8 翠の血
*R18*に関わる内容は、別の場所で公開します。
地図の指示に従い、長い階段を上った先には、正方形の広いプラットフォームが広がっていた。
その中央には、大勢のプレイヤーが密集している。
ある者は虚空に向かって武器を振り回し、
ある者は息を潜めて待機し、
またある者は隅で寝転がっていた。
「ここ、普段のレベリング場所と全然違うだろ?」
まつみは周囲を観察しながら言った。
「攻城戦のための訓練じゃないか?」
パシュスはそう推測する。
「まこの地図だと、目的地は人だかりの真ん中だよ」
まこはマップ上のクエスト表示を見つめた。
「まさか……」
パシュスが察した瞬間だった。
パン! ドン! ババババババ!
銃声のような轟音と、剣戟の閃光が一斉に炸裂する。
「聖域浄化!」
「雷導術!」
「アリスの祝福!」
「氷牢!」
「風の刃!」
人混みの中心で、色とりどりのスキルと魔法が同時に爆発し、強烈な光が視界を覆った。
ドン!
何かが爆散する音が響く。
「よっしゃ! 光芒草ゲット!」
「俺も出た! 帰ろう!」
五人組が歓声を上げた。
「ちっ……また取れなかったか」
他のプレイヤーたちは五人の背中を睨みつけ、殺気を滲ませる。
「まさか……」
まつみは人混みを指さして呟く。
「うん。ボスの奪い合いだな」
パシュスは唾を飲み込んだ。
三人は人の波の中に立ち尽くし、どうしようもない無力感に呑み込まれた。
……
気づけば夜も更けていた。
「パシュス! サボってないだろうな!? 一時間やってまだ取れてないぞ!」
まつみが指さして怒鳴る。
「うるさい! お前こそ手伝えよ! 俺なんて一時間ずっと空気斬ってるんだぞ!」
パシュスも逆上する。
「俺様の矢は消耗品なんだよ~」
まつみは露骨にやる気のない顔で鼻をほじった。
「まこの雷系魔法は、ちゃんとした対象がいないと撃てないの~」
まこは無実を訴えるように言う。
「はぁ……近接職はつらいな」
パシュスはため息をつき、再び人混みで剣を振り回した。
そのとき、床に無数の魔法陣が浮かび上がる。
ドンドンドンドン!
再び花火のような爆発。
「よっしゃー! 取ったぞ!」
別の五人パーティーが笑い合う。
「くそぉぉぉ!!!」
パシュスは疲れ切って地面に倒れ込んだ。
「まこ、ずっとスキル押してたのに……やっぱり間に合わない」
まこは落ち込んだ様子で言う。
「分かった……」
まつみは口元を押さえ、真剣な顔になる。
「何がだ?」
パシュスとまこが同時に聞き返す。
「まこ、範囲で持続ダメージ出せるスキルってあるか? 火壁みたいなやつ」
「うーん……ないね。ああいうのは火属性だけだよ」
「謎は解けた」
まつみは地面に大量の数式を書き、指を頬に当てた。
「どういうことだ?」
パシュスが首をかしげる。
「足りないのは――神職者だ!」
まつみが断言する。
「はぁ……?」
「最初に魔物へダメージを与えたプレイヤーのパーティーが、クエストの所有権を取る。
つまり、ドロップはそのパーティー専用になる。
魔法陣はリポップの瞬間に必ず発動する。
固定範囲に継続ダメージを与えられるのは、神職者の聖域だ!」
「おお~~! しょうた、すごい!」
まこは尊敬の眼差しを向けた。
「じゃあ、どうやって神職者を探すんだ?」
パシュスが尋ねる。
「ここじゃ無理だな……」
まつみは周囲を見回す。近くのプレイヤーは全員パーティーを組んでいる。
「神職者はソロがきついから、だいたい固定パーティー持ちだ。
単独行動の神職者なんて、ほとんど見かけない」
パシュスは腕を組んで考え込む。
「初心者の村に戻って募集する?」
「遠すぎる。」
「もし……」
まつみが悩ましげに言いかけた、そのとき。
「システムメッセージ: ニフェト パーティーに参加」
「なに?!」
パシュスとまつみは同時にパーティー情報を開いた。
レベル五十一の神職者。
自分たちと同じだ。
「みんな~、この子がニフェトだよ~」
まこが手を振ると、その背後から短い青髪の少年がついてきた。
「ど、どうも……」
ニフェトは俯きがちに、恥ずかしそうに挨拶する。
「まこ、どこで見つけたんだ? すごいじゃないか!」
パシュスは素直に驚いた。
「やった! ついに神職者だ! さあ、始めよう!」
まつみは前に出て、勢いよく手を差し出す。
期待の視線を一身に浴び、ニフェトは幸せそうに笑った。
「うん! がんばるよ!」
鈴の音のように澄んだ声だった。
「……あれ? ニフェトって、もしかして女の子?」
パシュスは男性キャラの外見を見て首をかしげる。
「う、うん……女の子」
ニフェトは顔を赤くして、さらに俯いた。
「なにっ?! お前、何か企んでる変態なのか?!」
まつみが仰天する。
「まつみ! 失礼だぞ! お前だって異性キャラ使ってるだろ!」
パシュスが即座に突っ込む。
「パシュス! それも失礼! ニフェトが聞いてるでしょ!」
まこが怒鳴った。
「うっ……気づかなかった。ごめん」
「がんばります! 絶対、足は引っ張りません!」
ニフェトは思い切ったように言った。
「なんと気高く愛らしい乙女……この広い人海で出会えた奇跡に――」
まつみが膝をつく。
「うるさい!」
パシュスの拳が飛び、まつみは吹き飛ばされた。
「それで~、ニフェトは範囲で持続ダメージ出せるスキルある?」
まこが尋ねる。
「うん。ソロで上げてたから、『聖域浄化』はレベル最大だよ」
ニフェトは頷いた。
「それだ!」
三人が同時に叫んだ。
……
パシュスは武器を握り締め、乾いた喉に唾を流し込む。
まこの目に汗がしみたが、痛みをこらえて瞬きもしなかった。
「今だ!!!」
まつみが叫ぶ。
「聖域浄化!」
ニフェトが即座にスキルを展開する。
次の瞬間、姿すらはっきり見えない魔物の首領へ、周囲のプレイヤーたちが一斉に火力を叩き込んだ。
メッセージが表示される。
「システムメッセージ: 光芒草を入手(1/1)」
「やった!」
パシュスは白く輝く薬草を掲げて叫んだ。
「すげえぞ、ニフェト!」
まつみが勢いよく抱きつく。
「役に立ててよかった」
ニフェトは嬉しそうに微笑んだ。
四人は満足感に包まれたまま、主城へ戻る。
「ニフェト、どうして一人でレベル上げしてたの?」
まこが聞く。
ニフェトは俯き、言葉に詰まった。
「ソロなら、アーチャーや魔法使いのほうが楽だろ?」
パシュスも不思議そうに言う。
「操作が下手だって、すごく怒られて……。だから、誰にも迷惑かけないように一人で……」
ニフェトは言い淀みながら答えた。
「安心しろ! 前に組んだ神職者より、ずっと上手いぞ!」
まつみは感動で今にも泣きそうだった。
「一緒に上げよう。俺たちにも神職者が必要だ」
パシュスは親指を立てる。
「……みんながいいなら」
ニフェトは嬉しそうに頷いた。
……
#
更新は基本【毎日1話】。
キャラクターや展開についてのご感想・ご意見があれば、気軽にコメントしてもらえると嬉しいです。
すべて目を通して、必ずお返事します。
一緒にテンポよく、魔王討伐まで突っ走りましょう :)




