21 赤の大広間
*R18*に関わる内容は、別の場所で公開します。
背後の暗門が開き、
黒い長髪に白い肌、紫がかった唇を持つ、痩身の男が現れる。
白い符文で覆われた黒の密着衣をまとい、骸骨の長杖を手に、ゆっくりと玉座へ歩み寄った。
「思ってたのと違うな……」
「金髪のイケメンかと思ってた」
「霊媒師? 近衛兵や騎兵かと思ったけど……暗殺されやすそうだぞ」
周囲では、ひそひそと囁きが交わされていた。
「こんにちは」
ノクスが静かに口を開いた。
大広間は一瞬で静まり返る。
「挨拶は省く。生き残った全員に、竜貨五十枚とプラムス城内での取引免税権を授けよう。
さらに予告する。次回の城戦において、我らは虫族の王都を擁するギルド百合最高と同盟を結ぶ。狙うは獣人の王都――一気に侵攻を開始する!
諸君には必ず生き延びてもらい、魔王城を開く瞬間を共に見届けてもらう」
ノクスは淡々と語り、そのまま玉座へ腰を下ろした。
「各ギルドのギルドマスターおよび副代表は残って戦略会議を行ってください。
本日加入したプレイヤーは地下牢へ。
その他のギルドメンバーは解散です。ご協力ありがとうございました」
アンドリアは笑顔で告げた。
「地下牢なんて下賤な場所、俺様が行くところかよ!!」
まつみが吠える。
……
結果として、彼女は大人しく地下牢へ向かい、木椅子に座って待つことになった。
「俺たち、捨て駒ってことだよな……。前線に放り出されるかもしれない」
ニフェトが低く言う。
「そんなの嫌だよ! まこ、やっとこのゲーム楽しくなってきたのに!」
まこは青ざめた。
「ギルド抜けてログアウトすればいい」
むぐち やよいが淡々と言う。
そのとき、
薄いベージュ色の髪で革鎧を着込み、肩に鷹を乗せた少年と、
酒紅色の巻き髪で、ピンク色の神官ローブをまとった少女が地下牢に入ってきた。
「やあ! 俺はシモン。銀龍の刻印のメンバーだ。
戦場では、君たちの指揮を担当する」
「わ、私はシルナです。よろしくお願いします」
「いや~、上は空気最悪だったよ。
さっき九人も死んだらしいし。正直言って、城戦はもう始まってる。
北門じゃ三日間ずっとPK解放で殺し合いだ。ははは!」
シモンは大笑いした。
地下牢の空気が一気に冷え込む。
「シモン、話が長いわ」
シルナが咳払いして遮り、空気を立て直す。
「攻城側の勝利条件は一つ。城主の撃破だ。
城主がログインしていない場合は、城主人形を破壊する。
守城側の勝利条件は、攻城期間中に城主が生存していること。
時間切れになれば、システムが即座にPVPを一日禁止する。
今回の城戦、こちらの参加人数は四百人。平均レベルは百六十八。
敵はそれ以上の人数と見られるが、平均レベルは不明。ただし、こちらより低いはずだ。
質問はあるか?」
シモンは教師のように説明した。
「俺たちは何をやるんですか? みんなレベル低いですし……」
一人のプレイヤーが恐る恐る尋ねる。
「安心しろ。俺が同行して、中央庭園で待機だ。
主な任務は物資補給、伝令、城内巡回。
要するに後方支援で、前線には出ない」
シモンはそう言った。
一同は、ほっと息を吐く。
「ここに一人あたり竜貨十枚。
城主からの支給で、装備や道具の購入に使っていい。
もう王都からは出られない。
攻城当日にログインしていなかった者の名前は、ちゃんと記録するからね~。
攻城戦は明後日、現実時間の夜八時開始。
六時半に庭園集合だから、早めに来て。
それじゃ、またね」
シルナはにこやかに言った。
……
夜の帳が下り、酒場の中――
五人はスライムドリンクを飲みながら、ひそひそと話していた。
「……逃げない?」
まつみが声を落として言う。
「まこも、城戦ちょっと怖い……」
まこは大きくうなずいた。
「むぐち、どう思う?」
パシュスが尋ねる。
「もう引き返せない。敵対ギルドに遭遇するか、銀色連盟側に捕まるかの二択」
むぐち やよいは淡々と答えた。
「このゲームの城戦、想像以上に本気だな……」
パシュスは眉をひそめる。
「まだ序章よ。これからもっと複雑になる。
クローズドβ、城主が二人手を組んで、他のプレイヤーを搾取し続けたことがあった。
最終的に世界の敵になって大戦争に発展して、プレイヤーの四分の一近くが攻城戦でゲームオーバー。
運営は数日後にクローズドβ停止した」
むぐち やよいはそう語った。
「むぐち、ほんとに詳しいね……」
まこは感心した。
「実は、クローズドβ城主になりかけたことがある」
むぐち やよいはストローでスライムを吸いながら、何でもないように言った。
「えっ!?」
四人が声をそろえて驚く。
「城戦で大量の上級者が脱落してね。
私は参戦しなかった上級者たちと開拓を続けて、
エルフの城――ヴィニフ宮殿の目前まで迫った。
でも城外の森から抜けられないまま、クローズドβ終わった」
むぐち やよいは遠い目をした。
「四つの城って、何が違うんだ?」
パシュスが聞く。
「ほとんど差はない。
ストーリーとダンジョンの流れで通る都市が違うだけ。
レベル帯は低い順に、人類、虫族、獣人、エルフ。
ただし人類の王都は人が最も集まるから、金も集まり、戦争も激しい。
逆に獣人とエルフの城は、まだギルド支配がなくて情報不足」
「魔王討伐まで、ずいぶん遠いな……」
まつみがため息をついた。
「道のりは長いよ。焦らないこと」
むぐち やよいは伸びをした。
「もう限界……先にログアウトする。城戦当日にまた来るよ」
ニフェトはあくびをしながら言った。
「うん、またね!」
皆が手を振ると、ニフェトは透明な黒い影となって、ゆっくり消えていった。
「むぐち、現実の連絡先、交換しない?」
まこが緊張した様子で聞く。
「どうして?」
むぐち やよいが聞き返す。
「もし……何かあった時のために……」
まこは言葉を濁した。
「無理をしなければ大丈夫」
それぞれ軽く別れの挨拶をしてログアウトし、酒場に残ったのはむぐち やよいだけだった。
彼女は一人、頬杖をついて考え込む。
……
夕陽が空を血のような赤に染める。
四百人のプレイヤーが全装備を整え、中央庭園に整列した。
攻城の日――ついに、その時が来た。




