42 ダークエルフ
ドンッ!
脇の木の扉が叩き破られ、さまざまな武器を手にしたハイエルフの衛兵が十人、なだれ込んできた。
彼女たちの緑色の弾幕が、瞬く間に空を覆って降り注いだ。
「聖庇所!」
ニフェトが強化した魔力の盾を展開すると、緑光は触れた瞬間に光の粉となって消える。
敵が多すぎて、パシュスは狙いを定めきれない。
「先に魔杖を黙らせる?」
まつみが問う。
「頼む。」
むぐち やよいは冷静に敵編成を見極めた。
… …
パシュス、むぐち やよい、そして魔狼が前に出て、大剣のエルフを食い止める。
一撃は重いが、屈強なパシュスと機動力の高い魔狼を前にすると押し切れず、巨大なサンドバッグのように削られていく。
大剣を振り切った隙を突き、パシュスは盾で体当たりして倒した。
「騎士の栄光!」
新スキルを試すべく、パシュスは銀の騎士長剣を高く掲げる。
刃がまばゆい金光を放ち――その光が、すべてのハイエルフの視線を引き寄せた。
「え?」
パシュスは“挑発”を“火力”だと勘違いしていた。
無数のスキルが一斉にパシュスへ集中する。
「うわぁ~」
慌ててニフェトの盾の背後へ逃げ込んだ。
黒鉄の扉の白い紋様は、すでに光を失いかけている。
ルークの解除は、まもなく終わる。
まつみは壁際で透明化したまま、刺殺の機会を待っていた。
そこへパシュスの挑発が敵の意識を集め、魔杖の背後ががら空きになる。
「急所スキャン!」
新スキルを発動した瞬間、視界は真っ黒に沈み、闇の中で敵の心臓だけが鮮やかな赤の像として浮かび上がった。
一切のためらいなく、二本の短剣を弱点へ突き立て、手首をひねって破壊する。
魔杖のエルフは一撃で消え、全員が同時にレベルアップした。
「ねえ! 今の見―――」
まつみが興奮して叫んだ直後、ドンッと大盾のエルフに横合いから吹き飛ばされ、壁に叩きつけられる。
鼻血が噴き、前歯が一本折れ、そのまま矢の雨が降り注いだ。
ザシュザシュザシュ!
【システムメッセージ: フレンド まつみ HPが20%になりました】
「高位……祈祷……みんな、気をつけて……。もう、限界……」
ニフェトは息を切らす。
「うあっ!」
突然ルークが悲鳴を上げ、一本の矢が尻に突き刺さった。
【システムメッセージ: ルークを守れ──任務失敗】
白い紋様が、再び眩い光を放つ。
「くそっ!!! じゃあ任務は……」
パシュスが歯噛みし、振り返った瞬間――高精霊の守衛たちは跡形もなく消えていた。
「え?!」
全員が息を呑む。
「今、闇精霊一族の運命は君たちに託されている! 必ずこの扉を開き、典獄長を倒してくれ!」
闇精霊の村長は鉄格子を握り、力強く頷く。
「全力を尽くす!」
ルークは檻を出て、黒鉄の扉の前で白い紋様に触れた。
「勇者様、解除には集中が必要だ! 守ってくれ!」
さきほどと同じ台詞を繰り返す。
「どういうこと?! 過去に戻った?!」
まつみは目をこすって叫ぶ。
【システムメッセージ: ルークを守れ 残り時間:05分00秒】
ドンッ!
南側の木扉が叩き破られ、ハイエルフの守衛たちが再び雪崩れ込んできた。
「分かった、来い!」
むぐち やよいは即座に仲間を引き寄せ、部屋の隅へ退く。
「勇者様、どこだ?! うあっ!」
ルークの背に緑光が直撃する。
【システムメッセージ: ルークを守れ──任務失敗】
ルークは再び鉄格子のそばに現れ、さきほどと同じ台詞を繰り返した。
「パシュス~、まずこいつを止めて!」
むぐち やよいがルークを指さす。
パシュスはゴリ押しでルークを押し返す。
「勇者様、邪魔しないでくれ~!」
ルークはパシュスと取っ組み合いになる。
その隙に、むぐち やよいが説明した。
「ただのクエスト再起動だよ。」
「再起動? 失敗したんじゃなかったの?」
ニフェトが首を傾げる。
「うん。たぶんこれはボス戦の前提クエストで、強制イベントなんだ。進行不能を防ぐために、達成するまで何度でも繰り返される仕様。」
「でも、まこのポポは多人数戦が苦手だよ。」
まこは魔狼の頭を撫でながら言う。
「内容は分かった。じゃあどう攻略する? レベルは上がったけど、十体同時はまだ厳しい。」
ニフェトが現実的に指摘する。
「ちょっと~、こいつ力強すぎ~!」
パシュスはルークと相撲のように押し合いながら叫ぶ。
「い~や。失敗させ続けよう。」
むぐち やよいはニヤリと笑った。
… …
【システムメッセージ: ルークを守れ 残り時間:05分00秒】
「騎士の栄光!」
パシュスが叫ぶと、ハイエルフたちの攻撃が一斉に集中する。
【システムメッセージ: フレンド パシュス HPが20%になりました】
「高位祈祷!」
ニフェトは集中して回復を重ねる。
その一方で、むぐち やよいは部屋の隅でのんびりとステータスを確認し、まこは装備のコーディネートをしていた。
「急所スキャン!」
まつみが再び魔杖のエルフを瞬殺し、光の塵となって吸収される。
「すぐ戻ってきてね~」
まこは笑顔で手を振った。
五人はすぐに隅へ引きこもり、わざとエルフにルークの詠唱を妨害させる。
【システムメッセージ: ルークを守れ──任務失敗】
「入ってる?」
ニフェトが即座にステータスを確認する。
「入ってる! もうすぐレベルアップ!」
まこが嬉しそうに言った。
「次はまつみのアサシンスキルのクール待ちで安全に稼げるね。」
むぐち やよいは唇を舐める。
「あと50秒~!」
まつみはカウントダウンを見つめ、落ち着かない。
「ちょっと助けて! ルーク押さえつつヘイトも取ってるんだけど!」
パシュスは再び取っ組み合いながら叫ぶ。
「前衛なんだから~、存在感もっと出してよ。」
まつみは見下すように笑った。
… …
四時間後────
「勇者様、解除には集中が必要だ。守ってくれ!」
ルークは白い紋様に手を置く。
【システムメッセージ: ルークを守れ 残り時間:05分00秒】
ハイエルフたちは、もはや台本通りに扉を破って突入してきた。
「業火!」
まこが大剣のエルフを指さす。
二つの頭を持つ魔狼が、黒と赤の火球を同時に吐き出す。
大剣のエルフは業火に包まれ、悲鳴を上げて剣を落とし、のたうち回った末に光塵となって消えた。
「条頓悲歌!」
パシュスの身体に紫の光が走り、物理ダメージが三割軽減される。
別の大剣のエルフと激しく斬り結び、火花が飛び散った。
「吸血の刃!」
むぐち やよいの一振りごとに、空中に鮮烈な残光が走り、刃は幻の龍のように敵陣を駆け抜ける。
三分もかからず、ハイエルフは全滅した。
「やりすぎじゃない?」
まこは舌を出して笑う。
「盲点を突くのもゲームの醍醐味だよ。」
ニフェトも満足げに微笑んだ。
部屋が急に暗転し、ルークの解除が完了する。
【システムメッセージ: ルークを守れ──任務完了】
「勇者様、これで先へ進める。私はここで村長を守る。幸運を。」
ルークは真剣な表情で言った。
「始まるね。」
パシュスが息を整える。
「もうレベル210。余裕だね。」
むぐち やよいはステータスを確認する。
五人が黒鉄の扉の前に並ぶと、システム表示が現れた。
【システムメッセージ: 典獄長 の牢房に入る(Y/N)】
「行こう!」
まつみが迷いなくYを押す。
黒鉄の扉が、重々しく開いた──────────




