第四十九話 一般向けにファンタジーはお呼びでない。
まず、大きく二つにジャンルを分けてしまおう。
「ラノベ」と「一般向け」だ。
現状、魔法や異世界などファンタジー要素というものは、一般向けには需要がない。
ラノベは、一人称全盛であり、かつ、一人称と三人称一元視点が入り混じったようなゲテモノまで広く受け入れられている。あまり細かな違和感というものは気にされないジャンルだ。
その代り、読者は「あまり読書経験のない人や若い層」に固定されてしまう。そういう人々だから、あまり細かいことは気にしない、という事でもある。
ラノベの主人公は、親しみやすい若者でなければならない、という暗黙のルールがある。
びっくりするくらい、一般的な感覚で人物の口調をチョイスすると、ウケないのだ。(笑
お姫様や騎士を主役、あるいは重要なポジションに措いてある作品で、その人物らが「まるで庶民のような口の利き方をする」のだが、これでなければウケないというのかと疑問を持つくらいに、人気の作品というものは、人物像というもの自体がファンタジー(笑)になっている。
私は一般的な感覚の持ち主と自負しているので、この「庶民口調の姫君」というものが耐え難い。(笑
そういう事情があるなら、先に提示してほしいところだし、お姫様がイマドキ女子高生のような感覚と口調を持っているというのは台無しと感じるほうだが、どうやらラノベ読者はこれが逆転しているようなのだ。
リアリティの基準が違っている、という事なのだろう。
そして、これが重要なのだが、一般向けの方では逆に私のような感性が重視され、ライブ感がないものはウケないという状況になっているのだ。
つまり、実際に医療に関連した経験を持つ作者の小説だとか、ルポルタージュがしっかりした小説の需要ばかりが伸びている。本屋大賞を受賞した「海賊と呼ばれた男」も、実在した人物の伝記だ。
ラノベはどんどん荒唐無稽になっており、リアリティ無視の方向へ進んでいる。
一般向けは逆に、どんどんリアリティ重視へと向かっている。
さて、なぜそんな事を書いたかという話を。
人気のある作品がどうにも好きになれない、という人がいるだろうから、そういう人に向けての言葉だ。
リアリティに拘ってしまう人、このエッセイのようなものに賛同する人々だ。(苦笑
先に言ったように、読者の求めが二者ではまるで違う。
何がしか、専門知識に長じていないと今の一般向けは狙うのが厳しい。
私は幕末が好きだが、それを武器にしようと思えば、とんでもない情報量を持っていないと通用しない、ということなのだ。学芸員になれるんじゃないかと思うほどに幕末を知っていないと、幕末を書いても、鼻で笑われるだけだ。
大学進学率が上がって、猫も杓子も大学に入れるようになったから、平均的にみんな知識をたくさん持っているということなのだ。
幕末を書いた小説を読むのは、幕末が好きな読者だが、その読者は当然のことで豊富な知識を持っている、ということだ。生半可な知識程度で書いても恥を掻くだけ、という状況なのだ。(笑
想像力だけで勝負するならラノベしかない、という状況にある。
だが、ラノベでは一般向けとはまるで違う定規が必要になる。ラノベ用の定規だ。それが、「安っぽい庶民のようなお姫様」という現象の正体だ。
読者は決して、安っぽいという感想は抱いていない。(苦笑
単に、ロイヤルファミリーのクオリティがどんなものかの知識がないだけの事で、それが違和感だと知らないだけなのだ。
天皇家の方々はお上品だろう、学習院や御茶ノ水という名門学院は空気が違うだろう、お嬢様というのはああいう空気を醸し出すのだ。そういう事がすぐに浮かんでくるのが「一般向け」の読者なのだ。
それは、感性に直結した「知識」のなせる技で、コモンセンスというものだ。
一般教養、常識、というものだ。
ラノベの読者はまだそこまで直結してはいないから、違和感を感じなくて済んでいるのだ。
狭い世間しか知らない中高生だから、許容範囲が広い、ということだ。
一般向けとラノベでは、かようにアドバンテージから変えていかねばならない。
一般では、ちょっとでも常識に外れる要素を書こうと思えば、説得力がなにより大事になる。
ラノベでは常識無視でも気にしない自由な感性が必要とされる。大らかな気持ちが大事だ。
ラノベでは、「解かりやすい」「伝わりやすい」が最優先だ。お嬢様のリアルな上品さよりも、庶民感覚な親しみやすさが優先されるのだ。例え、コスプレお嬢様かよ、という一部読者の厳しい批判が入ったとしても。
ちなみに私は、主役にコスプレお嬢様が登場しただけで萎える。(笑
私と同様の感性を持つ人は、いっそラノベ作家を目指すのは諦めて、一般向けを狙ったほうが近道かも知れない。今では狭き門、専門知識を武器に、受験並みの猛勉強を必須とする分野だが。(笑
ラノベを卑下しているわけではない。
二つに分かれてしまった、と言っているのだ。
アプローチの方法が、二者でまるきり違うようになってしまった、と言っている。
専門知識を必要とするリアリティ重視の分野と、想像力がモノをいう発想重視の分野に分かれた。
一般向けで専門知識が弱くても狙えるジャンルは「推理」である。刑事モノが隆盛だ。
それだけを見ても、言ってる意味は解かってもらえると思う。




