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虐げられていた魔眼持ちの少年が、炎系最強能力者の激重お嬢様に救われて溶けるほど甘やかされる話  作者: 和泉剣太郎(旧:やる鹿)


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第12話






 今日は一般教養の座学ではなく、実習の日だ。


 グラウンドの端にある、土が剥き出しになった第三訓練場。

 俺たちFクラスの生徒は、支給された動きやすいジャージに着替え、整列していた。


 目の前に立つのは、筋骨隆々で顔に大きな傷がある実技教官。


「いいかヒヨッコ共。俺は大地を司る金剛寺こんごうじの分家出身、阿形あがただ。お前らに求めることはただ一つ。『一般人を守る壁になること』だ」


 教官の野太い声が響く。


「才能ある守護家の人間が怪異を討伐してくれるまで、お前らは時間を稼ぎ、被害を抑える。それが国民を守るための──」


 霊脈に優れた人間は少なく、非戦闘員や研究職志望が多いFクラスの生徒たちは、あからさまに士気が低い。

 教官を無視して「マジかよ」「痛いのは嫌だぜ……」と不満の声が漏れている。


 教官の長い説教が終わり、準備に入った。

 俺が支給された身の丈ほどもある重い『大盾』を構えていると、何人かの男子生徒がニヤニヤしながら近づいてきた。


「おい、転校生。お前、不動院のコネなんだろ?」

「すげぇよなー。あの教室でスーツ着てる超美人に、身の回りのお世話して貰ってんのか? ()だけじゃなかったりして?」

「ぎゃはは」


 下品な煽りだ。

 だが、俺は昔からこういうのには慣れている。

 そういう対象だった幼馴染の小春を思い出し、少しだけ胸が傷んだ。


「コネというか、助けてもらった恩があるんだ。彼女たちに恥をかかせないように、俺はここで頑張るつもりだよ」


 俺が真摯に答えると、彼らは「……なんだよ、クソ真面目」と毒気を抜かれたように顔を見合わせた。

 そこへ、着替えに時間がかかっていたのか、何か急用があったのか、遅れて鋭鈴さんがやってきた。

 ジャージ姿でも隠しきれないプロポーションに、男子たちの視線が釘付けになる。


「遅れました。申し訳ありません、教官」

「……おう。不動院のか。いいぞ。位置につけ」


 厳しい教官が、鋭鈴さんを咎めることはなかった。

 男子生徒の一人が、俺に耳打ちする。


「けっ。守護四家のゲタがあるやつはいいよな。俺達が遅刻したら殴るくせに」


 ピーーーッ!

 教官の笛が鳴った。


「課題は『防衛ラインの死守』だ!  制限時間三分、この線の後ろに一体でも通したら失敗だぞ。来い、泥人形ゴーレム!!」


 阿形教官が地面を叩く。


 すると土が盛り上がり、体長二メートルを超える泥の化け物が、十体以上も姿を現した。


「ルールとして、お前らがゴーレムを倒してしまうのは禁止だ。あくまで壁になって耐え抜いてみせろ」


 泥人形の動きは遅い。だが、圧倒的な質量だ。

 のしかかられれば、窒息するほどの重さがあるという説明は正しいのだろう。

 そして教官の話によれば、AクラスやBクラスのようなエリート以外、この課題をクリアしたクラスはないらしい。


「うわぁぁっ!」

「無理無理無理!」


 大盾を支給されているのに、まともに使う人間はいない。

 泥人形が迫ると、恐怖で逃げ出すか、盾を持ってぶつかってもその衝撃に放り出して逃げてしまう。


 ピーッ!


「失敗! 次!」


 何度かチャレンジするも、結果は同じだった。

 誰も怪我をしたくないし、泥にまみれたくない。モチベーションの低さが致命的だった。

 徐々にクラスメイトが防衛ラインに寄り付かなくなる。


 しかし意外にも教官がそれに檄を飛ばすことはなかった。


 ちなみに鋭鈴さんは華麗な体術で泥人形をいなしているが、彼女も「倒すのは禁止」というルールに縛られているため、数体を引きつけるのが限界だ。


「閑殿」


 息一つ乱していない鋭鈴さんが、俺の隣に来て小声で言った。


「協力者が少なすぎます。この物量では、私と閑殿だけでは防衛ラインを守りきれません。……無駄です。諦めましょう」


 合理的な判断だ。

 でも。


「……いや。俺はやるよ」


 俺は、大盾を構え直した。


 不動院家に妹を救ってくれた恩。

 俺の命は、あの人と共に在る。

 なら、こんなところで、泥人形相手に諦めるわけにはいかない。


 ……っていうのは確かに本音なんだけど。


 もっと深いところの俺の本心は──。


「来いッ!!」


 俺は、迫り来る泥人形の群れの前に、一人で飛び出した。

 ドスンッ!!

 大盾越しに、軽自動車に撥ねられたような衝撃が走る。


「ぐっ……ぁぁぁぁッ!!」


 足の裏が土を削る。

 重い。骨が軋む。

 それでも、俺は一歩も引かなかった。

 今のはよく見てなかった。違う。盾の角度をもっと考えて。


「オラァ! どうした! もう終わりか!」


 教官の怒号が飛ぶ。

 ラインを越えられ、笛が鳴る。


「はぁ、はぁ……もう一度、お願いします」


 俺は泥だらけになりながら立ち上がり、教官を真っ直ぐに見た。

 教官の目が、少しだけ見開かれる。


 周りでサボっていた連中が、ざわつき始めた。


「おい……あいつ、防御霊輪も組まずに生身でやってるぞ……?」

「嘘だろ。あんなの、骨折じゃすまねぇぞ……」


 霊輪というのは、霊脈を操作してあらゆる形にする技術なんだけど、俺はもちろん防御霊輪と呼ばれる基礎的な身体能力を上げるモノも組めない。

 上手く霊脈を操作できないからな。


 でも関係ない。

 余ってる盾をぶっ刺して壁にして、いや、足だけ『眼』を使って破壊するか? いや、烈さんに学園で使うなと厳しく言われているのを思い出す。


 足の速さは泥人形ゴーレムの形状で分かるようになってきた。

 同じように見えてそれぞれ種類があることに気づいた。

 これは、あの地下で延々と解体作業をやっていたおかげかもしれない。

 記憶を辿ると似たような怪異がいた気がする。


 それに単純な振り下ろし攻撃の遠心力を利用して押し返せば、時間を稼げる。

 問題はどうやってその振り下ろしを引き出すかだ。

 他にも──。


 頭をぐるぐる回転させながら何度も挑戦を続ける。

 防衛タイムが「一分二十秒」「一分三十秒」と、少しずつ記録が伸びていることに、みんなが気づき始めた。


 鋭鈴さんも俺に付き合ってくれてる。

 連戦につぐ連戦に、さすがに汗が滲み始めたようだ。


「……くそっ。コネ野郎があんなに泥水すすってんのに、俺たちが逃げてちゃダサすぎるだろ」


 さっき俺を煽ってきた男子生徒が、落ちていた大盾を拾い上げた。

 お、一人でもスペース埋めてくれると助かる。


 それを皮切りに、一人、また一人と、冷めていたクラスメイトたちが防衛ラインに立ち始める。


「砂見! 右のデカいのは俺が止める!」

「一人じゃ無理だ! 三人で押し返せ!!」

「私たちは鋭鈴さんのサポートに回ろう!」


 気づけば、Fクラスの全員が泥だらけになって、必死に泥人形の重みに耐えていた。


 また笛が鳴り、教官が叫ぶ。


「失敗!」


 俺たちは一斉にその場に倒れ込んだ。空が青い。


 あー、ダメかぁ。


「……おい、砂見。なに笑ってんだよ」


 隣で大の字になって倒れている男子生徒が、息を弾ませながら俺を見た。


 ありゃ、ニヤけてるのバレたか。


「はは、今のは惜しかったね」


 しんどくて、身体が痛くて、大変だ。


 でも、もっと深いところの俺の本心は──。


 普通に努力できるこの環境が、楽しくて仕方なかった。


「お前のこと……ただのコネ野郎だって、誤解してたわ」


 その上、仲間も出来そうだ。

 俺は恵まれてる。


「ありがとう。次こそ成功させよう」


 俺はふらつく足で立ち上がり、クラスメイトに向かって手を差し伸べた。






 その光景を、校舎の窓から見下ろしていた。


 私──不動院灯と、水無瀬凛々子の二人で。


 この泥人形ゴーレムを押し返す課題、Aクラスは数が十倍だった上に泥人形の攻撃手段がもっと多彩だった。


 あの阿形という強面の教官もちゃんと実力を考えてやってるんだろう。


「……」


 じっとグラウンドを見つめていた凛々子が口を開く。


「……こ、この前さ……」


「ん?」


 凛々子が、ぽつりと呟く。


「この前、彼吐いてたけど、大丈夫だった? わ、私のこと何か言ってた……?」


「別に何も。私と閑様の間に、凛々子ちゃんの話なんてしてる暇ないし」


「な、なによそれ……! 私はただ、謝罪の気持ちはあるというかっ……」


「それは直接言ってきたら?」


「うぐッ……」


 私は、軽く凛々子に言葉を返しながら。

 瞳には、泥だらけで頑張ってる閑の姿だけを映し出していた。

 何でこんなに心惹かれるんだろう。


「ああ……閑様。泥にまみれてる姿もなんて愛おしいのかしら。今すぐ抱き合いたいわ」


「灯、本当におかしい」


 凛々子は呆れたようにため息をついたが、その視線は再びグラウンドの彼へと引き寄せられていた。


 その直後。

 下から歓声が上がった。


 最後のチャレンジだろうか。

 見事に制限時間の三分間、防衛ラインを死守することに成功していた。


 クラスメイトと抱き合う閑様は、まだ私が見たことのない表情で──。












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