1 重砲士
*R18*に関わる内容は、別の場所で公開します。
「どこにいるんだよ?! もう焦りまくってるんだけど!」
赤髪の少女は地図を見つめ、苛立った声で叫んだ。
「ロ……ロバート医師の家?」
初心者通信ヘッドセットから、か細くて柔らかい少女の声が返ってくる。
「だったら馬車道をまっすぐ進んで、噴水を越えたら右だよ! 急いで! じゃないと『初心者通信ヘッドセット』、すぐに使えなくなるから!」
赤髪の少女は耳元の通信機を押さえ、怒鳴った。
「まあまあ~、まつみ。まこは昔から方向感覚が壊滅的だろ。」
隣にいた金髪の整った青年が、苦笑しながら言う。
「もう二十分近くだよ?! 初心者の村がどれだけ広いっていうの~! はぁぁ……。」
まつみはがっくりと地面に突っ伏した。
「そう落ち込むなよ。せっかくだし、山も川も綺麗な街並みを眺めるのも悪くないだろ。」
青年は微笑み、両腕を広げて大きく息を吸った。
「パシュス、それは大間違い! ゲームは突っ走ってナンボでしょ! 最初にカンストした連中だけが好き放題できるんだよ! 他の人はもうクエスト受けて出発してるのに~、私たちだけまだ初心者の村だよ~!」
まつみは崩れ落ち、パシュスのズボンの裾を掴んで泣きついた。
「サービス開始からまだ二週間だぞ。そんな簡単にカンストするわけないだろ。俺たちだって初期組なんだし。」
パシュスは眉をひそめて言った。
「お待たせ!」
紫の長髪に、白い薄布の衣装をまとった美少女が、ゆっくりと歩み寄ってくる。
「お疲れさま、まこ。」
パシュスは優しく目を細めた。
「え? しょうたは?」
まこは唇を尖らせ、きょろきょろと辺りを見回し、パシュスの隣にいるまつみを完全に無視した。
「ここにいるでしょ!」
まつみは腕を組み、むっとした表情でまこを横目に睨む。
まこは真剣な顔でまつみを見つめ、ふいに首を傾げた。
「……誰?」
まつみの視界が一瞬暗転し、怒りが一気に込み上げる。
「だから私はしょうただって言ってるでしょ!!!」
「しょうた?」
まこは眉をひそめ、赤髪の少女の豊かな胸元や、雪のように白い太腿、小柄で愛らしい体つきを眺めた。
「意外じゃないでしょ? ゲームで女キャラ使うのなんて常識じゃん。」
まつみは元気いっぱいに、片目を閉じてまこを指さす。
「ぷはははは! 現実のあんたと全然合ってない!」
まこは堪えきれずに大笑いした。
「失礼すぎ! あんたもこっそり胸のサイズ上げてるでしょ! 元に戻してやるんだから!」
そう言い終えるや否や、まつみはまこに飛びかかり、二人は絡み合って転げ回った。
「はぁ……本当に手がかかるな……。」
パシュスはこめかみを揉みながら呟いた。
……
「あなたが噂の勇者様ですか?!」
村長は拳を握りしめ、興奮気味に言った。
「そうだ! 俺様だ! ははははは!」
まつみは得意満面で笑い飛ばす。
「実は最近、農地が妖魔に襲われていまして……どうか討伐をお願いできませんか?」
村長はまつみの手を握り、懇願した。
「任せとけ、俺様に!」
まつみは親指を立て、笑って答えた。
「ありがとうございます、勇者様。くれぐれもお気をつけください。一度死亡すると、二度と冒険はできません。妖魔を二十体、討伐してください。」
村長は無表情で告げた。
まつみはさらに村長に話しかける。
「妖魔を二十体、討伐してください。」
「妖魔を二十体、討伐してください。」
「妖魔を二十体、討伐してください。」
「もういいだろ! 時間ないんじゃなかったのか?! NPCと無駄話してる場合か!」
パシュスは怒鳴り、まつみを半ば強引に引きずっていった。
……
三人は初心者用の麻布装備を身に着け、**勇者見習いの村**を離れながら、それぞれのバッグを漁っていた。
まつみは弓を一本と、羽根付きの矢を三十本。
パシュスは刃の鈍い剣を一本。
まこは長い木製の杖を一本、見つけ出す。
「意外とリアルだね~。矢が三十本しかないなんて。毎回補給とか、面倒すぎない?!」
まつみは羽矢を見下ろし、がっくりと肩を落とした。
「確かにな。後々、矢筒みたいなアイテムも出てくるかもしれないな。それにしても、まこはまた補助職か~。よく飽きないよな。」
パシュスが言う。
「違うよ~。今回は魔法使いを選んだんだよ。」
まこが答えた。
「えっ!? じゃあ二次転職は、巫師か召喚師のどっちにするつもりなんだ?」
パシュスが身を乗り出す。
「二転職?」
まこは首を傾げ、きょとんとした。
「そうだよ~。基本職は四つ。見習い剣士、見習い弓箭手、見習い魔法使い、見習い神職者が一次転職で、それぞれに二次転職があるんだぞ。まさか、何も調べずにキャラ作ったわけじゃないよな?」
まつみが呆れたように言う。
「なんだか難しそうだね。でも魔法使いの服が一番可愛かったから、魔法使いにしたの。」
まこは笑顔で答えた。
パシュスとまつみは、同時にため息をついた。
そのとき、近くの草むらがざわりと揺れ、背の高い緑色の肌をした、棍棒を持つ怪物たち──妖魔が姿を現した。
「来た来た!!!」
まつみは待ちきれず、矢を放つ。
矢は妖魔の胸に突き刺さった。
「グォォ!!!」
妖魔は痛みによろめき、二歩下がった直後、棍棒を振り上げてまつみに突進する。
ヒュッ!
まつみの二射目が腹部を射抜き、妖魔は力なく崩れ落ち、そのまま動かなくなった。
「やっぱり俺様が最強─────」
まつみが興奮して跳ね上がった瞬間、左側で強烈な光が弾けた。
「白の矢!」
バン!
突っ込んできた別の妖魔が、爆発するように四散した。
まつみとパシュスは、思わず後ろへ飛び退く。
「えっ? 私?」
まこは妖魔の残骸を見て、目を丸くした。
まつみの顎が、地面に落ちそうになる。
まこはさらに別の妖魔へと杖を向ける。
「白の矢!」
杖の先から白い閃光が走り、
バン!
妖魔は再び肉片となって吹き飛んだ。
彼女は手にした杖を見つめ、目を輝かせる。
「まこ、すごい!」
嬉しそうに跳ね回った。
「パシュス……これからの旅は、任せた……。」
まつみは虚ろな目になり、身体をふらつかせる。
「え? 何を任せるんだ?」
パシュスが首を傾げる。
「このゲームどうなってんの?! バランスおかしすぎでしょ!」
まつみは自分の木弓を踏みつけ、さらに二度踏んだ。
「魔法使いのスキルは魔力を消費するんだ。攻撃回数も限られてるはずさ。よし、俺もやってみる!」
パシュスは片手剣を構え、妖魔の背後へ回り込む。
「うおおっ!」
気合とともに背中を斬りつけ、倒れると確信して見据えた。
しかし、妖魔は倒れず、ゆっくりと振り返った。
「グォォ!」
棍棒を振り上げ、パシュスに叩きつける。
想定外の反撃に、パシュスは避けきれない。
「パシュス! 白の矢!」
まこは即座に杖を構え、詠唱する。
強い光が杖先に集まり、
ボフッ、と空気だけが弾けた。
【システムメッセージ: 警告 魔力が不足しています】
「まずい!」
「うわっ! 死ぬ!」
パシュスは目を閉じ、反射的に腕で身を庇う。
ヒュッ――!
まつみの矢が妖魔の後頭部に突き刺さり、妖魔は数歩よろめいた後、前のめりに倒れた。
「よっしゃ! やっぱり俺様が最強! さっきのはクリティカルだし!」
まつみは天を指さし、高らかに笑った。
……




