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悪堕ち魔法少女になってみた  作者: ナイアル


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第十五話:馬脚を露す

 案の定、校舎一斉点検工事のためと言うことで一週間ほど臨時休校になった。

 自宅学習だのおとなしくしてろだの、各方面からいろいろ言われたけど、素直に聞くあたしじゃない。

 結果。

「快適快適」

 巨大なベッドでゴロゴロと。

 ふかふかのマットレスにおぼれそうなくらい埋まる感触は、そうそう体験できない心地よさ。

「ま、こんな時でもないとなっかなかねえ」

 ベッドサイドのテーブルに置かれたドリンクのストローをくわえて一口。

 旅行へ行くと称して戦艦の居室に丸一週間引きこもるという、実にインドアな休暇の過ごし方を選択したわけだ。

 ヒナギクも来たがってたけど、さすがにあれやこれやで外出禁止を申し渡されてしまい、哀れ籠の鳥に。

 あそこのセキュリティなら光の聖霊といえどそうそう突破できないだろうし、下手に動き回られるよりは一応安全だろうけど。ブラックデイジーも潜り込ませてはいるしね。


「もう少し行儀よくはできんのか」

「……ノックもなしにレディの寝室に押し入ってくる奴に、行儀を云々されたくないんだけど」

 戸口に寄りかかって疲れた顔してんのはバカ皇子。

 ドリンクを飲むのに上半身を起こした体勢からジロリと睨んでやったら、肩をすくめて流された。

「一応ノックはしたぞ?お前は奇声を上げてて聞こえていなかったようだが」

「聞こえてなかったなら無効でしょーに」

 風呂から上がってベッドに飛び込んだあたりから一通りの奇態を丸々見られていたことに思い至って頬が熱くなる。

 風呂上がりにきちんと部屋着を着込んでてよかった……これで下着とかバスタオル一枚とかで歩き回ってるとこだったらと思うと。

「危うく主君殺しの汚名をかぶるところだったわ」

「……なんだその物騒きわまりない安堵の内容は」

「バカ皇子は命の恩人のメイドさんに感謝しないといけないって話よ」

 彼女がいるせいでだらしないかっこができないと言うか……使用人だクローンだって言われても、そうそう無視できないあたり、あたしゃまだまだ庶民だと実感する。

「招き入れたのもそのメイドなんだがな」

「くうっ、そんなところにも反逆の魔手が!?」

 いやまあ冗談だけど。

 なんと対応すべきか迷ったらしいメイドさんの、困ったような笑顔がかわいらしかったのでよしとする。



「例のクローンの解析結果が出た」

 バカ皇子の投げてきたデータシートを、顔にぶち当たる寸前でキャッチ。完全にぶつける気で来たわね。

 

 クローンの遺伝子は、塩基配列のパターンだとか余剰箇所に埋め込まれたコードだとかの情報から、製造元や製造番号、物によっては所有者まで特定できるようになっている。

 犯罪に使われたら所有者責任だし、当然といえば当然の仕様。

 ではあるんだけど――

「――十年前に倒産した会社の、最新ロットが二か月前のロールアウト、ねえ」

「ナニータイプのクローンサーバントだが……型遅れにも程があるな」

「いやいや、なんでナニー――子守用のクローンが戦闘してるのか」

「子守のためにクローンサーバントを注文できるような家と、その子供に降りかかる最大の危険のことを考えれば自明だろう」

「そりゃそうか」

 金持ちの子供、イコール、誘拐・暗殺・脅迫の格好の標的。

 ヒナギクの巻き添えでさんざかひどい目に遭った我が身の過去を思えば、いやというほど理解はできた。

 敵方に乳母が抱き込まれるなんて状況も考えるに、「決して裏切らない」子守に護衛も任せられれば、これほど心強いこともないわよね。


「加えてその製造元もいろいろ問題がありそうだぞ」

「いや、そりゃ十年前に潰れた会社なんて妙な話だけど……って、これ、ドランたちと同じとこか」

 なんだ、潰れてたのか。

 まーあんなろくでなしのエセぬいぐるみ作ってる会社じゃ先は長くないだろーとは思ったけど、これじゃ返品もできやしない。

「まあそれも問題なんだが、その先を読め」

「……なんで子守道具専門店の倒産に情報部が絡んでるのよ」

 グルバスじーさまの怪しげな情報網からの特記事項として書かれてたそれ。

 マテリアルパペットやユカリのベースになったクローンナニーを作ってた会社の倒産騒動の背後で、情報部が動いていた形跡がある、と。

 あれか、いわゆる一つの情報部の隠れ蓑、地球でいうところの「ラングレー産」とかそーゆーやつか。

「わからん。……この場合、『わからん』というのも十分な情報だと思うが」

「……秘匿レベルが半端ない、と」

 情報部にしろ、それに目をつけられるような胡散臭い連中にしろ、「子供のそばに置くもの」に手を付けるってのは、さっきも言ったとおりに良い着眼点。

 子供のころから英才教育という名の洗脳するもよし、親だって子供の前ではついつい油断するし。

 知らぬ間に弱点をがっつり握られてたなんてバレたら大騒ぎどころじゃすまない混乱が起こったことは間違いないので、なんであれかなり上のほうの判断で隠匿されてても不思議はない。

「まーそりゃわかるんだけどね。追っかける側に回るとなると、迷惑極まりないわ」

「一応裏表両方から情報提供と協力の打診は働きかけているが……」

「島流しの皇子様にどこまで手を貸してくれるかっていうと」

「……わが身の無力さを痛感するな」

 バカ皇子が盛大にため息をつく、けどまあそれはこいつのせいってわけじゃないし、仕方ないわよね。

 ……慰めてなんかやらんけど。


「こっちの警察の知人曰く、手口が実にカルトっぽいってんだけど」

「……その可能性は否定できんが、それも該当が多すぎてな」

「宗教的に光が正義で闇が悪ってのは、どこもそんな変わらないか」

「知的生命体の本能のようなものかも知れんな。皇族が闇の魔力を受け継ぐ関係で表だって糾弾するということは少ないが……」


 宗教宗派は多々あれど、高祖ローザックが帝国を興した時、主流派の宗教はほとんど「闇」を認めなかった。

 一方で「闇」を正義とすり寄ってくる宗教は邪教邪宗を標榜する胡散臭い連中ばかり。

 おかげで皇族は代々宗教そのものについて懐疑的で、むしろ政教分離が進んで健全化したというから世の中皮肉なもんである。

「帝国側から宗教弾圧とかはないの?」

「宗教も文化の一つだろう。個々人の思想信条について強制すべきではない……テロなど起こした場合は別だが」

「……いや、現に抵抗運動を受けてるわけで」

「それもそうか……いや、表向きそうした『反乱』は、ここ百年ほど確認されていないと言いたかった……の、だが……」

 何やら気づいたらしく口ごもり、考え込みだす。

 バカ皇子バカ皇子とさんざん貶してるけど、本当にすっからかんのアホってわけじゃない。

 まーちょっとめぐりが悪くてデリカシーのかけらもないけど、仕事はこなすし。

 そーゆーとこは評価するのにやぶさかじゃない、こともない、こともない。

「百年、ねえ。うちの国じゃ、弾圧された宗教が数百年地下に潜って活動続けてたって記録があるんだけど」

 そしてそいつは奇妙にねじくれ変質し、先鋭化した。

 下手に弾圧して地下に潜るほど、その実態をとらえにくく厄介になっちゃうのは世の理。

 かえって表にさらけ出して適度に手綱を握ってるほうが安全なのだ。

「そうした者たちが地下組織として健在、と考えるべきなのか」

「最悪、表の宗教組織から何かしらの支援を受けてても驚かないけど」

 奴らにしてみりゃ神の敵が延々国のトップを握ってる上、国政に絡めないがために利権も延々取り逃してるんだ。

 ひっくり返してくれそうな地下組織には喜んで手を貸すだろう。

「そうなると……やれやれ、奴らには『協力』を要請すべきか」

「なにがしかの利権は匂わせた上で、ね」

 一応は清廉潔白な連中に強制捜査の手なんぞ入れたら、痛かろうが痛くなかろうが腹を探られた連中が表立っての抗議に出てくることは間違いなく、信徒への影響を考えたらうまくない。

 ここは、裏とのつながりを知っていると仄めかしつつも餌を与えて、「とかげのしっぽ」を切る方向に仕向けた方が簡単だろう。

 ……ま、島流しされてる皇子がどこまでやれるかとか、そんな姑息な手を使ってもどーせすぐ裏組織は再建されちゃうだろうとか、そーゆーことはわかっちゃいるけど。

「とりあえず、こっちにちょっかいかけてる連中の頭さえ抑えられればいーわけだし」

「……国家百年の宿痾をそんなあっさりと」

「根絶治療は『帝国』の役目。あたしらとしては邪魔にならない程度に引いてくれればそれで良し。勝利条件を見誤っちゃだめよ?」

 当たり前の話をしただけなのに、なんでがっくりされないといけないのか。 


 

「……で、お前は何を落ち込んでいるんだ」

「落ち込んでる?あたしが?」

 ベッドにうつぶせで資料をめくるあたしにかけられた、バカ皇子の言葉に目を丸くする。

「三度の飯より陰謀が好きなお前が突然一週間休むなどと言い出したかと思えば、家に引きこもるでもなくこんなところでグダグダしていれば、俺……だけじゃなくみんな心配にもなろう」

 上体をよじって目を向ければ、なぜかすねたようなバカ皇子。

 普段のあたしに対する評価については非常に物申したいところではあるんだけど、その気遣いは感謝しないとね。あくまで「みんな」の、だけど。

「……そうか、落ち込んでたか」

「なんだ、自覚なかったのか?」

 からかうような声。

 自覚……うーん、自覚かあ。

 ねじった体勢を戻す勢いを使って、ごろごろぼすんと一回転半。

「『敵に見つかったら一撃与えて逃走』『捕獲されたら機密保護優先』」

「……潜入兵の心得か?」

 腕を交差して額の上にかざす。照明がちょっとまぶしいだけ。表情を隠したいわけじゃない。

「基本行動よね、周辺の状況にもよるけど」

「……衆人環視の中でやるべきではないな」

 あたしが何を言いたいかわかったらしいバカ皇子の声に、苦いものが混じる。

「最初の『襲撃』でうっかりヒナギクが大怪我しちゃったもんだから、あれが『逃走のための手段』という可能性に気付かなかったのよね」

 敵に見つかったとき、そのまま逃げても追いつかれる可能性が高い。

 けれど、一人にでも怪我をさせれば、その対処のために追手が止まる。最悪、威嚇射撃にでもなればよし。

「そして二度目、あれはやっぱり一撃加えてから逃走するつもりだった……朝の教室という目撃者だらけの最悪な状況にも関わらず」

「ナニーに無理やり潜入などさせるように命じたから、処理野に負担でもかかっていたのか?いや、それにしてももう少し融通が……」

「……利かなかったのよ。光の聖霊が、自律判断を禁止してたから」

 最初の『襲撃』と二度目の『襲撃』の共通点。

 ――どちらも、通信阻害の結界内部だった。

「あの時もなんか妙なことつぶやいてたし……おそらく、トラブルが発生した場合は通信して判断を仰ぐよう指示されていたのね。それが、通信阻害結界のせいでできなかった」

「……だから、『その場に最適な行動』ではなく、最初に指定された『行動指針』通りに動いた?」

 バカ皇子の言葉に頷くだけで答える。

 変身されると厄介だからと設置した結界が完全に裏目に出た恰好だ。

 結果、ヒナギクは大怪我してユカリは爆死。

 これは完全にあたしの読み違いから起こった被害と言っていいだろう。


「たぶん、だけどね。あたしやヒナギクだけじゃなくて、ドランまでが寝返ったのがあっちにとってかなり痛手だったのよ」

 原住民の小娘にすら裏をかかれ、挙句の果てには配下のはずの準知性体まであっさり転向。

 拮抗を崩された戦力の補充はしないとダメでも、もはや手元に信頼できる手駒がいない。

「苦肉の策が、自立判断を切ったクローンサーバントってわけ」

「……反吐が出るな」

 本当に不快そうに吐き捨てる。ここまで機嫌が悪いバカ皇子ってのも初めて見る気がする。

「あんたが、クローンなんかのためにそこまで怒るなんてね」

 帝国の人間にとってクローンは所詮道具だ。

 こっちだってクローン兵は結構使いつぶしてるわけだし、これで怒るのは筋違いだと思う。

「自分の人望が無いからって、道具の無茶な使い方をするなど……」

「そこなんかい、ってゆーか、それじゃまるであんたに人望があるみたいじゃない」

「いやおいちょっと待て、それはむしろ俺に人望がないと言うつもりか」

「え?」

「おいこら百合子」

「……冗談よ」

 あっかんべ、と。

 しかし、むかつくことにこいつに人望があるのは本当なのだ、むかつくことに。

 信じがたいけど、将軍もじーさんもバカ皇子に心酔してるし、なんだかんだと人を見る目が厳しいヒナギクさえも、あたしの「彼氏」などと冗談を口にできる程度にはこいつのことを信頼してる。信じがたいけど。

 今だってこうして「落ち込んでる部下」の様子を見にわざわざ出向くなど、実に上司として出来たやつである、納得いかないが。

 うん、まったくもって納得がいかない。

「……なぜ俺のほうが睨まれなければならんのだ」

「あんたの人望とかいうやつのおかげじゃないかしら?」

「お前は……いや、いい、わかった。で、ユカリとやらを助けられなかったのがそんなに心残りか」

 言外にお前らしくもないと言われた気がするので、あとで殴る。

 ほんと、あんたたちはあたしをなんだと思っているのかと。

「本当に、ムカつくのよね。せっかくいろいろ罠を張ってたっていうのに」

「うん……?いやちょっと待て」

「拉致監禁も三度目ともなると新味が薄いからいろいろ趣向に凝ってみようとか、できれば光の聖霊の後ろ暗いとこをショーコに見せつけて揺さぶってやろうとか、あれこれと企画してたってのに、出合頭に自爆特攻して終了って、そりゃもう許しがたいわよ」

 例えるなら、せっせと落とし穴掘ってる横で、掘り出した土に自らダイブして死亡されちゃったような達成感のなさ。

 これをムカつくといわずして何を怒れというのか。

「まったく……そういうことにしたいなら、しておいてやるが」

「……見透かすなっつってんでしょーが」

「見透かされるようなことをするな、と言っているだろうが」

 頭をくしゃっと撫でられる。

 意外にがっしりとした手指の感触が、妙にほっとする。

 ああもう、照明がまぶしいなあ!これじゃバカ皇子の手をふりほどけないじゃない!

「お前の作戦だとしても、その実行を許可しているのは俺だ」

「わーってるわよ」

 顔を押さえつけてる腕がじっとりと濡れてる。汗か。またお風呂入るか。

「わかっとらんだろうが」

 ぺしっと頭をはたかれた。なにすんだ。

「失敗の責任も俺にある……というとお前はまたへそを曲げそうだな」

 くくっと喉の奥で笑う声が聞こえた。

 言い返したいけど……うん、ちょっとのどの調子が悪くてしゃべるのが億劫なのよ。

「まああれだ、責任は半々だ」

「……七:三くらいまで負けとけ」

 ほらやっぱり、あたしの声は妙に濁って湿ってつっかえた。

「ふん、せいぜい六:四、だな」

 最後にひと撫でして、バカ皇子の気配はあたしのベッドサイドから離れた。

 ごろりと反転。

「うー」

 顔を枕に押し付けてぐりぐり。この枕湿気てる……寝汗かしら。



「少しは立ち直ったか?」

 テラス腰かけ、わざとらしく外――といっても模造庭園なのだけど――を見ているバカ皇子は、逆光で表情が伺えない。

「ん……感謝はしないわよ」

 目元にドリンクのグラスを当てる……ひんやりして気持ちがいい。

「そこは素直に感謝してもいいと思うんだが」

「あたしがそんな殊勝なタマかと」

「自分で言うな」

 あきれ半分、親しみ半分の笑い声。いやそこは否定してくれと思うのは、甘えだろうか。

「まあ仕方ないから勿体ないけどやむを得ないし感謝してやろう」

「……調子が戻ったようで何よりだな!」

 肩を怒らせずかずかと歩み去るバカ皇子に、小さく感謝の言葉を。

「ありがとう……シャキール」

 戸口に差し掛かってた皇子がぴたりと急停止。

「おい、今……」

「聞き取れなかったとしても、もー二度と言わんし」

 ごろりと寝返ってしっしっと手だけで追い払う。

 頬が熱いし。自分でもどんな表情してんだかわからないし。見せられるか。

「……休息は将兵の権利でもあるし、義務でもある。ゆっくり寝ていろ」

「……ん」



「ああそうだ、一つだけ早めに確認しておきたいことがあったんだ」

 メイドさんにドアを開けてもらってた皇子の背中に声をかける。

 さすがに応接室の向こうからじゃ顔色や表情なんかわかんないだろうし、大丈夫。

「……なんだ?」

「あのさ……洗脳って可逆?……と、つまり、一度洗脳された人間を元に戻せるかってことなんだけど」

 まだ若干ぼやけてた視界の中、遠くにいるはずの皇子の顔が、それでもわかるほどに苦々しげに歪んだ。


雛菊「ニヤニヤ」

百合子「……一生の不覚!」

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