52 「どこにDがあるんだよこのバカ!!!」
「ラロ神は獣人の祖に、何を語りかけ、魔王に抗うため従わせた?」
デイマンはまこを指さして問う。
「せ、世界が滅びるって……とても怖いよ?」
まこは声を震わせて答えた。
デイマンはトリを指す。
「君たちの力が不可欠だ、って?」
デイマンはパシュスを指した。
「棄権」
「我に従え。我は汝らに力を与えよう」
むぐち やよいは真顔で答えた。
「+3」
デイマンが告げる。
トリは即座にむぐち やよいの隣へ滑り込み、まつみを押しのけて次の解答者になろうとする。
まつみも負けじと体当たりし、二人はもみ合いになる。ちょうどその瞬間、デイマンがまつみを指した。
「我に従え。我は汝らに力を与えよう!!!」
「では、獣人の祖はどう応えた?」
デイマンは新たな問いを投げる。
「いい加減にしろよクソババア!!!!!」
まつみは跳び上がって怒鳴った。
ドン!
デイマンはトリを飛び越え、ニフェトを指す。
「我が身は、汝の剣なり」
ニフェトが答えた。
「武器が違う。再回答を許す」
デイマンは微笑む。
「ちょっと待て!なんで彼女だけ再回答できるんだ?!」
トリは大いに不満をぶつけた。
「神職者は教会内で優遇される」
デイマンは淡々と答える。
「そんなの不公平だろ!!!抗議する!!!」
トリは声を荒げた。
ドン!
「我が身は、汝の斧なり」
ニフェトが再回答する。
「+3」
デイマンは再びまこを指した。
「魔王を討った後、ラロ神はどこへ行った?」
デイマンが問う。
「き、消え……消えた?」
まこは唾をのみ、目を閉じて祈るように答えた。
「+3」
まこは鼻をひくつかせ、その場に伏して感涙にむせぶ。
……
三時間が経過した。
ニフェトとむぐち やよいは、すでに赤ネームを洗浄し終えている。
残るは、まつみ-9、パシュス-3、まこ-15、トリ-169。
デイマンはパシュスを指した。
「ラロ神が最初に創造した種族は?」
「エルフ!」
パシュスは力強く答えた。
「+3」
パシュスはふらりと立ち上がり、嗚咽を漏らす。
「もう二度とPK解放しない~」
ニフェトにしがみついて泣き崩れ、ニフェトは苦笑しながら慰めた。
他の者も次々と洗浄を終え、残るはトリ一人。カルマ値は-17。
「経文の問題は尽きた。重複を避けるため、ムー大陸の歴史問題に切り替える」
デイマンはもう一冊の“ピアノ”を取り出す。
トリは頭がくらくらし、意識が朦朧とし始めていた。
「エルフ最後の女王の名は──
A:蕾 B:フーン C:ラディナ」
トリは力なく首を振る。
その瞬間、デイマンの背後で、まこたちが必死に体で文字を作っているのが目に入った。
トリの精神が一気に覚醒する。
魂が洗われるような感覚――これが最後のチャンスだ!
呼吸を整え、鋭い眼で形を読み取る。
見えた、文字が見えた……!
「D!」
トリは魂の叫びを放った。
全員が即座に気絶した。
「どこにDがあるんだよこのバカ!!!」
まつみの怒号が響く。
ドン!
「……あ、そうか。じゃあCで!」
トリは急に納得した。
「…………」
絶望に沈む。
「不正解。次の問題。現在、エルフにおける最高権力機関は──
A:皇族 B:精霊評議会 C:大天使長」
今度は口パクで「B」を伝える。
「B……?」
トリは半信半疑で答えた。
「+3」
ふう――。
...
一時間が過ぎ、トリはついに赤ネームを洗浄し終え、全員がデイマンの前に並んだ。
デイマンは黒十字の白い仮面を取り出す。
「それって、青ネームがつけてる仮面?!」
まつみが驚いて声を上げる。
「これは贖罪者の仮面。贖罪を成し遂げた者だけが得られる道具だ。この仮面を装備した状態で殺戮状態のプレイヤーを倒すと、自身のカルマ値が大きく上昇する。カルマ値が高いほど、多くのNPCの基礎好感度が上がり、隠しイベントや道具を入手しやすくなる。闇のマントと贖罪者の仮面は同時に使用可能で、どちらの効果が適用されるかは討伐対象によって変化する。ムー大陸は危険に満ちている。その力を正しく使い、弱き者を守りなさい。また、ギルドメンバーのカルマ値はギルド全体の評判にも影響する。評判の悪いギルドの構成員は、都市への立ち入りを拒否される場合もある。心に留めておきなさい」
デイマンはそう告げた。
「そうだ、ギルドはどこで設立できる?」
パシュスが尋ねる。
「左の鐘楼の最上部だ。五百段の螺旋階段を上れば、聖誉円庁に辿り着く。歴史学者ローレンベルトと話すといい」
デイマンが答える。
「ギルド作ろうよ!」
まこが目を輝かせる。
「次の攻城戦まで、あと二週間くらいだ。間に合うといいな」
むぐち やよいが言う。
「先に作っておいて損はない」
ニフェトも頷いた。
「君も一緒に来る?」
パシュスはトリに声をかける。
「え? 俺?」
トリは意外そうに目を瞬かせた。
「うん。一緒に冒険しない?」
パシュスは笑う。
「目標は?」
トリが聞き返す。
「大魔王を倒す!」
まつみが胸を張る。
「四つの金の鍵だぞ。自信は?」
トリは疑うように問う。
「ない。でも、やる!」
まつみはトリを指さして笑った。
「レベルはいくつだ?」
トリが尋ねる。
「二三八くらい。そろそろ三次転職だね」
むぐち やよいが答える。
「なるほど。アサヤとやり合えてたわけだ」
トリは納得したように呟く。
「細かいことはいいからさ、来なよ!」
まつみは肩を組み、昔からの仲間のように振る舞う。
トリは久しぶりに感じる親しさに、黙って頷いた。
「よし! じゃあまずはギルド名だな!」
まつみが嬉しそうに叫ぶ。
ドン!
「……先に名前を考えよう」
むぐち やよいは気まずそうに言った。
……
「元気学社はどう? 俺様のカリスマで人気爆上がりだろ!」
まつみは興奮気味に提案する。
「却下。小学生みたい」
むぐち やよいは露骨に嫌な顔をする。
「じゃあ、ぽよぽよハウスは? すごく可愛いよ!」
まこは自信満々だ。
「幼稚園か」
むぐち やよいはため息をついて首を振る。
「じゃあ、あんたの案は? 否定ばっかりじゃん」
まつみは不満そうに言う。
「任せる。どれでもいい」
むぐち やよいは肩をすくめ、無関心を装った。
「く・さ・れ・お・ん・な」
パシュスとまつみは見つめ合い、深く頷き合う。
「……疲れてない?」
ニフェトは息を切らし、唇を乾かしながら無限に続く螺旋階段を上る。
「たった二百段だろ。神官はスタミナ低すぎじゃない?」
トリは笑い、まだ軽やかに登っている。
「次はあなたが瀕死になるまで、絶対に見捨ててやる……!」
ニフェトは怨念のこもった視線を向けた。
パシュスは後ろからニフェトを抱え、そのまま大股で階段を上がる。
「な、何してるの?!」
ニフェトは驚き、反射的にローブを押さえた。男キャラだということを忘れていた。
「大丈夫大丈夫~」
パシュスは笑う。
「え、彼女って女の子だったの?! 声聞いた時から怪しいと思ってた! なんで男キャラなんだ?」
トリは目を見開く。
「男キャラのほうが信用されるってさ。可愛いよな。ははは」
パシュスは大笑いした。
「からかわないで! 下ろして!」
ニフェトは一瞬で顔を真っ赤にし、俯いたままパシュスの胸を叩いた。
「具合悪い? じゃあ、はい」
パシュスはあっさりニフェトを地面に下ろす。
ニフェトはその場で固まり、次の瞬間、怒りに任せて一気に駆け上がっていった。
「ふふっ」
むぐち やよいが意地悪そうに笑う。
五人はそのまま螺旋階段を登り続けた。
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