第四十七話 ニーズの探り方
さて、そろそろ終盤にしたいなと思っている。
これはビジネス、製造業の話ではあるが小説も同じことなので。
まず、読者が普段漏らしている要望を鵜呑みにしてはいけない。これは有名な話だから、どこかで聞いた事がある人も多いと思うが、知らない人向けに。(笑
顧客が「こう、丸くてさ、カッコイイのがいいね!」と言ったとする。そこでまん丸のモノを作ってもダメだ、本当に作るべきは楕円だったりする。
つまり、顧客が本当に求めているのは、柔らかいフォルムのスタイリッシュさ、なのだ。丸くてカッコイイと言いつつ、主なのは”丸”ではなくて、”カッコイイ”の方なのである。
丸くてカッコイイモノを、と言われれば、競合各社は丸いものをどんどん作る。だが、そこへあえて楕円をぶつける、という事だ。
丸いモノは、本来、かわいい、に属するフォルムだ。各社はそれをなんとかカッコイイに擦り合わせてくるのだが、ニーズは元からカッコイイの方だから、こっちを主体にすればそんなに苦労はしなくていい。
丸いの要素を削りに削って、カッコイイを打ち出したモノを作ったら、独り勝ちも見込める。
とまぁ、ここまではビジネス書にはよく書いてあったりする。(笑
本題はここからだ。上記はつまり、「リサーチとニーズには齟齬が生じやすい」という意味だ。
ラノベでは学園モノが流行っている。女の子とフツーの学園生活、ラッキースケベ……これが流行っていると考えるのは間違いで、単に「溢れている」だけだ。
読者が求めているものに”近いモノ”ではあるんだろう。売れているということはそうだ。
そして、溢れているということは、「惜しい」ということでもある。本当のニーズからは微妙にズレているから、溢れていて、そこそこは売れている。
あれだけの数が出回っていれば、数撃ちゃ当たるの法則で、一世を風靡するような作品が出てきてもよさそうなものだが、出てこない。あ、劣等生が出たか。
だが、劣等生は、「学園で、フツーで、ラッキースケベ」だったか?
違うだろう。
その違いが、本当のニーズに掠る部分だったから、あれだけ売れた。氾濫してる全てを押し退けた。
ニーズは「過当競争」だよ。
劣等生と似たモノを作っても、氾濫する学園フツーモノより売れなかったりする。なぜなら、劣等生がシェアをほとんど食うからだ。同じくVRMMOも、業界はシェアが残っていないと見越しているから出さないのだと思うね。
顧客の満足度と、需要と供給の間には複雑な関数がある。80%の満足を引き出す製品が一つ出れば、顧客はそれで満足してしまう。残ったシェアは20%だ。
しかもニーズが明確になったから、ニーズに即した優れた作品がすぐに出てきて埋めてしまう。
VRMMOは、BTOOOM!とSAOとログホラの三作でほぼ独占した。あと、オバロが登場したことで打ち止めと思われたことだろう。
サイコパスの登場が、SF復権に繋がれば、あるいは”宇宙”がもっと求められてスターウォーズ系の作品のニーズが生まれてくるかも知れない。
だが、今はラノベ全盛期で、”小難しい”のレッテル貼られたSFは出る幕がない。(苦笑
SFは外向きの知的探求、ラノベは内向きの知的探求で、SFが社会など外枠に目を向けるモノである事に対し、ラノベはあくまで主人公周りの人間関係が主軸になる為に、片方が流行っている時にはもう片方は逆風になるという事は仕方ないと思うのだ。
さて、乱造状態という事は、顧客が満足出来ていない、ということで、お試しで片っ端から読み漁っている状態だ。ワンピースは累計20億、けれど似た作品で売れているものを私は思い出せない。
ドラゴンボールもそうだった。ハルヒ登場の年もそうだったかな? セーラームーンも独占だ。
これは、パソコン製品でアップル社製だけが”アップル”であるようなモノだ。替えは効かない状態だ。
これを本当の「勝ち組」というんだ。
顧客は一つのニーズを満足させる製品に出会ったら、「そのニーズはそれで追うのを止めて」別のニーズを満たすべく動き始める。VRMMOでも”違うモノ”を求めるのだ。
ニーズを探る時には、だから「独り勝ち」作品を絶賛する声は無視しなければならない。
今売れている作品が少数独占の状態ならば、そのニーズはすでに旨みがないという事だ。
そこを狙ってはいけない。
最近、新刊扱いの本屋をリサーチした。
ラノベはスペースが多く取られているが、よくよく見れば数種のシリーズが全巻展示で埋めているだけだった。それが現状だ。売れているのは、数えるほどの、少ないメジャー作だけだ。
そこのニーズはすでに飽和状態だという事を示している。
わずか三作でニーズが埋まることもある、それを忘れてはならない。
今売れているモノの真似をしたってダメなのだ。読者が次に何を求めてくるかを先回りで、ヤマを張らないといけない。賞の選考者もそれを前提に作品を選んでいる。
次に読者が求めるニーズは、確実に、「今最大で売れているような作品」とは違うものだ。
それだけは確実に言えるのだ。
その「確かな事さえ解かっていない投稿者の作品」は、編集者の目に止まったりはしない。
まだ流行無視の方がマシだ。まだ、”真似ではない”という価値がある。
劣等生は爆発的に売れた。ベースにはラノベ市場の巨大化があったにせよ、そこで今まで売れてきた作品とは一線を画していたはずだ。
似たような路線だったら、あのヒットはなかった。
「はがない」「俺妹」「中二病でも」年間で売れているラノベ作品でも似た傾向のこの三作が、「学園で、フツーで、ラッキースケベ」のニーズを食い尽くしている事に気付かねばならない。
これらと同じ土俵、同じベースで、どんな小手先の工夫をしても、もはや入り込む隙はない。
それで満足してしまった読者の、次に求めるだろうニーズにヤマを張って作品を作るのだ。
次に流行るキーワードはもう出ているかも知れないし、劣等生のように、「何も考えず好きに書いていた作品」からいきなり発生するかも知れない。
本来、「これは編集者の仕事だ」というのは、そういう意味だ。
作者はじっくり時間をかけて「好きなように作品を書く」、それをその時のニーズに合せて編集者が掘り出してくる、だったら、作者はニーズなど考えず、好きに作品を書いて、時代の求めがやってきた時に備えたほうがいい。(笑
FXで株を買うのとはワケが違う。作品は一日二日で書けないんだから。(笑
流行に乗ろうと無理をするより、面白いと思う設定で他にないものを考えるべき。
そして、ラノベのブームはまだまだ続くから、「人間関係を主軸に置いた内向性」だけは外さないほうがいいね。学園だのラッキースケベだの、細かなファクターではなく、もっと大きな軸に目を向けよう。
ラノベは、人間関係がキモだ。
ラノベは、ヒロインがキモだ。
ラノベは、小さなセカイの描画だ。
ラノベは、こじんまりと狭い範囲で見渡せる。
以上。(笑




