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1つ目の詩 街灯と階段と柔和な犬 

No.80

3     街灯と階段と柔和な犬

6     ここは、石畳の広場。

7     青い青い夕暮れ。

8     幽霊の様な二つの街灯が点っている。

9     なめくじの様に、

10    石畳に筋を付けながら動いて行く。

11    犬が居る。人間の様な背格好をして。

12    犬は、ぼんやり光る街灯を、

13    座りながら、

14    (両足を開いて地べたに座っている。手は両足の間にだらりと、

15    垂れ下がっている)

16    二つの目で、それを追っている。だから、

17    二つの目は、それぞれに左と右で黒目が、離れているのだ。

18    青い青い夕暮れ、なので、白い光が射し、(何処から射しているか

19    わからない)

20    石畳と、二つの街灯と、

21    犬と、階段を、照らす。

22    それぞれに影が出来る。

23    犬は、(私)を見て柔和に微笑んでいる。

24    (今まで私が見た、誰よりも、優しく、また、子供の様な弱弱し

25    い笑顔だった)

26    彼の影は、彼とは違う。他の誰とも違う。

27    (何故なら、彼の影は、彼とは、違う形を成しているからだった。

28    それは、さながら、飛び掛ろうとする、邪悪な狼の様に、私には見

29    えた。動いていた)

30    「ずっと座ったままだった。ぼくはずっと待っていた」

31    と彼は言った。それが、また、とてもにこやかなのだった

32    「ここには、誰も来たことがない。こんなことは、初めてだろう。

33    ぼくは、もっと目的のはっきりした人物が来ると思っていたよ」

34    と彼は言った。彼は白く短い毛皮に覆われていた。光が当たって

35    とても美しく見えた。

36    (彼は、私の感じたことを察したのか、首を振った。そうではな

37    い、と言いたい様だった)

38    「もともと、一つだったんだよ。君とぼくは。もともと一つだっ

39    たんだよ。この街灯も、そして、このぼくと、この影も」

40    (私は、彼と話がしたくて、しょうがなかった。だけど、彼は、

41    私の話を聞きたがらないだろうと、私は思ってしまって、止めるこ

42    とにしたのだ)

43    「ぼくの後ろに、階段が見えるだろう?あの、長い、とても長い階

44    段がさ」

45    犬の真後ろに階段は在り、白い光が当たり、影が出来ていた。

46    すべすべした石造りの階段。

47    「数ではない。又、世界でもない」

48    (ここは、私が感じる、虚無の世界そのものだ)

49    階段は果てしなく続き、上方は霞んで、光も当たらず暗闇の中に消

50    えていた。

51    「ぼくは君を連れて、一緒にこの階段を昇りたいんだ。どうだろう。

52    一緒に行くかい?」

53    彼は、左右に離れて行く街灯を見ながら、

54    (私)に向かって言っていた。

55    (私は中心に居る。私は在る。しかも、しかもだ)

56    真夜中の二時過ぎ。

57    雲が移動し始め、光が弱くなっていった。

58    夜空は、

59    雨雲だけに成る。

60    今にも、

61    雨が降り出しそうな、空気。

62    今にも、

63    何かが溶け出しそうな、雰囲気。

64    風が吹き、何かが周囲を漂い出す。

65    白い犬が、青いだけに成る。

66    「ぼくは、悪魔の役割も出来た。ぼくは、ぼくの眷属を連れて、

67    この白い階段を、ぴかぴかの階段を昇って行く。どうだい。君も一

68    緒に」

69    (私は、何か言わなければと、

70     「ぼくは、女の子を探しに来たんだ」と言った。

71     もちろん、ここには居ないだろうと思ってはいたんだ!)

72    「ぼくは人間たちに、嫌われていたのかな」

73    彼は寂しそうにしていた。

74    「君がこの門を開けたんだ」

75    彼はやはり、寂しかったのだ。ほら、

76    今もまだ、あの時の、遠吠えが聞こえて来る。

77    彼の影もまた、寂しそうであった。

78    数多の人間を引き裂き、殺し、食べた、あの凶暴な猛獣であって

79    も、また寂しいのだ。

80    「今まで、こんなに目的の違う人物が来たことはなかった」

81    一つの物は、今二つに離れている。

82    「君みたいに、ただ、遣って来たという事は、ぼくみたいな存在

83    には、」

84    何も言いたくない様だった。彼は、口を噤んだ。

85    暖かい風が、左から吹いてくる。

86    「ぼくは何故、ぼくなのだろう。

87    犬であるぼく。また、待たされ続けていた。

88    笑みを浮かべざるをえないぼく。

89    そして、変わる状況を見続けなければならないぼく。

90    離れて行く光を見張り続けなければならないぼく。

91    攻撃的な影。

92    何時も、血に飢えている影。

93    暗い所に潜み、あなたがたを食らう動物」

94

95    (私は後ろを振り返る)

96    (後ろにも、同様に、二つの幽霊の様な街灯が在って、小さな燈

97    が点っている。動いてはいない)

98    犬は、右手を上げ、力無く振り下ろす。

99    すると、

100   彼と(私)の目前に、

101   女の子の映像が現れた。

102   女の人、娘、女性、女。裸の女。

103   幻の女。

104   具体性、また飾りの無い女性。

105   生きている。生の女。

106   幻、幻覚、幻影。

107   彼は、力が衰えて来ている様で、息苦しそうに、喘いでいた。

108   (これは、魔法というものだろうか?)

109   彼は、(長いと思われる)詩をその場で口ずさんだ。

110   (無表情に成った彼は、もう、街灯を見てはいなかった)

111   「繋ぎ目の無い容器の中、様々に揺れる生命が在る。

112   長く短い、時の中、様々に試す出来事が在る。

113   閉じこもった、容器の中で、煮えたぎって、ぶつかり合う、異

114   形の生命たちが在る。

115   ぼくだけが知っている、地獄が在る。ぼくだけが知っている、

116   天国が在る。ぼくだけが行ける、楽園が在る。

117   ぼくだけが住めた、国が在った。

118   ぼくだけが所有出来た建物が在り、ぼくの名を冠した土地が在

119   った。

120   数多の軍勢を率い、勇猛果敢な、我が眷属たちと共に戦い、私

121   は、私の国を、建国した。

122   私の精神は、この土地の隅々を覆い尽くし、私はこの大地の主

123   として、王と成った。この繋ぎ目の無い容器の中で。

124   今、この今が何より新しい。

125   今、この瞬間が、誰も見たことの無い土地。

126   今、この場所こそが、永遠の国へ続く道。

127   今、この道だけが、我々の最後に至る「一」と成った。

128   そして、

129   私は来た。

130   この容器を背負い、

131   全てを請け負って、

132   そして、また、

133   あなたがたを、試す為に」



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