キメラ
人は誰しも、内に語られぬ多様性や葛藤を秘めて生きています。「キメラ」という怪異的な響きを持つ言葉は、一見すると異質な恐怖を想起させますが、本作ではそれを「受け入れるべき個性」であり「愛の試練」として描きました。
ネットを通じて出会ったふたりが、異形という運命を超えて手を取り合う瞬間。それは、見た目や条件に惑わされず、相手の本質を見つめることの尊さを物語っています。人混みの中で触れ合った手の温もりこそが、境界線を溶かす唯一の真実だったのかもしれません。
━━キメラ
その言葉は私の心を魅惑した
彼がメールでそのことを告白してきたのだ。
どうやら彼の遺伝子は、ふたつの生物形態をひとつにまとめるように二重構造になっているらしかった。
ネットの出遭い系サイトで初めて言葉を交わしてから数時間、間もなく彼は駅に織り降り立つ頃だ。
わたしは出来れば乗降客の雑踏には呑み込まれたくはなかった。
ホームのベルが鳴り響く中、人混みの向こうから現れた彼の瞳は、驚くほど深く澄んでいた。二重構造の遺伝子という数奇な運命を抱えながらも、彼は優しく微笑み、差し出された手は温かかった。
異形への恐れは瞬時に吹き飛び、わたしの心は確かな愛おしさで満たされていく。ふたつの形態を内に秘めた彼と、その全てを受け入れたわたし。私たちは雑踏を抜け出し、ふたりだけの新しい物語へと歩み始めた。
ふたつの命を宿した切なくも美しい存在と、それを受け入れる純粋な愛を描きました。常識を超えた絆の温もりが、読んでくださった方の心に少しでも届いていれば幸いです。




