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花の残り香


クラウスは、ルイからの報告に焦っていた。広場に戻った後、捜索対象の位置情報が消失した、という。

ルイが得意で使っている捜索用の術式は、消費魔力も少なく便利で良く使用しているが、欠点があった。

対象が意識を失うなどすると効果が得られない。


『(どういうことだ!何か手掛かりは無いのか)』



焦っているのはルイも同じだが、遠方から探るのは限界がある。方法を思案するが、微弱なフィルの魔力の痕跡を辿ることは難しく、現地に赴く必要がある上、準備も必要だ。


彼は、駄目と分かりつつ広場一帯の索敵網で今一度、魔力の反応を探ってみた。



『(ん?)』

『(居たか⁉︎)』

『(いや、その広場から外に向かって誘引力というか、何かの力が働いている……?)』


直接結びつくかは分からないが、同時に発生している特異点に何らかの関係性があるのではないか。そう考え、無理は承知でクラウスに問いかける。


『(そこにある力場のようなものを感じられないか?導かれるようなそういう感覚だ。)』

『(……り、力場?何のことだ?)』


クラウスは魔力の感応力は、さほど高くない。言われる意味を捉えきれず、困惑する。


『(……そうだ、第3部隊のメンバーが警備に駆り出されてるんじゃないか?近くにいないか?)』

『(確かに、来てるだろうが、そちら経由で連絡つけられないか?それにお前の方で誘導できないのか?)』

『(正確に辿るのは難しい。痕跡も薄らいでいってるから、この距離では……、だが、やるしかないか……)』



連携予定がなかった為、隊同士の連絡ルートが確保されていない。少しの時間も惜しいと判断しルイは手がかりを得る為に意識を集中する。


「ドミニク隊長、第3部隊で巡回に駆り出されているメンバーを……」


ルイに希望を託すも、他に打つ手がないか、出来ることはしよう、と、口にしたところで、背後から声が掛かる。



「どうしたんじゃ、ドミニク隊長、クラウスまで。」

「お、お祖父様!」

「隊長と、クラウスまで出てきてるとは、何事だ?」



先ほどの子供たちとすれ違った際、近くに居る可能性は考えていたが、絶妙のタイミングで遭遇出来たことに驚く。


『(ルイっ‼︎)』

『(すまない、集中している。話しかけないでく)』

『(お祖父様と合流した!)』

『(……お、お祖父さ……⁉︎師匠か⁉︎)』


集中を途切らせたくない、ルイだったがこの場面での僥倖に感謝する。


『(そうだっ!)』

『(なぜ、いやっ、だが助かった。師匠なら感知できるはずだ。事情を話して、協力を仰いでくれ、痕跡が消えない内に!)』



クラウスは自分自身、状況を理解し切れてないものの、分かる範囲で掻い摘んで現状を祖父に告げた。


「お前が出てきてるから、フィリップ様か、と思ったが、やはりそうだったか。」

「ええ、何かの事件に巻き込まれたのだとしたら、一刻を争う事態かもしれません。」


老人は、少し考えた後、孫に向かって指示を出す。


「クラウス、この路を辿っても辿り着く先が、フィリップ様ではない事も、考えられる。その場合に備え術式を準備しておくよう、ルイに伝えるんだ。」

「し、承知しました。」


弟子への伝言を指示すると、老人は目を閉じ意識を集中させる。そして、静かに目を開くと徐に歩き出した。


彼は、目に見えない道標を辿りながら、人混みをかき分けながら歩いて行く。ドミニクもクラウスも事態が飲み込めないものの、迷いなく進む老人の背を追いかける。



「(お祖父様、引退したはずなのに凄い脚力だ。流石、宮廷の魔術師を束ねる魔術師団の元筆頭魔導師だ。)」


人混みを抜け、老人とは思えない軽快な走りに牽引され、クラウスたちは、順調な足取りで、誘引力の終着点を目指す。

各して、彼らはリリーを追って、現場に向かう事が出来たのであった。



辿り着く直前、彼らの目に入ったのは、ラインハルトの魔術によって舞い上がった花びらが空を舞っているところであった。


「あれは?」

「魔術によるものだ。誰が行使したのかはわからんが……」

「誰か交戦している?」


行く手に見えた魔術の行使の痕跡に一同に緊張が走る。少しずつ近づいて行くと、人ごみの中、誰かを取り押さえている騎士の姿が見える。



「あれは、ラインハルトか?」

「……3番隊の新人か?」


クラウスは、彼の得意な魔術が風系統であったこと、遠目から見える隊ごとに異なる騎士服をみてそうあたりをつけた。ドミニクも新人の中でも知名度が高い彼の名を知っていたようだ。




「フィリップ様っ!」




そして、更に近づくと、体を起こして地面に座っている見慣れた姿が確認できた。



「クラウスっ⁉︎……フィリップ様⁉︎」


ドミニク隊長の声に反応したのは、誘拐犯を取り押さえていたラインハルトだった。見知った顔を見つけて名を呼ぶが、耳にしたドミニクの呼びかけと彼の目線の先にいる少年を見て、二度驚く。



「あの少年、あ、いやあの方がフィリップ様⁉︎……ど、どういう事だ?」


ラインハルトは、男が抱えた荷物から子供が出てきた時は、驚いたが、彼が此方に背を向けていた事もあり、身なりや容姿まで確認できていなかった。見知った顔を見つけて、問いかける。



「いや、どういうって、此方も正確な情報は、把握できていないんだが、ご無事で良かった。」


クラウスは、動揺しすぎの同期の姿を見て、不思議と自分が落ち着きを取り戻すのを感じた。目的の人物の無事を目にして、ようやく生きた心地を取り戻すのであった。


------



「(やばいな。)」


いったい何が起こったのか、それを知りたかったのは、誘拐された本人も同じであった。そして、情報を共有し合う騎士達の話を聞くうちに誘拐されたという事実を理解する。いつの間にか広場から離れた所まで運ばれてきていた事と、その理由も分かった。


「(誘拐されるとは、想定していなかった。電光石火の救出で無事だったのは幸いだった……が……)」


そして、クラウスとラインハルトの会話を聞きながら、状況が段々と分かり、誘拐された本人は冷や汗が流れるのを止められなかった。


「(ルイから渡された魔導具くらいは、外出時は携帯しとかないとな、や、きっと、今後は強制的に持たされるだろうな……。)」


そんなことを、現実逃避気味に考えていたが、ふと先程まで側にいた人物の姿が見えないことに気づく。



「……リリー?」



姿を探して、勢いよく立ち上がり周囲を見渡すと、黄金色の髪が喫茶店がある曲がり角の向こうに隠れるのが目に止まった。淡い色の花が髪を飾っている。




「フィリップ様、どちらに‼︎?」



引き留める声を無視して、走り出した。シュネーを食べていた後、破裂音がしてからの記憶がない。心配げに覗き込んでいた少女の顔を思い出し、罪悪感で居た堪れない気持ちになる。

彼女の涙の意味をようやく知った。


「(泣かないで、じゃない。泣かせてしまったのは、俺のせいじゃないか。)」




一方、リリーは、急ぎ人混みのない路地へと急いでいた。色々あって思い至っていなかったが、間も無く、昼食の時間を告げにメイドがやってくる。精霊の食事マナーの標準的な習熟度相は知らないが、猫のように食事する自分の姿を想像して、汗が止まらない。


「(色々あって、結構時間経ってしまったけれど、シュバルツ大丈夫だったかしら……)」


連絡がついてからは、フィルのことで頭が一杯だったが、危機が回避されると、途端に色々と浮かんでくる不安が脳裏を占めていた。


「(無断で外出しちゃった。シュバルツがいたからバレてはいないだろうけど、お父様、お母様が知ったら……。)」



早く自宅へと戻りたかったが、人混みの中、突然姿を消すと、騒動になる可能性がある。

とすると、リリーが取れる手段は一つだ。手近な人目の少なそうな場所へと移動すれば、来た時のように、シュバルツが何とかしてくれると信じ移動する。



『シュバルツお願い、お家に帰らせて!』

『はーぃ、行くわよー、……おかえり』



帰還を望み、ぎゅっと目を閉じたリリーだったが、出迎えの言葉にそっと目を開けた。正面には、いつも通りの姿の艶やかな黒い毛並の彼女が、ちょこんと座っているのが目に入った。



「た、ただいま……」


コンコンッ


そして、昼食を告げるメイドが扉をノックするのは、そのすぐ後の事であった。




------



「(リリー)」


フィルはクラウス達の足音を背後に感じつつ、リリーを追って彼女の姿が見えた曲がり角へと向かった。


たが、その角を曲がると其処は行き止まりだった。細い抜け道も扉もない場所だ。それなのにリリーの姿は見当たらない。



「リリー……。」



見間違えだったのか、と目を疑った。彼女が曲がったと思った角は、次の角だったのか。否、角の喫茶店の看板は見間違えではない。この角で間違えないはず。

そう考えつつ進んだ先、足元に落ちているものに気づいた。


「これ……。」


そっと拾い上げたのは、淡い色の花弁一片。先の光景を思い返すが、確かにこの花を髪にさした彼女の姿が見えたのに何故、とそう考える。



「フィリップ様っ‼︎」



名を呼ばれて肩を掴まれても動けなかった。間違えではないという確信があるのに見失った影。それとも今日の出来事は、意識を失ってた間の夢だったのか……?どうしようもなくて、ただ、その場に立ち尽くすのであった。




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