31 別れの時
「はは~、ゆっくり食べて。こういう料理はいくらでもあるんだから。遠慮なく言ってね」
豪快に笑い、まったく気にしていない。
「どうしたの? ギルドの内部パーティーはないの?」
むぐち やよいが微笑んで尋ねた。
視線を巡らせ、細めた目でじっと値踏みする。
その笑みは、どこか悪戯っぽく歪んだ。
「ずいぶん、ギルドの仕組みに詳しいね~」
「えへへ。他のゲームで会長をやってたから。だいたい同じだよ」
グラスを一口あおり、淡々と答えた。
「現実でも知り合いなの? 五人で一緒にこのゲームを始めたの?」
アンドリアが尋ねた。
「違うよ。私とまつみ、パシュスは同級生。ニフェトとむぐち やよいはゲームで知り合ったの」
まこはにこっと笑って答える。
「むぐち やよい。面白い名前ね」
くすりと笑った。
むぐち やよいは、こっそりと睨み返す。
「城主って忙しいでしょ? どうして私たちみたいな、ただ飯目当てと話してる余裕があるの?」
四人も、二人の間に漂う火花を感じ取っていた。
「優秀なギルドマスターは、信頼できる仲間に権限を委ねるものよ。経験者のあなたなら分かるんじゃない?」
口元に嘲るような笑みを浮かべる。
むぐち やよいは、そっぽを向いて相手にしない。
「これから、どうするつもり?」
まこを見て尋ねた。
「私? みんなについていくだけだよ~。たぶん二次転職してから、グズ城でレベル上げかな? 目標は魔王討伐だし」
苦笑いで答えた。
「魔王討伐の条件、知ってる? 城主の金鍵を四本集めないと、魔王の城の扉は開かないの。……私を倒す自信、ある?」
胸元から銀の鎖を引き出す。先には手のひらほどの金色の鍵が下がり、精緻な紋様の奥に『プラムス』の文字がかすかに見えた。
「城主の金鍵!!!」
五人は息をのむ。胸元で揺れるその鍵は、誰もが夢見る至宝だった。
「触ってもいい?」
まつみは唾を飲み込み、思い切って聞く。
「はは~、もちろんダメ。バカなの?」
大笑いして一蹴する。
「どうして、そんな貴重なものを私たちに見せるの?」
むぐち やよいは即座に警戒心を強めた。
笑みが消え、真剣な眼差しで五人を見る。
「魔王を倒す方法は一つだけ──協力よ。私のギルドに入りなさい」
炯々とした目に、強い期待が宿る。
五人は内心で息をのんだ。城主自ら、加入を誘ってきたのだ。
「はい、これ」
一人ずつ、黒いカードを手渡す。
「経験カード? どういうこと?」
ニフェトが黒いカードを見つめる。
「私の提案を受け入れれば使える。一枚で五百万経験値。即座に三次転職まで跳ね上がって、レベル250に到達できるわ」
驚愕に目を見開く、手が震える。何の変哲もない黒いカードに、五百万もの経験値が眠っている。
「ただし、条件がある」
視線が鋭くなる。
「確認させて。これだけの経験値、あなたにとって重いの?」
むぐち やよいは核心を突いた。
「レベルを50落とした。今は374。四次転職の隠し条件の一つを、ぎりぎり満たしてるだけ」
包み隠さず答える。
「50レベルと引き換えに、私たちを勧誘?何か裏があるんじゃない?」
ニフェトとパシュスがひそひそ話す。わざと聞こえる声量で。
「条件は──あなたよ。むぐち やよい、私の副ギルドマスターになりなさい!」
指差し、得意げに笑った。
「はぁ!? 正気を疑うわ」
仰天する。狙いが自分だったとは。
「本気? 冗談じゃないよ。ギルドの人たち、六口に従うと思う?」
ニフェトが冷静に疑問を投げる。
「簡単じゃない。でも、このゲームは現実と同じで人材に飢えてる。優秀で信頼できる仲間は何より大切。……ギルドマスターの気持ち、分かるでしょ?」
真正面から見据え、強い眼差しで説得しにかかった。
「いつ私が有能で頼れる人間になったのよ!?」
むぐち やよいは仰天して聞き返した。
「みんなで評価してみて。あなたたちは、むぐちをどう思う?」
アンドリアは残りの四人に向けて尋ねる。
「むぐちは判断が早くて冷静。短時間で最善の選択を出せる」
ニフェトが答えた。
「冷たい印象はあるけど、とても頼りになるよ。まこはそばにいると、いつもすごく安心できるの」
指を唇に当て、思い出すように笑う。
「ば、ばか……!」
仲間に褒められ、むぐち やよいは照れてしまう。
「最初は冷血に見えた。でも長く付き合うと、実はとても優しくて気配りができる人だって分かった」
パシュスも称えた。
「ほらね~」
両手を広げ、数の力で説得しようとする。
「小賢しいだけよ~。私は———」
「PK解放してノクスを倒し、城主の座を奪って勝利を確実にした。その時点で、あなたの実力は十分すぎるほど証明されている。頭脳も胆力もあるし、決断したら即行動できる。得難い人材よ。胸に手を当てて考えて。私のギルドに入れば、レベル上げの時間を大幅に省けて、魔王討伐もずっと楽になる。これ以上の選択がある?」
揺るがぬ事実を突きつけ、どの論点も反論の余地がない。
むぐち やよいは眉をひそめ、黙って考え込む。
「むぐち~、決めるのはあなただよ。でも、私は『銀龍の刻印』には入らない――お断りだよ」
まつみは落ち着いた声で言った。
「はぁ!? 五百万経験値にお金まであるのよ! どれだけのプレイヤーが銀龍の刻印に入りたがってるか分かってる? 今、私が直々に誘ってるのに!」
大きく動揺し、その決断が理解できない。
「だって……私たちは自分たちのギルドを作って、四つの城主になる。そして仲間を連れて魔王を倒す!」
自信満々に笑う。
「正気!? 一つの城を守るだけでも大変なのよ。それに最初からやり直すなんて。今ここで強力なギルドに入れば、間違いなく最短ルートでしょ!」
立ち上がり、感情をあらわに反論する。
「確かに。でも、オンラインゲームの醍醐味は仲間と一緒に成長して、冒険すること。いきなり成り上がるのは、チートと何が違うの? 最高レベルになっても新しい仲間と出会えないなら、そんな遊び方に意味はある?」
冷静に問い返した。
「むぐち やよい、私の言葉をよく考えて。合理的で、最も有益な提案よ!」
焦りを滲ませて訴える。
「私……」
「むぐち~、自分で決めて。私たちみたいな小さなパーティーにいるのは、あなたの才能を無駄にする」
立ち上がり、パーティー画面を開いて軽く操作した。
【システムメッセージ:六口彌生 をパーティーから除外】
「…………」
むぐち やよいは答えなかった。
「ふん、大きなことを言うわね、まつみ。でも、それこそが私たちがゲームをやる理由だ」
パシュスが立ち上がる。
「えへへ~。まこは、みんなについていくだけだよ」
笑顔で立ち上がった。
「またパーティーの連携を作るのは面倒だし」
ニフェトも立ち上がる。
「どういうつもり?」
驚いて問いかける。
「二次転職を始めるところ~。これ以上遅れると、進行がもっと遅くなるから」
そう言って、大広間を後にする。
「さよなら、むぐち~。二次転職の時に抜けるって言ってたし、それも一つの選択だよ」
四人は軽く手を振って別れを告げ、扉を閉めて去っていった。
「……合理的な判断ね」
アンドリアの隣に座り、淡々とつぶやいた。
※あなたなら、六口と同じ選択をしますか? :(




