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一緒に魔王を討伐しよう!  作者: 純白
第二十二章—偽りの人
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89 意味不明

秋祭の夜、ゲーム内の月は異様なほど丸く、真夜中の銀の太陽となって、紺碧の空を支配していた。


かみこは一人、ギルドタワーの城壁に腰掛け、月を見上げていた。


柔らかな微風が太ももをなぞり、きらめく透明なガラスのヴェールのスカートが風に揺れ、どこか孤独な仙女のように儚く見える。


呼吸は荒く、全身が熱を帯びて不快だった。脈拍は弾かれた弦のように震え続けている。


内湖にあるハググ城の街路は薄暗く、外湖の町の灯りに満ちた大通りと比べると、どうしようもなく色あせていた。


バッグから一本の牧笛を取り出し、滑らかな指先で吹き口を撫でると、まつみの奏でるメロディが脳裏に蘇った。


牧笛を柔らかな唇に当て、気ままに音を紡ぐ。


「ふふ~。きみの作曲も、わりと普通だね! ははは。」

背後から、まつみの声がした。


かみこの表情に浮かんだ喜びは一瞬で消え、すぐに氷のように冷えた顔に戻る。

「ギルドの集まりは長引くはず…なぜ、ここに?」


「えへへ~。最初から行ってないよ。ずっとログインしてた。」

まつみはずるそうに笑った。


「接続状態をオフライン表示に? 意味不明。」


視界が白に覆われ、思わず身を引く。焦点を合わせると、ぼやけた白紙が目の前にあった――一枚の絵だ。


城の上で寄り添い、月を眺める二人が描かれている。一本の蝋燭を一緒に握り、冷えた周囲を温かく照らしていた。


「これは?」


「さっきまで、ここで二時間近くぼーっとしてた君の光景だよ。」

まつみは狭い城壁に無理やり割り込み、かみこにぴったり身を寄せた。


「誤り。私は一人で座っていた。周囲に他者はいない。また、月の比率が大きすぎる。彩度も高すぎて現実味がない…二人の間の蝋燭も――」

かみこが真剣に批評を続けようとした、その時。


「――足りないのは、これでしょ?」

まつみはバッグから一本の蝋燭を取り出し、火を灯して差し出した。


かみこは呆然と蝋燭を受け取る。炎のせいか、まつみの手の余熱のせいか、妙に熱い。かすかな灯りが城の最上部を照らし、まとわりつく闇を一瞬で払いのけた。


「気に入った?」

まつみは城壁の外にぶら下げた脚を軽く揺らし、気楽に尋ねる。


「……うん。」


予想外の即答に、まつみは驚いて瞬きを繰り返した。


顔をぐっと近づけると、かみこはわずかに身を引く。

「あなたの行動は理解不能。」


「一生懸命、楽しませてるんだよ? ご褒美にキス、ちょうだい。」

まつみは唇を尖らせ、初々しく照れた笑みを作る。


「キス……で、あなたは喜ぶ?」


「すっごく! 絶対! 人生の意味!」

まつみは希望を見出し、勢い込む。


かみこは眉を寄せ、迷いながらゆっくりと近づいた。


その瞬間、まつみの狡猾な瞳がきらりと光り、顔をぶつけるようにして桜色の唇に触れる。


ちゅっ――甘い少女の香りが広がった。


銀月が高く昇り、無数の灯火が輝く壮大な景色の中、かみこは一瞬だけ、まつみの頬へとそっと口づけを落とした。


「えへへ~。」

蜜のように甘い笑みを浮かべ、無意識に細い腰を抱き寄せ、頭をかみこの肩に預けた。


かみこは身を避けず、そのまま受け入れる。


膝を抱えて身を縮め、顔を埋めて視線を逸らす。

「この報酬……意味不明。」


「そうだ。秋祭、君の両親は来た?」


「来てない。」

かみこは我に返り、再び冷たい声に戻る。


「……あのダメ親。」

まつみは眉をひそめ、そして意を決したように切り出した。

「ねえ。あのホラー映画、もうすぐ上映終わるけど……観に行かない?」


「興味ない。」


まつみは感慨深げにため息をつき、こっそり首を振った。


「でも、少し考えてみる。」

かみこは無表情のまま、まつみを見つめる。


まつみの瞳に、再び希望の光が宿る。

「じゃあ――」


【注意: フレンド アンドリア HPが20%以下に低下しました】


まつみは宙に浮かぶシステム表示を見つめたまま、言葉を失う。


「アンドリア?!」

城壁から跳び降りて屋上へ戻り、フレンドリストを開いた。


【オンラインフレンド: アンドリア 場所:プラムス中央要塞】


「プラムスで何が起きてるの?!」


「城内でプレイヤーと戦闘中。罠の発動、もしくは怪物の解放による虐殺。以上三つの可能性を推測。」

かみこは屋上へ跳び戻り、淡々と告げた。


「怪物を解放? そんなことできるの?」


「課金アイテム異界の魔符。」

かみこは即答する。


「急ごう!」

まつみはフレンド転送を押そうとする。


「なぜ?」

かみこが問う。


「は? 助けに行くに決まってるでしょ!」


かみこの視線は冷たい死物のように変わる。

「「救出の妥当性は?」


「何それ……友達でしょ!」


「彼女は良き競争相手。しかし最終的に銀龍の刻印が滅びる方が、Kanatheonにとって最も有利。銀龍の刻印はムー大陸で最も富み、最大規模で、最強のギルド。存在そのものがKanatheonの成長余地を圧迫する。現在、グズ湿台は精霊評議会の支配下。プレイヤー支配はプラムスとハググのみ。もしプラムスが陥落すれば、Kanatheonはムー大陸最強のギルドになる。裏切りも攻撃もしていない。ただ救わないだけ。道徳的義務は存在しない。今、銀龍の刻印が滅ぶのが最善。」

かみこは淡々と言い切った。


まつみは信じられないものを見る目で、かみこを見つめる。

「アンドリアを……助けないの?」


「提案ではない。客観的計算。むぐち――」


「よく聞いて、かみこ!」

まつみは怒鳴った。


かみこは口を閉じ、静かに見つめる。


「友情、愛情、家族愛! 全部、命を投げ出せって叫ぶんだよ!」

まつみは地面を踏み鳴らす。


「感情。曖昧な概念で非合理な利他行動を正当化する言葉。やがて破滅を招く。理性的に行動すべき。今、私たちは二人だけ。他はログアウト中。アンドリアが危機にあるなら敵は強大。行っても無力。」


「ほんの少しの力で変わるかもしれない! 友達のために動く、それが正しいんだ!」

論理では反論できない。それでも胸の内を吐き出す。


「まつみ。語彙が曖昧になり、感情が理性を上回っている。『正しい』の定義は感情より難しい。揺らいでいる?」

その言葉は矢のように心臓を貫いた。


まつみは打ちのめされ、俯く。


「うん。揺らいでる。でも、友達を失う方が怖い! それが非合理な感情! ちゃんと感じて!」

叫びながら転送インターフェースを叩く。身体は七色の残像となり、空へ溶けた。


「意味不明……」

かみこはその場に立ち尽くし、さっきまでまつみが立っていた空間を見つめる。


屋上には、再び彼女一人だけが残った。



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