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無気力ニートの諸事情  作者: 氷硝栖
無気力ニートの日常
3/4

無気力ニートの仕事

影無家の騒がしい朝食を終えると、嵐が去ってゆくように静かになった。

兄と姉は仕事場へ。妹である里紗は学校に行っている。

オレも仕事の真っ最中。

だから影無家が静寂に包まれているわけである。

うん?何の仕事かって?

聞くだけ愚問だと思うけどなぁ……。

ま、その度胸に免じて教えてあげるよ。

オレの仕事は警備員なんだ。どうだ、かっこいいだろう?

ああ、でも博物館とかでの警備員じゃないから。

え?じゃあどこの警備をしているのかって?

決まっているよ。

自宅さ。

やることがない人たちは自宅警備員をやって、生活費を稼いでいるんだから、オレもやって当然だ。

それで毎日を生き抜いていけるなら。

でも、何もしないってのも兄貴たちに迷惑がかかる。

だから、少しぐらいはまともな仕事をするんだ。

電話があったら居留守。チャイムがなっても居留守。泥棒が入ってきて対決。……最後はないな。


ピンポーン。


こんな昼間っから仕事か…。まったく、無駄な体力を使わせるなよ。

ってことで仕事その1、「居留守」を発動。


ピンポーン。

再び敵の襲撃音。

……ダレモイマセンヨー………。


しばらくするとチャイムは鳴らなくなった。

…よし、撃退成功。

オレの平和な生活を邪魔する者は消えた。


ジリリリリン、ジリリリリン………。


…今度は電話か。

今日はやたらと仕事が多いな。まったく、笑えないぜ。

それじゃ、仕事その2を使おう。

必殺、居留守の術。


ジリリリリン……ジリリリリン……。


中々鳴り止まぬ。どういうことだ。


ジリリリリン……ジリリリリン……。


ええい、こうなったら最後の手段を行使してやる。


「おかけになった電話は、現在使われて……」


『久しぶりじゃないか、新人。いるなら玄関を開けてくれよ』


「…霧風くんよぉ、決まり文句は最後まで言わせるのが基本だろ?」


『こっちは少ししかない時間を使って訪ねてきたんだ。だから、このドアを開けてくれ』


「すまんが、断る。不審者を家にあげるしきたりは我が家にはないんでね」


『…そうか、なら仕方ないな』


「さっ、わかったんなら帰ってくれ」


『こっちも最終手段をとるか』


「何だよ、最終手段って。ドアでも壊すつもりか?」


『そんな乱暴なことはしないさ。ほらよ』


ほらよ?


『もしもし、私。雫よ』


「……げっ……」


『今、あからさまに嫌そうな声を出したわ』


「だっ、出してないって…」


『そういうことだから、ここを開けて。じゃないと、ドアを破壊する』


「……結局、うちに上がり込むつもりなのかよ…」


プツンッ………ツーツーツー………。


ドア破壊宣言をされた後、一方的に電話を切られた俺の立場って……。

仕方なく、客が突っ立っているであろう玄関を開けると、見慣れた顔がそこにあった。


「やっ。こうして会うのは高校の卒業式以来か」


「……そうだな」


そう爽やかに挨拶をしてきたのは、霧風孝明(きりかぜたかあき)

俺の幼稚園時代からの友人だ。(腐れ縁とも言うが)

体型はほっそりしていて人畜無害そうだが、メガネに対してはとてつもない愛情を注いでいる変人である。

本人いわく、


『緑ぶちメガネ以外は認めん!!』と豪語しているほどだ。

それにも関わらず、モテるんだなぁ、これが。……まったく、世の中はどうなってんだか。

ま……、成績優秀で運動神経もよく、リーダー性も兼ね備えてるもんなぁ。

……モテて当たり前か。


「私のことは無視?」


「……俺は聖徳太子じゃないから、2人同時に話すことは不可能だ」


「……そうだったの」


「…何でそんな哀れみの目で見るんだよ」


「いえ、別に、何でも、ないわ」


「そうかい……」


俺はこいつが苦手だ。名前は森川雫(もりかわしずく)。孝明と同じく、俺の幼なじみである。

常に冷静沈着。悪く言えば感情の起伏が少なく、無愛想なやつだ。

親ゆずりらしい栗色の長い髪は、学生にはない艶っぽさを放っている。整った顔立ちには似合わぬ細くのばされた目。

そして、見た目のとおり頭はいい。

これで男たちがよりつかないわけがない。

だが、どういうわけか雫は全ての告白を断っているらしい。


「ねぇ、新人」


「……何だよ」


「好きよ」


「…友達として、だろ?」


「やっぱり新人はつまらないわ」


そう言い残して、雫は家主のいない影無家へと入っていった。


「…どういう反応すりゃよかったんだよ…」


「それは決まっている。驚いて、頬を赤らめてほしかったんだろう」


「…お前の言うことはあてにならんからな」


「失敬な!これは面白そうだと思っただけで…」


「やっぱり楽しんでたのか」


「……うぐっ…」


「家に上がりたいなら早くしろよ。こんなとこに野郎二人とか、寒すぎて笑えない状況だからな」


「それには深く同意するよ」


そうして、俺たち幼なじみ3人は玄関前から姿を消した。

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