121 「もう一度聞くけど、職業は?」
プラムス塔・応接ホール――
銀龍の刻印とKanatheonの幹部が一堂に会し、長机に広げた戦略地図を囲んで作戦会議を重ねていた。
「明日が決戦。準備はいい?」
アンドリアは興奮を隠しきれない。
「ははっ! まるで神が味方してる!」
むぐちはいつもの落ち着きを投げ捨て、思わず得意げに笑った。
「ふん。うっかり王都を落とすなよ。」
アンドリアは鼻であしらう。
「幽語の森の情報は?」
ニフェトが食い下がった。
アンドリアの顔が曇り、眉間にしわが寄る。
「ハイエルフ……いや、神族が、想像以上にヤバい。」
「神族って、幽語の森にいる怪物のこと?」
むぐちは真剣な面持ちで尋ねた。
アンドリアは深く息を吸い、淡々と語り始める。
「幽語の森は、緑だけでできた地獄だ。巨木の表皮も、地面のぬかるみも、分厚い苔で覆われてて、距離感も方角も狂う。森全体に白い霧が濃く漂ってる。仲間とはぐれたら、もう合流はほぼ不可能。樹上には黄金級の怪物が潜んでいて、気を抜けば矢の雨で心臓を抜かれる。
あの日、私は人間歩兵を150人犠牲にして、幽語の森南側のハイエルフ木造砦を落とした。そこから軍を森へ入れたんだ。数百メートル進んだあたりで、無数の視線を感じ始めた。次の瞬間、前方が金色に爆ぜて、前線の歩兵方陣が矢の嵐で崩壊――被害は甚大。私は両翼の獣人騎兵に突撃を命じた。
だが霧の中で七色の光が走り、地面が激しく揺れた。悲鳴があちこちで上がる……。私は慌てて進軍を止めて様子見に切り替えた。現場が再び静まり返ってから前進を再開したが――そこにあったのは、獣人騎兵の死体の山だった。死に方も、目を背けたくなるほど酷い。
……撤退を余儀なくされた。」
アンドリアは幽語の森の地図を見つめたまま言い切る。
「獣人騎兵はレベル270……それが一瞬で壊滅って……」
パシュスは息を呑み、神族の強さを想像するだけで背筋が冷えた。
「幽語の森を抜けるのも、簡単じゃないね……」
むぐちは、銀龍の刻印と組んでもヴィニフ宮殿を落とす時間が足りないかもしれないと不安になる。
「そっちは、攻めに何人出せる?」
アンドリアが問いかけた。
むぐち やよいは、かみこに視線を送った。
「前提は二つ。初日に敵の三割以上を削ること。さらに敵側の会長を落とすこと。これを満たせば、侵攻側は“撃退”と判断できます。
現時点でKanatheonの人数は73。平均レベル189。
同盟ギルドは8つ。合計266。平均レベル207。
戦力を分散させないため、防衛は同盟を主軸にします。Kanatheonが二日目に出撃できる人数は、おおむね65です。」
かみこは淡々と数字を積み上げた。
「65!? じゃあ守りは8人だけ?」
アンドリアは長机に両手をつき、目を見開いた。
「言っただろう? 神が味方してるって。」
むぐちは意味深に笑った。
アンドリアは半信半疑で彼女を見る。
「銀龍の刻印はすでにグズ湿台を封鎖している。初日に六十名を投入して即座に制圧、そのままハイエルフへ進軍する。つまり、連合はおよそ百二十名になる。」
「うん。120の精鋭なら、ハイエルフの首都は落とせるはず。2日目の夕方5時、ワスティン大聖堂に集合でいい?」
むぐちは闘志を燃やし、目を輝かせてアンドリアを見つめる。
「いいわ! 約束よ!」
アンドリアは高らかに笑い、地図上のプラムス城から銀龍の刻印の駒を取り、ぱちんとワスティン大聖堂の中央に置いた。
むぐちもハググからKanatheonの駒を取り上げ、銀龍の刻印の隣にそっと置く。
「約束。」
……
ハググ内湖、Kanatheonギルド要塞――
「おい! まだか! 間に合わなかったら金は払わないぞ!」
まつみがリオに怒鳴る。
「安心してください……完成しました……」
リオは泥だらけの顔で巨大な穴から這い上がった。
「これ、城壁の大砲より強いの?」
まつみは下を覗き込み、疑いの目で“それ”を見る。
「ええ。奇襲ができる時点で大砲より有利です。私も楽しみですよ。」
リオは汗を流しながらスタミナポーションをあおった。
「もう一度聞くけど、職業は?」
まつみはからかうように笑う。
リオは眼鏡を押し上げ、堂々と答えた。
「技師」
……




