25 罠
*R18*に関わる内容は、別の場所で公開します。
城戦二日目。
太陽が容赦なく照りつける。
尖塔の正門には、干からびたような刺客が八人、吊るされていた。
精気を吸い尽くされたかのように衰弱し、虫の息だ。
昨夜の城主暗殺は失敗し、捕縛されたことは明らかだった。
紅の大広間には、各ギルドの代表が集まり、今夜の防衛計画が協議されていた。
「通常、夜七時以降に大半のプレイヤーがログインする。敵主力は八時前後に集結し、攻勢に出ると見ている」
シモンは文字で埋まった羊皮紙を手に説明を続ける。
「本日の配置は以下の通りだ――
銀龍の刻印と紅の教条が北門。
軽音部、黒の騎士団、夜勤O棟が東門。
火原トカゲとガブリエル聖剣が西門。
精霊ねこ屋が南門。
昨日消耗したギルドには、できるだけ休息を取らせたい。ただし、即応できる体制は維持してくれ」
「ルシュ会長の予測では、今夜は敵の主将も出てくる。職業は近衛兵。異様なほど誇張された重装甲を纏っているらしい。周囲には三次転職の護衛が多数いるはずだ。発見次第、即報告を」
シルナが補足した。
後勤組は引き続き中央庭園で待機する。
城外から、すでに戦闘音が聞こえ始めていた。
「今日も任務なし~。城戦、参加したいなあ……」
まつみは小石を拾って投げ、極限まで退屈そうに呟いた。
「まこは……無事にやり過ごせるなら、それが一番だと思うよ」
まこは照れたように笑った。
「来た……北門に敵の大部隊が出現」
シモンは白目を剥いたまま報告する。
「数は?」
アンドリアが息を詰めて問う。
「公会旗が二つ、八十人前後。他の区域は安全だ」
「紅の教条がいるなら問題ない。あそこは手練ればかりだ」
アンドリアは意に介さず言った。
「見えた!!!!!!」
シモンが突然叫び、緊張で立ち上がる。こめかみに手を当て、鷹の視界への集中を高めた。
「西門! 二百人以上! 攻城塔多数、破城槌が一基! 中央に近衛兵と二十名以上の高レベルプレイヤー! 装備は黒基調、旗は黒のスペード!」
シモンが矢継ぎ早に報告する。
「すぐ東門へ増援を回せ! 敵の主力が出た!」
アンドリアが即断した。
「第三班――東京電波、伝令に走れ!」
シモンが咄嗟に一隊を指名する。
まつみの隣にいた四人編成の少女隊が立ち上がり、慌ただしく東門へ駆けていった。
「敵の主将が出た。護衛は三次転職が二十名。私の騎兵団よ……怖いか?!」
アンドリアが喝を飛ばす。
「いいえ!」
騎兵団は即座に、朗々と答えた。
「上等だ、狂犬ども! 昨日の奇跡をもう一度起こす! 生き残れば英雄だ!」
アンドリアが腕を振り上げる。
「アンドリア様、尖塔に留まるべきです。なぜなら――」
シモンが慌てて制止する。
「後方で仲間が死ぬのを見ていて、誰が我々を敬う?」
「破城槌がすでに城門に当たっています。外へ打って出ても、騎兵の強みは活かせません」
シモンは理を尽くす。
「なら徒歩で戦うまで。出る!」
アンドリアは白狐に跨り、振り返らずに騎兵団を率いて出発した。
「このアンドリア、あのヒモ男よりよっぽど頼れるな」
パシュスが感嘆する。
「だよね~。城主は尖塔に籠もりっぱなしだし、弱すぎ」
まつみも同意した。
……
シモンは西門の戦況に全神経を集中させる。
火原トカゲとガブリエル聖剣は昨日大きな損耗を受けたばかりだ。にもかかわらず、敵はその西門を狙ってきた。
アンドリアと騎兵団は下馬し、近くのNPC四十名を集めて、西城門の内側に即席の防衛線を敷く。
その時、破城槌が城門に到達し、攻城側の力でゆっくりと持ち上げられた……
ドン!
城門全体が震え、砂埃が舞う。
ドン!
中央が凹み、木片が弾け飛び、陣を組んでいたNPC六名が即死した。
ドン――城門、破壊。
敵影は見えない。だが、数十の魔法が門の隙間から一斉に撃ち込まれる。
凄まじいエフェクトに視界を奪われ、アンドリアは盾を掲げ、正面から受け止めるしかなかった。
二次転職の騎士たちが先頭を切って城内へ雪崩れ込む。
「プラムスのために! 突撃だ!!!」
アンドリアは紅晶の槍を投げ捨て、黒い焔を纏う片手剣を抜いて逆突撃。背後の騎兵たちも近接武器に持ち替え、続いた。
城門前で両軍が死闘を繰り広げ、光塵が大量に噴き上がる。
シモンは焦りで目を血走らせた。敵の主将が、ゆっくりと城門へ歩み寄ってくる。
即席の防衛線に、綻びが生じ始める。
「……状況、悪い?」
ニフェトが尋ねた。
シモンは唾を飲み込み、答えない。
「東門の増援、まだ戻らないの? 遅す――」
まつみが眉をひそめた、その時。東から緊急の呼び声が上がった。
「た、助けて!!!」
東京電波の少女の一人が衣服を乱し、無残な姿で駆け戻ってきた。
「何があった?! 増援は?!」
シモンが顔色を変え、思わず駆け寄ろうとした瞬間、背後から放たれた一本の矢が少女の後頭部を貫いた。
少女はそのまま地面に崩れ落ち、光塵となって掻き消える。
花園にいた全員が、凍りついたように立ち尽くした。
誰一人、声も動きも出ない。
――東側に、黒衣のプレイヤーたちが現れていた。
「この城は――俺がもらう」
黒衣の男は、薄く笑ってそう言った。




