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悪堕ち魔法少女になってみた  作者: ナイアル


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第九話:偽りの青い雷

 黒い人影が立ちつくす周囲には、打倒されたじえーたいのみなさんが転がっている――たしかまだ再配備は終わってないはずなんだけど、最低限の装備で出撃したのかしら?……もはや意地になってんなー、こりゃ。


 ぷすぷすと不快なにおいのする煙を上げる焦げたアスファルトの上、その黒い人影と対峙するように立つのは二人の白い人影。

「どうしちゃったのよ、ねえ!」

 白い人影の一方――一部に赤の混じるその姿はレッドローズ――が、悲痛な叫び声をあげる。

「……」

 黒い人影は答えない。

 マスクに隠れた顔は表情をうかがい知ることもなく、ゆらり、とローズに向き直る。

「答えてよ!ねえ!……デイジー!」


 黒い人影――ブラックデイジーがゆっくりと構えた槍は竜の咢のように二つに割れ、その奥からはブレスのような光が、吐き出される時を今か今かと待ち構えるように輝きを増していた。


 あたし――ホワイトリリーは、ローズの背後で苦笑しながら、障壁を多重展開して来るべき攻撃に備えていた。



・・・



「稽古をつけてくれそうな人の心当たり、ですか」

「うんまあ、こないだ話した人なんだけどね」

 念話ではなくわざわざ電話で呼び出したヒナギクを、これまたわざわざ徒歩で案内中。

 いくつかの路地を無理やり曲がったり、通信阻害を施したエリアを通したりと、可能な限り追跡――ヒナギクん家のとかその他もろもろ――をまいていく。

「……どこかの道場かと思ったのですが」

 たどり着いたのは、町はずれの一角、すっかり廃屋化した水天宮。

 このあたり、昔は田畑や農業用水の引き込みなんかがあったらしいんだけど、今じゃすっかり土地ごと打ち捨てられており、雑草はそこらじゅうに生え放題の伸び放題、周辺にまばらにある民家や農具置き場も使われなくなって久しいという、プチゴーストタウン。


 オカルトマニアの知人が言うには、こーゆー場所、いつの間にやら浮浪者や野良犬まで寄り付かなくなったエリアは規模の差こそあれそこかしこにあるそうで、中には繁華街から路地一本入ったらもうそこは廃墟の群、みたいなホラースポットなんかもあるという。

 もともと龍脈の影響でパワースポット化してたところが、その後の変動で力を失い、しかし力を消費する物やモノが多すぎて一挙に枯れた結果――ルインスポットなどとかっこつけてた中二病患者は、頭を軽くはたいて正気に戻しておいた。


 案内する境内もすっかり荒れ果て、手水舎や本殿は屋根まで落ちてる……木は周囲をうっそうと取り囲んでるのに、虫や鳥の鳴き声さえしないのが不気味極まりない。


「なんか、道場持ってないそうで」

 一つの町の武術指導者ってのはほとんど知り合いなので、うっかりどこかの道場を接収して箱抜けやらかすと、「ああ、あの道場の」とかいう話から即ボロが出る。

 だから、下手にその辺に手を回せなかったってだけなんだけどね。

「浪人さんですか」

 ……笑うなかれ。こーゆー人は実在するのだ。

 用心棒だとかガードマンなんかのカテゴリに「武芸者」がいて、「仕官」するまで「浪人」として流しで仕事を請け負ったり道場破りで糊口をしのいだりするそうな。

 大抵はコネとか師匠筋の伝手を辿って就職活動するのが普通らしいけど、「主は自分の手で選ぶ」とか偏屈者もまた多く。

 世の中にはまだまだみょーな風習が残っているものである。

「いちおー主はいるそうだけどねえ」

「そうなんですか」

 護衛とかから一歩飛び出してお金持ちの「指南役」ともなれば、お仕事は主やその郎党に武芸を教えることだけ。こーなると道場なんか開かず主の家に起居するようになる……って、どこの時代劇か武侠小説かって思うんだけど……本当に、ほんっとーに、この手合いが実在しちゃうからお金持ちや武術の世界ってよくわからんですよ。

 

「来たか」

 賽銭箱の前に立つディスクリートは、そこらの衣料量販店で買えるような安物のスエット姿。

 ほんとはここで袴とか着流しとかではったりを利かせようかと思ったんだけど、「着付けがわからん!」の一言であえなく断念。

 木刀を片手にひっさげた姿は、余計な力も入っていないのにどこか鬼気迫っていて、下手にハッタリつけなくても迫力十分だったのだけは救いかな。


「今日はよろしくお願いいたします」

 丁寧なお辞儀をしたヒナギクが手に携えていた袱紗を解くと、そこから出てきた練習用の薙刀を構える。

「……来い」

 無駄な挨拶は無用とばかりに木刀の切っ先を下げたディスクリートに、するりと流れるような動きでヒナギクが突っ込んでいく。

 小さな呼気と共に繰り出された木製の薙刀が、いつの間にか持ち上げられていた木刀だけでからめとられ、受け流される。

 たたらを踏んだヒナギクは、しかし、素早い足さばきでバランスをとると同時に相手の方へと向き直る。


 ……おーいお二人さん、時代とジャンル間違えてないかー?



・・・



 すっかり時代錯誤なバトルを開始しちゃった二人を放置して境内を出ると、例によってショーコの慌てたような声がする。


『……リちゃん、ユリちゃん!』

『だからもう少し落ち着け』

『あああああ!やっと返事が……って、またその……』

『うんまあそんなとこ。つか、たまにはヒナギクに呼び出し役やらせれば?』

『そ、それが……えっと、驚かないでね?』

『あたしゃあんたとあの子が何しでかしても驚かない自信があるけど』

『……駅前広場襲撃してる』

『駅ビルのバーゲン今日からだっけ?』

『そういう意味じゃなくて!あああもう!いいから早く来てよ!』


 ってな会話を経てショーコと合流したあたしが現場へ駆けつけてみれば、冒頭の惨状。


 ……ま、ここまでの流れを見てればわかるけど、タネは単純。

 水天宮周辺のルインスポットには、例の部屋同様通信阻害の結界が張ってあり、ショーコの念話は届かない。

 そんな中で、現在絶賛行方不明中のヒナギクのそっくりさんであるところのブラックデイジーさんが駅前広場で大暴れ。

 ショーコや周囲の人に「本当に裏切ったのか?」と思わせれば勝ち、である。


 さすがにじえーたいさんがまた出張ってるのは予想外だったけど、ケーブルテレビの皆さんも頑張って撮影もしてくれてるし、いー感じの絵が撮れてるんじゃないかな。目指すは夜のニュースのヘッドライン、である。

 


 胸算用してたら、片手剣を構えたローズが飛び込んでいく。

「デイジー、目を覚ましてええ!」

 なんか炎まで纏ってんだけど、あれ食らったら目を覚ますどころか永眠確定じゃないかね。

「……」

 しかし、馬鹿正直に突っ込んでくるアホの子は実によい的である。

 チャージがようやく終わったランスを前に突き出すと、どっかんばりばりと豪快な音がして、最寄りの金属物――つまるところアホのかざしてる片手剣――へと吸い込まれるように雷が放たれる。

「ぐあああっ!?」

 とっさに張った障壁で直撃は免れたものの、その雷電のすさまじい威力にローズの体が宙に舞った。

「……しまっ……た?」

 無防備に宙に浮いてしまった次の瞬間、留めのランス攻撃に備えて身を固くしたローズの前で、ブラックデイジーが興味を失ったように踵を返す。

「ばかにして……きゃうん!?」

 着地と同時に無理やり体を捻って飛びかかったローズは、デイジーの体から放たれた高圧電流に弾かれて地面に転がった。

「……」

「こ、このっ……」

 どうやら防ぎきれなかったらしく――そりゃ放電なんて全方位から襲い掛かってくるもんなあ。簡易障壁じゃ無理だ――しびれの残ってる体を必死に起き上らせようとしているローズの前で……デイジーは転移した。

「くっそおぉぉぉ!」

 だんっと、地面をたたいて絶叫したローズの声だけが、むなしく広場に響き渡った。


 ……なお、絶縁装備もなく二度も放電を直撃させられたじえーたいのみなさんは、全員重傷で病院に担ぎ込まれたらしい。

 ほんとに何しに出てきてんだ、あんたら。



「とどめを刺されると思った……あのタイミングで見逃されるなんて」

「あーあれは危なかったわねー」

 生返事で返す。

 あの武器、ランスに偽装してるけど、実際はただのプラズマカノン+放電銃だからねえ。


 ――アームガードの中にぶち込まれた昇圧機と励起装置で高圧縮の荷電粒子を作成、割れた穂先の内側に構成されてる整流器と加速グリッドで打ち出す。射出物(プロジェクタイル)代わりに打ち出された荷電粒子が進行路上の空気をプラズマ化、高圧放電された疑似雷がプラズマ化して抵抗の落ちた「経路」を突き進む。

 作り方さえわかってれば現代日本のご家庭でも簡単に作れる程度のお手軽兵器がその正体。

 

 なので、穂先という名の砲身は、変形ギミックの都合もあって強度が足りてないから殴ったりさしたりしたら間違いなく折れるし、そーでなくとも綿密に設計・配置されたグリッドがだめになる。

 だから、あの武器で接近戦は「絶対に」無理なのだ。

 加えてあの武器、やたらとチャージ時間が長い。

 ローズが最初に呼びかけとかしてくれたおかげで初撃のチャージ時間が稼げたけれど、ぶっ放した直後のあの状態では即座に再射出とかは不可能。

 あのタイミングでとどめを刺さなかったんじゃなく、あのタイミングだからこそとどめを刺せなかった、というのが正解なのよ。


 まーそもそも耐久度的に一回の戦闘で三回も撃てれば御の字、帰投後は毎回のように分解整備必須……ってもうこれ実戦で使うとか想定してないお手本みたいな実験兵器。

 ブラックローズの大剣やブラックリリーの鞭は比較的シンプルな作りなんで、少々振り回したところでなんでもないんだけど、こいつばかりは要調整、ぶっちゃけ無理ってわかってた。

 苦肉の策で付けたのが、一時的に励起箇所の遮蔽を弱め、パルス状に放電する第二の技。

 これまた使い勝手はすさまじく悪いわね。帰り際、あの子ちょっと焦げてたし。

 一応コスチュームが絶縁性高めてるはずなんだけど、それでも防ぎきれない出力だったのは、制作側の根性なのか予期せぬ事故なのか。自分たちまでまきこんじゃってコントロールできないってのは諸刃の剣。

 ……こりゃグルバスじーさん、一晩徹夜で修復・修正作業かしらね。ご愁傷様。


「でもこれで少しは希望が!」

「……え?」

 意味不明なことを言ってガッツポーズしたショーコに思わず問い返す。あたしには「でも」も「これで」も接続詞として不適切にしか聞こえなかったんだけど。

「だって、とどめを刺さなかったってことは、ヒナちゃんにはまだあたしたちのことがわかったってことでしょ?」

「アアマアソウナルカナ」

 思わず棒読みになっちゃったけど、いやいや。

 何度も言うけど「殺さなかった」んじゃなくって「殺せなかった」。

 あたしゃ殺すななんて命令してないし、このおバカ的には一度や二度死んだところで治らないとあきらめてるからね。

 だいたい、ブラックデイジーはヒナギクと似てるだけのそっくりさんなんだから、こっちがわかるとかないし。

 まーいちおー、上位存在であるあたしがその場にいる場合は、あたしを「避けて」戦うことになるんだろーけど……あの武器で特定個人狙わないとかできないわねえ……。



「……私がどうかしましたか?」

「うん、ヒナちゃんが今駅前広場を襲撃……ってうわあ!?」

 ショーコの背後にいつの間にやらヒナギクの姿があった。

「バーゲン始まってましたっけ?」

「……いやそーゆーこっちゃねーでしょ。あっちはもういいの?」

「ええまあ……若干不本意ながら」

 ヒナギクの服装はさっき別れた時とは違う、お上品なワンピース。

 稽古を終えたにしては汗臭くないどころか石鹸の香りがするのは、お風呂まで入ってきたってとこかね。

 そんなに時間経ってないと思うんだけど……残念そうな顔してるってことは、あれからすぐに切り上げたのか?

「『あっち』……?」

「ええ、百合子さんのご紹介でちょっと」

 そこでわざとらしく頬に手を添えたりしたら、アホのショーコは間違いなく勘違いするわよ。

「ええええ、そ、それって、その……えっと……」

 ほらした。

 真っ赤になったほっぺたを両手で隠し、もじもじしてるところは一応年相応の女の子カテゴリーの末端にこそっと置いてやっても構わないかもしれないというくらいには女の子らしい。

「おいこらヒナギク」

「あら、ついつい……」

 ジト目で睨んだけど効果はなし。むしろ意味深な流し目でこっち見返してきた。

「うう、二人とも?二人ともなの?うう、遠いところに……」

 なにやらうずくまって落ち込み始めたのはもう放っておこうかしら。

 完全に追及すべきことを忘れきってるみたいだけど。

「実際は何があったんですか?」

「あんたのそっくりさんが、じえーたいのみなさんをのした後、ショーコを完膚なきまでに叩きのめして帰ってった」

「なんてうらやま……いえ、それは厄介な」

「おーい、ヒナギクさーん?」

 本音がダダ漏れなヒナギクのセリフに思わず頭を抱える。

「や、やっぱり、ヒナちゃん……」

「いえ、薔子さんは正直どうでもいいんですが」

「どうでもいいの!?」

「どーでもいーよねえ」

「ですねえ」

「二人ともひどーい!」

 ムキになって駄々っ子パンチを繰り出すショーコだった。


「とりあえず……このあいだの『裏切り』発言の原因はわかったようですが」

「偽者の襲撃くらってたってことなんでしょーね」

「な、なるほどう……」

 もはや何度目かもわかんない、ファミレスでの反省会実施中。

 お行儀悪くストローをガジガジと噛みながらテーブルの上に突っ伏してるショーコがちゃんと理解してるかは疑わしいけど。

「ほ、ほんとーにヒナちゃんじゃないの?」

「ええ。といっても証拠もないんですけど」

「だって呼び出しにも返事なかったし……」

「おかしいですね。こちらの用事の最中は何も聞こえませんでしたよ?」

 小首をかしげる二人。ここはちょっと助け船を出してあげるとしましょうか。

「あーほら、あたしもこのところ通じないことあったし。実は結構そーゆーエリアがあるのかも?」

「そういえば、百合子さんの彼氏さんのおうちも通じませんでしたっけ」

「だから彼言うな」

 ……ん?

 何かこの会話の流れに微妙に変な違和感を感じるんだけど……なんだろ。

「そーゆーもんなのかなー」

 ショーコはいまいち納得がいかない顔をしている。

「どこかに通信状況の表示でも出ればいいんですけど」

「……視界の隅にアンテナ立ってんのはやだよ?」

「着信拒否は切実にほしいわ」

「ああ、逢引の最中は邪魔されたくないですからねえ」

「じゃなくて!あのうざいお目付け役のお喋りシャットアウトしたいだけよ!」

 いやまあ最近はおとなしくなったというか……気が付くと戦艦の方にこもりっきりで、バカ皇子となにやら意気投合しちゃってんだけどさ。

 類は友を呼ぶってやつかしら。

「あいびき?ミンチ?」

 こやつもそのお友達になれそうな気はするけど。



・・・



 ショーコと別れて――追い払ってとも言う――ヒナギクと二人っきりの帰り道。

 わざと遠回りした河原づたいの土手道は、夕暮れの風景と相まってどこか物寂しい。

「……で?」

「『で?』とは?」

 質問を質問で返したお嬢様に軽く殺意が湧いた。とぼけたんだか素でぼけたんだか……さっきの会話からすると前者かしらね。

「稽古が終わった後、汗まで流して着替えてからおっとり刀でやってきたのはなんで?ショーコが目の前の偽物にかまけて念話切ってたとしても、あんたんとこのお目付け役から話が通るはずでしょ?」

「レオンはいつものように寝てましたので」

「いくらあのグウタライオンだったとしてもこんな時に寝るって……ああ、そういうこと」

 くすっと笑ったヒナギクの顔が、空恐ろしくて見返せない。

 「寝る」、ね。確かにいろんな意味合いがある言葉だったわ。

 願わくば「永眠」じゃないことを祈るのみだけど……あーまーどーでもいっか。

「そちらこそ、なぜ取って返して私に合流しなかったんでしょう?私たちがお稽古を始めたのと、時間的にそうずれていなかったようですけど」

「あんたは勝手に行ってると思ってたから?」

「もう一点、どうして先ほど薔子さんに『あなたがどこにいたか』をぼかして伝えたんですか?」

「そんなことしたっけ?」

 それは完全に記憶にない。

「正確には、『私がどこにいたかをあなたが直接知っていた』ことをぼかした結果として、あなたの居場所があいまいになったわけですが」

「……あんただって乗ってたじゃん」

 そう、あたしは「ヒナギクと直前まで一緒にいた」ことをショーコに明かしてない。

 結果として、ショーコはヒナギクに聞くまで彼女の居場所を知らず、疑心暗鬼に駆られた。

 その後の会話でも、あたかも二人は別行動してたかのように会話してるけど……これってヒナギクがつっこみゃ終わる話で、むしろそこを流して会話をつないだヒナギクのせいだと思うんだけど。


「私は百合子さんを信じてます」

「いきなり何言い出すんだあんたは」

 ヒナギクが、一歩前へと進み出る。

 振り返って、あたしの方をじっと見つめて。

「信用も信頼もしてませんが、あなたが『自分にとって間違ったことをしない』ということだけは信じてるんです」

「……重いわね」

 そう言った、あたしの顔は相当嫌な表情を浮かべてたと思う。

「そこでそう言うお返事になるところ、とかですよ」

 くすくすと、本当に楽しそうに、ヒナギクが笑った。

 そーいや最近そんな笑い方も見てなかったなあ。いつもどこか影が……ってあたしのせいなんだけどさ。

「悪ぶってるくせに、好きな相手には結構甘いんですよね、百合子さん」

「ぐあああああ、やめろおおおお!?」

 ほんと、やめてください、お願いします。マジいろいろ痛いんで。


「……だから、何も聞きません。せいぜい踊らされてあげます」

「そー言われるともう踊ってるよーにはならんのだけど」

 頭をかく。照れくさいっつーか、恥ずかしいっつーか、もう!

「かわいいですよ、百合子さん」

「いやもうほんとやめて」

 ため息をついてどん底まで落っこちるあたしとは対照的に、心の底から楽しげなヒナギク。

「いつか、彼氏さんを『ちゃんと紹介』してくださいね?」

「だから、彼氏じゃねーっつってんのにもう」

 

 やれやれ。

 でも、まあ。

 根っこを信じてくれる友人がいるのはありがたい。


 小さな風を起こす。

「きゃっ!?」

 風はヒナギクの長い髪とスカートのすそをもてあそんで、かききえる。

「あんがと。好きだぜ、ヒナギク」

 思わずスカート押さえてかがみこんだヒナギクに、つぴしっと敬礼なんてしてみたり。


 あたしも、いい笑顔、できてたかね?


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