15 ソックス! ソックス! ソックス!
*R18*に関わる内容は、別の場所で公開します。
他們は裂け目を抜けたあとも立ち止まれず、小さな横穴に入ってようやく休憩した。
まつみはずっと意識が戻らない。
「なんで浄化してやらないんだ?」
パシュスが息を切らしながら言う。
「頭目の付与だから、二次転職の神官じゃないと解除できない。今は『魅惑』が切れるのを待つしかない」
ニフェトが答えた。
「ん゛~!」
まこが苦しそうに、自分の口を指差す。
「ごめん。浄化術」
ニフェトはすぐに状態を消してやった。
「つらかったよ~……さっき……」
まこは言いかけて止まり、何かに怯えたように固まった。視線は洞穴の奥へ――
黒衣をまとい、PK解放したプレイヤーが立っていた。
こちらをじっと見ている。
三人は氷の中に落ちたみたいに息を忘れ、硬直した。
「くそっ! 来い!」
パシュスが跳ね起きて吠える。
だが手元が軽い。
盾を投げて白糸の女王の洞穴に置き去りにしてきたことに気づき、今は片手剣しかなかった。
「天使加護!」
「筋力強化!」
ニフェトが即座に加護をかける。
それでも黒衣の人物は、木偶みたいに微動だにしない。
斗篷が全身を覆い、呼吸音すら聞こえなかった。
三人は緊張を解けず、神経を張り詰めたまま構える。
「おい! やるならやれ! ぐずぐずするな!」
パシュスは限界寸前の圧に耐えながら叫ぶが、下手には動けない。
「…………………………」
黒衣の人物は死体みたいに立ち尽くしている。
「……これ、放置してるのかな?」
ニフェトが迷いながら言う。だが杖は下ろさなかった。
「こんな危険な場所で放置するか? しかもPK解放で放置とか、なおさらおかしいだろ」
パシュスが言う。
「まこ、もう無理~……疲れた……」
まこはその場にぺたんと座り込んだ。
「おい、まこ!」
パシュスが顔を強張らせる。
「早く休んで、戻ってくる前に出よう」
ニフェトも石に腰を下ろした。
パシュスは歯を食いしばり、剣先だけ黒衣へ向けたまま座る。
すると黒衣の人物も、同時に座った。
「やっぱり起きてるじゃねえか! どういうつもりだよ!」
パシュスはすぐ立ち上がり怒鳴る。
黒衣の人物はゆっくり手を上げ、壁の緑色の液体を指差し、次にまつみを指した。
ニフェトははっとして壁に近づき、指で粘つく緑液をすくう。
とんでもなく臭い。
だが皮膚は痛くも痒くもならない。
その臭い液を、まつみの口へ運んだ。
「……信じるのかよ?」
パシュスが問う。
「低レベルの副本で『魅惑』みたいな高等状態は不自然だ。たぶん僕たちは、何かを見落としてる」
ニフェトは迷いなく言った。
「でも……」
パシュスは判断がつかず、焦りだけが膨らむ。
ニフェトが液を押し込むと、まつみが突然目を見開いた。
「甘っ!」
まつみがニフェトの指先をぺろぺろ舐める。ニフェトは赤くなって、慌てて指を引っ込めた。
「何が起きた!?」
まつみは夢から覚めたみたいに叫ぶ。
「最初から『魅惑』にかかってた。ずっと自分を見失ってたんだ」
ニフェトは修道服に、まつみのよだれを拭き取った。
「赤いヤツだ!」
まつみが黒衣を指差して叫ぶ。
黒衣の人物は立ち上がり、黒い斗篷を脱いだ。
絹みたいな濃紺の長い髪がさらりと落ちる。
整った顔立ちに冷たい表情――大剣を携えた女剣士が、そこにいた。
五人が距離を置いたまま見つめ合う。
「……何?」
女剣士が言った。
「なんだよ!? 脱ぐなら俺様も脱いでやるよ!」
女が脱いだのを見て、まつみも勢いで自分の革鎧に手をかける。
「待て!」
パシュスが女剣士を睨み、問い詰めた。
「……お前、どういうつもりだ。なんでPK解放を切った?」
「……答える必要はない」
女剣士は淡々と言った。
パシュスは言葉に詰まる。
「一緒に頭目を倒して、ここを出ない?」
ニフェトが尋ねる。
「いいよ」
女剣士はあっさり頷いた。
「軽々しく信じるなよ!」
パシュスが不満げに言う。
「殺戮状態を解除してる。パーティーに入れれば脅威にはならない」
ニフェトは冷静に言った。
「……ちっ。名前は?」
パシュスが半信半疑で聞く。
「むぐち やよい」
「パーティー招待、送った」
「システムメッセージ: 六口彌生 パーティーに参加」
「レベル六十一。俺たちより二つ上だ。頭目、倒せる自信は?」
ニフェトが問う。
「分からない」
「白糸の女王の弱点は?」
パシュスが続けて聞く。
「散らばるな。固まって寄せる。刺毛を使った直後、二秒硬直する。その間に叩け」
むぐち やよいが短く言った。
「詳しいのに、なんで勝てないの?」
ニフェトが鋭く突く。
「注意を散らせる味方がいない。火力が足りない」
「……お前は『魅惑』にかからないのか?」
パシュスがふいに聞いた。
「ソロなら、かからない」
むぐち やよいはそれだけ答えた。
「理屈はもういい! 実戦だ!」
まつみが大股で前へ出た。
むぐち やよいは臭い液を指先に付け、隊列の後ろにつく。
...
五人が大きな洞穴へ戻ると、妖艶な白糸の女王が再び姿を現した。
「くそっ! さっきは醜態さらしたけど、今度こそ……女王~!」
まつみは開幕から勢いよく叫び、次の瞬間には我を忘れて白糸の女王へ突っ込んだ。
むぐち やよいが横に滑り込み、臭い液をまつみの口に突っ込む。
「なんて恐ろしい妖術だ……!」
まつみが青ざめる。
「『魅惑』はだいたい五分で再使用。先にこの緑液を付けておけ、仲間の解除に使える」
むぐち やよいは赤鉄の大剣を肩に担ぎ、構えた。
「おお~、色っぽい女王さま~!」
まつみがまた白糸の女王へ飛びつく。
「なに!?」
四人が同時に叫ぶ。
「魅惑、入ってない!」
ニフェトが焦って確認する。
「ただの性格が終わってるだけだ! いいから行くぞ!」
パシュスが水紋剣を構え、白糸の女王へ突進した。
五人は固まって距離を詰める。
まつみの矢は四本とも背脚に弾かれた。
白糸の女王がゆっくりしゃがみ込み、大腿が膨れ、ストッキングが今にも裂けそうになる。
――ズン。次の瞬間、姿が消えた。
砂埃が舞い、気づけば上空。
白糸の女王は隊列の真上から落ちてくる。
前衛のパシュスへ狙いを定め、八本の脚が同時に突き刺さった。
ドゴォン――!
パシュスは剣で正面から受け止め、ニフェトの加護を背に、頭目へ押し返す。
まつみが左から短剣で突っ込み、背脚を二本引きつけた。
「白の矢!」
まこが右から撃ち込み、白糸の女王は背脚を重ねて受け止めるしかなかった。
「小心!」
むぐち やよいが大声で警告した。
白糸の女王の身体がぶるりと震え、数十本の棘が皮膚を突き破って飛び出す。
むぐち やよいは、動けない一瞬の隙を逃さず背後へ回り込んだ。
「圧刃!」
大剣を横薙ぎに振り抜き、白糸の女王の右腹を斬りつける。
白糸の女王は避けきれず、脚を上げて受け止めた。
ブチィ――!
耳障りな悲鳴とともに、右の背脚が三本まとめて落ちた。
緑の血が噴き上がり、止まらない。
白糸の女王は震えながら後退し、まつみの冷たい矢が二本、肩に突き立つ。
「高階祷文!」
ニフェトがまこを支えながら戻り、すぐにパシュスへ治癒を飛ばした。
パシュスは流れで落とした盾を拾い、再び前へ立つ。
隊列が立て直される。
白糸の女王は五人を睨みつけ、ちぎれた背脚が痙攣するように動き続けていた。
五人はじりじりと追い詰め、壁際まで押し込む。逃げ道はない。
「神閃」
「天使加護」
ニフェトの祝福が乗り切り、同時に全員が散開した。
むぐち やよいが右から再突入する。
痛い目を見た白糸の女王は左へ逃げようとしたが――そこにはパシュスが立ちはだかっていた。
慌てて断脚を地面に突き刺し、強引に急停止する。
砕けた石の上に、長い緑の血痕が引かれた。
「氷牢!」
まこが叫ぶ。
伏せた白糸の女王は避けられない。
両腕が氷に閉じ込められた。
「捕まえた! 雷導――!」
まこが目を見開き、詠唱する。
白糸の女王は、また蜘蛛糸をまこの顔へ吐きつけた。
だが、まつみは極限の動体視力で糸玉を捉え、身体をひねって短剣を投げ放つ。
一直線に飛んだ刃が、白糸の女王の顔へ――。
両腕は凍っていて防げない。
小刀は右目へ深々と突き刺さった。
「――術!」
まこが詠唱を完了する。
ドガァン――!
天雷が頭頂へ叩き落ちた。
「筋力強化!」
ニフェトが叫ぶ。
右から濃密な殺気が押し寄せ、白糸の女王はぎょっとする。
むぐち やよいが跳んだ。
大剣を背へ引き絞り――
「砕岩!」
放たれた刃は、矢のような速度で叩き落とされる。
ドォン!!
地面が揺れ、天井から砂礫が雨のように落ちた。
「ぎゃあっ――!」
白糸の女王は顔を歪め、痛みに青筋を浮かべる。
左側の脚がまとめて切断され、崩れ落ちた。
「終わりだ!」
パシュスが踏み込み、残る右脚へ剣を振り下ろす。
刃が触れた、その瞬間。
「システムメッセージ: 白糸の女王が怒った」
「システムメッセージ: 白糸母蛛が出現」
「なに!?」
...…
更新は基本【毎日1話】。
さらに、
ブックマーク10増加ごとに1話追加、
感想10件ごとに1話追加します。
書き溜めは十分あります。
一緒にテンポよく、魔王討伐まで突っ走りましょう :)




