44 「M属性だよ!」
「うあぁっ……!」
典獄長は激痛に耐えきれず膝をつき、血まみれの傷口を押さえた。その大きな動きで他の鉄鎖も引きずられ、一瞬、全身の弱点が露わになる。
むぐち やよいは即座に好機を掴み、典獄長のお尻へ跳び乗り、腰の後ろに露出した弱点へ容赦なく突き立てた。
だが次の瞬間、典獄長が急に立ち上がり、彼女を宙へ放り投げ、片手で掴み取る。
「神よ! 彼女を守る最後の盾を!」
ニフェトは反射的に復活加護を発動した。
典獄長は玩具を投げるようにむぐちを空中へ放ち――解放された左脚で、全力の蹴りを叩き込む。
【システムメッセージ: フレンド 六口弥生 HPが20%になりました】
ドゴォン!
むぐち やよいは壁に深くめり込み、そのまま意識を失った。
「なんていやらしいギミックだ! 鎖を攻撃するのが正解だったのか!」
パシュスが焦りながら叫ぶ。
「任せて!」
まつみは一本の鉄鎖を引き、露出した下の弱点へ一気に突き立てる。鮮血が噴き散った。
ガンッ!
【注意: 典獄長の鎖を破壊しました 2/7】
「うあああああああっ!!!」
典獄長は激痛で体勢を崩し、地面へ倒れ込む。装甲の弱点が再び引きずり出された。
その瞬間、太腿の弱点がちょうどパシュスの正面に現れる。長剣を構えて突進しようとした刹那、典獄長のスカートの奥で一瞬、聖なる光が閃いた。
「違う、俺様はまつみじゃない!」
パシュスは必死に正気を保ち、背後へ回ろうとした瞬間、村長の言葉が脳裏に蘇る。
「偽りの光こそが弱点だ」
「やっぱりそこかぁぁぁぁぁ!!!!!!」
パシュスは目を燃やし、長剣を構えたまま典獄長のスカートの中へ踏み込んだ。
「いい加減にしろ!!!」
典獄長は怒号を上げ、黒羽の大剣を振り下ろす。パシュスは驚異的な意志力で、その一撃を受け止めた。
同時に、まつみが別の弱点を破壊し、典獄長は一瞬のスタン状態に陥る。
「今だ、畳みかけろ!」
彼らは散開し、それぞれ別の弱点を攻撃する。ニフェトさえも杖を手に前線へ出た。
【注意: 典獄長の鎖を破壊しました 3/7】
【注意: 典獄長の鎖を破壊しました 4/7】
【注意: 典獄長の鎖を破壊しました 5/7】
「許さない……!!!」
典獄長が咆哮すると同時に、強烈な黒影の衝撃波が放たれ、全員が弾き飛ばされた。
残る鎖は左お尻と後頸部の二本のみ。身体の大半は自由に動かせる状態だ。
彼女は牢の扉をいくつも破壊し、中に閉じ込められていた悪魔犬を解き放つ。
「騎士の栄光!」
パシュスが叫び、悪魔犬の注意を一身に引き受けた。
その直後、巨大な黒い影が彼を覆う。黒羽の大剣が振り上げられ――
「死ね、虫けら!」
典獄長の一撃が振り下ろされた。
【システムメッセージ: 装備 虫殻盾 耐久度0%。修理してください】
バキン!
パシュスの大盾は真っ二つに砕け散る。
「くそっ……」
壊れた盾を捨て、震える手で片手剣を握り直し、典獄長を睨み返した。
鎖が断たれるほど、典獄長の動きは鋭くなり、近接はますます危険になる。
「準備はいいか……」
むぐち やよいは第二層の円壁を駆け抜け、拾った瓦礫を無造作に典獄長の顔へ投げつけた。
「この私を……弄ぶとは……忌々しい人間……」
典獄長の身体はむぐちの動きに引きずられ、無意識に鎖が引かれ、弱点が露出する。
「いただきまーす!!!」
反応したのはまつみだった。一気に鎖へ跳び乗り、そのまま典獄長の左お尻へ突進する。
【注意: 典獄長の鎖を破壊しました 6/7】
「ああっ!!!!!」
典獄長の後腰に錐で抉られるような激痛が走り、脚から力が抜けて崩れ落ちた。巨体は最後に残った後頸の鉄鎖に吊り上げられる。
むぐち やよいは角度を見極めて跳躍し、刀を急所へ突き立てた。
【システムメッセージ: 典獄長の鎖を破壊しました】
典獄長は激痛に身を痙攣させ、床一面にエルフの黒血が広がる。
「倒すには……戦闘力を解放させなきゃならない、か。皮肉だね」
ニフェトは汗を拭いながら言った。
「油断するな……第二段階だ」
パシュスが低く告げる。
「ひひ……ひひひ……」
典獄長はゆっくりと立ち上がり、兜の奥から歪んだ笑い声を漏らした。
彼女は黒翼の大剣を横に掲げ、刃を翼のように展開させると、そのまま柄を背中へ深く突き刺した。
「う……ううううう~~~~」
「自傷……?」
パシュスは言葉を失う。
「M属性だよ!」
まつみは拳を握り、興奮した声を上げた。
ゴォ――
大剣は片翼の羽へと変じ、激しく羽ばたいて強風を巻き起こす。ただし一振りごとに苦しそうで、地面から離れることはできない。
「人間……まさか……お前たち、とは……」
彼女は未使用だった黒い棍を抜く。先端に三叉の光刃が生まれた。
「ちょ、ちょっと……攻撃力、上がってないか? どう戦うんだ?!」
盾を失ったパシュスは、裸同然の感覚に恐怖を覚えた。
そのとき、球形の天井が破壊され、純白の翼を持つハイエルフの天使が三体、白い鎧に身を包み、長槍を手に典獄長を囲む。
「…………」
ニフェトはそれを見て、何かを悟ったように黙り込む。
……




