62 鏡花水月の少女
四人は森の中で合流した。
「おい、まつみ! 木剣って約束しただろ! 本武器出して俺を殺す気か?!」
パシュスはまつみの胸ぐらをつかんで、怒鳴った。
「禁衛軍様がちょっと刺されるくらい、問題ないでしょ?!」
「だ……誰か……助けて……」
トリが横で瀕死の声を上げる。
「ニフェトは新人の対応で忙しいの。スタミナポーション飲んで耐えなさい」
まつみは不機嫌そうに言った。
「ギルドのために死にかけたのに、応急治療すらないなんて……」
トリは地面に伏して、情けなく泣き声を上げる。
「まこ、次から気をつけるね~」
まこは気まずそうに笑った。
……
【システムメッセージ: ミルク狂熱 ギルドに参加】
【システムメッセージ: 波多野 ギルドに参加】
【システムメッセージ: 名前が長すぎてかくれんぼしたらすぐ見つかりそうだよ ギルドに参加】
【システムメッセージ: ……………… ギルドに参加】
【システムメッセージ: ……………… ギルドに参加】
【システムメッセージ: ……………… ギルドに参加】
……
「19人か……俺たち6人を足して、ちょうど25人。三日でこれは上出来だな」
パシュスはギルド情報を見て言った。
「まこ、サクラみたいな真似はあまり良くないと思うな…」
「仕方ないでしょ。時間がない。城戦に参加するって説明して、全員納得した上で入ってきてる」
まつみが肩をすくめた。
「戻ろう。ニフェトがプラムスで、歓迎会用に宴会場を押さえてる」
パシュスは剣を収め、笑った。
四人が立ち去ろうとしたその時、道の先で激しい爆発音が響き、無数の木の葉が降り注いだ。
彼らは道脇に身を隠し、狭い森道がいくつも抉られ、倒木で塞がれているのを確認する。
その道の中央に、小柄な金髪の少女が立っていた。
銀のリングで束ねたサイドポニー。
黒い魔符が右腕に絡みつき漂い、肩の横には白い光輪が浮かぶ。
黒いショートトップスで細い腰を露わにし、下はきらめく白琉璃のミニスカート。
片脚だけの黒いオーバーニーソックスに、白いショートブーツ。
左手には細身の銀杖を携え、その表面には精緻な幾何学の浮彫が刻まれていた。
彼女のそばには青いローブの神官が立ち、顔を上げて五体の敵――ハイエルフの天使守衛を見据えていた。
「早く離れろ、勝てない!」
青衣の神官が緊張した表情で言う。
「確かに。でも、あの速度じゃ遠くまで逃げられない」
金髪の少女は無表情のまま天使守衛を見つめつつ、頭の中で数千通りの撤退ルートを解析していた。
天使守衛たちは彼女を囲むように飛び回る。
少女は動かず、ただ目だけでその動きを追った。
突然、一体の天使守衛が翼槍を掲げ、背後から少女に突きかかる。
少女は動かない。
翼槍が背に突き刺さる寸前、天使守衛の正面に銀色の楕円鏡が出現し、回避もできず正面衝突した。
奇妙なことに、天使守衛は傷つかず、そのまま銀鏡をすり抜ける。
「白の矢……」
少女は銀杖を高空へ掲げ、淡々と呟いた。
天使守衛が振り返った瞬間、自分が金髪の少女の正面へと転移させられていることに気づく。
白光が閃き、天使守衛は撃ち落とされ地面に墜落したが、受けたのは軽傷だけだった。
「解析が遅れた」
脇腹を翼槍に貫かれ、少女は片目をつぶる。神官が即座に回復術を施す。
天使守衛は接近戦を避け、距離を取り、上空から羽の棘を連射し始めた。
少女の眼球が高速で震え、極限の動体視力で羽棘の軌道と数を捉える。
周囲に複数の円鏡が浮かび、飛来物を反射するが、数が多すぎる。
少女と神官の双方が被弾した。
「ごめん。私には勝てない。分かれて逃げて」
少女は感情のない声で告げ、神官は無言で頷いた。
鏡の盾で自分を覆い、少女は走り出すが、天使守衛はなおも追撃してくる。
「天護の衝撃!」
パシュスが列車のような勢いで両脇の樹木をへし折り、少女の横へ突入した。
少女は即座に横へ転がり、浮遊する鏡盾が異なる角度からパシュスを映す。
「待ってくれ、俺たちは助けに来た!」
パシュスが慌てて叫ぶ。
少女は眉を吊り上げ、完全には信じないものの、鏡盾の向きがわずかに変わる。
「奔雷の力!」
ケルベロスが高く跳び、天使守衛の翼に噛みついて地面へ引きずり落とすと、まつみが弱点を叩き、一撃で仕留めた。
残る天使守衛たちは、彼らの周囲を高速で旋回する。
「速すぎて当たらない!」
パシュスは必死に軌道を追うが、すぐに目眩を覚えた。
八枚の浮遊鏡が絶えず角度を調整し、レーダーのように天使守衛を捕捉する。
かみこの瞳孔が異様に開き、右腕を掲げる。
黒い魔符が高速で旋回した。
指を鳴らすと、八枚の鏡盾が一瞬で十六枚の小鏡盾へと分裂する。
「黒雷……」
太い黒雷の射線は、多重反射によって十六本の光砲へと分かれ、網状に散射した。
轟隆!!!
天使守衛は全て同時に一撃で消し飛び、光塵の雨となって舞い落ちる。
「計算完了」
少女は再び指を鳴らし、鏡盾は瞬時に消失した。
「どうしてハイエルフがプレイヤーを襲うんだ? あまりにも異常だ」
パシュスは首を傾げる。
「ハイエルフは魔王陣営に入ったんでしょ。プレイヤーを襲っても不思議じゃない」
まつみが補足する。
「一度、むぐちと相談したほうがいいな……」
金髪の少女と神官は、黙って彼らを見つめていた。
「こんにちは~、通りがかっただけなんだ」
パシュスは少女の存在を思い出したように言う。
「……ごきげんよう。」
「彼女、鏡像師だろ? 三次転職だ。ギルドに誘ってみない?」
トリが提案した。
「強そうだな……。こんな小さなギルドに入ってくれるとは思えない」
パシュスは困った顔で言った。
「ねえ~お姉さん! うちのギルドに入って、一緒に冒険しない?」
まつみが図々しく声をかける。
少女は感情を表に出さず、ただ静かに彼らを見つめていた。
「やめとけ、まつみ。恥をかくだけだ」
パシュスはまつみを引っ張って止める。
だが、まつみは諦めずに続ける。
「入ってくれたら仲間も増えるし、情報もたくさん手に入って―――」
「いい」
言い終わる前に、金髪の少女はあっさり答えた。
「はぁ?!」
一同が同時に声を上げる。
「なんで私たちみたいな小さなギルドに入るの?」
まつみが逆に聞き返す。
「バカ!」
パシュスが慌てて彼女の口を押さえる。
「私にとってギルドとは、大規模なパーティーのようなもの。
このゲームでは、単独行動より他プレイヤーとの協力の方が効率が高い。
現在、二人パーティーは明らかに不便。
加入によって時間や精神を浪費する潜在的リスクを差し引いても、
ギルドに所属する方が無所属より有利である、という結論に至った。
よって、あなた方のギルドへの加入を希望する」
金髪の少女は淡々と長く語った。
四人は言葉を失った。
「あなた方の表情は驚きを示していると解釈できる。
環境要因を総合した結果、一つの可能性のみが導かれる──
私は、あなた方を驚かせてしまった?」
「この人、頭おかしいんじゃ……」
トリが不安そうに呟く。
「もういい~強いし! とりあえず入れちゃお!」
まつみが強引に決める。
「名前、教えて?」
「かみこ」
「私は社畜」
青衣の神官が名乗る。
「よし~、ギルド招待送るよ!」
まつみがインターフェースを開く。
【システムメッセージ: かみこ ギルドに加入しました。】
【システムメッセージ: 社畜 ギルドに加入しました。】
「ようこそ、かみこ!」
まつみは笑顔で手を差し出す。
かみこはその手を冷ややかに見つめ、握ろうとはしなかった。
「……うん。」




