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虐げられていた魔眼持ちの少年が、炎系最強能力者の激重お嬢様に救われて溶けるほど甘やかされる話  作者: 和泉剣太郎(旧:やる鹿)


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第14話



 不動院灯が先代のおきしか使えなかった奥義、天照を放った次の日。

 

 咲雲さくも日之出ひので学院、高等部二年Aクラス。

 昼休み。


 オレ、あまかぜ鏡介きょうすけの席は、女子たちに囲まれていた。


「ねぇ鏡介くん、昨日の夜の討伐、すごかったんでしょー?」

「ニュースで見たよー! 不動院の先代の技が出たって!」


 どいつもこいつも媚びるような声だしやがって。

 顔もよく知らない、おそらく別クラスの有象無象たち。

 でもオレは悪い気がしなかった。

 注目を浴びるのは好きだ。


「いやいや、オレはちょっと風吹かせてサポートしとっただけやで。全部不動院の次期当主様のおかげや」


 オレが愛想よく笑って答えると、女子たちは「またまたー」「謙遜しちゃってー」と黄色い声を上げる。

 適当に会話を回していると、バンッ、と机を叩く音がした。


「相変わらずチャラチャラして……天ツ風の面汚しね。久々に来たと思ったら注目浴びたかっただけ? 今年も出席日数足りなかったらどうするの? 鏡子ちゃんの真面目さを見習いなさい」


 腕を組んでこちらを睨みつけていたのは、水無瀬みなせ凛々りりこだった。

 オレも大概だがこいつはエリート意識の塊みたいな女だ。

 ちなみに鏡子というのはオレの双子の妹だ。


 他クラスの女子たちはこの場にいれば自分たちも要らん小言を言われるのが分かってるので、そそくさと退散していく。


「なんや凛々子ちゃん、ヤキモチか? よかったら放課後お茶でも……」


「結構よ。そんなんだから、灯にも相手にされないのよ」


 凛々子は呆れたようにため息をついた。


「灯はどうせいつかオレが落とすんやし気長に見といてや」


 何年もやってるいつものやり取り、いつもの流れ。

 だから、このあと様式美のように「アンタには無理に決まってる」みたいな言葉が返ってくると思っていた。


「……んー。気長にねぇ」


「へ? どうしたん凛々子。歯切れ悪いな」


「……灯も灯よ。最近、妙な一般人の男に熱を上げてるし……この前なんか、その男が吐いたものを素手で拭ってたわ。狂ってるとしか思えない」


「……は?」

  

「灯が、男に? 不動院が勝手に決めた見合い相手とかやなくて?」


「ええ。何考えてるのかしら。今日もサボって何してるんだか。まぁ、長くは保たないでしょうけど」


 凛々子はそれだけ言うと、会話を切って不快そうに座る。

 「灯……昨日の活躍聞きたかったのに」とか小声で本心が漏れてる彼女を横目に見る。


 さっきの言葉を反芻しながらオレは、窓の外の景色を見つめた。


 あの、他人に一切興味を示さない高潔な不動院灯が、男に熱を上げている?

 信じられなかった。


「そういえば昨夜の過剰な反応……」


 灯が怪異討伐を達成したあと、何かのきっかけになると思って話しかけに行った。


 その時の灯の反応が少し気になった。


 別に守護四家の権力で男一人囲うくらい何でもないようなことに思える。

 しかし灯は必死に何かをオレから聞き出そうとしていた。


 ……事実、オレは詳しいことは何も知らなかった。

 ただ、天ツ風家で腫れ物の叔父貴が井ノ原と組んでいること、そして不動院が一般人の男を保護してること。


 一般人の男? まさかな。 


「さっき言った男って……」


「あ。あれよ。Fクラスに転入してきた砂見って男」


 凛々子が指差す先にいた、廊下を歩くその一般人の男を、オレは身を乗り出して凝視した。





 数年前のあの日。

 大規模な怪異討伐作戦の山中で、オレは遠巻きに見ていた。

 自身の『原初の焔』が暴走し、全身を焼きながら生き地獄を彷徨う灯の姿を。

 大量の大人達に囲まれながら、見ないように顔を覆われても、オレは見ていた。


 すでに十時間以上も燃えている十三歳の少女を、誰も助けることはできなかった。


 ただ、周囲を巻き込まないように一人で山の奥深くへ歩みを進める彼女の背中は、ひどく悲壮だった。


 そして、数時間後。

 いまだ退陣しない天ツ風の拠点でうとうとしていた頃。


 大人たちのざわめきに、オレは誘われるように外に出た。


 ──そこで見た彼女の顔を、オレは生涯忘れないだろう。


 不動院の大人達に囲まれ、医療班が怒号を叫び合い指示を出し合う中。

 炎が消え、煤だらけになった灯は悠然とその場に佇み、まっすぐ前を見つめていた。


 あの目は、何だ。覚醒したかのように澄んだ瞳は。


 泣くわけでも、喚くわけでもない。

 憑き物が落ちたような、清々しく前を向く、美しい横顔。

 十八時間地獄の業火に焼かれ続けた人間のできる顔なのか。


 彼女がどうやって炎を鎮めたのかは分からない。

 でも、あの表情を見た瞬間、オレの心はヤられてしまっていたのだろう。


「……どんな男か知らんけど、灯の笑顔を曇らせるような奴やったら、オレが潰す」


 立ち上がり、Fクラスの教室へと向かった。





 Fクラスの教室の入口。

 オレは、努めて普段通りの軽い声を出す。


「こんにちは~。砂見くんいますか~」


 座っていた女子生徒が答える。


「え? あ。お、奥にいますけど」


「ありがと~」


 すれ違いに「やば。Aクラスの鏡介くんじゃん。イケメンすぎ」「ちょ、これ思い出になるやつ」とか騒ぐ女子たちに愛想笑いを振りまきながら進む。


 教室の一番後ろの窓側に、さっき凛々子が指差した男がいた。


 身長は百七十ほどで、線は細い。

 整った顔と色の白さ、そして背中にかかるほどの長い黒髪をひとつ結びにしてるせいで。

 なんか女みたいやなと思った。


 そしてオレは、そのオンナ男の隣にいる坊主頭の高身長で筋肉質なザ・男の方を見て驚いてしまった。

 

「え、釈迦虎しゃかとら……? お前何してん?」


「おー、鏡介か。どうしたこんなところまで。あ、何してるかって? ()()に格闘術教えてんだよ」


 この目をギラギラした男は去年、一年時に問題を起こしまくった不良男だ。

 性格はまっすぐでバカとしか言いようが無いのだが、とにかく肉弾戦が強い男だった。

 オレはその強さに期待して手駒にしようと思っていたのだが、あまりにもプライドが高くバカすぎることと、一般からスカウトされた守護四家の加護がない『はぐれ』だったことが誤算だった。

 結局上手く扱えなかったオレは、ちょっとした友達くらいの関係に留まっていた。

 『はぐれ』と言えど、スカウトされただけあって霊脈は豊富にある。

 さらに白兵戦は学年トップクラス。


 なのに今年Fクラスってどれだけ世渡り向いてないんだよ。


 で、その、プライドの高いやたらと腕っぷしの強いバカが。

 何て言った?


「兄貴やって?」


「おう。鏡介、おれはな。砂見の兄貴のために生きるぜ」


「何があったんや……」


 こいつを手懐けるとは。とりあえず釈迦虎はもういい。

 オレは警戒レベルを上げて、隣に飄々と立ってるオンナ男にターゲットを変える。

 

「オレは天ツあまつかぜ鏡介きょうすけや。Aクラスで、昨日も怪異討伐に参加してた。単刀直入に聞くけど自分、灯とどういう関係なん?」


「……天ツ風。灯さんは、命の恩人ですけど」


 頭から足の先まで観察するが、何も感じられへん。

 このオンナ男に灯が熱を上げてる?

 うっそやろ。


「そっか。いやー、実はオレと灯、昔から家公認の仲でな。いわゆる許嫁? 今は彼女みたいなもんやねん。あいつ寂しがり屋やから、オレがずっと面倒見とるんよ」


「え……」


 






 放課後。


 俺と鋭鈴さんは二人で居残り勉強をしてから帰宅した。

 鋭鈴さんを本邸の宿舎に送ったあと、灯さんの別邸に向かう。


 灯さんは今日、朝から学院を欠席していた。

 怪異関連の仕事というわけでは無さそうだったが、朝から色々バタバタしていたな。


 扉を開ける前、今日の昼休み、天ツ風家の人間だという、カッコイイ男に言われたことを思い出す。

 午後はずっとそのことを考えていた。


 許嫁だと……言っていた。


 そりゃそうかと思う。

 不動院家の未来を嘱望されている令嬢。

 同じ守護四家の天ツ風との縁談があってもおかしくない。


 手をかけると、今まで知らなかったが、扉が冷たく感じた。

 そのまま開けようとすると、ガララと勝手に開いた。


「──おかえりなさいませ! 閑様っ!!」


 奥から現れた灯さんの姿を見て、俺は言葉を失った。


 いつも完璧に着こなしている和服の上に、不似合いなフリルのエプロン。

 美しい顔には黒いすすがつき、いつも整っている髪の毛がところどころ跳ねていた。


「灯さん……その姿は一体……?」


「ふっふー。驚きましたか? 殿方は手作り料理に弱いと聞きました。それで今日一日かけて閑様のお口に合うような料理を用意したのです!  ……少し、焦げちゃいましたけど」


 灯さんは、煤で汚れた顔をほころばせ、えへへと無邪気に笑った。

 最強の能力者である彼女が、俺のために学校をサボってまで、慣れない料理をしてくれた。


 ──ここ最近、恵まれすぎていた。


 もし俺がここで、彼女の手料理を食べたら。

 もしそれが天ツ風の耳に入ったら、灯さんの立場が悪くなるかもしれない。

 俺はあくまで、保護されただけの一般人だ。分をわきまえなきゃいけない。


 そもそも、同じ屋根の下で暮らす事自体、許されることじゃない。

 今日、あの人が忠告しに来たということは、噂が流れている可能性がある。


 俺は、馬鹿だ。確実に思い上がっていた。恥ずかしい。


「……ごめんなさい、灯さん」


 俺は、ギュッと拳を握りしめ、あえて冷たい声を出した。


「俺、料理は食べれません」


「え……?」


 灯さんの笑顔が、ピシリと固まった。


「し、閑様……? もしかして、焦げてるからですか? 大丈夫です、焦げたところは私が全部削ぎ落とし──」


「そうじゃなくて。俺はただ居候させてもらってるだけなんです」


 わざと突き放すように言うと、灯さんの大きな瞳から、すっと光が消えた。


 恩人にこんな振る舞い、胸が張り裂けそうだったが、俺は彼女から視線を外して言葉を探す。

 もうここには居られない。

 これ以上何を言えばいい。

 動かない頭で、考える。

 さっきまで一緒にいた人の顔が浮かぶと、俺はそのまま声に出していた。


「……そうだ。今日は鋭鈴さんの部屋に泊まります」


「…………え?」



 そのまま扉を閉める。

 扉の向こうで灯さんがへたりこんだ音がしたが、俺は聞こえないフリをして立ち去った。











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