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悪堕ち魔法少女になってみた  作者: ナイアル


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第十四話:日乃輪紫暁に散る


 抜けるような青空、電線で鳴き交わすスズメ。

「んー、のどかのどか」

「……あまり長閑とは言いがたい状況だと思いますけど」

 大きく伸びをしたあたしに、ヒナギクが呆れた顔を見せる。

「いちおー要人警護レベルで展開してんだから、そうそう仕掛けてこないって」

 通学路周辺の狙撃ポイントには警備を配置、要所要所には「ちょっとしたトラブル・produced by ローザック帝国」のおかげで警察の目も光る。

 いくら敵が見境なしでも、たやすく襲撃できない布陣に戦意が殺がれるはず。

 ぜいたくを言うと、ここでわざわざ攻めてきて撃退、あるいは捕獲できればかなりおいしいんだけど。

「百合子さん、フラグってご存じですか?」

「……不安なら、脳と心臓あたりだけでも障壁張っておくことね。そこさえ無事なら体幹真っ二つでも三日で培養修復可能よ?」

 恐るべきは帝国の科学力、とはいえ修復箇所の「なじみ」とかの問題で、ポッドから出てもしばらくはリハビリが必要だけどね。

「ですからそういう問題では……」

「学生の本分は勉強よ?ヒナギクが中学生の身で留年したいなら止めないけど」

「……はあ、もういいです」

 この子が嫌な顔するのもわかるんだけどね。

 わき腹とは言え撃たれて数日、そこで今度はヘッドショットやずんばらりんの心配しないといけないとなると、トラウマになってもおかしくないレベル。

 お外怖いつっておうちに引きこもったって責められないわよね。

「百合子さんは平気なんですか?」

「なかまをしんらいしてますから」

「……いいです、よくわかりました」

 ため息つくとは失敬な。

 将軍が「今度こそは」と雪辱に燃えまくってるし、バカ皇子主導でアジト捜索は進めてるし、信頼とは言わないまでも、「これでだめならしかたない」くらいには思ってる。

「まー人間、死ぬときは死ぬし」

「さすがにそこまで開き直るのはどうかと……」



・・・



 そして教室、本来ならそろそろ朝のHRが始まる頃合い。

「これがフラグ、か……」

 あたしのつぶやきがかつては教室だったがれきの山の中に吸い込まれていった。



 教室の扉を開けるまでは、襲撃もなく至って平和に来たのよ?

 ガラッと引き戸を開けたあたしたちを目ざとく見つけたショーコがいつもどおりに「おっはよー!」って脳天気に挨拶してくるとこもいつも通り。

 ショーコの隣に座って延々一方的に話しかけられていたらしいユカリがこっちを向いた瞬間、空気が変わった。

「……発見。……照会不能。……装備転送……失敗。……現有装備で対処」

 なんか間違いなく誤作動起こしてんでしょって独り言とともに懐から棒状の物を抜き放つ。

 ブン、という音とともに棒の周りに光の刃のようなものが現れたと思ったら、一挙動でこっちに飛びかかってきた。

 教室内は阿鼻叫喚。そりゃ転校三日目にしてショーコくらいしか話し相手がいなくなるような奇人が、いきなりクラスメイトにナイフのようなもの持って襲い掛かってきたらパニックにもなろうというもの。

「ちょっ、こんなところでおっぱじめるなぁ!」

 あたしの絶叫もむなしく、ユカリがヒナギクの心臓めがけて光のナイフを突き入れる。

 ……バチン。

 胸に突き立てられたから吹き出すおびただしい血の雨……とはならず。

 今度は間に合ったらしいヒナギクの障壁が、ユカリを体ごと弾き返す。

「……はぁ?」

 思わず間抜けな声を出しちゃったのはあたし。

 いや、だって、障壁って要はただの不可視の壁みたいなもんよ?

 盾みたいにナイフを跳ね返したり反らしたりして相手の体勢を崩すのはできるけど、あんな派手に弾くなんて機能はなかった……と思うんだけど。

「あら?電気を流しちゃいました……制御がまだまだですねえ」

 ヒナギクはかわいらしくてへって舌を出してるけど、あたしは見た。

 電気ショックにビクンビクンとのたうつユカリを見て、してやったりとばかりに奴の瞳が煌めき、口元がかすかにゆがんだのを。

 ――滅茶苦茶根に持ってたわね、あの子。

 まあ、自分――と、恋する相手――の命を狙われてんだから当たり前っちゃあ当たり前なんだけど。

 今度から奴を怒らせないように気を付けよう、そうしよう。


「さーて、どーしたもんか、ね」

 頭をかいて考えをまとめる。

 クラスメイトは見事なまでの逃げ足で、教室の外に避難済み。

 伊達に侵略者の襲撃にさらされ続けてはいないということだろう、さすがの逃走能力である。

 こそこそとささやき交わす声に耳を傾けると、ユカリが倒れてるのも、ヒナギクが「なんかすごい強力なスタンガン」でも使った、と判断したみたい。

 まー、一応お金持ちの令嬢であるところのヒナギクなら、親から護身用に渡されててもおかしくないか。

「えっと、事情を聴くにしても、一旦保健室にでも連れてったほうがいいかな?」

 野次馬の中に、目当ての人物がいるのを確認しつつ、口ではもっともらしい提案をする。


 ――後で、回収。

 ハンドサインで指示を送る。

 通信阻害結界を張ってるせいで、念話で細かい指示を出せないのは不便だけど、あの子もこの程度なら読んで動けるだろう。

 ……ん?

 自分の思考の何かに引っかかった気がしたけど、ここはともかく保健室なり護送途中での奪取計画を練って……


「……強制起動」

「って、もう気がついた!?」

 しまった、とっとと拘束しておくべきだったか。

 あわてて身構えたあたしとヒナギク。ショーコはいまだ事態を把握し切れてないのかぼんやりしてる。

 ユカリは床に手を突いて立ち上がろうとして……崩れ落ちる。

「……機能不全。……身体能力低下。……処理野破損」

「さっきのでだいぶガタが来ちゃったみたいね。……ふう、焦らせやがって」

「……その言い回しですと、こちらの方が悪党みたいなんですが」

 ヒナギクの冷淡なまなざしから目をそらす。

 こんなおいしいシチュエーションなら一度は口にしたい台詞だと思うんだけど。

 あとはほら、「やったか?」とかさ。

「そこまでいくとわざとですよね?わざとフラグ立てようとしてますよね?」

「はっはっは、なんのことやら」

 言い募るヒナギクをあしらいながら、胸ポケットにいくつか隠し持ってる結束バンドを取り出して、と。

「……それをいったいどこで使うつもりだったかお聞きしても?」

「こんなこともあろうかと?……冗談よ。こないだ買った充電器に付いてたのを捨て忘れただけだって」

 どー考えても携帯端末用充電器の柔なコードを束ねるには太すぎるそれは、実際、携行しやすい拘束道具としてかなり便利なのだけど。

 痴漢を撃退したときとか変質者を蹴り倒したときとか不良をシメたときとか……手錠やらロープやら持ち歩くよりは目立たないし、職務質問もされないしね。

 そんなバカな掛け合いをしてるあたしたちは、やっぱりどこかで油断してた、ってことだろう。

 続くユカリの台詞にぎょっと身をすくませた。

「救援要請……失敗。機密保持プログラム起動……成功。カウントダウン開始……三十秒」

「機密保持って……」

「カウントダウンって……」

 二人してひきつった笑みを浮かべる顔を見合わせ、お互いの嫌な予感が同じものであると確認。

「自爆っ!?」

 あたしとヒナギク、どちらからともなく上げた悲鳴は、見事なユニゾンとともに劇的な効果をもたらした。

 地響きのような足音を立てて廊下に鈴なりだった野次馬連中が我先にと逃亡。

「……いっそ尊敬するわね」

「そんなこと言ってる場合ですか!」

「ったく。障壁展開!ショーコもとっとと変身する」

 障壁を全域カバーで起動、同時に窓の外へ向けてすり鉢状に空気の壁を形成する。

 二段構えの防壁。本来なら変身してても消費が間に合わないけど、将軍なんかが使ってる非魔法式の障壁発生装置をかっぱらってきたのがここに来て役に立つ。

 ショーコがうろたえながらも変身、この場にいる全員が障壁で身を守れているのを確認したと同時。

 ユカリの体が轟音とともに爆ぜた。

 

 気休め程度と思ってた空気の壁は結構いい仕事をしたらしく、完全にぶち抜けた外壁に比べれば、内部の損害はだいぶ抑えられた。

 とはいえ天井と床の一部は落ちてるし、爆心となったユカリはバラバラ。がれきのいくつかに血痕――やらなにやらが散っている。

「えげつないことするわね……っと、これ鑑定にかけて」

「……了解」

 近くに寄ってきていたうちの制服の少女に、拾い上げた靴とその「内容物」を手渡す。

 記憶やらデータやらを壊すのが最大の目的ってことだったんだろうけど、生体サンプルからだって色々な情報は得られるんだぞ、と。

「……今の方は?」

「ヒナギクも以前に会ってる子よ?ユカリにはっつけてたの」

「ああ……意外に似てませんね」

 おい今どこ見て判別したか言ってみろ。

 

 言わずと知れたその正体は、偽ヒナギクことブラックデイジー。

 胸のサイズこそ新データにアップグレードしたものの、並べてみたり本人からすれば、他人の空似程度には似ていない。

 ま、制服着て紛れ込める手勢が他にいなかったってのもあるんだけど……仕事熱心な先生に見つかったら即バレそうだし、いっそユカリ同様転校させちゃおうかしら。

 あれが一応受け入れられるんだから、ダークネスの面々なら割合溶け込めそうだし……。


「ゆ、ユリちゃん?ヒナちゃん?……ふ、二人がやったの?」

 変身を解除したショーコが、こっちに問いかけてくる。

 おずおずとって風情が彼女らしくないったら。

「やっとらん、やっとらん。自爆したの見てたでしょーに」

 ひらひらと手を振って否定するけど、困惑顔のショーコが納得した様子はなく。

 つっても、そこは正真正銘掛け値なしの事実だから納得してもらうしかないんだけど。

「で、でも、二人とも変身せずに魔法使ってたみたいだし」

「使えた方が便利だし、特訓してたのよ」

「ずるい……」

「いや、あんた絶対暴発させるし。レッドファイヤーバーストとやらの一件がなけりゃねえ」

「うぐぐ」

 これは別に策がどうとかじゃなくって、さすがにあたしたちの防御手段確保してからじゃないとショーコに教えるのは正直怖い。

 常時燃料垂れ流しの爆弾に着火装置くっつけるようなもんだからね。


「で、でもどーしてユカちゃんは……そ、その、ヒナちゃんを?」

 すでにあだ名つけて呼んでましたか。

 いや、人の名前を頭二文字しか記憶できないとかそんなわけは……うーん。

「あー、それは……」

「そいつぁ俺たちも聞きてえなあ?」

「げっ、ヤマさん」

 どー説明したもんかと頭を掻くあたしに声をかけてきたのは、いぶし銀の老刑事、ヤマさん。

「俺の名前は田中だっつってんだろ」

「所轄の老刑事はヤマさんと決まってるんです」

「……なんだいそりゃあ」

 ヤマさん改め田中刑事は、色々あってすっかり馴染みになった――「嬢ちゃんたち担当を押し付けられちまった」とはヤマさん談――所轄の刑事。

 呼び名で一くさりもすっかり手慣れた挨拶代り。

「いきなり呼び出されて来てみりゃ、今度ぁえらい派手にやったもんだなあ、おい」

「ヒナギクは問答無用で襲い掛かられた挙句、勝手に自爆ですよ?こっちは被害者です」

 あの子の転移のために通信封鎖を解いてからほぼノータイム。電話は切断されてなかったにしても、驚異的な対応速度と言っていい。

 朝からのきな臭さに張られてたと見るべきかしら。相変わらずムカつくくらい勘がいいわね。

「にしたって、こりゃねえだろ。心当たりはあるのかい?」

「……まー、『青井のお嬢様』ですからねえ」

 言外に「実家関連で恨み買ってればこっちの心当たりなんてあるわけない」と示せば、ヤマさんは苦虫をかみつぶしたような顔で頭をかく。

 ……あたしの癖は多分間違いなくこのおっさんの影響だわ。

「にしたっておめえ、自爆テロなんてどこの原理主義的宗教組織だっつー話だろう。それも13,4なんつう歳でなあ……」

「こーゆー手に使うのは、純粋培養のガキンチョの方がやりやすいってもんでしょう」

 見た目はともかく生後一年にも満たなかろうクローンでは、「純粋培養のガキンチョ」どころの話じゃないわけだけど。まともに自律判断させる気もない感じだったしね。

 ……ん?

「光の聖霊……自律思考の排除……暗殺……自爆?」

「ドラドラドンドンでお見事なカルト教団に数え役満ってとこか?……て、やっぱなんか掴んでんじゃねえかよ」

「いえいえまさかそんな、はっはっは」

「……ったく」

 露骨な韜晦を、ボヤキ一つで流してくださるヤマさんに感謝。

 まっとうに捜査しようとしてもヒナギク周りの魑魅魍魎に横やり入れられまくるし、警察としては「ほったらかしにしてない」ってパフォーマンスをとるくらいしかできないのよね。ヤマさんたちはそのため貧乏くじを引くお役目ってわけ。

 ……ま、これで現地の「日乃輪紫」についてはこのおっさんが独自に裏取りしてくれるだろう。

「――だろう」

「いやいやいや、民間人に捜査情報流せるわけねえだろ」

 おっと、声に出してたようで。

 ま、口では渋ってるけど、いざ何かあればいつものように迂闊な新人君がぽろっと進捗を漏らして……

「……そーいやいつものおにーさんは?」

「外で吐いてるよ。嬢ちゃんたちもちったあ動じろっての」

 何しろ爆弾が爆発した場所がアレなわけで、がれきの山には中身とか破片とかがべっちょりと。

 新人くんはその陰惨たる有様に耐え切れなくなったらしい。

「ヤワねえ」

「……嬢ちゃんたちが規格外すぎんだよ」

 血なんて毎月見慣れてるし、ナマモノは嫌がらせの基本過ぎて、いまさら動じろというほうが無理。

 そんなもんに耐性ついちゃってるわが身の過去を振り返れば。

「……やっぱ悪いのはヒナギクってことで」

「ちょっと百合子さん!?」



「うー、うー、やっぱりこれも帝国のいんぼー?」

 ヤマさんたちが「なにか『わかったら』連絡をくれ」と全くこっちを信じてない捨て台詞を残して去ってからしばらく後。

 どうやらずっと無い知恵絞って考えてたらしいショーコのやつが頭を抱えてうなりながらそう言った。

 「陰謀」が脳内変換できなかったあたりが実にこやつらしい。

「馬鹿正直に正面衝突ばっかしてる連中とは、毛色違うでしょ」

「でもあいつらも最近なんか変なことしてるしー」

 ……うん、それはわたしのせいだ。

 いやしかし。

「今のとこ、敵にしろ味方にしろ『人命』にかかわることはしでかしてないでしょ、帝国は」

「それはそうだけど……でもでもあいつら、侵略者だよ?悪い奴なんだよ!?」

「それでも最低限の交戦規定は守ってるってことよ」

 周囲の被害も考えず、見境なしに攻撃するような無茶はしてない。

 国の一個も消し飛ばせば、とうに侵略完了してるだろうに、面倒くさいことこの上ないったら。

 一応「正々堂々とした侵略行為」ってとこに拘ってるってことらしいけど、さ。

「むしろあんたとかじえーたいの連中がぶっ壊してる被害の方がでかいんだけど」

「ううう、正義のためには多少の犠牲はしかたないんだよ!」

「『仕方ない』レベルですませられんほどの損害出してんでしょーが」

 ぐるり見渡すのは、破壊し尽くされた元教室。

 爆発の影響がどの程度あるかはわかんないけど、まあしばらくは校舎が丸々使用不能だろう。

 通学に不安がある現状を鑑みて合法的臨時休校ラッキーと考えるべきか、「敵」の無茶さを警戒すべきか……頭が痛いわ。

「正義のため、で教室ごと吹っ飛ばされた日にはかなわんわ」

「……!これを、光の聖霊様がやったっていうの!?」

 さっきからそー言ってんだけど、ようやく気づいたか、アホの子め。

「聖霊様は正義だよ!?こんなひどいことするわけないよ!」

「純粋無垢なじょしちゅーがくせーを、命がけの戦場に放り込むのがひどくないってゆーんかい」

 こらヒナギク、そこで「どこに純粋無垢な中学生が?」って顔でキョロキョロしない。

 こっそり戻ってきてたブラックデイジー見て納得するのもおかしいでしょ!

 ……まー、あの子らはなんも知らんから、無垢と言えば無垢なんだろーけどさ。

「そ、そんなひどいこと言うなんて、も、もしかしてユリちゃんも聖霊様を裏切ったの……?」

「裏切るも何も、ハナから微塵も信じてないって」

「だ、だめだよ!裏切りは悪なんだよ!」

「裏切り、ねえ。どっちが、どっちを?」

 最初っから騙す気満点で近づいてきて、こっちがそれに背きかけたら粛清ってなると、裏切りってのも不適切だけど。

 馬脚を現すとか種が割れるとか、その類よね。

「ひ、光の聖霊様は正義なんだから!」

「『自称』、ね。あんたはあのクソババアと、長年……でもないけどそれなりに付き合ってきたあたしらと、どっちを信じるってゆーのよ」

「うぐぐぐぐぐ……そ、それでも悪の侵略者に付くなんてだめだよ!」

「はあ……あんたもいい加減『正義の味方』は卒業しなさい」

「や、やっぱり、ユリちゃんも『悪』に……」

「そーじゃなく。『正義』っつーのは――」

「う、うわあああん!」

「――行っちゃったか。アホの子に婉曲表現は難しかったかな」

 校内一の俊足を惜しげもなく発揮して逃げ去っていったショーコの姿にため息一つ。

 これでもーちょっと考えて行動するようになってくれればいいんだけど。

 ……無理かあ。

 とりあえず、護衛兼監視は手配しておこう。



「……いいんですか、ほっといて」

「よかあないけど……ヒナギクこそいいの?あれもう完全にあんたのこと裏切り者って認識してたわよ?」

 あのアホは「ユリちゃん『も』」と繰り返した。

 それはつまり、すでに少なくとも一人は裏切ったと認識してるってことになる。

 三人しかいないシャイニーフラワー、会話の当事者であるあたしとショーコを引き算した残りは一人。

 あたしの前で苦笑を浮かべたヒナギク――

「って何してんだあんた」

 なぜかブラックデイジーを抱きしめてる変態が約一名。

「この子がかわいらしくってつい」

「あんたにそーゆー趣味があったとは初耳だわ」

 冗談めかして身を引いて見せるけど、わかっちゃいるのよ。

 連続して二度も直接襲われ、一度目はあわや死ぬかもって大怪我、今度は目の前で相手が爆死。

 安心のために身近に温もりを求めても仕方ない。あたしはこーゆーとき絶対に縋らせんし。

「将軍がここにいればねえ」

「なっ、し、師匠は関係ありません!」

 照れ隠しに叫ぶのはいいけど、力入れすぎでブラックデイジー締まっちゃってるから。

「……ま、いいわよ。こうなったら護衛つけておくにこしたことはないから。デイジー、ヒナギクを護衛。あんたたち二人の『安全』を最優先に。無理な突撃かまそうとしたら殴ってでも制止して」

「……了解」

 抱き寄せられて微妙に斜めになってる体勢のまま、器用に敬礼を返すブラックデイジー。

「意外に柔軟ですね」

「どこまで裁量権持たせるかにもよるけどね。この子らは最初から単独任務前提だし……」

「どうしました?」

 とある事実に気づいて思わず硬直したあたしに、ヒナギクが小首を傾げる。

「い、いえ、なんでもないなんでもない、あはははは」

 ここは笑ってごまかすしか。

 疑惑に満ちたヒナギクの目は気にしない気にしない……。

「まあ、いいですけど。……で、この子はいただいて行っても?」

「却下」

「えー」

 いちおー軍の備品だから所有権を移すわけにはいかないのよね。

 今のこの子に戦力与えたら、うっかり市街地制圧とかおっぱじめかねんし。

「だいたい、この子連れてどーするつもりよ?おっぱいシスターズでも結成するつもりか?ん?」

「おお」

 くだらない冗談を真に受けてんじゃない!

 っていうか、なんでそこでブラックデイジーの方まで一緒になって手を打ったりしてんだか。

百合子「【男の】黒青デイジーコンビでおっぱいサンド【浪漫】」

雛菊「しません!」

ディスクート「え?」

雛菊「え?」

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