188 ハロウィンの祭典
慌ただしいプレイヤーよ、立ち止まってBGMに耳を傾け、この波瀾万丈の仮想世界を眺めたことはあるか。
慌ただしいプレイヤーよ、立ち止まって、すれ違う見知らぬプレイヤーに挨拶し、気ままに雑談したことはあるか。
慌ただしいプレイヤーよ、なぜ今、弱肉強食で一秒を争うこの空間の中で足を止め、のんびりと空に浮かぶ白雲を見上げているのか。
気づけば、争う理由はもうどこにもなかった。
...
黒真珠の戦いが終わったあと、あらゆる経済活動はすべて王都へと回帰した。
交易隊は絶え間なく四大王都の間を行き交い、ムー大陸全体は活気に満ちていた。
銀龍の刻印とKanatheonはさらに税制を統一し、プレイヤーは納税と引き換えに、護衛やレベル上げの代行、さらには不動産投資といった様々な恩恵を享受できるようになった。Kanatheonは黒真珠の闇市という発想を盗み、ハググ外城の片隅でひそかに運営している。銀龍の刻印はその黙認料として収益の20%だけを徴収していた。
むぐちは略奪で得た数万竜貨をすべてヴィニフ宮殿の整備につぎ込み、質素だった白花の聖都は一夜にして清廉で優雅、しかも荘厳な気配を備えたエルフの王都へと変貌した。
純白の巨大な塔が街のあちこちにそびえ、すべての建物は樹木に寄り添うように建てられている。屋根からは必ず青々とした樹冠が顔をのぞかせ、陽光を吸収して屋内の樹晶ランプにエネルギーを供給していた。
通りの両脇には数多くの噴水が並び、氷のように青い水が水路を伝って大通りから路地裏まで流れ込む。旅人は好きなだけ手ですくって喉を潤すことができた。
さらにKanatheonは城外で「血漿果」と呼ばれる低木植物を繁殖させ、大量の雷角鹿を呼び寄せている。鹿角粉を求めて、多くのプレイヤーがヴィニフ宮殿へ集まってきた。
…
五角広場の中央、エルフ王座の上――
「いっそ観光料を取ればいいんじゃない?」ニフェトは白い城壁の上で大騒ぎするプレイヤーたちを見上げ、苦笑した。
「はは~それもいいね。そうすれば税なんて徴収しなくて済むし。」むぐちは冗談めかして笑った。
二人は同時にこの美しい白都を見渡し、かつて蕾とこの王座で知恵比べをした日のことを思い出す。
ニフェトはバッグからムー大陸の地図を取り出した。むぐちはそれを見て、意味ありげに微笑む。
詳細な地図の上には、極北にぽつんと残された巨大な黒点がひとつだけあった――魔の都・霊殺しの源郷。ムー大陸に隠された第五の首都である。
「もう少し待とうよ~」ニフェトは首を振って地図を丸め、そっとエルフ王座に腰を下ろし、この穏やかな朝の景色を眺め続けた。
「今夜GMがヴィニフ城を封鎖して、プレイヤーをハググとプラムスのパーティー会場へ誘導するらしいよ。ギルドチャンネルに書き込んで、当番のメンバーをハググへ戻らせよう。」むぐちはギルド画面を見ながら微笑んだ。
...
かぼちゃ!かぼちゃ!それにかぼちゃ!
ムー大陸の夜空は祭りの雰囲気に合わせて深紫に染まり、もともと黄色だった街灯は不気味な幽緑色へと変わる。そこへあちこちに置かれた鮮やかな橙色のかぼちゃが加わり、ハググの街はどこか滑稽で奇妙な空気に包まれていた。
「黒コウモリ変身ポーションだよ~!特価で一本五十竜貨!」
「来たぞ~!期間限定のパンプキンキング装備だ!パンプキンキングを倒したとき低確率でしか出ない超レア品だぞ~!」
「十色の輝きポーション~!二種類飲めば色を混ぜて組み合わせ可能!人混みの中でも自分だけの光を放てるよ~!」
ハググのプレイヤー数はかつてないほど膨れ上がり、控えめに見積もっても数千人は詰めかけていた。
どの大通りも人であふれ、耳元で怒鳴るほどの騒音の中では、まともに会話すら聞き取れない。
Kanatheonのギルドホールはとりわけ賑やかだった。皆が大声を張り上げ、街中を駆け回りながら、ハググのパーティー準備に総出で取り組んでいる。ギルド旗を掲げて湖畔へ誘導する者、内湖要塞で開かれる催しを案内する者、人の流れを整理する者、さらにはKanatheonと銀龍の刻印による魔王軍遠征を宣伝し、討伐軍の志願者を募る者までいた。
会場は和気あいあいとしており、誰もが武器を置いて派手な玩具の装備に身を包んでいる。
「抽選?それってGMの役目じゃないの?」むぐちは驚いて問いかけた。
「GMは城主が担当だって言ってたぞ。」パシュスはGMからの密信ログを確認しながら答える。
「ニフェト、ぼーっとして何してるの?!」むぐちは窓辺に座り、南瓜の月を無表情で見つめるニフェトに気づいた。
「飯落ちしてるだけだよ。すぐ戻るって。どうした?」パシュスが首をかしげる。
「はぁ……まあ、いいか。ギルド倉庫からレアな金等級装備を九点、それと伝説の橙等級装備を一つ出して、景品として配ろうか。」むぐちは大げさに苦笑した。準備作業に異様なほど没頭しているその様子は、まるで自分を麻痺させているかのようだった。
「橙等級?マジで?」パシュスは口を尖らせる。
「倉庫に溜め込んでる橙装なんてゴミみたいなものだよ。実用的なのはとっくにメンバーに配ってるし。適当に一つ選んで当選者に押しつければいいさ。ははは。」むぐちは笑い飛ばした。
「GMもなかなか策士だよな~王都で祭りを開くのに、城主に全部の催しを丸投げだなんて。結果的に王都同士の競争になって、今後の評判にも影響するってわけだ。」かなは手持ち無沙汰に木の机へ両脚を乗せ、もっともらしく語る。
「かな!君はどの担当?もう準備できてる?」パシュスは三つの大きな革トランクを抱え、きらびやかな道具をぎっしり詰めて運んできた。
「はぁ?私に関係ある?」
「君もギルド幹部だろ!少しくらい手伝えよ!」
「馬鹿みたいに表舞台で猿芝居して、他人を楽しませるなんて下民の仕事でしょ。さっさと働きなよ、庶民。」かなは皮肉たっぷりにパシュスをからかった。
「かな、少しは手伝ってあげなよ…」むぐちは目を細めてかなを見つめる。
「ちっ、面倒くさいな。重力歪曲。」かなは魔法で三つのトランクを宙に浮かせ、そのままパシュスの後を追って出ていった。
「かな、かな!」パシュスはこそこそと耳打ちする。
「近づくなってば!何?」
「お、俺さ……あとでログアウト表示にして、いきなりニフェトの背後に現れて告白しようと思ってるんだ。何て言えばいいか、一緒に考えてくれない?」パシュスは気まずそうに尋ねた。
「はぁ!?自分で考えなさいよ馬鹿!そもそも彼女が受け入れる保証なんてあるの?」かなは驚いて声を上げる。緑のツインテールが左右に揺れ、ニフェトが近くにいないか警戒していた。
「自信があったら君に相談なんてしないよ!頼む、お願いだ!」パシュスは足元の小柄な少女に必死で懇願する。
「うるさい、ゴミ。告白まで他人任せとか最低。ぶち壊してやろうか。」かなは唇を尖らせた。
そんなやり取りを続けながら、二人は道具を広場へ運んでいった。
…
まつみとかみこは出し物の準備に向かい、ギルドホールには一般メンバーだけが残っていた。
むぐちは一人で議事室の隣にある小さなギルドの衣装部屋へ向かい、パーティーに出席するための衣装を選ぼうとしていた。そこには色とりどりの衣装がずらりと掛けられている……すべて、ギルド外交の必要だと理由をつけて買い集めたものだった。本当は、まこへの贈り物だったのだ。
指先で布地をなぞりながら、静かに窓辺へ歩み寄り、笑い声に満ちた街を見下ろす。冷たい風が頬を撫で、深い藍色の長髪を揺らすと、胸の奥から孤独な憂いが浮かび上がった。
「むぐちお姉ちゃん……」背後から不意に聞き慣れた声がした。まこだ。扉の外に立ったまま、中へ入ろうとしない。
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