125 「城壁をすり抜けたってのか?!」
「西岸からも敵襲!」
「南岸からも敵襲!」獣人兵が報告する。西と南から八隻の輸送艇が要塞へ向かって進み始めた。
ドォン、ドォン、ドォン、ドォン、ドォン、ドォン、ドォン、ドォン、ドォン――城壁の大砲が再び火を吹き、船上の兵たちは命がけで川を渡る。
「ちっ! この重機関銃は徹甲弾じゃないと重装甲職を落とせない。緒戦で主力を潰せなかったのが痛い。もう死角に回られた、これじゃまともな防衛は無理だ!」
リオが悔しげに叫ぶ。
「はあ?! 有効防衛が無理だと?! さっき自分で一騎当千って豪語してただろうが!」
司教が怒鳴り返す。
「一騎当千は本当だ! もう四十人近く落としてる! 技師の強みは固定防衛だ。射線から外れたらどうしようもない。この円形要塞は死角が多すぎる、地形の問題だ!」
「掴まれ。」
足元の泥に文字が浮かぶ。
「は?」
リオと司教が同時に眉をひそめる。
ゴゴゴゴ……大地が震えた。
砲台が激しく揺れ、土柱が軋む。今にも折れそうだ。
「おい! 地震なんて聞いてないぞ! 落ちたら死ぬんだぞ!」
リオが叫ぶ。
かずきは両手を広げ、周囲に異様な風を巻き起こす。白く反転した瞳を見開き、空気を掴むように両手へ力を込める。首筋の筋が浮き上がった。
フッ――左足を引き、体を左へ捻り、両の爪で空間を引き裂くように引く。
空に緑の光弧が走った。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ――ハググ要塞が巨大な土煙を巻き上げ、湖面に無数の白波が立つ。
激震で獣人砲兵は射撃不能となり、連合軍は不安げに泥煙を見つめた。
砲台が狂ったように揺れ、部品が軋み外れ始める。
リオと司教は衝撃で絡まり合い、足元の空薬莢が震動に合わせて跳ね回る。
やがて揺れが止まり、土煙が沈む。
二人はよろめきながら砲台の床から起き上がる。
「かずき、お前この野郎――」
リオは言葉を失い、目を見開いた。全身の血が沸騰する。
西側桟橋の四隻の輸送艇が、まっすぐ自分へ向かっている。
船上の敵は虚ろな目で固まり、状況を理解できない。
かずきが土柱ごと砲台を城壁沿いに西側へ移動させていたのだ。
「最高だ! 最高すぎる! ははははははは!」
リオは座席へ飛び乗り照準を合わせる。
「ノルマンディーの死神!!!」
「な、なんだあれは……」
船上の司教は魔力盾を展開する暇もない。
パチン、チチチチチチ、パパパパパ、チチチ、パチン、パチン、パチン、チチチチ――
輸送艇は狂乱の弾幕に呑まれ、装甲を叩く金属音と負傷者の悲鳴が混ざり合う。まさに地獄だ。
最初の輸送艇がようやく岸に着く。生き残った司教がふらつきながら桟橋へ踏み出し、振り返る。
十数人乗っていたはずの船内は、脛まで水に浸かり、光の塵が無数に漂っている。
司教は膝をつき、呆然と血の船を見つめた。
ヒュッ。背後から矢が突き刺さり、そのまま獣人弩兵に射殺された。
バババババババババ!
ババババババババババババババババババババ!
バババ!
「会長! あの砲台、移動するぞ!!!」
青蛇のギルドメンバーが叫ぶ。彼らは南側桟橋へ向かう輸送艇に乗っている。
「もう退けん、死ぬ気で突っ込め!!!」
青蛇のギルマスは強攻を決断し、船上で前方を睨みつけた。
船上の魔導士たちが反撃を開始する。色とりどりのスキルが同時に砲台へ炸裂した。
「聖庇所!」
司教が魔力盾を展開し、リオを守る。大半の攻撃は防がれたが、いくつかは側面装甲に命中する。それでも抗魔銀塗装が弾き返した。
「今だ、盾を下げる!」
司教が叫び、リオは即座に発砲する。
「東側に敵襲!」
獣人兵が怒号を上げる。
かずきは高塔の屋上で、独り優雅に舞う。空中に描かれる緑の光弧は、夜光の花びらのように妖しく美しい。
砲台は東へ西へ、南へ北へと自在に移動させられる。
リオとかずきの間に瞬時に呼吸が生まれる。移動するたび、最も近い輸送艇を優先して破壊する。
守城戦はいつの間にか“七面鳥撃ち”へ変わっていた。リオは押し寄せる敵を容赦なく屠り、艇を一隻沈めるごとに、かずきが次の標的を差し出す。
司教は負傷したリオを絶えず回復し、必要とあれば装填も手伝う。
「くそっ! くそっ!! くそおおおおおお!!!!!」
青蛇のギルマスは歯を食いしばる。城壁に触れることすらできず、すでに半数近いメンバーが倒れていた。
「会長、撤退を……まだ二――」
傍らの賢者が懇願した瞬間、金色の弾丸が貫き、そのまま倒れた。
「ふざけるなあああああああ!!!!!!!!」
ギルド長の瞳が白く反転し、身体が黒く染まる。船首へ駆け、勢いよく跳躍。湖面の破片を踏み台にし、数度跳ね、己の脚力だけで桟橋へ到達した。
「Kanatheon……どこまで底力があるか、見せてもらおうか……」
城壁際へ滑り込み、右手を触れさせる。身体が黒煙となり、そのまま城壁をすり抜けた。
地獄火神式機関銃の砲身は灼けるように赤くなり、金属が軟化し始める。
「かずき! 冷却時間をくれ!」
リオが叫ぶ。
四方八方から輸送艇が迫る。内湖要塞へ向かう連合軍には、まだ数十名の無傷のプレイヤーが残っている。もし上陸を許せば、これまでの防衛は水の泡だ。
かずきはゆっくりと腰を落とし、爪の形に曲げた指で胸前の空気を押し潰すように下へ圧す。
大地が再び震動――湖水がわずかに下がった。
輸送艇の連合軍は、自分たちと桟橋の高低差が広がっていくのを目の当たりにする。ほとんど崖を登る形になる。
かずきは水位を下げ、上陸不能にしようとしていた。
ドンッ。
目の前に黒髪の少女が出現する――GM05。
「鬼畜仕様はダメですよ~」
GM05は頬を膨らませ、七色のインターフェースを開き、指で軽く操作する。
震動が止まり、湖水は元の水位へ戻った。
かずきは汗を流しながらGM05を見つめる。
「設定で相手の反撃を完全に奪うのは禁止です。連携による変化はOKですが、敵の行動を封じる設計は審査対象になります。次に鬼畜仕様が確認されたら一時間拘束ですよ。頑張って~」
GM05はにこりと笑い、空間へ溶けるように消えた。
かずきは唇を噛み、状況の悪化を感じ取る。
「うおおおおお!!!!!」
城内から突然騒乱が起きた。鉄斧の獣人が一人の敵と激しく斬り結び、すでに何体もの獣人が倒れている。
「城内で何が起きてる?!」
リオが焦って叫ぶ。
「敵が一名、城内に侵入! 衛兵が交戦中!」
城壁上の獣人弩兵が報告する。
「あり得ない! 北側の罠はまだ発動していない! どうやって抜けた!」
リオは即座にインターフェースを開く。すべての罠が待機状態のままだ。
「入口は一つだけなんだよな?!」
リオが司教に問い詰めた。
「そんなはずはありません! ニフェトとむぐち やよい様が何度も確認しています!」
司教が叫ぶ。
「じゃあ……じゃあ奴は……城壁をすり抜けたってのか?!」
リオは全身を震わせる。胸の奥から嫌な予感が込み上げてきた。
もし技師が前衛に捕まったら……
本日はここまでとなります。
皆さま、どうぞよろしくお願いします。




