153 幽語森の賜物
視線はハググから離れ、遥か北のヴィニフ宮殿へ飛ぶ――
「おかしい。大剣兵、魔砲兵、天使守衛はどこだ?」むぐちは副長として領主インターフェースを開き、考え込んだ。
かなはむぐちの腕を引き、つま先立ちで画面を覗き込む。「ちょっと! しゃがんでよ。背が高すぎて見えない!」かなは悔しそうに怒鳴った。二人の身長差は相変わらず大きい。
「ほら。普通の銀槍兵、弓兵、付与師、聖盾兵しかいない。他の上級兵種は購入できない。」むぐちはエルフの守備兵インターフェースを指さした。
「そういえば……獣人の妖術師とかゴブリン部隊も買えなかったよね。プレイヤーが支配する王都は兵種制限があるのかも。じゃないと強すぎてゲームバランスが壊れる。」かなは推測した。
むぐちはすぐ目をそらし不機嫌な顔をした。「じゃあエルフなんて何の役に立つんだ? 銀槍兵一体で狼貨50。巨盾兵は竜貨1.2。7倍価格とか、ギルド金庫が干上がるぞ。」
「よく考えたら……ヴィニフ宮殿を落とした後のほうが大変だよ。ここはもともとプレイヤーが来ない場所。つまり収入ゼロなのに駐兵が必要。完全に資源を吸い続ける餓鬼だよ……」かなはため息をついて座り込み、高台の端から小さな足をぶらぶら揺らした。
「そうだ! 資源だ。すぐ隣に金鉱があるじゃないか!」むぐちは突然ひらめいた。
かなはむぐちを怪訝な顔で見て、その視線を追って遠くの幽語の森を見つめる。そして意味を理解すると、すぐギルドメンバーに叫んだ。
「ザコども、立て! 仕事の時間だ!」
……
再び幽語の森へ足を踏み入れると、そこには以前とはまるで違う世界が広がっていた。
もう周囲に神経を尖らせる必要はない。木漏れ日の揺れる森の中を、のんびり歩く。
暖かな日差しが濃い葉を抜けて顔に降り注ぎ、林を抜ける涼しい風が肌を撫でる。心が洗われるようだ。
よく見ると、樹皮の上、葉の間、幹の中、さらには土の中にまで奇妙な生き物が潜んでいる。二尾のサソリ、透明なカエル、空中を漂うミルククラゲ、絹のように滑らかな蜘蛛の糸。
鳥の声と花の香りに満ちた幽語の森は、空羽谷よりさらに多様な生態系を持っている。一歩踏み出すたび、足元から何かが飛び出してくる。
かなは突然、探索隊を止めた。前方の小さな草地に、光る尖角を持つ小さなウサギがいた。
そのウサギは光の角で土を掘り、多汁の樹根をかじっている。大きな耳をぴんと立て、少しでも物音がすればすぐ逃げ出す。
かなは静かに杖を向けた。「氷牢」
【警告: 詠唱失敗 対象は魔法免疫】
ドンッ! 土が跳ね上がり、光角ウサギは一瞬で深い樹海へ逃げ去った。
「ウサギまで魔法免疫なの!? 最悪……」
「おや?」一人の狙撃手が、ウサギが逃げたとき落とした光角に気づいた。
【貴重素材: 幽林兎の魔角――粉末にすると抗魔属性の防具または抗魔ポーションを作れる】
「抗魔属性の装備は、安くても竜貨4枚はするんだぞ!」
「うわっ、この小さな角すごいな。」
「急いで周囲を調べろ!」
「30分後にここで集合。各自で行動して。無理に攻撃しないで、神族は隠しステータスを持っているかもしれない。」かなは慎重に行動するよう注意を促した。
探索隊は欲深いハンターに変わり、周囲の素材を片っ端から集め始めた。トンボの青い薄羽、七色の魚鱗、花狐の腋毛、生きたままの電極蟻の女王……皆は収穫を抱えて集合地点へ戻る。
「電極蟻は攻城兵器のエネルギー源になるのか?!」小隊は戦利品を草地に広げて共有した。
「この粘性の赤い泥、装備耐久を10%回復できる。戦闘中でも使えるから便利だ!」
「この虫羽を食べると移動速度が5%上がる。10分間持続。攻城戦では必須だな!」
「かな?」小隊は、かながずっと黙って皆の話を聞いていることに気づいた。
かなは首を振り、話を続けていいと合図した。
「西側にエルフ魔鋼の鉱洞があった! 魔法ダメージ武器を作る必須素材だ!」一人の影鬼が走って戻り、興奮して報告した。
「すぐ案内してくれ!」皆は一斉に立ち上がった。
「かな、お前どうした?」皆は、かなが地面にしゃがみ込み、額に汗を浮かべているのを見た。
「おい、かなが毒にやられた! 何に遭った?!」皆は驚いた。
「わ、私は……イチゴの香りがするピンク色のキノコを見つけて……」かなは恥ずかしさで顔を真っ赤にし、腹の激痛に耐えていた。
皆は一瞬呆然とし、それから大笑いした。
……
「第一隊は巡回、第二隊は五角広場を常駐警備。訪れたプレイヤーの情報はすべて記録しろ。」むぐちやよいは、台下の百二十名のエルフ銀槍兵に命令した。
ドン――
彼らたちは整然と足並みをそろえ、胸を張って密集隊形のまま、むぐちやよいが配置した防衛位置へ進んだ。むぐちやよいはエルフ兵の高い服従性を見て密かに喜ぶ。獣人兵は単独戦闘には強いが複雑な戦術が使いにくい。エルフ兵なら、むぐちやよいの戦術をより活かせる。
探索隊が広場へ戻ると、影鬼がほとんど意識を失ったかなを地面に降ろした。
むぐちは驚いて階段を転げるように駆け下りた。「どうした? 神官はなぜ治療しない?!」
「キノコを勝手に食べて毒に当たったんだ。今は歩くこともできないぞ、ははは。」小隊は一斉にかなをからかった。
かなの目から凍りつくような殺意が噴き出したが、すぐ激痛にかき消された。腹の中では群魔が踊るように、何百万匹もの虫が小腸を噛みつくような痛みが走る。
むぐちは呆然と彼女を見つめ、それから笑いの輪に加わった。
「もう無理……先にトイレ……じゃあね!」
【システムメッセージ: フレンド かな パーティーから離脱】
「何かいい物はあった?」むぐちは地面の珍しい素材を見ながら聞いた。
「ものすごく豊富だ! ほとんどが未発見の貴重素材だ。今なら完全に独占できる!」狙撃手は興奮して答えた。
「よし! 今のうちに素材を集めまくれ。十分な量が溜まったら、一気に出品する!」
……




