甲斐あって、この試合3つ目の盗塁を阻止し、乱調気味の国王を助けていた。

 試合は1対0で9回を向かえる。

 初回に取られた1点があまりにも重い。

 最後の攻撃、この回一人でも塁に出れば命ちゃんまで打席が回る。

 命ちゃんは、味方で今日唯一ヒットを打っている。


 命ちゃんまで回せば…


 前を打つ三人は共通の認識を持っていた。

 だが、無情にも簡単にワンアウトを取られる。

 やはりこのままゲームセットとなってしまうのか。チーム内に諦めムードが漂う。

 そんな中、次のバッターであるジョナサンが気合いのフォアボールで塁に出た。

 そして次に打席に入ったのは4番のパトリック。今日は2三振で良いところが無い。

 対するピッチャーは、今日13奪三振を取りマウンドに仁王立ちしているブレントだ。

 パトリックにとって、ブレントは中学時代に同じチームで野球をしていた一つ歳上の先輩でもある。中学時代からブレントは別格だった。


 4番のパトリックに、ベンチから送りバントの指示はない。だが自分なんかがこの人の球を打ち返せるはずがない。

 併殺なら試合終了、そこで甲子園への夢は潰える。だが三振なら、次の命ちゃんまで回る。

 パトリックはバットを振るつもりはなかった。

 そして、そんな事もお見通しと、ブレントはど真ん中のストレートを2球続けて放り投げてきた。

 もし打ちにこられたとしても、ヒットにはされない自信があるのだろう。


 完全になめられていた。


 そして、同じフォーム、同じ表情、同じ球筋で三投目がブレントから放られた時、パトリックの中で何かが弾けた。


副社長「スーパーハイパー副社長サンダーボルトアタック!!」

門番その2「ぎゃあー!」

オイラ「門番その2が大変な事に!」

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