2 重砲士
*R18*に関わる内容は、別の場所で公開します。
「お疲れさまでした、勇者様。こちらが羊貨三十枚と、経験カード五枚です。」
村長は小さな布袋をまつみに手渡した。
「羊貨三十枚? この世界の通貨って、どういう換算なんだ?」
まつみは袋を開き、中に入った黒ずんで黴びた、羊の頭が刻まれた硬貨を覗き込む。
「ムー大陸で流通している通貨は三種類あります。羊貨、狼貨、そして竜貨です。羊貨百枚で狼貨一枚、狼貨百枚で竜貨一枚になります。」
村長は説明した。
「じゃあ、次の主城はどこ?」
まつみが尋ねる。
「メインクエストの次の目的地は、プラムス中央要塞です。村の北にある妖魔の森と、河霊の流域を抜ければ、中央要塞に辿り着けます。」
村長が答えた。
「危険なのか?」
パシュスは先ほどの戦闘を思い出し、不安そうに聞く。
「妖魔の森の奥には妖魔の首領が棲んでおり、能動攻撃属性です。一方、河霊の流域は水精霊の拠点で、非能動攻撃属性となっています。」
村長は淡々と答えた。
「次の任務はないのか?」
パシュスが続けて問う。
「ご厚意はありがたいのですが、任務を受けられるのは六時間に一度までとなっております。」
村長は慈愛に満ちた笑みで、三人を断った。
「プレイヤーが無闇にレベルを上げて、細かい要素を見落とさないようにするためか。なるほどな。」
パシュスは納得したように言う。
「ですが……勇者様が羊貨を三十枚ほどご用意くだされば、老いぼれが六時間の制限を無視して任務をお渡しすることもできますが……。」
村長の穏やかな笑みは歪み、全身から卑しい気配が滲み出る。
「課金なんてするわけないでしょ!!!」
まつみは村長に向かって怒鳴りつけた。
……
三人は噴水のそばにある宿屋へ向かい、腰を下ろした。
ホールにはさまざまな人々が集まり、それぞれ異なる武器を持っていたが、全員が麻布装備だった。
共通点はただ一つ──全員が初心者であることだ。
「スタミナポーション一本で羊貨十五枚?!」
パシュスは目を見開いた。
「基本防具も一着で羊貨二十枚らしいよ。」
まつみは聞き込みで得た情報を共有する。
「まこはお金、魔力ポーションに使わないとだね~。」
まこは、心許ないほど軽い巾着を見つめながら言った。
「モンスターのドロップ品で、レベル十まで粘ろう。正式職業に転職すれば、装備一式も貰えるはずだ。」
パシュスが提案する。
「よし! 今のうちに狩って、どんどんレベル上げよう!」
まつみはジョッキを掲げた。
「うん!」
三人は軽く杯を合わせる。
「お客様、もうお出かけになりますか?」
NPCのメイドが声をかけた。
「もちろん! この世界は俺様が救うのを待ってるんだからな!」
まつみは再び得意顔になる。
「ご利用ありがとうございました。お代は羊貨六十六枚になります。」
メイドはにこやかに告げた。
冷たい風が薄い衣服の隙間から吹き込み、三人の背中を一層寒々とさせた。
……
「くそっ! 完全にぼったくりじゃん!」
まつみは毒づきながら、近くの妖魔を射抜いていく。
「食事、買わなきゃよかったかも。まだ疲労値、残ってたのに。」
まこは照れた笑みを浮かべる。
「まあいいさ。少しずつ貯めていこう。」
パシュスは妖魔の死体を漁り、換金できそうな物を探した。
「チッ……。」
まつみは不機嫌そうに、狩りを続ける。
「このゲーム、プレイヤー多いね~。」
まこは、あちこちに固まっているプレイヤーたちを眺めた。
「大作だからな。他の職業でも四人パーティーを組んでる連中がいるはずだ。どこにいるかは知らないけど。」
パシュスが言う。
「やっぱり、ゲームはみんなで遊ぶのが一番だよね~。一人だと、まこ寂しくなっちゃうもん。」
まこは笑って言った。
「はは、問題ないさ。俺たち三人、これまでも色んなゲームを制覇してきただろ。」
パシュスは肩をすくめた。
「二人とも、少しは手伝いなさいよ! なんで私だけが狩ってるの!」
まつみは怒鳴り声を上げた。
「そう言うなよ。スタミナポーションは高いし、近接職は出費がかさむんだ。」
パシュスは苦笑いで応じる。
まつみは怒りを込めて、まこを睨みつけた。
「まこの魔力も、もう空っぽなの~。」
まこは舌を少し出し、愛嬌を振りまいた。
「魔力ポーション買うんじゃなかったの?」
まつみは険しい顔で問い詰める。
「えっと……その……。」
まこは頬を赤らめ、太腿をきゅっと寄せて身体をもじもじさせた。
「どうしたんだ?」
パシュスが首を傾げる。
まこは恥ずかしそうに髪をかき上げ、耳元に留めたピンク色のスライム型ヘアピンを見せる。
「魔力アイテム? 攻撃力でも上がるの?」
まつみは、その可愛らしい髪飾りを指差した。
「……可愛すぎて、つい。」
まこは照れ笑いを浮かべた。
「やっぱり俺様、ソロの方が向いてるわ……。」
まつみは天を仰ぎ、悲壮な叫びを上げた。
……
二時間が過ぎ、三人はレベル十に到達し、正式な職業へと転職、最初の職業装備を手に入れた。
「へへへへ! 俺様のレベルアップ速度、まさに神速だな~。」
まつみは弓箭手のレザーアーマーを身にまとい、得意げに笑う。
「思ったより早かったな~。」
パシュスも初めてのプレートアーマーを装備した。
「じゃじゃーん!」
まこはウインクし、ピンク色の小さな舌を出しながら、黒いミニスカートをそっとつまみ上げる。
「うわっ! かわいいよ、まこ!」
パシュスは胸が高鳴るのを隠せずに言った。
「コホン……ヘアピンと、よく合ってるじゃない。」
まつみは少し拗ねたように言う。
「行こっ! 召喚師への道、出発だよ!」
まこは胸を張り、妖魔の森の方角を指差した。
……
三人は小道を進み、森の入口に辿り着く。
そこには木製の立て札が立っていた。
「推奨レベル:十五」
「レベル十五か……やめたほうが―――」
パシュスは札を見つめ、不安そうに口を開く。
「LET’S GO!!!」
その声と同時に、まつみはすでにまこを引っ張って森へ突入していた。
「おい、待てって!」
パシュスは重い鎧をきしませながら、覚悟を決めて追いかける。
……
前方には、果てしなく続く深い樹海。
周囲は薄暗く、至る所に危険が潜んでいる気配があった。
勇者見習いの村の周辺とは、明らかに空気が違う。
「うぅ~……。」
前方から、かすかな呻き声が聞こえてきた。
三人は思わず身を強張らせる。
「まさか、プレイヤーが死にかけてる?!」
まつみは爪を噛みながら、緊張した声を出す。
「まこ、暗いところ苦手なんだよ~。」
まこは身体を小さく丸めた。
「ここまで来た以上、引き返すほうが危険かもしれない。それに、情報を得るチャンスでもある。行ってみよう。」
パシュスは自分に言い聞かせるように言った。
三人は慎重に音のする方へ近づく。
すると、緑色のツインテールの小さな少女が、白いローブ姿で地面に倒れ、虚ろな目で目の前の妖魔を見つめていた。
妖魔は鉄鎧をまとい、手には釘鎚、口には鋭い牙を覗かせている。
初心者エリアにいた妖魔とは、明らかに格が違った。
獣のような咆哮を上げ、釘鎚を振り上げて少女の頭へ振り下ろす。
ヒュッ――ガンッ!
まつみの放った矢は、妖魔の腕甲に弾かれた。
「はぁ?! どこから来た、その防御力!」
彼女は思わず声を上げる。
鉄甲妖魔はゆっくりと振り向き、釘鎚を構えてまつみを追う。
まつみは即座に別の木の陰へ跳び込み、身を隠した。
「白の矢!」
ドンッ!
背後から放たれた閃光が妖魔を直撃する。
「グォォ……。」
妖魔は数歩吹き飛ばされ、体勢を崩して転倒した。
まつみはその隙を逃さず、矢を連射して動きを封じる。
妖魔は腕で矢を防ぎながら、怒りの咆哮を上げる。
「もらった!」
その瞬間、パシュスが木の上から飛び降り、一閃。
剣先が妖魔の頭部を貫いた。
白目を剥き、妖魔は仰向けに倒れて動かなくなる。
「うわっ! 羊貨が九枚もある!」
パシュスは財布を拾い上げ、目を輝かせた。
「経験値もすごいよ!」
まつみは自分の経験値バーが七%も跳ね上がったのを確認する。
「この鎧、売ったらお金になるかも!」
まこは妖魔の鉄鎧を指差した。
「あっ! やっぱり天才だな!」
パシュスとまつみは同時に声を上げ、まこの肩に手を回した。
三人は興奮した様子で、倒れた妖魔の死体を囲み、あれこれと調べていた。
緑髪の少女は、相変わらず地面に座り込んだまま、ぼんやりしている。
「大丈夫か?」
パシュスは手を差し伸べ、緑髪の少女を起こした。
「……何のこと?」
少女は首を傾げた。
「こいつ、妖魔に驚きすぎて呆けたんじゃない?」
まつみは眉をひそめて言う。
「呆けた……?」
緑髪の少女は、細めた目をさらに細くして聞き返した。
「そうだよ! さっき俺様が命を救ってやったんだから!」
まつみは親指で自分を指し示す。
「一人なの? それなら一緒に冒険しない?」
まこはにこやかに声をかけた。
「一人。……冒険?」
少女は要領を得ない様子で繰り返す。
「そうだよ! 一人は危ないし、それに……あ、待って!」
まこは少女の白いローブに目を留め、何かに気づいた。
「そうだ! あなた、神職者でしょ? ソロなんて無理だよ~。一緒に組もう!」
まつみも、少女が神職者の装備で鈍器を持っているのに気づく。
「パーティー? 私と?」
緑髪の少女は、まだ少しぼんやりしている。
「細かいことはいいから! 一緒に行くよ、回復は全部任せたから!」
まつみはパーティー招待を送り、そのまま少女の手を引いて歩き出した。
「しょうた! あまりにも勝手すぎるだろ。」
パシュスは慌てて声を上げる。
「さっき助けてやったんだぞ? じゃなきゃ、もうゲームオーバーだっただろ。」
まつみは鼻で笑った。
「……別にいいけど。」
緑髪の少女は、気にした様子もなく呟く。
「俺はパシュス。赤髪がまつみで、紫髪がまこだ。君は?」
パシュスが改めて尋ねた。
「……かな。」
「よし、かな! 救世主に出会えた幸運を噛みしめな! へへへへ!」
まつみは得意満面で笑った。
「システムメッセージ: かな パーティーに参加」
……
更新は基本【毎日1話】。
さらに、
ブックマーク10増加ごとに1話追加、
感想10件ごとに1話追加します。
書き溜めは十分あります。
一緒にテンポよく、魔王討伐まで突っ走りましょう :)




