第十四話 「中世ヨーロッパ風」の落とし穴
中世ヨーロッパ風の街並みが広がっている。
これで済ませても別に問題はないよ。弊害とか落とし穴はもちろんあるけどね。
中世ヨーロッパ風の街並みと言われて、どんな風景を思い描くか。
読者が思い描いたその絵が物語のベースになるから、「それを裏切る描写はNGとなる」を忘れていないかい?
具体的にいこう。
中世ヨーロッパ風の街並みに放り出された主人公が居る。
さて、主人公はその街角で人と待ち合わせをしているよ、と。
待てど暮らせど、その人が来ねーんだよ。
ガス灯の下でじーっと待ってるんだよ。夜はなかなかロマンチックだよ、中世といいつつガス灯だけどね。(笑
綺麗な街並みだ、整然と並んだ建物でね、観光地みたい。ゴミの一つも落ちてないよ。ンコなんてもっての他だね。
くそ、ふざけんな、いつまで待ってりゃいいんだよ、女の支度は遅いとはいえ、遅すぎんじゃねーかよ、あのアマ、なにやってやがんだよ、てなもんだね。
昨夜は雨が降ったんだ、ちょっと肌寒いかな。
そこへ、ちょいとスピード出して急いでる風の馬車が来るのが見えたんだよ。
轢かれるのもヤだからちょいと退けてね、そしたら、思い切り泥を跳ねあげて行きやがったんだ。
・・・さて。
ギミック仕込んであるから、具体的によく解かってもらえたんじゃないかと思う。
馬車に泥を跳ねあげられた瞬間に、路面が石畳から茶色い土色に変化しなかったかい?
順応力の高い人は、その程度だね。流し読みしてた人とかね。
けれど、はっきりとその情景を描写しながら読んでた読者さんには、奇妙なことが起きたわけだよ。
「ガス灯」「綺麗な街並み」「観光地」こんなキーワードがずらずらしてんのに、その街の路面が土だなんて、ふつうは想像するか?
そこは、お約束は、「石畳」だろう?
そしたら、読者さんはこう思うんだよ。「文章ヘタクソだな、」と。
そりゃそうだよね。(笑
情景描写はそういうわけで、必要な部分は余すことなく書いておかねばならない。
推理小説で、提示されてない部分をいきなりトリックに出されたら、読者は怒るだろう、それと同じだ。
ダイジョウブ。後から付け足しときゃいい。
けど、後から読み返して足りない部分を補うにしても、量が多いと投げたくなるからね。(笑
この現象は、とくに文章を重くして堅い文面を心掛けてる作品で「やっちまう」と致命的だ。例文で出したような軽い文章なら、さらりと流してくれるだろうから下手すりゃ気付かれもしないけど。(笑
表現は、文体とか作品の雰囲気で変わるものだから、一概に良い悪いは決められない。
必要な部分、例文での「石畳ではない未舗装の道」や「中世といいつつガス灯」は書かなきゃいけない情報だが、さて、「中世といいつつガス灯」と言われたら、読者は必ずそこに注意を向けるだろう。
それを先回りで予測しないといけない。それが、必要な部分を描写で提示するということだ。
中世風なのに、どうしてガス灯あるの?という疑問を放り出したままで進めてはいけない。
小説の基本的なお約束が二つある。
●読者は作者の提示する物語を「素直に」想像しようとしなければいけない。
●作者は読者が指示に従って想像しているのだから「裏切ってはいけない」。
裏切りも手法のうちだけど、それには相応の覚悟を持ってやらねばいけないってのは言わなくても解かるはずだ。裏切ってばかりの作者はそのうち期待されなくなる。(耳が痛いよエタ癖も一緒だからな)
初心者でもなきゃ、最初に言った「石畳⇒未舗装でしたーっ」なんてのはやりゃしねぇ。
慣れた作者の盲点は、「中世といいつつガス灯」の方が圧倒的に多い。
それが、矛盾であり、整合性のなさ、ということになる。
意味は一緒だ。未舗装でしたーっ、というのと目糞鼻糞。
いくら素直に「中世だけどガス灯」を想像しようと思っても、読者さんの気持ちになってみ?
なんでガス灯あるんだよー!?て思ってんのに、無条件で従えるか?
だから、矛盾だらけや整合性の無い作品はアカンってのよ。
ところで、エタ作品の始末だが・・・。
無茶苦茶なエンディング付けるくらいなら、そのまま放置しとけよ。(苦笑
消すのは、気に入ってくれた読者さんに失礼だ。
それと同じくらい、テキトーに終わらせるのは失礼なことだ。
置いておくのは、いわば晒し首だ。
自分の恥は、隠さずに晒しておけ。
いつかキチンと始末をつけて書き上げるまでは晒し者で居たほうがいい。
気になって、心に引っ掛かって、いつか仕上げます、と心で詫びながら過ごすようになれば、本当にいつか仕上げられる。だから、消すのは一番無責任で、テキトーに終わらせるのは次に無責任だと思うよ。
エタってる作品の始末、いっそ消したほうが読者さんの気持ちは楽になるんだろうか。
いつ終わるか解からなくても、残っているほうがマシなんだろうか。
考えると苦しくなるから、取り返しのつかない方法だけは取らないで放置しておく。
いつか必ず続きを書こうと思いつつ、何年と過ぎていくのが苦しいね。




