53 歴史学者ローレンベルト
「神曲ってどう?」
トリが提案する。
「いいじゃん! カッコいい!」
まつみが頷く。
「悪くはないけど、もう少し意味が欲しいかな」
むぐち やよいは名前に妥協しない。
「じゃあ、KaNa’Sanctumは? かなに会いたいな……」
まこは唇を尖らせる。
「かな? 少し長いけど……反対はしない」
むぐち やよいは渋々同意した。
「英語っぽいと強そうだしね」
パシュスも頷く。
「かなって誰?」
トリが首を傾げる。
「そのうち話すよ」
まつみは疲れた声で答えた。
...
螺旋階段は終わりのない悪夢のようだった。一段踏み出すたび、前にもう一段増える気がする。
その時、前方から金色の陽光が差し込んだ――ついに出口だ。
彼らが足を踏み入れたのは、黄金に輝く円形の大広間だった。壁一面に金の板が貼られている。
床は黒と白のモザイクによる幾何学模様で、その中央に賢者の衣をまとった老人が立っている。
背後の机には羊皮紙と羽根ペンが並んでいた。
ニフェトは死体のように床に倒れ込む。
「勇者様~。五百段の階段を登って来るとは、きっと用があるのでしょうな」
老人は笑みを浮かべて尋ねた。
半月形の眼鏡をかけ、銀髪に白い髭。年は百を超えていそうだ。
「あなたが歴史学者ローレンベルト?」
まつみはスタミナポーションを飲みながら聞き、薬を床に飛び散らせた。
「いかにも。ムー大陸の歴史はすべて把握しております。そして、私が編んだ歴史のみが正式なムー大陸史なのです」
ローレンベルトは答える。
「ギルドを設立したい」
むぐち やよいは端的に言った。
「ギルド――ムー大陸における最大の旅人組織です。上限は五百名。世界が認めるギルドマスターは一人のみで、他の役職は自由に設定できます。マスターは体制を逸脱しない範囲で、都市拡張、税制設定、NPCの差配、自作クエストなどを行えます。ただし悪意ある設計が確認された場合、GMが強制的に修正・削除します(初心者エリアに城壁を築いて低レベル狩りを行う等)。すべてGMの裁定が最優先で、異議申し立てはできません。ご理解いただけましたか?」
ローレンベルトは丁寧に説明した。
全員が頷く。
「では、ギルドを創設する旅人がギルドマスターとなります。どなたが務めますかな?」
ローレンベルトが問いかける。
「そっか……」
パシュスは、会長が一人しかいないことに気づいた。
全員の視線が、むぐち やよいに集中する。
「絶対イヤ! 会長なんて面倒すぎる!」
むぐち やよいは即座に拒否した。
「百レベルにも満たない頃から、アンドリアに副長として指名されてたじゃないか。能力は十分だろ」
パシュスが言い、トリは内心で驚く。
「無理。会長の責任の重さ、分かってる? 勧誘と指揮だけで大変なのに、ギルド活動、規律、育成、攻城戦の戦略、外交、資源管理……考えただけで頭が痛い」
むぐち やよいは全身で拒否を示し、まるで地獄の釜に突き落とされるかのような表情を浮かべた。
「ほら、もうギルドマスターの責任は分かってるでしょ。だったら――」
まつみが言いかける。
「それ以上言ったら、抜けるから」
むぐち やよいは苛立った声で遮った。
「ややこしいなあ~。じゃあ、俺がギルドマスターやるよ!」
トリが自ら名乗り出る。
「……………」
全員が冷たい視線をトリに向ける。
「ごめんなさい」
トリは深く頭を下げた。
「むぐちお姉ちゃんが嫌なら、無理に押し付けない方がいいよ」
まこは場を和ませようと、愛想笑いで言う。
「しょうたも悪くないと思うな! 頭は細かくないけど、性格的に人を引っ張れるし、ついて行きたくなるよ」
まこが提案した。
「はぁ?! こいつはミミズより単細胞だぞ! 攻城戦で突っ込んだら全滅だろ!」
パシュスは全力で反対する。
「おい~、少しは顔を立てろよ! そもそも俺、会長やるなんて言ってないし!」
まつみが言い返す。
「会長なんて誰でもいいでしょ~。どうせ最後は、仕事ぜんぶむぐちに回すんだから」
トリは耳くそをほじりながら、他人事のように言った。
むぐち やよいはその場で石像のように固まった。
「決めた!」
パシュスが急に立ち上がり、ひらめいた顔をした。
...
みんな、良い週末を!




