悪い女ね…【ズルい人ね…完結編】
※ズルい人ね…の続きです。
先にズルい人ね…を読んで頂けると、内容的に解りやすいと思います。
「ママァ 海って、なぁに?」
「海…? 海ってねぇ…。」
貴方との思い出を、あの海に流してから
もう三年の月日が経とうとしてるのね…。
ひまわりも、もうすぐ二歳になるわ。
私、
貴方の子供を産んだの…。
貴方の子供だけど、
貴方の子供じゃ無いの…。
海の見えないこの街で、
妊娠を知った時、
何度も、中絶しようと考えたわ…。
貴方の子供って思ったら出来なかった…。
与えられた命の尊さを考えたら、中絶なんて出来なかった…。
一人で、育てて行くつもりだったわ…。
でも、それは
女の浅はかな考えだった…。
一人よがりの 強がりだった…。
小さな部屋で、何とか暮らしていたけど、
どうしたらいいか、わからなかったわ…。
先の見えない不安だらけの毎日だった…。
自分の心さえ、何処に在るのか判らない毎日だった…。
橋の上から、ただ、ぼんやりと流れる川を、眺める日々が続いたわ…。
いっそ此処から飛び下りてしまおうと、
何度も、何度も、思ったわ…。
そんな時
事故で、奥さんと幼い子供を亡くしたあの人に、 出逢ったの。
途方に暮れる私に、
あの人は、優しく声を掛けてくれたわ。
どうにもならないって 解ってたけど 、
誰かに聞いて欲しかった…。
聞いて貰うことで、不安から、少しでも逃げたかったの…。
あの人に会って、話を聞いてもらう事が、何よりの救いになっていた…。
でも、
心の何処かで、忘れたはずの貴方の事を
思い出していたの…。
忘れようとすればするほど、
貴方の事を思い出してしまうの…。
私、
弱い女ね…。
出逢ってから三ヶ月後にあの人は、言ってくれたの。
全てを打ち明けた私に、
言ってくれたの。
オレと一緒に、暮らさないか、
オレと家族にならないか って…。
……亡くなった奥さんと、子供の代わりなのね…。
あの時は、そんなふうに、感じてた…。
でも、
お腹の、この子の事を考えたら、
頷くことしか出来なかったわ…。
あの人の事は、好きだけど
愛してはいなかった…。
臨月が、近づくにつれ、
あの人に、優しくされる度に、
あの人が、貴方だったら…。
そんなふうに、何度も思ってたわ…。
目の前に居るあの人に、貴方の面影を重ねていたの…。
私、
悪い女ね…。
やがて臨月を迎え、
この子が、産まれた時に、
あの人は言ったの。
私の瞳を、見て言ったの。
オレが、守るから、
キミと オレ達の子を、必ず守るから、
必ず、幸せにするからって。
嬉しかったわ。
嬉しくて、
嬉しくて、
溢れ出す涙が、止まらかった。
あの人に愛されてるって、感じたの。
私、
弱くて、悪い女だけど
幸せになっても良いのよね…。
この子と 幸せになりたいの…。
あの人に、愛されながら生きたいの…。
心から、そう思ったわ。
今は、決して豊かな生活じゃ無いけれど、
三人で穏やかな日々を、送ってるわ。
成長するひまわりの、笑顔を見ると
この子の為に、強くなろうって思うの。
母親になった幸せを感じるの。
あの人と ひまわりが、笑いながら、遊んでるのを見ると
家族の幸せを感じるの。
私、
今、とても幸せよ。
だって
もう、
独りじゃ無いんだもの。
愛する家族が居るんだもの。
人に愛される意味を知ったわ。
人を愛する意味が、解ったわ。
明日、
あの人と、ひまわりと、三人で、
あの灯台のある防波堤に、向かいます。
そして、
この子に、教えてあげるの。
ずっと前にママは、ここから 一人で海を見たのよ。
でも今は、
世界中で一番好きなパパと、
世界中で、一番大切なひまわりと一緒に見れて、幸せよ って。
貴方との思い出を流した悲しい海だったけど、
明日からは、
三人で一緒に見た
思い出の海に変えるわ。
私、
もう、雨に濡れたりしない。
もう泣いたりしない。
あの人の愛に包まれながら、
あの人と、ひまわりと、やがて生まれるお腹の子と、
家族みんなで
手を繋いで、歩いて行くわ。
顔を、上げて
歩いて行くわ。
微笑みながら、
生きて行くわ。
真夏の太陽に向かって、
咲き誇る向日葵のように。
ズルい人ね…を読んで頂けると、内容的にわかりやすいと思います。




