172 死域の突破
ソフィアは一人で聖旗を担ぎ、第一波の少数の青軍を率いて黒真珠へ突進した。
前方は死の静寂。塹壕の無人地帯のような狂いそうな静けさが広がる。
「敵襲!!!」斥候が叫び、数十門の火砲がソフィアの周囲にいるわずかな青軍へ狙いを定めた。
「撃て!」ディベルは即座に命令した。
ドドドドドドドド! 一斉砲撃、硝煙が空を覆う!
密集した砲弾が同時にソフィア隊へ降り注ぐ。直撃すれば即死だ。
「エデンの聖門!!!」ソフィアが腕を振り払うと、空中に黄金の壁が出現した。
ドォン!!!
黄金の壁は大半の砲弾の威力を受け止めて砕け散り、わずかな砲弾だけがソフィア隊の中で爆発する。
「急げ、再装填! 相手は枢機卿だ!」砲兵がすぐに次の弾を装填する。
「勇気の頌歌!!」ソフィアが叫ぶと、周囲の仲間の移動速度が急上昇し、赤ネーム軍へ突撃した。
「急いで撃て! 弩車も――」ディベルが叫びかけたその瞬間。
「創世の日輪!」
ソフィアの聖旗の先端にまばゆい太陽が現れ、大地一面を純白に染め上げた。距離感覚が完全に失われる。
その光はプレイヤーの皮膚と筋肉を透かし、体を赤い半透明に浮かび上がらせた。
「目がぁ!!」
「何も見えない!!!」
黒真珠の赤ネーム軍は一斉に盲目状態へ陥った。
ドドドドドドドドドドドド!
「うわぁぁ!!」
防衛側の砲兵は盲目のまま発砲し、前方の味方を誤爆してしまい、わずかながら被害が出た。
「やめろ……撃つな!!」ディベルは眩光で涙の滲む目を固く閉じたまま叫ぶ。
「来たぞ!!」屋上の狙撃手と賢者が一斉に火力を解放し、目も眩む銃弾と魔法が雨のように青軍へ降り注いだ。
数人が撃たれて倒れ、あるいは魔法の爆発で身体を吹き飛ばされる。
「大回復聖環!! 止まるな、突っ込め!!」ソフィアは復活魔法を詠唱する余裕がなく、回復オーラで無理やり隊を死地突破させるしかなかった。
全員のHP残りが緑と赤を点滅し続け、まさに瀕死。それでもついに黒真珠の街入口へ辿り着く。
「迎撃準備!!」ディベルは外郭のギルドメンバーへ怒鳴った。
重装の赤ネーム軍が街路に第一防衛線を築く。青軍は十数人しか到達していないが、死を恐れぬ覚悟で、紅き人牆へと突撃した。
両軍が接触し、刃と魔法が激突して閃光が乱れる。
「神の嘆息!」ソフィアが叫ぶ。閉眼した金翼の女天使が再び現れ、戦場は沈黙に包まれた。まるで時間が止まったような静寂。
「****?!」
「*****!」
「***!」
赤ネーム軍の叫び声は突然消え、まるでシステムから音声データそのものが消失したかのようだった。
「うおおお!!」だが全強化を受けた青軍は楔の陣で赤い人壁へ突入し、防線に大きな裂け目を開ける。
ディベルは内心驚いた。枢機卿の制圧能力がここまで強いとは思わなかった。たった十数人で防衛線を破りに来るとは。
前線は瞬時に血飛沫の肉弾戦へ変わり、全員が狂ったように斬り合った。
……
「うむ、悪くない」泌尿医は満足そうに頷く。
「今すぐソフィアを援護しましょう!!」ニフェトは焦って言った。
「いいだろう。行け、ニフェト。ただし十人は私に差し出せ。攻撃主力として使う」泌尿医は笑った。
「待って!! 私は元々二十人しかいないのよ。半分も取られたらソフィアより少なくなる!」ニフェトは彼が仲間を消耗させるつもりだと気づいた。
「だからソフィアが第一波を率いたんだ。君は支援すればいい。さあ行け。これ以上文句を言うな。教皇に嫌われたくないだろう?」泌尿医はそう言って、ニフェトの聖旗下から数人を自分の側へ引き抜いた。
ニフェトは震える手で聖旗を握り、赤い城を見つめる。
邪悪な紅光に包まれた黒真珠の中に、まだ一点の蒼光が残っていた――ソフィアがまだ倒れていない証だ。だがニフェトは「創世の日輪」や「エデンの聖門」のような対抗技能をまだ習得していない。突っ込めば、まともな形では戻れないだろう。
「行け、ラロが共にある」泌尿医は笑った。
「……ついて来て」ニフェトは覚悟を決め、一歩踏み出す。
しかし振り向いた瞬間、彼女は孤立していた――残っていた十人は誰も動こうとしない。
「どうしたの?!」ニフェトは泣き出しそうになる。隣に残ったのはたった二人。
「バカか? あんな所へ突っ込めって?」青ネームたちは不安そうな顔で、泌尿医の旗の下へ逃げ込んだ。
「行け、ニフェト。これは君の大好きな教皇の神託だろう?」泌尿医は口を大きく歪めて笑う。
ニフェトは唇を噛み、涙を拭う。泌尿医に助けを求めることはしなかった。数人だけを連れ、煙と炎に包まれた黒真珠へ歩き出す。
「マジかよ?」
「彼女ハググの城主だぞ、こんな死に方って……」
「教会の牢獄って相当怖いんだろうな」
青ネームたちは彼女の背中を見送りながら、ひそひそと噂した。
「ニフェト!!」左側から力強い叫び声が響いた。
ニフェトが慌てて振り向く――パシュスが40人のハググ親衛隊を率いて到着していた。
パシュスは息を切らしながら笑い、水色の髪を優しく撫でる。
「もう……お前を一人で戦わせたりはしない……!」
……




