32 別れの時
「まつみって、本当に格好つけるのが好きだよな。あの時だって、かなにレベリング手伝ってもらってたじゃないか」
道中、パシュスは笑いながら言った。
「一応、私もちゃんと釣り役はやってたし、楽してたわけじゃないよ。危険な目にも遭ってるんだから!」
妖魔の森での日々を思い出し、今でも少し背筋が寒くなる。
四人は銀行の向かいにある市庁舎へ向かい、ベイル男爵を探して転職クエストを開始した。
…
「勇者よ。レベル120に到達したことを祝おう。二次転職が可能だ。各一次職には二つの二次職があり、それぞれの二次職からは二つの三次職が派生する。職業ごとに特色があり、スキル補正の属性も異なる。
進む道は慎重に選びなさい。
転職の際、転職官は個人的な質問をすることがある。その答えによって職業が決定されるため、プレイヤーが自由に選択できるわけではない。では、各自自分の导师を探すといい──場所は以下の通りだ……」
ベイル男爵はそう告げた。
「よし~、それぞれ転職だ! 終わったら庭園に集合な」
パシュスが言う。
「まこ、魔法アカデミーの場所が分からないよ」
まこはクエストマップを見つめ、困ったように言った。
「魔法アカデミーは聖白花教会の隣よ。一緒に行こう」
ニフェトが答える。
「早く出発しよう! 私は北の城外にある狩人村のキャンプだ」
まつみは待ちきれない様子だ。
「じゃあ、私はむぐちと……」
パシュスはそこで言葉に詰まった。
そうだった。むぐち やよいはすでにパーティーを抜けており、四人はまだ慣れていない。
「よし、一時間後に庭園集合で。ゲーム内の秘匿ワードは伝書鳩システムで、一対一しか送れないし、距離で受信が遅れる。面倒だから、時間厳守で頼むぞ」
パシュスが念を押す。
「うん!」
四人はそれぞれ転職へと向かった。
…
ニフェトはゴシック様式の大聖堂に足を踏み入れた。
色鮮やかなステンドグラスには、真神ラロが天地を開き、魔王を討って世界を救う物語が描かれている。
「ニフェト。神職者は生涯を唯一の真神──ラロに捧げる。御名のもとに弱き者を救い、世の罪を裁く。我らは地上におけるその代理として、人々を救済へ導く存在だ。その覚悟はあるか?」
枢機卿が問いかける。
「盲目的に殺戮の命令に従うことも含まれますか? それが、教廷に対する私の唯一の不満です」
ニフェトは問い返した。
「神職者は生涯を捧げ……その覚悟はあるか?」
枢機卿は繰り返す。
「あります」
ニフェトは半ば諦めたように答えた。
「ニフェト。我は枢機卿団を代表し、ここに宣言する。汝は正式に教廷の一員──神官となった」
聖卓から銀白の祭服を取り上げ、ニフェトに手渡した。
満足げにそれを受け取り、青と金で織られた精緻な文様をそっと撫でる。
…
まこは魔法アカデミーの内部に入った。
三方の壁はびっしりと古書で埋め尽くされ、机の上には精巧な銀器と、青や紫に揺れる液体が並ぶ。多くの者が黙々と書を読み、雰囲気はまるで大学の図書館のようだ。
「まこ。魔導士は知識と知恵によってムー大陸を前進させる。旧世界の限界を試し、新たな領域を切り開く。我らは太古の神秘──魔法を継承し、その知を生活に活かして現状を変える。その自信はあるか?」
協会長が問いかけた。
「えっと……召喚師の選択肢はありますか? 本を読むのはあまり得意じゃなくて」
まこは照れくさそうに答えた。
「あります。こちらへ」
協会長はまこを地下へ案内し、正方形の密室へ連れて行った。三方の壁には、それぞれ鉄の扉がある。
「召喚獣は慎重に選びなさい。しばらくの間、その存在と共に成長することになります。他の魔物を召喚できるようになるまで、です」
協会長はそう告げた。
「わあ~、ペットみたい!」
まこは目を輝かせ、最初の扉に駆け寄る。小さなドラゴンや亀のような、可愛い精霊を期待していた。
手を触れた瞬間、鉄の扉は透明に変わった。
最初の扉の中には、白いオウムがいた。飛ぶたびに、光の粉を尾のように残す。
「霊鳥──スキルの効果範囲を拡張し、回復を行う」
二つ目の扉の中には、緑色の一角獣。
「角獣──身を守り、敵に突進して行動の時間を稼ぐ」
三つ目の扉の中には、黒紅色の魔狼。
「火牙──魔法威力を強化し、敵を喰らう」
オウムを選べば、魔法の扱いは格段に楽になる。
一角獣なら、仲間を直接守れる。
魔狼は、純粋に攻撃力を高めるだけ。
「うーん……どれがいいんだろう」
まこは悩んだ。
「魔法威力……力……敵を喰らう……」
その三つの言葉が、不意に強く心を引いた。
静かに魔狼を見つめる。
だが、その姿は好きになれなかった。
低く唸る声に、恐怖と嫌悪を覚える。
視線を避けたくなるほどだったが、無理やり目を逸らさず向き合った。
「まこ、決まったかい?」
協会長が尋ねる。
「……うん。魔狼にする」
冷静に言い切った。
「これは初級召喚杖だ。先端の穴に召喚霊石を嵌めれば、魔物を呼び出せる」
召喚の杖と霊石を手渡した。
……
まつみは狩人村のキャンプに到着した。周囲には数軒の草葺き小屋があるだけで、正面には広い射的場が広がっている。
「転職か?」
革鎧に身を包み、長弓を背負った獵人が声をかけた。
「うん! 私は——」
元気よく名乗ろうとする。
「名前なんてどうでもいい! 青い敵を倒せ」
乱暴に遮られ、射的場へ転送された。遥か彼方には、青い布を被せた藁人形が立っている。
怒りが込み上げ、弓を引き絞る。
「おい! こんな距離、当たるわけないでしょ!?」
苛立ちをぶつけた。
「名前なんてどうでもいい! 青い敵を倒せ」
獵人は同じ言葉を繰り返す。
ちっ……。
呼吸を整えようとした、その時。近くの草束の脇に、倒れて青布を被った藁人形があるのに気づいた。
「倒れてても……青は青だよね。えへへ」
狙いを定めようとした瞬間、右隣にいた獵人が突如ナイフを振り下ろす。
彼の革鎧は、青い布の服へと変わっていた。
驚いて身をかわし、小刀を抜いて胸元へ突き立てる。
刃が布に刺さった瞬間、身体が急に動かなくなり、その場で硬直した。
「いいね~、アサシンだ」
獵人は、模様の刻まれた銀の短剣を足元に放り投げ、何事もなかったかのように小屋へ戻っていった。
動けるようになり、呆然と短剣を拾い上げる。
ステータスを確認すると、アサシンに転職していた。
「私の出番は?」
呆気に取られたまま、短剣を手に王都へと戻っていった。
…




