19 赤の大広間
*R18*に関わる内容は、別の場所で公開します。
「攻城戦はいつ始まるの?」まつみが聞いた。
「二日後だよ」ニフェトが答える。
「守城側を手伝うギルドかも?」まつみは恐る恐る顔を上げて様子をうかがった。
「バカ! 友好ギルドはもう先に入城してる!」パシュスはまつみを草むらに押し戻した。
「どうしよう……。まこ、PVPはしたくないよ……」まこは怯えた声を出す。
「勝てない。相手は最低でも十人いる」ニフェトが低く言った。
「危ない!!!」まこが叫び、身体でニフェトを庇う。
ニフェトのすぐ横には、すでに黒衣の人物がしゃがみ込んでいた。
…
「おい、聞こえたか?! 農地の方で誰か叫んでたぞ」
木の下にいた黒衣の集団が、まこの叫び声を聞いて一斉に立ち上がる。
「まさか守城の援軍か……?」別の黒衣が緊張した声を出す。
「ありえねぇ。ここは全部俺たちの持ち場だ。理屈上、西門に近づく度胸のある奴はいない」黒衣が言い切った。
「まあいい。殺せば済む話だ」
別の黒衣が、深紫色の両手大斧を手にして草むらへ向かう。
草むらから三人の黒衣が現れ、パシュスとまつみを捕らえたまま、ゆっくりと黒衣の集団の方へ歩いてきた。
…
「ふぅ……」
黒衣たちは警戒を解く。
「おい! 青髪の魔導士二人が通らなかったか?」
パシュスを押さえている黒衣が大声で聞いた。
「見てねぇな。今日は城に入ろうとした奴を五人始末しただけだ。全員近接だった。この二人は何だ?」
木の下の黒衣が答える。
「俺も知らねぇ。ギルドマスターの命令で、壁際まで連れて行って身代金を取るらしい。城主の銀龍の刻印の上層と知り合いだとかでな。二千竜貨だ。レベルも低いし、城に入れても問題ないって話だ」
パシュスを押さえる黒衣が説明する。
「くそっ! 今すぐ放せ! 俺の仲間が黙ってないぞ!」
パシュスが怒鳴りつける。
「黙れ。歩け」
黒衣はパシュスを押して進ませた。
まつみは緊張のあまり、ぎゅっと目を閉じ、周囲を見ようともしない。
「こいつ、ずいぶん臆病だな!」
大斧を持った黒衣が、まつみの頬を指で軽くつまむ。
「ひゃっ……!」
まつみは悲鳴を上げ、HPを約5%失った。
「やめろ。壊すな。大事な人質だ」
まつみを押さえていた黒衣が慌てて制止する。
「はいはい。城壁まで付き合うか? 城壁の狙撃範囲に入ったら撃たれるぞ。一緒の方が安全だろ」
大斧の黒衣が笑いながら言った。
「いや、いい。人数が多いと目立つ」
パシュスを押さえる黒衣が即座に断る。
「おい~。真ん中の奴、身体が震えてるぞ。城戦は初めてか? ずいぶん肝が小さいな。ははは」
大斧の黒衣が嘲る。
「正式な初攻城だ。誰だって緊張する。じゃあ行くぞ」
三人はパシュスとまつみを連れて、その場を離れた。
城壁へ一歩ずつ近づき、黒衣の集団から距離を取っていく。すでに城壁上の守備兵が警戒態勢に入るのが見え始めていた。
「待て! ギルド名を聞いてなかったな。形式上、確認が必要だ」
背後から、大斧の黒衣が怒鳴る。
「べ、紅の……バナナだ」
パシュスを押さえる黒衣がどもりながら答え、足早に城壁へ向かった。
「は? 聞いたことねぇぞ……おい、止まれ!」
大斧の黒衣が大声で怒鳴った。
「走れ!」
三人は腕を振り、同時に黒い斗篷を脱ぎ捨てる。現れたのは、むぐち やよい、まこ、ニフェトだった、城壁へ向かって全力で駆け出す。
「くそっ!」
大斧の黒衣はすぐさま大股で追撃を開始した。
ヒュッ――カン、カン、カン!
殿を務めるパシュスは盾を掲げ、飛来する矢を弾きながら後退する。
「助けてぇ!!!」
まつみは城壁の守備兵に向かって必死に手を振り、叫んだ。
「野牛轟撃!」
大斧使いが跳躍し、巨斧を半拍空中で止めた後、凄まじい速度で地面へ叩きつける。
衝撃で土が巻き上がり、巨大な穴が穿たれ、パシュスはそこに捕らえられた。
ニフェト、まつみ、まこはすでに城門へ到達している。
距離の近いむぐち やよいも、今は手が出せない。
大斧使いは瞬く間に追いつき、パシュスは今にも両断されそうになる。
パン、パン、パン!
城壁の狙撃手がついに発砲し、大斧使いを狙った。
だが大斧使いは、ペンを回すような軽さで巨斧を振り、飛来する弾丸を弾き落とす。
「掴め!」
むぐち やよいは穴の縁に伏せ、大剣を差し出した。
パシュスは盾も剣も捨て、刃の背を掴んで必死に穴から這い上がる。
パァン!
木立の下から放たれた一発が、真正面からむぐち やよいを狙う。
対応する暇はない。
パシュスを落とさなければ、防ぐことも避けることもできない――。
決断の一瞬。
城壁の魔導士が銀の盾を展開し、弾丸を受け止めた。
「ほら! 早く入って!」
まつみは城門の隙間から顔を出して叫ぶ。
二人はその隙に大斧使いを振り切り、城門の内側へと滑り込んだ。
ドンッ!
…
五人は城門の内側に座り込み、しばらく言葉を失った。
「むぐち、判断が早いね……」
ニフェトは息を切らしながら言う。
「ソロプレイヤーは、道具を柔軟に使わないと生き残れない」
むぐち やよいは淡々と答えた。
「まこ、まだよく分からない……」
まこは首を傾げる。
「むぐちがPK解放していた理由は、先手を取るためだよ」
ニフェトは感心したように、むぐち やよいを見る。
パシュス、まつみ、まこは揃って眉をひそめた。
「白糸の洞窟で、私は君たちに囲まれていた。あの時、君たちがPK解放していれば、私はもう死んでいた。どうして襲わなかった?」
むぐち やよいが問いかける。
「俺たちは、無差別に人を殺す狂人じゃない!」
パシュスは胸を張って言い切った。
むぐち やよいは頭を抱えるように首を振り、三人の思考回路を案じる。
「彼女が先にPK解放していたから。実力が分からず、迂闊に手を出せなかった。つまり、野外では先に殺戮状態に入った方が、実は安全なんだ」
ニフェトが噛み砕いて説明した。
三人は一斉に納得の表情を浮かべる。
「ようこそ。城主より、城内の全プレイヤーを領主宮殿へ招待するとのことです。こちらへどうぞ」
二人のNPC近衛兵が五人に声をかけた。
「やだよ! 転職しに行くんだから!」
まつみが怒鳴って背を向けた瞬間、さらに二人のNPC近衛兵が前に立ち塞がる。
「ようこそ。城主より、城内の全プレイヤーを領主宮殿へ招待するとのことです。こちらへどうぞ」
四人のNPC近衛兵が同時に繰り返した。
「設定で『プレイヤーを宮殿へ連行する』になっているみたいだね。逃げられない」
ニフェトは小さくため息をつく。
「行ってみよう。領主は低レベル向けに城戦用の『委託任務』を出すことがある。達成すれば報酬は大きい。経験値も含まれる」
むぐち やよいはそう言って、歩き出した。
「なに!? 経験値を配れるのか!?」
パシュスが目を見開いて叫んだ。
「城主は自分の経験値を“経験カード”に変換できる。例えば、百万の経験値を百枚に分ければ、一枚につき一万だ。城主にとって難しいのは、自身のレベルとのバランス管理だね。城主の支援を受けられれば、新人にとっては最短で成長できる。ただし前提は――城主に信頼され、任務を任されることだ」
むぐち やよいが淡々と説明した。
「ようこそ。城主より、城内の全プレイヤーを領主宮殿へ招待するとのことです。こちらへどうぞ」
四人のNPC近衛兵が、また同じ台詞を繰り返す。
「分かった分かった、うるせぇな! 行くぞ!」
パシュスが苛立ち混じりに怒鳴った。
…




