98 再起動
ワスティン大聖堂外・深い森の奥――
「アンドリア……ふっ。最高に面白い」
荒道一狼は地図を丸め、隠し座標を見つめて笑った。
「ボス、俺たち三人だけだぞ。これからどうする?」
アビルが不安げに問う。
「十分楽しんだ~。カルマ値はマイナス九百超え、名前もほぼ黒。王都には近づけない。解散だ。H十字軍はもう出征する必要はない」
「そんな……俺は諦めませんよ、ボス!」
アビルが声を荒らげる。
「諦めじゃない。満足しただけだ。はははは! 次の遊びを探すとしよう。じゃあな」
荒道一狼は軽く手を振り、振り返らずに去った。
……
一週間後。プラムスはかつての活気を取り戻していた。
それでも城壁には、あの夜の炎で黒く焼けた跡が残っている。
逃げ出したプレイヤーたちも戻り始め、小さな家を再建し、商業も再び動き出していた。
ハググは一時的な爆発的経済成長を経て一気に名を上げ、各地のギルドがKanatheonとの同盟交渉を持ちかけてきた。
残る王都はただ一つ――ハイエルフの本拠地、ヴィニフ宮殿のみ。
……
Kanatheon議事ホール――
「そんな手間はいらねぇだろ~。殴り込めばいい」
アンドリューは木の机に足を乗せ、椅子にもたれたまま気だるげに言う。
「放浪者! 興味がないなら黙っていてください。消極的な発言は迷惑です。それに、あなたは幹部でありながら何もしていない。ここにいる資格すらない」
パシュスが激しく言い返す。
「善意で助言してやってるだけだ。それにハググを落とせたのは俺のおかげだろ。忘れるなよ。まこがいなきゃ、こんなザコども放っておいた」
「砲火の中で上陸したとき、あなたは見なかったわ。一太刀受けただけで大手柄みたいな顔しないで。最悪パシュスを犠牲にすればよかっただけ。逆転の鍵はかみこだった。功績泥棒のザコが」
かなは一言一言を鋭く突き刺す。
「へぇ~。ギルド最強にその口の利き方か?」
アンドリューは姿勢を正し、威圧で押し返そうとする。
「最強? 腕っぷしか? それとも頭か? 同レベルだったら、とっくにあなたを再起不能にして髪の毛一本残さず焼き尽くしてやるわ」
周囲からくすくすと笑いが漏れた。味方がいないと悟ったアンドリューは立ち上がり、ホールを出ようとする。
「待って、アンドリュー」
むぐち やよいが真顔で呼び止めた。
「なんだ。俺を犬みたいに呼ぶな」
背を向けたまま吐き捨てる。
「話し合った結果、あなたはまこと魂の契約を解除すべきだと判断した」
アンドリューは即座に振り返る。まこは怯え、足をきつく閉じてうつむいた。
「正気か? 俺は何度もまこを救ったんだぞ!」
アンドリューが声を荒らげる。
「事実です。でもあなたの性格と行動はチームに向いていない。内部対立を生む。長期的に見て契約解除が最善です」
むぐち やよいの鋭い視線が、彼の微細な反応を逃さない。
「まこ! お前はどう思う!」
アンドリューが怒鳴る。
まこはびくりと跳ね、首を振るばかりで答えない。
「脅すな! 早く契約を解除しろ!」
パシュスが肩を強く押すが、アンドリューは岩のように動かない。
細めた目でパシュスを睨みつける。パシュスは思わず手を引いた。
むぐち やよい、ニフェト、かなはすでに武器に手をかけている。
アンドリューは状況を見てため息をついた。
「最初から追い出す気だったんだな。なぜだ? 俺が守ればまこは安全だ。それがわからないのか?」
「まこは強い。誰かの庇護は必要ない。私たちは彼女のそばにいる。十分安全よ」
むぐち やよいが答える。
「即答か。俺をはめたな?」
警戒心が表情に滲む。
「ええ。まこは魂の契約に解除コマンドは存在しないと言った。ではリリーはどうやって自ら解除し……そして死んだの?」
むぐち やよいは正面から切り込む。
アンドリューは一瞬固まり、やがて大声で笑った。
「はははは! それを心配してたのか? 俺が知るかよ! 四次転職できたのはリリーのおかげなんだ!」
「彼女のおかげで四次転職?……説明して」
むぐち やよいは眉をひそめて問う。
「いいだろう。正直に話す。守魂衛が四次転職する条件は、決定的な場面で誰かを守ると覚悟し、命を賭して魂の契約を強制的に結ぶことだ。過負荷も転職条件の一つだ。覚悟の証だからな。あの時、空羽谷で魔物と戦っていた。俺はリリーを守ろうとして四次職した。だが彼女がどうやって契約を解除したかは知らない」
アンドリューは感慨深げに語る。
「過負荷しないと四次職できないの?!」
ニフェトが驚く。
「必ずしもそうじゃない。アンドリアが翼騎兵になった条件は、騎乗せずに飛行マウントと一騎打ちし、力でねじ伏せることだった。征服すれば忠誠を誓う。職業ごとに条件は違う」
アンドリューは笑って説明する。
「騎兵が座騎を使わず戦うなんて、二次転職の騎士に戻るようなものじゃない?」
むぐち やよいは内心驚きながら言う。
「その通り! 騎兵が座騎を使わないなんて普通あり得ない。だから多くが転職機会を逃しても気づかない。これで疑いは晴れたろ? 今の情報は無価値どころか超一級だ。大天使長の件も含めれば、ハググを丸ごと差し出しても足りない。俺がどれだけ重要かわかったか? 大人しく俺を残せ。損はさせない」
アンドリューは得意げに笑う。
「……幹部が戻るまで待ちましょう」
ニフェトは迷いながら言う。
「誰を待つ?」
アンドリューは首をかしげる。
「まつみ……。あれからログインしていない。もう二週間近い」
むぐち やよいがため息をつく。
「あのバカ、なんで——」
アンドリューが言いかけた瞬間、ホールに二つの黒い影が現れる。
【システムメッセージ: フレンド まつみ ログイン】
【システムメッセージ: フレンド かみこ ログイン】
全員が呆然と表示を見つめた。
「かみこ?!?!?!」
衝撃の声が上がる。
「こんにちは」
かみこは微笑んだ。
……




