30 別れの時
良い週末を過ごせましたか? 今週もよろしくお願いします。
魔法のエフェクトと荒々しい戦吼は、いつの間にか静まり返っていた。
三日目の城戦は驚くほど穏やかで、城壁の外には人影すらなく、まるで日常の平和が戻ったかのようだった。
アンドリアはグリフォンに騎乗して空を翔け、生き残った者たちは中央庭園に集まり、システムによる城戦終了の宣告を待っていた。
GM03が、黄昏の紅い雲霞の中に浮かぶ。
「第一回王都戦争は、まもなく終了します。直後より24時間、PVPは禁止となります。
各プレイヤー、準備はいいかな~」
誰もが息を詰め、高まっていく感情を必死に押さえ込む。
「3~2~1~」GM03がカウントを終えた。
【システムメッセージ: 第一回王都戦争 完結】
アンドリアは静かに着地し、地上の戦友たちと無言で視線を交わす。騎槍を高く掲げ、勝利の笑みを浮かべた。
「うおおおおおおおおっ!!!!!!!!」
庭園に、熱を帯びた歓声が炸裂する。
まこは嬉しそうにニフェトを抱き寄せ、むぐち やよいは大きく背伸びをした。
まさか、自分たちが無事に城戦を生き延びられるとは思ってもみなかったのだ。
GM03は庭園の上空へと漂い、きらびやかな花火を打ち上げて祝福する。プレイヤーたちは手を振って応えた。
「みんな、お疲れさま~」GM03は微笑みながら言った。
「GM! 城戦で死んだ人を復活させる方法はないの? 私……ギルドメンバーの半分を失ったの。課金アイテムでも何でも買う!」
精霊ねこ屋のギルドマスターが、嗚咽をこらえきれずに問いかける。
「ごめんね。GameOverとなったプレイヤーは復活できません。戦死者の一部経験値は撃破者に吸収され、一部の金銭と経験値はドロップアイテムになります。GameOverプレイヤーを復活させてしまうと、システムバランスが崩れてしまうんです。
でもね、城戦で戦死したプレイヤーは、48時間以内にアカウントを再購入すると、三日間、モンスター討伐およびクエスト報酬の経験値が300%アップします。すぐにレベルを取り戻せますよ~」
GM03は楽しげに語り、どこかで金貨が触れ合う音がした気がした。
「よかった!!! ありがとう、GM!」
精霊ねこ屋のギルドマスターは、一気に表情を明るくした。
「どういたしまして。それじゃあ、ムー大陸各王都の戦報をお知らせするね~~。
プラムス中央要塞───防衛成功、銀龍の刻印ギルドが制圧。
グズ湿台───防衛失敗、01日03時間前に『プラハの恋人』ギルドが制圧。
ハググ───防衛成功、獣人族長・紅牙が制圧。
ヴィニフ宮殿───防衛成功、精霊評議会が制圧。
続いて、プラムス中央要塞・特別戦報。
攻城側参加人数──502名、戦死289名。
守城側参加人数──435名、戦死311名──うち反乱軍85名。
これより24時間、PVP機能は停止されます。ゆっくり休んでね。
以上です」
GM03は数字を読み上げた。
……
紅の大広間には再び豪華な竜晶の大シャンデリアが吊り下げられ、七色の光が夢幻のように空間を照らしていた。
卓上には美酒と佳肴が並び、あちこちでグラスを合わせる笑い声が弾む。
誰もが重たい鎧を脱ぎ、可愛らしい衣装に着替えて参加していた。猫耳や兎の尻尾は、もはや必須装備だ。
アンドリアは深紅のイブニングドレスに身を包み、ひときわ人目を引いた。
階段に立つその美しく可憐な少女が、一国の覇者であり、戦場に君臨する終極の死神だとは、とても想像できない。
階段の上でグラスを掲げると、大広間は一瞬で静まり返った。
「ありがとう。今夜もこうしてこの豪華な大広間で祝えるのは、ここにいる皆さん一人ひとりの尽力のおかげです。
銀龍の刻印を代表して、肩を並べて戦ってくれた盟友の皆さんに、改めて心から感謝します。
初めての城戦、万全を期したつもりでも抜けはありました。最大の敵が城外ではなく城内にいたこと、城主である私の責任です。二度と同じ失敗はしません」
鈴が転がるように澄んだ声が大広間に響き、ひと言ひと言が力強く胸に届く。
パン、と手を打つと、隠し扉からNPCのメイドが二人、腰ほどの大きな革袋を提げて現れた。
紐を解いた瞬間、袋の口から竜貨が滝のようにあふれ出す。
金色の輝きに誰もが目を奪われる。
「ここに7000竜貨あります。自由に持っていってください。これからも、どうぞよろしく」
そう言って、にこりと笑う。
プレイヤーたちは金の山へ雪崩れ込み、場は一気に騒然となった。
手に、胸に、ポケットに、果ては口でくわえてまで、あらゆる手段で竜貨をかき集める。
まつみは勢いよく金の山に飛び込み、竜貨を背嚢にかき込んだ。
大広間の脇からは三人の楽師が現れ、生演奏で狂宴の空気に火をつける。
誰もが心ゆくまで飲み明かし、現実で嘔吐してログアウト、シャワーへ向かう者まで出る始末だった。
ギルドマスターたちに囲まれ、すっかり持ち上げられている。
顔には終始、甘い笑みが浮かんでいた。
……
テーブルは散乱し、ほとんどのプレイヤーはすでにログアウトして休んでいる。大広間に残るのは清掃中のNPCメイドだけだ。
まつみたち五人は、まだ隅で食べ続けていた。
「パシュス! その豚のもも肉、早くちょうだい!」
まつみは大口を開け、食べ物を次々と流し込む。
「タダでも限度があるだろ……もう六皿目だぞ」
ためらいながらも、豚ももを手渡した。
「ゲームだよ~。何が怖いの~。おいしいし~、ステータス補正もあるし~」
もぐもぐと咀嚼しながら話し、脂と肉片がテーブルに飛び散る。
まこも黙々と手を動かし、残ったデザートをすべて平らげるつもりらしい。
「本当に、行儀が悪すぎる……」
ニフェトは思わずツッコミを入れた。
むぐち やよいは腹を抱え、満腹のげっぷを漏らす。
「やあ~、一緒に座ってもいいかな?」
アンドリアは丁寧に声をかけ、城主らしい威圧感はまったくない。
五人は動きを止め、呆然と見つめた。まつみの口元には、まだ豚の脂が垂れている。
「いいですよ~。だって、あなたが主催者ですし」
パシュスは嬉しそうに言い、身体をずらした。
笑いながら椅子に飛び乗り、まつみの隣に腰を下ろす。
その拍子にむせ、ぐちゃぐちゃの肉の塊を噴き出してしまい、思わず飛び退く。
ニフェトは落ち込んで俯き、顔を覆った。
ほんの半秒、まつみをフレンドリストから削除したい衝動に駆られる。




