54 Kanatheon (カナテオン)
「勇者様、ギルドを創設なさいますかな?」
ローレンベルトが笑顔で尋ねる。
「う……ん?」
ニフェトはうたた寝から目を覚まし、目の前に浮かぶシステム表示を見る。
【システムメッセージ: ギルドを創設しますか(Y/N) *選択後、即時反映*。】
「なに、これ……」
ニフェトは目をこすりながら確認する。
パシュスはニフェトの手を掴み、そのままYを押した。
「結構。勇者様、それは容易ではない決断ですな。手数料は竜貨500。ギルドとは運命共同体。どうか仲間を導き、驚天動地の偉業を成し遂げてください。では手続きを進めましょう。ギルド名は――?」
ローレンベルトが問う。
【システムメッセージ: ギルド名を入力してください________(Y/N) *選択後、即時反映*。】
「なにぃ?!」
ニフェトは完全に目が覚めた。
「会長、よろしくお願いします!」
五人が横一列に並び、深々と頭を下げる。
「パシュス……!」
ニフェトは怒りで、杖をへし折りそうになる。
「誰かがやらないとさ~」
パシュスは気まずそうに笑った。
「会長職自体は嫌じゃないけど、あとで覚悟して。名前はKaNa’Sanctumでいいの?」
ニフェトが確認する。
五人は一斉に頷いた。
【システムメッセージ: 名前に使用できない記号があります ’ * @ # ~ ~
ギルド名を入力してください________(Y/N) *選択後、即時反映*。】
「’が使えないみたい」
ニフェトは苛立った声で言う。
「じゃあ、Kanatheonは? Pantheonから取って、かなを起点にした名前。かなの聖殿って意味だよ。まこ、神話とか星座の本よく読んでるし~」
まこは自信満々に言った。
「いいね。それで行こう」
ニフェトは即断した。
「Kanatheon……良い名ですな、勇者様。では、こちらにギルドの紋章を描いてください」
ローレンベルトは机から紙を一枚差し出した。
「魔導書に翼、どう?」
まこが聞く。
「適当でいいよ」
皆あまり気にせず、ニフェトが紋章を描いた。
「ふむ、良い意匠です。ではギルド紹介文は? 一人旅の勇者が加入先を探して訪れることも多い。良い紹介文は入会希望者を引き寄せますぞ」
ローレンベルトが言った。
「目標は魔王討伐。楽しく遊べるカジュアルギルド、でどうでしょう?」
ニフェトが尋ねた。
「行け行け、ギルドマスター様!」
パシュスがからかうと、ニフェトに睨まれる。
「よろしい。それでは君たちのためにギルド銘板を刻もう」
ローレンベルトは机の上に置かれた金塊に彫刻を始めた。
「ギルド銘板?」
ニフェトが首をかしげる。
「ほら、あの角から始まる金のプレートだ。すべてにギルド名が刻まれている。一番右上がムー大陸最初のギルドで、そこから下へ、次に左へと、創設順に並んでいる」
ローレンベルトは彫りながら、壁一面の金板を指さした。
まつみは長い梯子をよじ登って確認する。
一番右上は――「開拓者」。だが、名前は刃物で削り潰されていた。
二番目の「幻影O団」も削られている。
三番目の「烏合の衆」も同様だ……。
六番目の「深淵の手」だけが無傷で残り、七番目が「銀龍の刻印」だった。
「おっちゃん、名前が削られてるのってどういう意味?」
まつみが尋ねる。
「ギルド解散だ。ギルドマスターが死亡し、二十四時間以内に後任が決まらなければ自動的に解散となる。新たにマスターを立てる場合は、ここへ来て私に登録する必要がある」
そう説明し、ローレンベルトは言った。
「では、ギルドマスター殿、こちらへ」
ニフェトはローレンベルトに続き、名板の一番最後――空白の位置へ向かう。
「私は――ムー大陸唯一、真神に認められた歴史学者ローレンベルトとして宣言する。
ギルドKanatheonは、ローマ暦二〇三三年八月二十七日に設立された。
ギルドマスターは、プレイヤー・ニフェト。
ニフェト殿、これより汝はギルドの長として責務を背負い、仲間と苦楽を共にせよ。
右手親指から血を一滴取り、Kanatheon名板の裏に塗りなさい。
それはKanatheonの全構成員と血の誓約を結ぶ証となる」
ニフェトは指先を切り、血を名板の裏に塗った。
ローレンベルトはKanatheonの名板を手に取り、梯子を上って最後の空き枠へ向かう。
六人は息を殺し、彼が自分たちの場所へ近づいていくのを見守った。
理由もなく、胸の奥が熱くなっていく。
「ここに宣言する。ギルドKanatheon、正式に成立!」
ローレンベルトは名板を最後の枠へ力強く打ち付け、ムー大陸の歴史書にKanatheonの名を刻んだ。
【システムメッセージ: あなたは Kanatheon ギルドを創設しました】
まつみとパシュスは肩を組んで笑い合い、まこ、むぐち やよい、ニフェトも満足そうに微笑む。
トリは輪に入りきれず、一人離れた場所で力なく愛想笑いを浮かべていた。
「まあまあ、来いよ」
パシュスが腕を引っ張る。
「えっと……あ、あった。ギルド招待コマンド」
ニフェトは混乱したインターフェースを開き、手当たり次第に操作する。
【システムメッセージ: Kanatheon ギルド招待 参加しますか?(N/Y)】
Y!
【システムメッセージ: Kanatheon ギルドに参加しました】
「ははは!」
まつみは嬉しそうに叫んだ。
「設定でギルド名表示をオンにできるよ」
むぐち やよいが助言する。
彼らの頭上に、灰色の文字でKanatheonが表示された。
「王都では表示してもいいけど、移動中やレベリング中は消した方がいいわ。念のためね」
ニフェトが言う。
「ギルドマスター~! 最初の目的地はどこ?!」
パシュスが手を挙げて聞いた。
「ニフェトって呼んで。行き先は……私もまだ分からないわ。ところで、今ギルドはいくつあるの?」
ニフェトがローレンベルトに尋ねる。
「現在、二百四のギルドが存在している」
ローレンベルトは答えた。
「そんなに?!」
一同が驚く。
「大半は十人未満の小規模ギルドだ。ギルドマスター殿、君たちは最初からなかなかの戦力だよ」
ローレンベルトは笑った。
「銀龍の刻印には及ばないわ。今の平均レベルは分かる?」
むぐち やよいが問いかけた。
「すでにギルドへ加入しているプレイヤーの平均レベルは、155です」
ローレンベルトが答えた。
「じゃあ、まずはレベリング。その後すぐに人を集める。次の攻城戦までに、獣人の城かエルフの城を取りに行こう」
むぐち やよいは大胆に言い切った。
「本気?! 王都だよ?」
まこが慌てて尋ねる。
「NPC相手なら難しくない。ハググの衛兵はだいたいレベル250前後、ヴィニフ宮殿は300前後。ほかのギルドに邪魔されなければ、獣人の城はいける」
むぐち やよいは真剣な表情で答えた。
「どのみち、まずは三次転職ね」
ニフェトが言う。
「ギルドマスター殿、こちらがギルドの礎石だ」
ローレンベルトは手のひらサイズの純黒の石を取り出した。
「ギルドの礎石を設置すれば、それと接続された建築物はすべて君の領土となる。ただし主要道路や、すでに他者が所有している区域には設置できない。その場合は、区域所有者のギルドの礎石を破壊する必要がある」
「ギルドの礎石は一つだけ?」
むぐち やよいが尋ねる。
「ギルドの最大人数上限が500に達した場合、追加で一つ支給され、上限が150人増える。あるいは25000竜貨で購入することも可能だ」
ローレンベルトはいやらしく笑った。
「もう十分、ありがとう」
むぐち やよいは即座に切り上げた。
「それで、次は?」
ニフェトが尋ねる。
「三次転職~! それから勧誘だ!!!」
まつみが興奮して叫ぶ。
彼らはワスティン大聖堂を後にした。
広がる村落、連なる山々を見渡しながら、全員が同じ予感を抱いていた――
ここから、私たちの時代が始まる。
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