109 暴君
「あり得ない……」パシュスは振り向き、無理やり銀月盾を掲げてむぐちを押し退ける。背中に三本の屍人の鉄剣が突き刺さった。近衛軍のマントは無残に裂け、黒赤い汚血に染まる。
辛うじて維持していた円陣はついに崩れ、パシュスの位置から屍人が雪崩れ込んだ。
かみこは即座に鏡盾を動かして防御するが間に合わず、屍人が目前まで迫る。
かな、まこ、かみこの三人は背を合わせ、力の抜けた杖で必死に応戦する。
「うおおお!」パシュスは全神経を締め上げて意識を保ち、盾で黒化したむぐちを弾き飛ばし、仲間の元へ駆け戻る。
「悪鬼触手」
背後から引かれ、体温が急降下する。むぐちが血を吸い上げている。
【システムメッセージ:フレンド パシュス HP残り20%】
屍人に囲まれた魔法職たちも次々に負傷する。
魔狼で辛うじて持ち堪えていたが、連続斬撃を受けHPが尽きて一時消滅。まこは反応が遅れ、骨槍に貫かれた。
【システムメッセージ:フレンド まこ HP残り20%】
かみこは、自身をオーバーロードさせ「花羅万象」で分身を複製すれば打開できると計算する――しかし発動の兆しはない。
「呪血の蔦!」黒化むぐちが血の根を無数に呼び出し、全員を絡め取る。
「ラロ~の可愛い子、ラロ~のもとへ戻りなさい。」黒ニフェトが歪んだ笑みを浮かべる。
……
「孤高の王者!!!!!!」背後から轟く咆哮。
橙色の光柱が天へ突き抜け、すべての屍人の視線を奪う。
「見て!!」かなが叫ぶ――屍人は60秒の挑発状態に入った。
百体を超える屍人が、瀕死の小隊を捨てて光柱へ殺到する。
誰も動けない。僅かな動作でも再び標的になる。
「うおおおおお!!!!」レックスの怒号が大広間を震わせる。
屍人は盲目のように大坑へ流れ込み、小隊はついに包囲を脱した。
「ちっ!」原罪者は歯噛みし、左下の血池へ走る。第三肢体を求めて。
パシュスとまつみは力を合わせ、むぐちを押さえつけ、精神腐蝕の残り時間を数える。
まこは涙を流しながら口を押さえ、骨槍を自力で引き抜いた。
「んっ……!!!!」血が噴き出す。
魂を裂く激痛。それでも声を上げず、唇を噛みしめる。
わずかに意識を取り戻し、体力薬を一気に飲み干す。かなは警戒を続ける。
……
「砕岩撃!」
「唯我独尊!」
ドン!!!!坑から深紅の血霧が噴き上がる。
「ごほっ……ごほっ!」むぐちは激しく嘔吐し、ようやく正気に戻る。
「無茶するな! 護心石がな……」パシュスが安堵しかけた瞬間、遮られる。
「かな! 白い宝石を血池に投げろ!」
「えっ……は、はい!」かなは慌てて宝石を取り出し、血池へ放る。
ぽちゃん――血池は乳白色へ変わる。
「バカ! 次の血池だ!」むぐちは怒鳴る。
「え?! わかるわけないでしょ! ちゃんと言ってよ!」かなも叫び返す。
「俺だ!!」パシュスの頭上に白い「1」が浮かぶ。
むぐちは即座に骨山上の骨琴へ視線を向け、インターフェースを開く。指が鍵盤を弾くように高速で舞った。
【システムメッセージ:パシュス パーティーから除外】
「パシュス、黒マントを着ろ! かみこ、準備!」
「位相シフト。」かみこは即座に骨山の下へ鏡盾の出口を展開する。
パシュスが通過するのを待ち、入口側の鏡盾を左下の血池付近へ移動させる。戻って宝石を投げ込むためだ。
小隊は同時に走り出し、原罪者を追う。
パシュスは星紋へ転送され、すぐ管風琴の前へ駆け、第一鍵を叩く。
ブォン――白い宝石を得た。
「急がせて。位相シフトの残りは7秒。」かみこが淡々と告げる。
「パシュス! 鏡盾へ走れ!」むぐちが怒鳴る。
「お、俺は……走るの……得意じゃ……」重い鎧を引きずり必死に走る。
「3秒。」かみこが冷静にカウント。
「走れよデブ!!!!」かなが焦りから叫ぶ。
鏡盾は目前。その向こうに原罪者の姿。
パシュスは息を止め跳躍する。
ドンッ。硬い鏡面に激突。転移は終了していた。
「も、無理だ……後は……」小指ほどの白宝石を掲げる。
「投げるなバカ!! ここで失くしたら終わりでしょ!!」かなが杖を握りしめる。
まつみは全速で駆け寄る。
「間に合わない。」かみこは、原罪者の詠唱完了前に到達不能と計算した。
「パシュス! 黒マント脱いで飛び降りろ!!!」
坑の底ではレックスが八十体超の屍人と血戦中。赤鎧は黒血に塗れている。
坑は足首ほどの深さの屍肉と骨片の溜まり場と化していた。
「無理だ! 今はギミックで削ってる、耐えろ!」パシュスはふらつきながら言う。
「飛べ! 黙れ!」レックスの怒号が全てを圧する。
その一喝が、屍人の呻きもパシュスの迷いもかき消す。
パシュスは即座に黒マントを脱ぎ、巨坑へ滑り落ちた。
レックスは屍人を両断し、銀花の大剣を逆手に構え、腰を落とし、双剣を背後へ引き絞る。
「暴虐大旋風!!!」
身体が巻き上げられた独楽のように高速回転し、橙と蒼の光環が形成される。
砕ける音、裂ける音、断ち切る音――坑の中心に血の竜巻が巻き起こり、黒血が豪雨のように降り注ぐ。
パシュスは構わず中心へ突っ込む。
レックスは刹那を見極め、大剣でパシュスを受け止め、全力で振り抜いた。
凄まじい反動。吐き気を催す骨砕音が消え、瞬時に高空へ放り出される。
「続け!」むぐちが叫び、隊を率いて血池へ疾走。
パシュスは半秒宙に浮き、そのまま急降下。着地点は――原罪者の真横だった。
「させるか!」パシュスは空中で白い宝石を血池へ投げ込む。
原罪者は詠唱を終え、ちょうど乳白色へ変わった血池に身を沈めた。
「ぐあああああ!!!」
白い業火が燃え上がり、原罪者は血池の中で転げ回る。黒い外皮がひび割れ、内側の白い部分が露出する。
「弱点スキャン!」まつみが叫ぶ。
「そう! 白い部分! 弱点露出30秒!」
「腐血藤!」むぐちが血池へ拳を突き込み、太い血の蔓で原罪者を拘束する。
「ラロ神元剣!」
黄金の巨剣が地を突き破り、黒い身体を貫く。
「ぐああああ!!!」ドンッ――全身が白へと変色、完全弱点状態。
「黒雷!」「鏡盾反射!」「雷導術!」「炎爆術!」「背刺!」「敗血術!」
飢えた狼のように全員が飛びかかり、猛打を叩き込む。
HPが一瞬で急落する。
ドォン!!!
衝撃波で吹き飛ばされ、原罪者は中央の星紋へ瞬間移動。
身体と両脚は再び黒へ戻り、赤い右腕のみが残る。
屍人の肉は剥がれ落ち、骸骨兵へ退化。ただし右腕だけが筋肉を保っている。
【システムメッセージ:原罪者 1/5肢体】
「わかった! 残肢がない状態で白宝石を当てれば防御が剥がれる!」むぐちが機構を看破する。
士気が一気に上がる。
「大地を癒やす聖歌!」「聖燃術!」原罪者は再び右腕を掲げ、小隊を回復し武器へ聖属性を付与する。
「ニフェト、待ってろ!!!」パシュスが歓喜する。
……
再び骸骨が流入し、包囲を形成。
「どこまで持つかな……」原罪者は骸骨に足止めさせ、再び血池へ向かう。
「本体はほぼ攻撃力なし。意志腐蝕と雑魚強化が本質だ。」かなは軽快に魔法を撃ちながら観察する。
「よし! 次の白宝石は誰だ?!」むぐちが叫ぶ。全員の頭上に白字はない。
「まさか……」パシュスが坑を覗き込む。レックスの頭上に白い「5」。
「レックス、早く上がれ!!!」
坑の骸骨を殲滅し終え、レックスは大剣を地に突き立て息を整えていた。
「どうした?」
原罪者が詠唱を開始。
「頭を見ろ!!!」むぐちが叫ぶ。レックスが腐蝕されたら終わりだ。
レックスは目を見開き、剣を残して跳躍。
「昇龍万里!」
ドンッ――骨琴前へ着地、即座に鍵を叩く。
ブォン――再び音が鳴り、白宝石を指に挟む。
「急いで血池へ!」かなが叫ぶ。
「うおおお!」レックスは全力で投擲。宝石が一直線に飛ぶ。
ぽちゃん――血池が再び乳白色へ。
「何だ今の……」誰もが目を疑う。力業で突破した。
「ぐああああ……」原罪者が再び白炎に焼かれる。
「今だ! 俺は動けん!」レックスが叫ぶ。
「天護衝撃!」パシュスが盾で道をこじ開ける。
「行け!!!!!」
全員が突撃し、全スキルを叩き込む。
轟音。
【システムメッセージ:原罪者 0/5肢体】
骸骨は再び空虚な骨組みに戻り、原罪者は星紋の上へ帰還し、最初と同じ純黒の姿へ戻る。
「忌々しい人間ども……」原罪者は歯噛みする。
レックスが一歩踏み込み拳を叩き込む。原罪者が逃れようとした瞬間、片手でその足首を掴んだ。
「浄化されろ!!!!!」
豪腕で振り抜き、原罪者を次の血池へ叩き込む。そこは――かなが誤って白宝石を投げ入れたあの血池だ。
「ぐああああああ!!!!!」
乳白の水に触れた瞬間、聖火が燃え上がる。
「今だ! とどめだ!!!!」むぐちが叫ぶ。
まこは雪霊兎を召喚し道を切り開く。骨粉が舞い、小隊は怒涛の勢いで原罪者へ突進する。
「決める!!! ラロ次元剣!!!!!」
パシュスの咆哮とともに、金色の巨剣が血池から噴き上がり、原罪者の身体を貫いた。
大広間が一瞬で白光に包まれる。
全ての骸骨が同時に粉砕された。
【システムメッセージ:原罪者 撃破成功】
【システムメッセージ:タイムアタック達成-ドロップ率50%上昇】
【システムメッセージ:Lv350デイリー任務――伝説ボス討伐(1/1)達成】
【システムメッセージ:聖骸大殿・隠し挑戦達成――永久聖属性耐性+10獲得】
星紋が光を放ち、白金色の宝箱が浮かび上がる――聖遺物箱。
肉繭はゆっくりと枯れ、ニフェトが五芒星紋から立ち上がる。
「おかえり、ニフェト。」パシュスが手を差し出す。
ニフェトは恥ずかしげに微笑み、その手を取って立ち上がった。
「勝った!!!!」まつみが拳を振り上げる。
「はぁ……死ぬかと思った……」かなは杖を放り投げ、床に倒れ込む。
全員の視線が聖遺物箱へ集まる。
「開けていい。今回の功労者はあなた。」むぐちが微笑み、レックスへ道を譲る。
レックスは目を輝かせ、遠慮なく宝箱に手を掛け、勢いよく蓋を開いた。
眩い聖光が迸る――
「うおおおおおおおおお!!!!!」




