129 決着の刻
司教は胸を押さえ、そのまま膝から崩れ落ちる。ポン、と音を立てて光塵となり消滅した。
かなとリオは呆然とする。すぐ隣で、あまりにも容易く刺殺された。
夢葬者と影鬼が同時に姿を現す。
「大天使長が同じエリアから離れない……つまりギルドの礎石はその近くだ」そう言いながら二人がブチャへ視線を向けようとした瞬間――
「地裂!」「黒雷!」「星火連焼!」「氷牢!」
かなは一息に四つの広範囲魔法を叩き込む。
二人は容易く回避する。夢葬者が冷笑した。
「その遅い魔法で、隠れる刺客を捕まえられるとでも?」
かなは表情を変えず、静かに敵を観察する。
青蛇のギルマス率いる破壊小隊の完璧な連携から、彼らのPVP経験は自分に劣らないと悟っていた。刺客は隠身という絶対的優位を持ち、一瞬で致命傷を与えられる。
ブチャは高火力高防御だが、動きが遅い。敵を捕らえる役には立たない。
だが――もうすべて終わっている。
かなはにやりと笑う。
「どうしたの? 四次職のくせに攻めて来ないの?」
「我がギルドの連中が獣人衛兵の最後の防線を突破する。お前たちを始末した後、ギルドの礎石を破壊し、ハググを落とす」夢葬者は笑い、二人は同時に姿を消した。
「動かないで、敵が見えたら叫ぶだけでいい」かなはリオに小声で囁いた。
「見えた!!!」リオが右側のゼリー状の人影を指差して叫ぶ。
紫光が即座に逆方向へ走り、二人へ突き刺すように迫る。
かなは迷わず前転し、振り返ってリオに苦笑すると、指を鳴らした。
「ごめんね。」
ドォン――
「 Σ(っ゜Д゜;)っ 」リオは心臓が止まりかけたように口を開け、棒立ちになる。かなは自分と夢葬者を同時に巨大な岩牢へ閉じ込めていた?!
夢葬者は双短剣を下げたままリオの前に立ち、周囲の高さ八メートル近い岩壁陣を見回す。
「会長!!!」影鬼が石壁へ飛びついて叫ぶ。
その瞬間、足元が凍りつく。かなの氷牢が影鬼の脚を封じた。
「何だと?!」影鬼は詠唱を聞いていないことに気づき、驚愕する。
「ふふっ、あははは! 人間の怠慢って、本当に使えるわね」かなは舌を舐め、杖を突き出す。
「静電荷。」
影鬼の周囲に青い電球が浮かび上がり、髪が逆立つ。必死にもがくが、厚氷は砕けない。
かなは黒雷を撃ち込み、同時に静電チャージを起爆して二次ダメージを叩き込んだ。
轟音とともにKanatheonのギルド木壁に大穴が穿たれる。
影鬼は瀕死のまま地に伏した。
「待て! 待て、交渉だ! そいつを助けろ、さもなきゃお前らの技師を殺す!」夢葬者は救出が間に合わぬと悟り、リオの命でかなを脅す。
「瀕死の相手と交渉する理由があるの?」かなは微笑む。
「岩牢越しに高火力は撃てないはずだ。影鬼を解放しろ。そうすれば技師は殺さず、俺たちは退く」夢葬者は石壁の陰で震えるリオを睨む。
「……信じると思う?」かなは冷笑した。
ドォン!!!
巨大な火球が影鬼を直撃し、粉砕。光塵となって消滅する。
「よくも……!」夢葬者は激怒し、短剣を掲げてリオへ突進。
ミシリ――天井から亀裂音。
ドガン!!!
巨大な透明氷柱が天井を突き破り、夢葬者の体を正確に貫いた。
かなは岩牢を解除する。夢葬者の体は白い氷片と絡み合い、まるで削り氷のように砕けていた。
「どうやって……こんな氷魔法の威力を……」夢葬者は言葉を絞り出す。
「ふふ……賢者は詠唱なんていらないの。最初から叫んでたスキル名は全部フェイク。最初に天井の同じ場所へ氷柱を撃ち続けて、少しずつ巨大化させてたのよ。システム上、純度の高い氷ほど威力が上がる。だからあなたたちがブチャを見上げた瞬間、私は範囲魔法で視線を地上へ戻させた。そして戦闘中もわざと詠唱を見せて、本命を隠した。勝負は、私が最初にスキルを叫んだ瞬間に決まってたのよ。作り直してきなさい、ザコ。」かなは不敵に笑い、杖を夢葬者の頭へ向ける。
「紅蓮の爆炎!」
ドォン!!!
…
外湖の岸では、Kanatheonと攻城連合軍が血まみれで激突していた――
「うわああ!!! 逃げろ!!!!」
「もう無理だ!!!!!」
「撤退!!! 撤退だ!!!!!!!」
攻城連合軍は突如崩壊し、武器を投げ捨て、互いを踏みつけながら我先にと逃げ出す。
「むぐち、停戦命令が出たみたいだ!」パシュスが敵の総崩れを見て叫ぶ。
金色の聖鎧は血に染まり、ニフェトの水色の聖職衣にも赤い飛沫が散っていた。
むぐち やよいは荒い息をついて立ち止まる。肩には小さな白い鳥が止まっている。
【密信 かな:城内に援軍を。———05分前】
「追撃中止! 直ちに渡河、帰城せよ!」むぐちは顔色を変え、兵を率いて城内へ戻る。
城内には獣人兵の死骸が散乱していた。生き残った三十人ほどの連合兵が孤立無援のまま抗戦を続けていたが、それも長くは持たなかった。北門から雪崩れ込んだKanatheonの主力という名の濁流に呑み込まれ、誰一人として生き残ることはできなかったのだ。
かなは誇らしげにギルド大広間から歩み出る。リオはまだ顔色を失ったまま、その後ろに続いた。
かなは淡く笑う。
「敵将………討ち取ったり!」




