193 一緒に魔王を討伐しよう!
団結――ありきたりで、使い古された陳腐な言葉だ。
どれほどの人間が、身を捨てて義を貫こうとする衝動を知っている?
銀龍の刻印とKanatheonは立場も利権もかなぐり捨て、精鋭を総動員してワスティン大聖堂の外に広がる翠の草原へ集結していた。
彼らの視線はただ北方の白雲の彼方――魔の都・霊殺しの源郷へと注がれている。
戦士たちの表情はどこか晴れやかで、もはや未練も後顧の憂いもなかった。
「最後に確認するぞー! 個人資産は全部ギルド倉庫に預けろ! 持ち物欄は補給品のために空けておけ!」
草原では馬車を引いた者たちが、北伐に参加するプレイヤーたちの資産を回収して回っていた。
「仕方ないな……ちゃんと保管してくれよ……」
彼らは余分な装備や竜貨を差し出し、その代わりにポーションや抗魔粉のような補給品を受け取っていく。――ただし、護心石だけは別だった。あまりにも希少で、誰一人として手放したがらない。
連合軍に加わり、命の誓約書に署名した瞬間、彼らはそれまでの肩書きを捨てた。
もはやKanatheonというギルドも、銀龍の刻印というギルドもない。
富める者も貧しい者も関係ない。
すべてのプレイヤーは、ただ北伐軍の一員。それだけだ。
「俺も入れますか!?」
一人のプレイヤーが駆け寄ってくると、北伐軍の斥候がすぐさま行く手を塞いだ。
「名、レベル、ジョブを言え」
斥候が問う。
「猫守、レベル291、毒剤師です」
そのプレイヤーは答えた。
「悪いが、レベル300に満たない者は足手まといだ。引き返せ」
斥候は素っ気なく言う。
「まあいいさ。運試しに入れてやれよ」
もう一人の斥候が通行を許した。
「ありがとうございます!」
猫守は北伐軍の列へと駆け込み、すぐに受け入れられて、どこかの隊へ編入されていった。
「何人戻ってこられると思う?」
斥候の一人が、興奮して走っていくその背中を見つめながらしみじみと尋ねる。
「さあな……」
もう一人の斥候は深くため息をついた。
豪奢で重厚な重装、隠密に適した革鎧、かすかに光を帯びる法衣。
あらゆる職業の最上位装備が、この連合軍の中に集っていた。
軍は重装大隊、支援大隊、遠距離大隊に分かれているだけではない。
さらに特務戦術班として、防火隊、抗水隊、毒耐性班、護光隊、そして闇隊まで編成されていた。
彼らは前線で戦う役目ではない。
だが隊長の一声が下れば、特務戦術班は溶岩へ飛び込み、深海へ潜り、あるいは正規軍では踏み込めない強酸の池へも身を投じなければならない。
連合軍は二つの軍団に分かれていた。
それぞれアンドリア軍とニフェト軍である。
アンドリア軍は左。
ニフェト軍は右。
上空では竜騎兵たちが旋回し、手にした金色の大旗を振って互いに合図を送り合っていた。
軍団の動きを統率するためだ。
アンドリア、ニフェト、そしてむぐちの三人は、大きな岩を囲み、最後の軍議を交わしていた。
「身支度は済ませた?」
秘銀の聖鎧をまとったアンドリアが、ニフェトとむぐちに微笑みかける。
「うん。ギルマスの座は、もう信頼できる別のメンバーに譲ってある。もし私たちが戻れなかったら、その人がギルドを引き継ぐよ」
むぐちは笑って答えた。
「私はノクスをプラムスに残してきたわ。先に言っておくけど、私は戦死する気なんてない。戦利品を山ほど抱えてプラムスに帰るつもりよ。安心しなさい。もしあんたたちがくたばったら、すぐにハゲグを落として領土を丸ごと呑み込み、私がムー大陸の覇王になってあげるわ。せいぜいあの世で悔しがることね、ハハハ!」
アンドリアは冗談めかして笑った。
「もう出発するの? 地図を見る限り、距離的に半日以上は歩くことになるよ」ニフェトはミニマップの黒点を見つめながら言った。
アンドリアはインターフェースを開いて時刻を確認し、感慨深そうに小さくため息をついた。
「進軍を開始した瞬間から、私たちはそれぞれ孤立する可能性がある。事故に遭おうが奇襲を受けようが、互いの救援は期待しないこと。準備はいい?」
むぐちとニフェトは無言でうなずく。
「元気でね……」アンドリアは両腕を広げたが、ニフェトとむぐちはその場で固まり、目を丸くして彼女を見つめる。
「な、なによ! お別れのハグくらいあってもいいじゃない! ここまで付き合ってあげたんだから!」アンドリアは羞恥と苛立ちを混ぜた声で腰に手を当て、怒鳴った。
むぐちは思わず口元を押さえて笑い出す。
「ははは、あんた本当に変わってるね」
ニフェトは静かに歩み寄り、アンドリアをぎゅっと抱きしめた。
「今までずっと支えてくれて……ありがとう、アンドリア」
「ちゃんと生き延びなさいよ」アンドリアはつい警戒を解き、ため息まじりに微笑むと、そのまま背を向けて去っていった。具足が草原に軽やかな足跡を刻んでいく。
指を鳴らした瞬間、深い蒼をまとった巨大な氷竜が軍団の前方に威風堂々と姿を現した。
蒼竜の翼骨からは真白い霧が立ち昇り、氷柱の牙からは水滴がぽたりぽたりと落ちる。竜は従順に翼を畳み、アンドリアが背に登るのを待った。乗りこなしたのを確認すると、氷翼を大きく打ち振って雪の粒をまき散らしながら空へと舞い上がる。
「相変わらず演出好きだね~」むぐちは空を見上げ、金の旗を掲げて飛翔するアンドリアを眺めた。
ニフェトは自軍へ視線で合図を送る。
低く唸るような竜の咆哮が軍団から響き渡り、それはまるで万の戦鼓を同時に打ち鳴らしたかのように雄大だった。
黄金の鱗をまとった火竜が天へと跳ね上がる。金鱗の下で魔力の脈動が脈打ち、赤い光が明滅する。
「総員、奮起せよ! ニフェト様麾下の勇士たちよ! 魔の都へ進軍だ! 進め!!」カンドウは黄金竜に跨りながら金旗を振り、軍勢に明確な指令を示した。
号角が鳴り響く。
「総員、起立!」伝令兵が声を張り上げる。
「起立!」
「起立~」
「起立」
「き……りつ……」号令は隊列の後方へと伝わるにつれ、次第にか細くなっていく。
北伐軍は一斉に立ち上がり、大地がわずかに震えた。
ニフェト軍には翼騎兵がカンドウ一名。アンドリア軍には五名。
両軍は遠く視線を交わし、互いの大旗が同時に紅蓮の光を帯びて燃え上がる。
号令旗は黄金から赤へと変わり、蒼穹を背景にひときわ鮮烈に映えた。
彼らは大きく一歩を踏み出し、北方の嘆きの山脈へ向けて進軍を開始する。
Kanatheonの部隊が先頭を行く。すでにパシュスは影のようにニフェトの側に付き従っていた。誰もが息を潜め、不安と緊張を胸に抱えながら歩を進める。彼らの敵はムー大陸最強の存在――魔王なのだから。
「まつみ、鼓動が速くなってる。緊張してる?」かみこは、まつみの手がかすかに震えているのを見て尋ねた。
「うん……少しだけ」まつみは鼓動の速さを感じながら、期待と恐怖が入り混じった表情を浮かべる。
かみこは突然まつみの手を引き寄せた。掌からじんわりと温もりが伝わる。
まつみは驚いたようにかみこを見つめる。かみこは幸福そうな微笑みで応えた。
「一緒に魔王を討伐しよう!」かみこはそう言って笑った。
……
いよいよ来るぞ、みんな感じてるか?(。•̀ᴗ-)و ✧




