77 初陣
モォォ~
黄砂が震え、砂嵐の中に無数の影が揺れる。
Kanatheonはゆっくりと中央湖へ向かって押し進み、敵陣の奥深くへ入り込んでいく。
劣悪な視界の中、砂漠は終わりのない悪夢のようだった。
やがて前方に高い木造の台が現れ、周囲から緑の光点がいくつも湧き上がり、頂上へと弧を描いて飛んでいる。
黄土の大漠にそびえるその高台は異様に目立ち、Kanatheonは接近を決めた。
台上では魔法の余波が荒ぶり、二人が激しく戦っている――まつみと、獣人の妖術師だ。
まつみの顔は血に染まり、右腕はだらりと垂れ下がっている。妖術師の魔弾に追い詰められ、台の端へと追い込まれていた。
左足が宙を踏み、退路がないことに気づく。
パチン、と指が鳴る。
鏡の盾が砕け、掌ほどの鏡片へと分裂した。
「黒雷」
かみこは状況を見極める間もなく、前方の緑光へ飽和攻撃を浴びせる――轟音が響いた。
緑の光点は即座に標的を変え、流星雨のようにKanatheonへ降り注ぐ。
ニフェトが魔盾を展開しようとした瞬間、浮遊する鏡片が一斉に頭上へ集結した。
「鏡像反射」
魔符を刻んだ右腕を突き出し、かみこが冷ややかに告げる。
小鏡は融合し巨大な盾となる。緑弾は表面で青へ変わり、同角度で弾き返された。
ドォォン!!!!!!!!
前方で爆発が起こり、厚い黄砂が舞い上がる。
全員が口元を覆い、砂が収まるのを待った。
再び目を開けると――澄み渡る青空。砂嵐は消えていた。
「まつみ!!!」
パシュスが叫ぶ。
傷だらけのまつみが台上で息を荒げ、その足元には妖術師が倒れている。
【システムメッセージ: 嵐の目を獲得しました】
ハググ砂漠の全景が見渡せる。すべてが鮮明だ。
パチン。
巨鏡は再び八枚に分かれ、空中へ浮かび上がる。
「意味が分からない……」
かみこは呆然とまつみを見つめ、呟いた。
……
風の旅人と深淵の手は北側の砂漠で遭遇し、激しく交戦している。
距離があるため、戦況の詳細は不明だ。
神曲はKanatheonより遅れている。晴天の下、なおも苦戦している――まだ砂嵐の妖術を突破できていないのだ。
無数の砂牛騎兵が周囲を包囲し、機を窺っている。
中央湖を囲むように六基の高塔が建ち、それぞれの上に妖術師が立つ。現時点で攻略されたのは、Kanatheonの一基のみ。
……
ハググ城は目前、手を伸ばせば届きそうだ。
砂牛騎兵の動きも把握でき、脅威は大きく減った。
騎兵を迎撃しつつ、湖畔の桟橋へと前進する。
各魔導塔の背後には桟橋があり、五隻の鉄皮艇が停泊していた。
まつみが真っ先に跳び乗るが、見えない力に弾き飛ばされ、水中へ落ちる。
「げほっ……なにこれ?!」
「集落の小屋で動力魔油を回収せよ、って書いてあります」
ニフェトが艇に刻まれた文字を読む。
「ちっ……嫌なギミックだな。燃料は村にあるってことか……」
むぐち やよいは最寄りの村を睨む。
「早く上がれ!」
パシュスが水面下の巨大な影に気づき、叫んだ。
黒い大竜亀が、艇よりも大きく裂けた血臭い口を開き、まつみに襲いかかる。
「連携回復!」
かなが即座に発動。
金緑の旋風が再び吹き荒れ、大竜亀の前進を止める。まつみは必死に岸へ泳ぎ着いた。
湖中には他にも三体の大竜亀が巡回している。深緑の背甲は藻に覆われ、水中では判別しにくい。
「泳いで渡るのは無理ね」
ニフェトは歯噛みし、すぐそこに見えるハググ城門を睨む。その距離は、まるで銀河ほど遠く感じられた。
遅れていた神曲ももう一基を攻略し、Kanatheonがすでに桟橋へ向かっているのを確認すると、一気に自分たちの桟橋へ加速した。
三人の神曲メンバーが無謀にも湖を泳いで渡ろうとし、途中で大竜亀に丸呑みされる。
「村へ戻れ、動力魔油を探せ!」
むぐち やよいはもう迷う時間はないと判断し、即座に方向転換した。
「見ろ! あいつら引き返したぞ!」
神曲側がKanatheonの動きを察知する。
「くそっ……俺と副長で足止めする! 他は急げ!」
神曲の会長と副長が、緑砂トカゲにまたがり村へ向けて疾走した。
緑砂トカゲの足は砂地に適した水かきを備え、曲げた脚で地を蹴るたびに数メートルを跳躍する。数分でKanatheonに追いつき、村外での衝突は必至だった。
「かみこ、任せる!」
むぐち やよいは全力疾走しつつ、横目で敵を捉える。
鏡の盾が微調整され、二騎はKanatheonを追い越した。
パチン。
「完了」
「ニフェト!」
むぐち やよいが叫ぶ。
「ラロの栄光!」
八条の金光が流星のように二人へ突き刺さる。
轟音。副長は直撃を受け、乗騎ごと砂上に転倒した。だが会長は左右へ鋭く駆け抜け、すべての光弾を紙一重で回避し、村へ突入して探索を始める。
Kanatheonが村へ入ると、むぐち やよいは即座にアサシンへ分散探索を命じる。他は陣を敷いた――そこへ神曲本隊が到着。
村の広場で両軍が対峙する。小さな砂風が足元を巻き上げた。
「援護バフ!」
Kanatheonは瞬時に強化で固める。
「強化急げ! 重装は突破に集中だ、ここでKanatheonを叩く!」
神曲のギルドマスターが叫ぶが、隊列は混乱し、詠唱も乱れている。
「動け」
むぐち やよいは冷静に左右へ揺さぶり、敵の反応を探る。
全員の目が鋭く光る。銀龍の刻印とのGvGの記憶が蘇る――戦場感覚が完全に身体へ染み込んでいた。
「今だ、突撃!」
神曲のギルドマスターの号令で、隊列も整わぬまま重装が突進する。
「構え……隠身!」
かなの叫び。
ふっと、Kanatheonがその場から消える。
「止まれ!!!」
神曲は混乱し、中心へ縮こまる。隊形はさらに崩れた。
砂煙が舞う。何かが高速で右翼へ迫る。
「集中攻撃!」
むぐち やよいが空中へ現れ、拳刃を掲げて斬り込む。
「腐血の蔦!」
砂が黒く染まり、紫紅の肉蔦が神曲の足を絡め取る。
「右を守れ!」
会長が叫ぶが遅い。
Kanatheonの重装隊が空中から出現し、光る武器を振り上げ、動けぬ敵へ叩き込む。
轟!!!!!!
範囲技が一斉に炸裂し、神曲の一小隊が瞬時に消し飛んだ。
「来い! ここがお前らの舞台だ!」
むぐち やよいは敵の脇腹に拳刃を突き立て、その傷から鮮血を吸い上げた。
「うおおお!」
Kanatheonの士気は最高潮に達し、勢いは神曲を圧倒。虎が羊群へ飛び込むかのように、村中央で五十人規模の乱戦が始まった。
……




