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2つ目の詩 炎と自転車の国

No.81

3     炎と自転車の国

6     (私は電車が嫌いだ)

7     (私はおよそ、大勢の人々が乗物に乗るという行為が嫌いなのだ)

8     左に電車が着いた。

9     左側にも街灯が二つ在る。

10    それは、

11    今、

12    明々と点っている。

13    陽炎の様な、ぼんやりとした電車が在る。

14    (私は、人々と一緒にこの電車に乗った)

15    ゴトン、ゴトン。

16    草原。

17    なだらかに、下降している。坂道。

18    走りながら、大声を上げて、駆け下りて行く。

19    (頭に、色々な、電流が走り抜けて行く)

20    熱い。熱い。

21    家族たちが、ピクニックに来ていた。

22    (走り抜ける私)

23    誰も気が付かない、その先に何が在るかを。

24    とても、ひんやりと涼しい。

25    洞窟の中にあって、また、年配の女性ばかりが、

26    座ってお茶をしている。

27    (私は、ただ、その隣りを歩いて、通り抜けた)

28    彼女らは、ただ、談笑していた。

29    笑うだろう。

30    笑われた。何故か。

31    (私は、ぼんやり宙を見つめながら、裸で歩いているからだ)

32    そして、年配の女たちは、怒り出す。

33    「あいさつが無い」と言って。

34    ここは、明かりがなく、暗いのだ。

35    (私は、あいさつなどしない)

36    床は、デコボコしている。(土間を思い出す)

37    人間の苦悩に、頭を下げなかった者がいる。

38    人間の苦しみに、涙を流さなかった者がいる。

39    心の世界で、裸になれなかった者がいる。

40    約束の前で、跪かなかった、人々がいた。

41    唯一の言葉に寄り添う事。

42    誰にとっても、同時に起こる事。

43    洞窟の暗闇の中に、

44    四角い窓が開く。

45    窓からは、赤い空に、山々が見える。

46    (私は、帰らなくてはならない)

47    地獄の様な、本当の世界。

48    継ぎ接ぎだらけの、人物。

49    ぬいぐるみの様な、登場人物。

50    隣りで、ぶつぶつと呟いている。

51    「あの国で、また一人死んだ。

52    自転車を漕ぐ事を忘れるな。

53    体は、走らせる為にある。

54    休んではならない。

55    漕ぎ続けなければならない。葬り去ることの出来ない記憶は、引

56    き伸ばして、絡め取らなくてはならないからだ。

57    永遠へと続く、刑罰。

58    心を病み、体を病み、魂を蝕まれても、廻し続けなければなら

59    ない。

60    休まずに、追い駆け続けなくてはならない。

61    浸食し続ける、あの闇から、走りながら逃げなくてはならない」

62    理想があった。

63    (私は、人形の方を向く。が、それは、紐の付いた人形で、頭上

64    には、大きな手が見えた)

65    頭上から声が聞こえる。

66    「あの国へ行け。自転車を漕ぐのは、お前の新しい仕事だ。常に、

67    新しい」

68    小さな窓。向こうには火山が多数在って、噴火をする。

69    火を噴く。火山。

70    声は続く。

71    「この国の繁栄の為に。

72    漕ぎ続けなければならない。

73    継続は力なり。

74    続ける事が、繋がる事だ。

75    あの予定された世界へと。    

76    今日から明日、明日から明後日、そして、明々後日」

77    車輪は確かに回っている。

78    (私は、窓を閉めてしまった。とても熱かったのだ)

79    汚れた人形は、(私)を捕まえようとする。

80    その、骨の無い手で、必死に、あの国へと、押そうとする。

81    ただ、腕が折れ曲がり、

82    幾ら押しても、(私)の体は動かなかった。

83    (私は、人形の正面を向いた)

84    (このぬいぐるみ、きっとあの場所へは行けないのだ)

85    (私はぬいぐるみの腕を持つ。それはとても柔らかく、軽かった)

86    紐が切れて、ぬいぐるみは宙を舞う。

87    窓は開き、布と綿が燃える。   

88    呻き声、怒声、燃え上がる国。

89    この国は亡びる。

90    この国は、消滅する。

91    この国は、熔けていく。

92    この国に於ける、空想は、全て灰に成る。

93    何時までも、燃え続ける火が在って、

94    何時までも、消えない火が在って、

95    それはまるで、

96    地獄の様。

97    消えない火が、明々と燃え滾って、

98    火山は噴火し、溶岩は、流れ出している。

99    元より街など無く、

100   元より、作物など無く、

101   元より人間など無く、

102   元より、生命が育たない。

103   ただ、罰だけが在り、刑が執行されていくだけの国。

104   ただ、赦される事のみが無い。

105   「赦す」という言葉だけが無い。

106   体だけが在って、言葉が一つも無い。

107   道具だけが在って、人間は居ない。

108   炎の光だけが在って、夜は来ない。

109   呻き声だけが、反響して、心を揺さぶる。

110   苦しむ魂が在って、苦しませる声が在る。

111   一つの法が在って、一つの契約が在る。

112   怒りや憎しみ、が身体に漲り、明日へと運んで行く。

113   ただ、朝は来ない。何時まで経っても、時は来ない。

114   車輪だけが回り、ただ火を噴くだけの土地が在る。

115   熱だけが在り、焦がされる身体だけが在る。

116   別の世界にその地は在り、別の世界に天国は在る。

117   もしかしたら、約束の土地や楽園なんて、無いのかも。

118   火が在る。火だけが在り、燃やす物だけを欲している。

119   水は無く、からからに干乾びた、人々、

120   骨と皮だけに成り、自転車を漕ぎ続ける。

121   脱落するのは、その人間が罪を犯したからだ。

122   その様に声は語る。窓の外から。外の世界から。

123   洞窟には、何も無く。

124   ただ、あいさつをしないと、怒っている、年老いた女が幾人か。

125   (私は窓を閉め、鍵を掛けた。何重にも)

126   上の空で、元来た道を戻る。

127   (私は乗物が嫌いなのだった。人々が一緒の空間に居るから、嫌

128   いなのではなく。乗物という物自体が好きになれなかったのだ)

129   草原が在り、今度は上り坂を歩いて行く。

130   草の間に花々が咲き。様々な色を見せていた。

131   (ただ捨てた。もうあれらには乗るまい。

132   ただ、世界が在る。それだけだ)

133   (私は、電車に乗らずに、遠回りをすることに決めた)


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