3 重砲士
*R18*に関わる内容は、別の場所で公開します。
まつみは淀みなく二本の矢をつがえ、同時に放った。
鉄甲の妖魔に大きなダメージが入る。
レベルが上がったことで足運びも軽くなり、森の中をリスのように素早く駆け回った。
一体の妖魔が不意に飛び出し、釘鎚を振り下ろしてくる。
とっさに後方へ跳んだものの、釘鎚が腕をかすめ、皮膚が裂けて血が流れた。
「氷牢!」
まこが放った魔法で、妖魔の両脚が凍りつき、身動きが取れなくなる。
「はあっ!」
パシュスが剣を振るい、妖魔の脚を叩き砕いた。
妖魔は倒れ込み、両腕をむやみに振り回す。
まつみはすかさず眉間へ二本の矢を撃ち込み、息の根を止めた。
まことパシュスは、肩で大きく息をしている。
「ふぅ……」
まつみは汗を拭ったが、失血のせいで急に目眩がした。
「回復魔法は?!」
「……あ~、忘れてた……回復術。」
かなは、今起きたばかりのような様子でまつみの傷に手のひらを向ける。
柔らかな緑の光が腕を包み込み、思わず声が出そうになるほど心地よかった。
「次はもっと早く反応してよ!」
まつみは恨みがましい視線をかなに向ける。
「まあまあ~、みんな新手だし。」
まこが慌てて取りなす。
「反応が遅れたら危ないだろ! それに回復量も低すぎ!」
まつみは自分のスタミナゲージを見て言い放つ。
「……うん。」
かなは再び目を細めて答えた。
「この役立たず! 命を預けられるかっての!」
まつみの怒号が森に響き渡る。
「声を抑えろ! この森には妖魔の頭目がいるんだぞ!」
パシュスは慌てて制止した。
「ちっ! 文句言うなよ! ヒーラーが回復できなくて何の意味がある!」
まつみはなおも食い下がるが、かなは眠たそうな顔で気にも留めない。
「……あ、あの……囲まれてる、かも。」
まこが震える声で言い、長杖をぎゅっと握りしめた。
「なに?!」
まつみとパシュスが同時に声を上げる。
四人は背中合わせになって身を寄せた。
周囲には赤く光る無数の視線が潜んでいる。
次の瞬間、地面が轟音とともに揺れ、片側の大木が次々となぎ倒された。
「グオオオ!」
四人の背丈ほどもある、赤皮の鉄甲妖魔が木々を突き破って姿を現す。
全身は筋肉の塊で、大型の鉄斧を握り、重厚な鎖帷子をまとっていた。
疑いようもなく、妖魔の首領だ。
「ね、ねえ……あの頭目、レベルいくつ?」
まつみは明らかに不利な状況を悟って尋ねる。
「推奨レベルより……四、五は上だろ。」
パシュスは震える手で剣を握り、周囲に潜む妖魔の視線と睨み合う。
「じゃあ十五レベルじゃん!」
まつみは急に自信を取り戻す。
「二十だよ、しょうた……。」
パシュスは突っ込む気力もなかった。
「グオオッ!」
妖魔首領は鉄斧を振り回し、周囲の木々をなぎ倒す。
その動きは、圧倒的な力を誇示する挑発そのものだった。
「どうする?! このゲーム、キャラは永久ロストで、やり直すならアカウント買い直しだよ……。」
まつみは焦りを隠せない。
「かな! 神職者には加護スキルがあるだろ。短時間、防御を上げられるやつだ。
俺が加護を受けて注意を引く、その間に二人が叩く!」
パシュスは歯を食いしばって言った。
「よし、王道のパーティープレイだ!」
まつみは気合を入れ直す。
「……ごめん、覚えてない。」
かなはスキル一覧を開いて確認し、静かに死刑宣告をした。
「ち……畜生! 栄養失調か、脳みそ足りないのか?!」
まつみは膝から崩れ落ち、魂の叫びを上げる。
「かな……冗談じゃないよ……。」
まこは今にも泣き出しそうだ。
「うん。本当に覚えてない。」
かなはスキルウィンドウを閉じ、きっぱりと言った。
「そんな冷静でいられる?!
やめてよ!」
まつみは地面に突っ伏し、泣きながらかなの足にしがみつく。
「私が責任を取る。」
かなは無表情のまま、小さな歩幅で首領へ向かう。
「待て、かな!」
パシュスは即座に前へ立ちはだかった。
「死ぬなら、せめて意地見せろよ!」
まつみもよろよろと立ち上がり、二人に並ぶ。
まこは魔杖を握りしめ、唾を飲み込みながら苦笑した。
「このゲーム、ほんと高いよね……でも、もう仕方ないか。」
「……あ、みんな。」
かなの瞼が、ようやく持ち上がる。
「短い付き合いだったけど、縁があったら次のゲームでまた会おう。」
パシュスは乾いた笑みを浮かべた。
「……うん。」
かなは首領をじっと見据える。
「よし! 最後は―――」
まつみは、最後の中二病的決め台詞を放とうとした。
その瞬間、耳元で銅鐘を叩きつけたような轟音が炸裂し、空気が震えた。
黒い光線に赤い雷光が絡みついたレーザー砲が、一直線に首領へと叩き込まれる。
ドゴォォォン!!!!!!!!!
レーザーは森を貫き、列車が通ったかのような一直線の焼け跡を刻んだ。
周囲の木々は次々と炭化し、黒煙が立ち上る。
首領はそのまま消し飛び、灰すら残さず消滅し、装備といくつもの大袋の金だけが転がった。
三人は一気に四レベル跳ね上がり、全身が光に包まれる。
彼らを包囲していた獣人たちは、盾のように目を見開き、顎を外したまま四散して逃げていった。
まつみ、パシュス、まこは恐怖で魂が抜け、世界が白黒に反転する。
かなは順番に回復術をかけ、三人を意識に引き戻した。
「……俺様だよな? やっぱり俺様が、運命に選ばれた主人公だったんだよな?」
まつみはレーザー砲の破壊力を思い出し、逆に自分が怖くなる。
「黒雷……。」
かなは目を細めて呟いた。
「なにぃ?!」
まつみの歓喜は、一瞬で引き剥がされる。
かなは小さく頷く。
「くそっ! 俺様、主人公じゃなかったのかよ!」
まつみは地面を叩いて悔しがった。
「えっと……神職者のスキルって、魔法使いより強いの?」
まこはその場にへたり込む。
「それ、魔法。」
かなは淡々と言う。
「そんなわけないよ、見つからないもん!」
まこは慌ててスキル一覧を開き、「黒雷」を探すが表示されない。
「待って、まこ……魔法って、使う時にスキル名を叫ばないとダメなんだよな?」
パシュスがはっとして言った。
「うん。不詠唱じゃ魔法は使えないよ。」
まこが答える。
パシュスの顔色が一気に青ざめた。
震える手でパーティー情報を開いた直後、そのまま地面に倒れる。
「……うん。私は詠唱なしで使える魔法使い。三次転職の賢者。」
かなは何事もなかったかのように言った。
「さ……三次転職……。」
まつみはその場で崩れ落ち、顔を土に埋める。
「えっ?!」
まこもパーティー情報を確認し、声を裏返した。
「二百六十一レベル?!」
かなは再び回復術で二人を起こし、まつみの横に立つ。
まつみは片手を上げた。
「……いい。もう少しだけ、挫折させてくれ。」
土の中からくぐもった声がする。
「かな、そんな高レベルなら最初に言ってよ!」
まこは頬を膨らませ、拗ねたように言った。
「……ここ、眠くて。」
かなは欠伸を一つした。
「か……かなさん。低レベル帯で、何をしているんですか?」
パシュスは急に丁寧な口調になる。
「見ての通り。神職者のスキル上げ。」
かなは修道服の裾を軽くつまんで示した。
「でも、本職を優先すべきじゃ……?」
パシュスは真剣に問い返す。
「神職者の一次転職にある、回復系の自動回復パッシブが欲しかった。
スキルレベルを上げるには、何度も使う必要があるから。
それで、初心者の村に戻って怪物に殴られながら、回復術を使い続けてた。」
その説明を聞いた瞬間、まこの白目が裏返り、再び意識を失った。
更新は基本【毎日1話】。
さらに、
ブックマーク10増加ごとに1話追加、
感想10件ごとに1話追加します。
書き溜めは十分あります。
一緒にテンポよく、魔王討伐まで突っ走りましょう :)




